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話題(野菜情報 2012年4月号)


「中山間地域における担い手の育成と野菜生産」
(いざ、GO 55作戦)

広島北部農業協同組合
代表理事組合長 香川 洋之助

 JA広島北部は、安芸高田市・北広島町(千代田・大朝地区)を管内とする広島県の西北部に位置し、中国山地を挟んで島根県と接する過疎化・高齢化(総人口約44,000人のうち65歳以上が33%)が進む水田農業を主体とする典型的な中山間地域である。基盤整備をされたほ場も一区画あたりの面積は小さく、山間棚田の未整備田も多く、生産コストの削減には一定の限界がある地域となっている。
 農家の営農規模は零細で、多くが兼業農家経営であり先祖代々の農地を守らなければならないという一念で、これまで何とか地域農業は維持されてきたが、農業従事者の高齢化(農業従事者約6,200人の内65歳以上 73.1%)などにより、耕作放棄地も年々増加している。
 このため、現在では集落ぐるみで地域の農地を守っていこうと集落型農業生産法人に向けて組織化を進めるとともに、地域内の大規模農家への農地集積を促進している。しかし、若い農業従事者が減少しつづける中、管内全体の農業生産額も落ち込んできた。
 この流れに歯止めをかけるため、もう一度農家と現状の認識をひとつにして、「元気な農業を目指そう」という方針のもと、平成20年にJA営農振興5ヵ年計画を策定した。これを策定するに当たっての基本的なスタンスは、

・ 高齢化が進む中、農家所得の向上を図ることによって活力ある地域づくりを目指すこと。

・ JAは農業振興の旗振り役として、さまざまな生産組織の再構築し、生産者のやる気を喚起。

・ 営農振興計画はJAの最大のマニフェストとして全職員で取り組む。

と、この3点を確認しながら取り組むこととした。この5カ年計画のサブタイトルは、“いざ、「GOゴー55ゴーゴー作戦」”とし、またキャッチフレーズは「元気な農業 ともに豊かに」とした。具体的な取り組みは、JAが取り扱う農畜産物販売高(平成20年度)40億円を平成25年度には55億円まで伸ばそうというものである。中でも野菜については、平成20年度と比べ、市場出荷野菜10億円を20億円、産直野菜5億円を10億円とそれぞれ5年間で倍増するという計画である。
 当JAでは平成4年に、当時の営農指導員3名と数戸の専業的農業経営を目指したいと意欲のある農家でグループを作り、新しい野菜生産として「青ネギの溶液栽培法による周年経営」に取り組んでいる。大型ハウスなどの多額の初期投資については、国の補助金を活用し、補助金残についてはJAの内部資金によるリース方式を創設し、産地づくりを進めてきた。20年後の現在では、13戸の農家で年間販売額実績約7億5千万円を挙げ、平成20年度第37回日本農業賞集団の部大賞を受賞するなど、全国に誇れる生産者グループに成長している。グループ名は、「クリーンカルチャー」。JA支援でグループ独自の共同調製出荷施設を持つとともに、これらの施設やグループ員のほ場で働く雇用者は130名以上と、地域貢献するグループになっている。出荷先は、広島市場のみならず阪神・関東・九州など全国へ展開しており、その販売戦略はJAが担っている。
 このグループの取り組みを大きな財産として、またモデルとして、ほかにも普及したいと考えている。既に、2年前より同様に補助金残についてはJAのリース方式により新たにミニトマトグループ(4戸の農家)ができ、引き続き他品目についても準備をすすめている。
 一方、土地利用型の野菜については、重点品目を選定し、白ねぎ・ブロッコリー・アスパラガスなどはそれぞれ1品目1億円産地を目指して、農業生産法人や大規模農家を主体として取り組んでいる。これらは、品目ごとに生産者グループを組織化し、グループとしての主体性を持たせる一方、生産者の労力軽減のため、JAによる共同集出荷施設「元気野菜総合集出荷場」の新設(平成22年)や野菜作りのための定植機や収穫機といった農業用機械のレンタル事業にも取り組んでいる。

青ネギ溶液栽培ハウス内

元気野菜総合集出荷場

白ネギの選果

ブロッコリーの選果

 しかし、農業生産の大規模化や組織化、集約化を進めることにより、離農を促進するケースも出てきて、必ずしも地域の活性化に繋がらないという側面も持ち合わせている。そこで、JAとしては、市場出荷野菜の産地づくりと並行して高齢者や主婦層、帰農者などに対して産直市場向けの少量多品目野菜や加工品の生産・出荷を推進している。管内にはJA直営の産直市を含め4カ所の産直市場があり、また広島市内にもJAグループの産直市があり、さらには、広島市内のスーパーへのインショップも展開している。その産直グループの会員数は1,100名以上となり、出来るだけ多くの方が少しでも農業に従事して、農家所得を確保することにより、地域全体として元気な農業を展開し、活力ある地域づくりにも繋げていきたいと考えている。このため、行政と連携し営農栽培技術などを提供するため月1日程度の農業塾・産直塾を開催、ミニハウス導入助成などの支援も行っている。

白ねぎ定植機の使用説明

 現在、取り組んでいる営農振興5ヵ年計画は、5年後の農産物販売高55億円を目標にしているが、本来的な趣旨は、管内の生産農家全てを巻き込んだ地域農業再生運動として“みんなで前へ進もう”という意味も含んだものである。
 従って、JAのあらゆる会議などでも「いざ、GO 55作戦」の主旨や言葉を発信し、JA職員の名刺やJAの封筒などにも「いざ、GO 55作戦」のロゴを記載し、JA会館には懸垂幕も垂らしている。職員の発案から「先ずは職員から運動を実践しよう。」ということで、金融・共済・事務担当を含めた本店・支店の全職員が毎年野菜を1品目以上栽培する「1職1菜運動」の取り組みなど、全職員が直接農業に係わるという実践をしている。さらに、職員の中には、グループで農地を借り勤務時間外(朝・夕方)や休日に野菜作りをして産直市などへ出荷している取り組みも出てきている。
 平成23年度の実績を振りかえってみると、天候不順などで出荷時期における販売価格の低迷などで思うような取扱額の拡大や農家の所得向上にはつながらなかったものの、野菜生産に取り組んでいる生産者の数や生産面積、市場出荷・産直出荷とも着実に伸長しており、管内全体としては野菜生産への取り組み機運が確実に高まってきている。
 
 次に新規就農者など担い手育成の取り組みについて、平成22年度より将来の就農を目指した地域農業の担い手を育成・支援するため、地元高校や行政と連携し「農業後継者育成支援基金」を創設した。これは、現在のところ地元高校を卒業して地域に残って就農をしたいと意欲のある生徒を学校推薦により県立農業技術大学校に進学させ、学費などの費用を全額支援し、卒業後は就農までの期間、JAで実践研修や就農準備の支援をしようというものである。現在、一期生として3名が農業技術大学校へ進学しており、24年度は5名が二期生として入学することとなっている。また、高校在学生の中にも多くの希望者があり、将来の地域農業を支える担い手を育てる制度として、今後一層の充実を考えている。
 このほか、平成22年度には管内の45歳以下の専業農家を対象とした交流・研鑽組織としてのグループ「ひろほく農考会」を結成し、現在28名が加入している。

 農業形態は、さまざまであるが若い専業農家が交流を図りながら、地域農業を協力しながら支えようという自覚が芽生えつつあり、本当に力強く思っている。これから、農業技術大学校を卒業する新規就農者の相談役、よき兄貴分としての活躍を期待するところである。
 今後の中山間地農業を考えたとき、われわれJAに課せられた仕事と責務は重大である。地域農業再生のためしっかりとした方針を持ち、新しい時代に向けて新たな視点で地域の実情に即した担い手育成を進め、しっかりと旗振りをしていけば必ず展望は拓けると確信している。


プロフィール
香川 洋之助 (かがわ ようのすけ)

1944年広島県生まれ。69年広島県経済連へ入組。経済連専務理事を経て02年から06年まで全農広島県本部長を務める。06年より、JA広島北部代表理事常務・専務を経て、09年より代表理事組合長に就任。第2次総合3カ年計画を策定し、営農振興・地域づくりに重点をおき、「10年後も元気な農業・地域・JA」を目指している。




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