農事組合法人 和郷園
代表理事 木内 博一
日本の農家が海外展開を考えるべき理由の一つに日本の現状がある。現在は「飽食の時代」とも言われ、食料だけには限らないが需要に対して供給が過剰となる傾向が続いている。また、小売業は各店舗の出店が集中するオーバーストアという状況下でサービスにしのぎを削っている。消費者からの「買い物に行くのが面倒」という気持ちに対応するために、宅配で家まで商品を届けてもらえるサービスを充実させるなど、便宜性は極限まで高まっていると言ってもよいだろう。その中で、サービス産業はさまざまなものやサービスの激しい競争によりデフレスパイラルに陥っている。
食品に目を向けると、少子高齢化により最終的な到達点となる消費者全体の「胃袋が小さく」なってきている。そのスピードが速いことから、食品においても生産と流通の効率化が求められている。このように生産、流通、サービスといった供給が過剰となる中で、さらに小さくなっていくマーケットで各社が競争をしている状況が日本の現状と言えるだろう。
また、近年、地域の農業や漁業などの第1次産業と関連して加工や販売などを行う第2次、第3次産業に関する事業の融合などにより新たな業態を創出する「6次産業化」を目指す動きが活発化している。これは、食料品の素材として出荷される時点では12兆円の市場規模にとどまっているものが、最終的な製品として消費者に提供される段階では80兆円を超える規模にまで大きくなっている状況を踏まえたものだ。その間には加工による付加価値の向上、物流コストなども踏まえた流通マージンなどが含まれる。しかし、それら加工、流通、サービス産業も正社員が雇えないぐらいの厳しい状況で競争しているのである。
このような中で、これまで通り日本人が海を越えずに日本の中だけで生産地、マーケットを見ていただけではみんなが不幸になってしまう状況ではないだろうか。海を渡って海外を見てみると、中国や東南アジア諸国に代表されるように、まだ日本のような生活水準まで達していない国が多い。そこに暮らす人々は、物的なものを豊かにしたいという欲求が強く、日本の高度経済成長期によく似た状況となっている。そのため、「今日よりも明日はいいもの、明日よりも明後日はもっといいもの」というように新しくてよいものに注目が集まるのである。
日本が他国と比べて優位な点は、成長の著しいアジアではコメが主食となり、さまざまなおかずを食べるという日本の食文化と似た場面が多いことにある。このため、まずアジアに目を向ければ、生産から流通のスキームを目新しいものとして事業展開していくチャンスがあると思われる。そして、日本の供給過剰を脱却するためにも流通・サービス業などの3割程度が海外に進出するべきだと私は考える。農業分野においても高品質の農産物を提供するマーケット作りが必要であり、そのためには、日本方式の栽培管理を実践した品質の良い農産物を提供できる環境の整備が必要だ。
和郷園では、今年からタイの現地法人で野菜の契約栽培を開始した。まずタイに目を向けた理由の一つにわれわれの事業規模では現地でのインフラ構築などゼロからの立ち上げは難しいことにある。タイは今秋に大規模な洪水被害を被ったが、自動車産業をはじめ製造業が活況化しており経済成長も著しい。食文化を見ても、日本での外食産業を支えるエビ、鶏肉などの畜産加工品の製造拠点としての位置づけは重要性が高い。しかし、いまだ野菜・果物については手をつけられていない部分も多かった。
食事を提供する中では、当然のように肉と一緒に、または魚と一緒に野菜があったほうが栄養、見栄え、食味などが改善される。しかも、日本のように多種多様な野菜があった方が、そのバリエーションも広がる。その中で、タイ国内で生産したものをタイ国内で販売できるような、一貫したスキームを作り上げていきたい。それは、日本国内で行ってきたようにタイの主要スーパーと契約をして、供給するというものだ。
さらに多くの日本の農家がタイに進出して、日本の技術で生産した農産物の安定供給を受ける中で、その農家にとっても再生産価格が計算できるようなプラットフォームを構築していきたい。いちご、トマト、だいこんなどパートナーシップが組める農家とさまざまな品目で連携していくことで、その海外進出を支援する。そしてタイで、このような日本の農家が進出するための仕組みができあがればほかの国々でも対応もできるだろう。もちろん日本の農家だから「本社は日本に置きながら、支社農場として海外に進出しませんか」という呼びかけを若い農業者を中心に行っていきたい。
われわれも含めた日本の農家がタイに進出するにあたって課題となるのは、現地に精通したリサーチが行えるパートナーの存在であろう。タイの場合には、既にバナナやマンゴーの生産で5年以上もの取り組みがある中で行えたものであるが、現地を熟知した市場動向などを見極められるパートナーは重要な存在となる。われわれの取り組みをサポートでき、機能的なノウハウを持っている人材の確保が海外展開では必要となるだろう。
アジアの中で生き残るために農家が単独でできないこと、また生き残るために必要な農家の要望も熟知しているつもりだ。進出する農家側のニーズも考えながら、海外の消費者の動向やマーケットニーズを踏まえて商品や仕組みをプロデュースしていくのが和郷グループの役割であると考えている。
学 歴 平成元(1989)年 農林水産省 農業者大学校卒業
職 歴
平成元(1989)年 家業(木内農園)就農
平成3(1991)年 木内を中心に有志5名で野菜の産直を開始
平成5(1993)年 有限会社 さかき農産 設立
(専務取締役就任)
平成8(1996)年 有限会社 和郷 設立
(代表取締役社長就任)
平成10(1998)年 農事組合法人 和郷園 設立
(代表理事就任)
平成12(2000)年 株式会社 アクスクリー設立
(取締役就任)
平成17(2005)年
日本GAP協会の設立に参画(理事就任)
株式会社 和郷 組織変更(代表取締役社長就任)
山田町総合計画審議会(委員就任)
海外事業会社 設立(OTENTO タイランド社)
平成18(2006)年 株式会社 ケンズ(代表取締役就任)
平成19(2007)年 海外事業会社 設立
(OTENTO 香港社)