千葉大学大学院園芸学研究科
教授 篠原 温
社団法人日本施設園芸協会は「スーパー・ホルト・プロジェクト協議会」(以下、「SHP協議会」という)を5年前に発足させた。具体的には経営モデルとしてトマト栽培を挙げ、収量は従来の2倍、コストは半減、一生産者の販売額は1億円、純利益は約2千万円という目標を掲げ、その実現のためには何が必要かを検討してきた。幸い、平成21年度の補正予算で、農林水産省および経済産業省の共同事業「植物工場プロジェクト」が採択され、にわかに「植物工場」がクローズアップされたが、この採択にはSHP協議会による活動や提案が大きく影響した。ここでは「植物工場プロジェクト」の狙いを紹介したい。
農林水産省と経済産業省は「高度に環境制御された環境で周年的に作物を生産する施設」を「植物工場」とすると定義している。これまでの「施設栽培」も、周年生産できれば「植物工場」と呼ばれる。従って「植物工場」の大部分は、これまで「施設栽培」と呼ばれていたものを示している(表1)。熱帯、寒帯や砂漠などの不適環境、都市中やレストラン、あるいは外では栽培が許可されないような遺伝子組み換え植物などの栽培には、むしろ人工光型の植物工場が例外的に成立すると理解していただきたい。
本プロジェクトは、農林水産省と経済産業省が相携えた形で募集したこれまでにないケースである。経済産業省のものは、試験研究による「基盤技術開発研究」に主眼が置かれ、農林水産省のものは、既存の技術の組み合わせや積み上げによる「モデルハウス型実証・展示・研修」が行われる。いずれも産官学(あるいは農商工)の連携による運営が義務付けられている(図1)。農林水産省および経済産業省による拠点の一覧を図2と表2に示した。「モデルハウス型」という言葉は分かりにくいが、これは「住宅展示場」のようなものであり、見学者は気に入れば商談を行い、購入を考えるというものである。各拠点は3月末にはほぼ竣工し、4月からは施設の中で実際の研究開発や実証栽培が開始される。興味をお持ちの方は積極的に見学し、感想や批判などのご意見を発せられることをお勧めする。
これによって、日本の気候条件にもっとも調和したわが国オリジナルの生産施設(ひいては東アジア共通性能を持つ施設)が出来上がり、季節に左右されずに周年栽培を行い、真にやる気のある担い手を確保し、国際競争力も持った低コスト高能率な施設栽培を実現しようとする狙いである。
国際競争力を持った安全で高品質の農産物が生産出来れば、急速に成長をとげつつあるアジア諸国の消費者が、日本の農産物を購入することはすでに実証されている。また、他産業の技術革新を生かした植物工場の技術イノベーションが進めば、比較優位な技術として施設やそれらを管理するソフトの輸出も可能となる。さらに、植物工場に関する国内外の実態調査、生産物のメリットのデータ収集、実需者との情報交換、人材育成のための研修教材の作成など、多岐にわたって成果を上げることが期待されている。データにもとづく「サイエンス農業」への脱皮を図り、施設栽培の生産者(特に非農家出身者も含めた若い世代)に積極的な参入の意欲を与え、消費者の要望にも応えることができるようになることを期待したい。
学位 農学博士(昭和62(1986)年、筑波大学)
学歴 東京教育大学農学研究科修士課程修了(昭和49(1974)年)
職歴 昭和46(1971)年 海外技術協力事業団(現JICA)
昭和49(1974)年 東京教育大学農学部 助手
昭和52(1976)年 筑波大学農林学系 助手
昭和62(1986)年 筑波大学農林学系 講師
平成 2(1990)年 千葉大学園芸学部 助教授
平成10(1998)年 千葉大学園芸学部 教授 現在に至る
専門 野菜、施設栽培、養液栽培、育苗技術、品質、青果物衛生管理(GAP)
研究テーマ 環境負荷の小さな栽培技術の開発 野菜の生産の機械化に
関する研究
野菜の生産を通しての環境浄化研究