宮城県産業技術総合センター
副所長 池戸 重信
(宮城大学特任教授)
消費者が日々健全な食生活をおくるためには、摂取する食品(食材)の特性等を正しく理解し的確な取り扱いをすることが重要である。一方、食品を提供するサイドとしても、消費者に是非知ってもらいたい情報を正確かつ適切に伝えることが必要である。
食品の表示は、これら食品に関する情報を伝える重要な媒体の一つとして位置づけられている。
食品の表示は、目的の違いによりこれまで食品衛生法、JAS法、健康増進法など複数の法律が関連するとともに、消費者ニーズの変化、国際的整合性、偽装事件の発生などの状況を踏まえ、年々ルールが複雑化し消費者及び事業者にとって分かりづらい制度になってきた。こういう状況を背景として、平成21年に消費者庁が設置されたことを機会に、食品表示に関する課題の把握を踏まえて検討することにより食品表示関係法の一元化を図ることとなり、平成24年度中に国会へ法案を提出されることが閣議決定(全省庁の合意)された。
上記の経緯を踏まえ、消費者庁において平成23年9月に「食品表示一元化検討会」を設置し、消費者、事業者などの意見を聞きつつ、食品表示の一元化に向けた検討を行ってきた。
同検討会での検討経緯をみると、第1回~第6回の議論結果を「中間論点」として整理し、これらについて意見交換会の開催やパブリックコメントを求めた。その結果、パブリックコメントは1,000件を超える意見が寄せられた。その後これらから得られた情報なども考慮してさらに検討がなされ、平成24年6~7月を目途に報告書としてまとめられることになっている。
現時点(平成24年5月末現在)での主な検討経緯は以下の通りである。
これまで、食品衛生法、JAS法、健康増進法など個別の法律の目的によっていたものを、消費者の安全の確保や自主的・合理的選択の機会の確保など消費者の権利を規定した消費者基本法の基本理念を実現することも考慮しつつ、新法においては共通の目的を持つ制度の下で制定される必要がある。特に、アレルギー表示や消費期限など消費する上での安全性確保に関する情報提供は優先すべきものであり、また品質など消費者の選択に資するための重要な情報提供となりうることも必要との認識のもとでの検討がなされている。
消費者の商品選択の重要性は消費者によって異なるが、重要な情報が確実に伝わるよう優先順位をつけて検討を行うことが考えられる。ただし、同検討に当たっては、義務付けの有無や追加など慎重な対応が前提となり、内容によってはより専門的な検討が必要と思われること、また、義務表示で無い場合でも、ガイドラインの整備などによる自主的な情報提供が適当との考えや正しく理解するための消費者教育の必要性などが議論されている。一方、アンケート調査によれば72%の消費者が表示項目を絞って字を大きくすることを望んでいるが、分かりやすい表示とは、字の大きさのみならず、用語の統一や定義の明確化、理解しやすい工夫なども重要であるとの意見が出されている。
これまでの表示制度は、主として容器包装食品に関してのルール化が進められてきたが、予め店員による確認が可能なインストア加工、量り売り、外食といった形態についても、特に、場合によって生命に関わる恐れのあるアレルギー表示などの情報提供の重要性が指摘されている。一方、これらの販売形態は、原材料などのばらつき、日替わりメニューなどの表示切替対応の困難性や店員による調整が可能といった事情も考慮し、実行可能性を踏まえた検討が必要という意見がある。また、インターネットやカタログによる販売形態などについても専門家の意見を踏まえて検討することが必要との意見が出されている。
当該表示制度については、これまでも「食品の表示に関する共同会議」などにおいて検討されてきたが、消費者基本計画においても義務づけを着実に拡大することが掲げられている。これまではJAS法に基づく品質に関する基準を前提としてきたが、一元化に伴い品質に特化することなく、消費者の誤認を防止するなどの観点も含めた新たなルール作りに関する検討がなされている。
当該課題については、すでに専門家から成る「栄養成分表示検討会」において検討がなされ、それを踏まえたものである。国民的な健康意識の高まりを受け健全な食生活の定着のために、消費者の食品選択の際の栄養表示の有無は重要な検討事項である。一方、栄養成分は基本的に分析を伴うものであり、特に中小企業への導入に当たっては、実行可能性の考慮が必要でもある。したがって、制度導入に当たっての適用除外や計算値方式の導入、更には表示対象とすべき栄養成分などに関しての検討がなされている。
食品の表示は、基本的に消費者が活用するものであることから、消費者の健全な食生活の実現にとって有効なもので、かつ分かりやすいものでなければならない。また、コーデックスなど国際的調和にも考慮する必要がある。一方、義務化に伴って罰則対象になる場合や煩雑な作業による負担増などにも配慮した事業者の実行可能性が確保されることも重要である。いずれにしても、表示のあり方については、消費・供給両サイド間の信頼確保につながる制度になることを切に望むものである。
1972年東北大学農学部卒業後、農林省(農林水産省)入省。食品流通局技術室長、同消費生活課長、(独)農林水産消費技術センター理事長等を経て、05年宮城大学食産業学部教授に就任。専攻は「食品安全政策学」。同大学副学長、食産業学部長等を務め、12年から現職。消費者庁食品表示一元化検討会座長。