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今月の話題


野菜摂取とフイトケミカル

神奈川県立保健福祉大学
学 長  中村 丁次

1.白米のおにぎりで大丈夫か?

 平成23年3月11日、東北地方に未曽有の大地震と大津波が襲った。それに伴い福島第一原子力発電所の崩壊による放射線汚染、さらに風評被害と、私たちは今まで人類が経験したことのないほどの4重苦を背負わされた。地震が発生して2~3日し、自衛隊によるおにぎりとみそ汁の炊き出しが始まり、これで食事は大丈夫だというような報道が流された。私は、直感的に「このような報道はマズイ」と思った。
 日本では古くから白米のおにぎりを食べれば元気がでると信じられているが、かつて、おにぎりだけを食べて多くの日本人がビタミンB1欠乏による脚気で亡くなった。心配したように2~3週間後に避難所を診察した医師団から、脚気症状をきたす者や口内炎など、ビタミンやミネラルの不足状態が現れ始めているとの報告が出てきた。
 野菜類は、各種のビタミン、ミネラルを補給すると同時に、低カロリーで食物繊維を多く含有するために、生活習慣病として問題視されている肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの予防に有効である。特にこれらの病気が心配な高齢者には、積極的にとらなければならない食べ物である。

2.野菜の注目されるフイトケミカル

 近年、野菜が注目され始めた理由に、「フイトケミカル」の存在がある。植物のことをギリシャ語でフイトと言い、ケミカルは化学物質のことであり、フイトケミカルとは、植物食品である野菜や果物に含まれる機能性を持った化学成分である。種々の野菜には、いろいろな化学成分が含まれていることがわかり、特に注目されているのが、動脈硬化やがんの誘因となる活性酸素の発生を抑制する抗酸化作用を持った化学成分である。活性酸素は、年をとり、不規則な食事が続いたり、紫外線を受ける量が多くなったり、酸化しやすい食事をすると増大するが、フイトケミカルは、この活性酸素の発生を抑制してくれる。
 フイトケミカルは、野菜の色素にもなっているので、ここでは野菜を7色に分け、それぞれの野菜に含まれる代表的なフイトケミカルを示し、これらの作用を整理してみた。

1)赤色の野菜

 トマト、すいか、金時にんじんなどの赤い野菜に含まれるリコピンは、ビタミンAの仲間で強い抗酸化作用を持つ。同じ仲間のカプサイシンは、唐辛子に含まれ、抗酸化作用と同時に、食後熱産生と呼ばれ、食べた後のエネルギー消費を増大させる。一般に香辛料には、食後熱産生を高める作用がるが、特に唐辛子には強い作用があり、肥満の予防に適している。

2)橙色の野菜

 かぼちゃ、にんじん、みかんなどには、体内でビタミンの役目をするプロビタミンAを多く含んでいる。プロビタミンAには、強い抗酸化作用があり、目の黄班変性やがんの予防効果が期待され、皮膚や粘膜を強化する作用がある。また、風邪や肺炎などどの症状をやわらげる作用もある。同じ仲間で、パパイヤ、マンゴー、ブロッコリーなどに多く含まれているゼアキサンチンは、抗酸化作用を持つと同時に目の老化や疲れを防いでくれる。

3)黄色の野菜

 レモン、とうもろこし、かぼちゃなどの黄色い野菜には、フラボノイドやルテインが含まれている。これらの成分は、抗酸化作用を有すると同時に、毛細血管の血管壁を補強し、高血圧の予防効果も期待される。

4)緑の野菜

 ブロッコリー、モロヘイヤ、アシタバなどの緑の野菜には、クロロフィルが多く含まれ、クロロフィルには抗酸化作用と同時に、コレステロールの吸収を抑制したり、がんの予防効果が期待されている。

5)紫の野菜

 なす、赤しそ、黒豆、ベリー類などの紫の野菜には、ポリフェノースの一種であるアントシアニンが多く含まれている。アントシアニンは、抗酸化作用があると同時に、目の疲労回復や白内障の予防、さらに肝臓機能の保護にも有効である。

6)黒の野菜

 バナナ、ごぼう、ばれいしょなどの野菜は、切って放置すると切り口が黒く変色する。これらに含まれるクロロゲン酸が空気に触れることにより褐色に変わるためであるが、このクロロゲン酸には抗酸化作用がある。

7)白い野菜

 だいこんの辛み成分には、イソチオシアネートが含まれ、抗酸化作用のほかに消化液の分泌を良くする作用がある。ニンニクやネギ類に多いアリシンは、ビタミンB1と結合してビタミンB1の作用を増強し、疲労回復に役立つ。

3、おわりに

 人間は、どのような状況においても、命をつなぎ、元気に過ごすために45-50種類の栄養素を取り続ける必要があり、これらの栄養素を日常的に摂取する食べ物から補っている。ひとつひとつの食べ物は、人間に必要な全ての栄養素を補給してくれないので、私達はいろいろな食べ物を食べて、全体で栄養素を必要量だけ確保するといった“雑食性”を選択した。糖質はご飯やパンから、たんぱく質や脂質は肉や魚から、そして、ビタミン、ミネラルを野菜類や果物類から取っている。今回のような被災地では、野菜の摂取が極端に困難になり、各種のビタミン、ミネラルが不足してくるが、東日本大震災は改めて野菜を食べることの重要性が明らかとなった。

参考文献
中村丁次、「病気にならない魔法の7色野菜」、法研


プロフィール
中村 丁次(なかむら ていじ)

【略 歴】
昭和47年:徳島大学医学部栄養学科卒業、
昭和50年:聖マリアンナ医科大学病院栄養部、
昭和60年:医学博士(東京大学医学部)、
平成11年:聖マリアンナ医科大学病院栄養部部長、
平成15年:神奈川県立保健福祉大学栄養学科教授、
平成23年より現職。日本臨床栄養学会理事、日本栄養改善学会理事、?日本栄養士会会長等




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