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話題(野菜情報 2012年8月号)


広域事業の展開によりナガイモの高付加価値生産が実現

帯広市川西農業協同組合
青果部長・広域流通統括 常田 馨

ナガイモの導入期

 JA帯広かわにしは、十勝平野のほぼ中央に位置し、農地の集積化により現在では農家1戸当たりの耕地面積は約30ヘクタールで、基幹作物である小麦、テンサイ、バレイショ、豆類を中心とした中で、ナガイモやアスパラガスなどの野菜類を作付しています。しかし、昭和30年代後半から、小麦などの輸入が増加したことにより、基幹作物との競合で、農家の経営収支が悪化し、離農が増加しました。このことから、必然的に農地を集積し、規模拡大が図られてきた経緯があります。しかしながら、当地は帯広の市街化地域と隣接しているため、地価の上昇から全ての農家が思うように農地を増やすことができずに、収益性の高い農産物を導入しようとする機運が高まってきました。
 そのような背景で、昭和40年以降、試行錯誤しながらナガイモが当地の気象条件、土壌に良く適していることが分かり、北海道内ではナガイモの草分けである夕張市農業協同組合から少量の種子の供給を受け生産が始まりました。当時は、ほとんど手作業で行っており、1戸当たりの作付けは、10~15アール程度でした。全体の生産量が少なく、馬鈴薯の本州向けのトラックに混載して出荷するなど、全く無名で市場評価としても青森県産の足元にも及ばなく苦労の連続でした。しかし、そこで諦めることなく毎年継続して出荷を続けるとともに、市場へ出向き、販促活動を強化することで少しずつではありますが、その存在が知られるようになってきました。

広域生産農協の拡充期

 その後、飛躍的に生産量が拡大することとなった背景に、収穫作業の機械化体系の確立と、選果施設と冷蔵庫などの施設整備があげられます。収穫は、従来手作業で1本1本掘り起こす大変な重労働でしたが、昭和50年ころからは建設機械のパワーショベルを用いるようになってから、一気に生産量が増大しました。それに伴い、洗浄選別施設と冷蔵庫の新設を進め、通年販売体制を可能にしたのです。そのころよりブランド化を強く意識しながら面積拡大を進めてきました。ブランドを築くためには高品質であることは無論ですが、大量生産により全国シェアを増やし、通年供給できることが重要なファクターです。
 一方、ナガイモは土壌条件を選ぶ作物で、1メートル以上石が出ない圃場でないと生産ができません。とても川西地域だけでは増反が難しいため、隣接の芽室町農業協同組合を皮切りに、中札内、足寄、浦幌、新得、十勝清水、高島(農業協同組合)の8JAでの広域体制へと拡張し、今日に至っています。広域事業の発展は、商品のブランド化が可能になることと、併せて大量に生産することでコストの大幅な削減が可能になるなど、そのスケールメリットを存分に生かすことができます。

海外への輸出

 広域体制を組むことで消費地への安定供給を可能としましたが、豊作年の暴落は避けられず、消費の拡大が求められていたところ、1999年に、関西の卸売市場を通じて台湾へ輸出する話が持ち上がりました。国内では2L規格(1本800g~1,000g)の程よい大きさのものが好まれ高値で取引されますが、4L規格(1本1,200gを超える)のものは2Lより2~3割安くなります。そこで、国内の需給調整を図ることを目的に、4L規格のもののみを輸出することとしました。その結果、国内市場から隔離することで、暴落が回避され生産者の手取り価格は輸出前より10%以上向上させることができました。
 海外輸出が成功した要因は、台湾での薬膳ブームが背景にあります。台湾では、ナガイモは漢方薬に位置付けされ、薬膳料理の食材として主にスープの具材として一般家庭にも広く浸透しているのです。この台湾での薬膳ブームがやがてアメリカに住むチャイニーズの人々へと広がり、後のアメリカ輸出が増大するきっかけとなっていきます。近年の海外輸出は総生産量約20,000トンの約1割にあたる1,800~2,000トンの実績となっています。

さらなる付加価値への取り組み

 厳しい産地間競争に勝ち抜くために、また、ブランドの維持を続けるためには、たゆまぬ努力を続けなければならないと考えています。その一端として、特許庁において、2006年から地域団体商標登録制度がスタートし、第1号として「十勝川西長いも」が認められました。この商標が、思いもかけないところで効果を発揮してくれたのです。それは、昨年起きた福島県での放射能漏れ事故による海外での日本の農産物の風評被害に関してのことです。台湾の輸入業者から、被災地から遠距離である北海道十勝産であることを証明できるものを求められました。第三者認証としては、一番信憑性が高い国の特許庁が認めた地域団体商標はまさに、産地証明としての役割を果たしてくれました。本来の目的では無いのですが、高付加価値への取り組みが意外なところで役に立てることができました。
 また、近年の安全・安心に対する関心の高さに応えるため、2008年に農産物選別施設としては国内では例の無いHACCP認証を取得することができました。本来、農産物選別施設においては、そこまでの安全・安心対策を求められてはいませんが、自ら厳しいハードルを設けて徹底した衛生管理や、高度なトレサビティーに取り組んでいるところです。

今後の課題

 農作物は生き物であり、気を緩めて手を抜くと、たちまち産地の崩壊につながります。ナガイモは病気に弱い作物であるため、先達が作り上げた厳しい栽培管理基準を守り続けることが、まずもって大切なことだと考えますが、一方、生産者からは耐病性の強い品種の開発が求められており、今後は新品種の開発も急務とされているところです。


プロフィール
常田 馨(つねた かおる)


所   属:帯広市川西農業協同組合 青果部長・広域流通統括
生年月日:1959年12月4日
農産物のうち、青果物全般の販売を統括する。特に「十勝川西長いも」については、海外輸出販売を担当する。
2008年3月、同JAは国内の農産物の選果場で例の無いHACCP認証を取得し、当時チームリーダーとして、その任にあたった。




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