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今月の話題


契約取引をてこに農家にやる気を

梨北農業協同組合
代表理事組合長 堀川 千秋

野菜生産の現況

 この10年の間に、当農協管内から市場に出荷した野菜の販売額は、5億円ほど減少している。減少の要因はどこの産地も同様であろうが、農産物価格の低迷による農家収入の減少、後継者不在による農家の高齢化、それに伴う耕作放棄地の増加などが主に挙げられる。管内の農業は、農家一戸当りの耕作面積も狭小であり、施設園芸はほとんど導入されず、露地栽培の野菜が中心であり、農業をやめようと思えばいつでもやめられる状況にあった。
 これまでの野菜販売は、一品目を大量に生産し、市場占有率を高め、ほかの産地より少しでも高い価格で売るという考え方をしてきた。作付けをやめたいという生産者がいれば、「やめられると産地形成が難しくなる。ぜひ続けて作付けをお願いしたい」と言い続けてきた。それでもやめてしまった農家の方々に話を聞いてみると、二つの返事が返ってきた。
 一つ目は「年を積むにつれ、たくさん作って、重いものを持つことがつらくなった。子供達も手伝ってくれないから」である。
 二つ目は「農業じゃ食っていけないし、子供達にも農業を継げとは言えない。学校を卒業させ、勤めに出て一人前の社会人としてやっているから、後は夫婦二人で食べていければいい」というものであった。どこにでもある一般的な農業者の考え方であるにせよ、これらの問題を解決するための取り組みを進めている。

契約取引・買取販売

 問題解決のひとつの策として、農家収入を安定させることが生産意欲の向上につながると考え、野菜の「契約取引」に取り組んだ。
 最初に手掛けたのは外食産業向けのなすの栽培であった。次にレタス、ほうれんそうなどと、作目を徐々に増やしながら取り組みを進めている。
 契約取引のメリットは、取引価格が決まっているので、農家にとっては、あらかじめ収入の計算ができることであり、また、流通コストの削減、出荷労力の軽減ができることである。なすであれば、一袋に5個ずつ入れ、それをコンテナに詰めて出荷する。レタス、ほうれんそうは、はじめからコンテナに詰めて出荷するなど、出荷経費の削減を図っている。しかし、当然のことながら契約数量は厳守しなければならず、天候の状態によっては収穫量が左右されるという危険を含んでいることから、作付面積は大目に確保しなければならないというデメリットもある。
 また、たまねぎは、当農協でキログラム当たりの買い取り価格を決め、生産者から買い取っている。生産者は収穫後、選別することもなく500キロ入りコンテナで出荷するため、出荷労力および経費の軽減につながっている。

農商工連携

 市場に出荷される農産物は、選果・選別を行い、規格に合ったものしか出荷されていない。果実は、静物画にした芸術品のように見える。しかし、農産物は工場製品とは違い、同じように管理していても形の異なったものができ上がってしまう。味に変わりはないにしても、消費者にはなかなか購入してもらえないため、規格外品として市場には出荷されず、産地で廃棄していたのがこれまでの状況であった。
 この規格外品も何とか換金できないか、自給率向上にも役立てられないかとの考えから、一次加工業者と連携し、規格外品(アウトレット野菜)の出荷を開始した。変形した野菜でもカットすれば変わりはない。傷がついていてもその部分を取り除いて調理すれば食べられる。世間からは規格外野菜が出回ることにより、正規の野菜の単価が下がってしまうとの批判の声も耳に入ってくる。しかし、日本は食料の大量輸入国ではないか。
 産地で廃棄すればただのゴミ、食べれば資源である。

地産地消

 高齢化が進むにつれ、一品目の大量生産が非常に難しくなり、栽培を取りやめる農家が増加している。このような状況に対応するために少量多品目生産へと方向転換を図った。これまでも各農家は自給的にさまざまな野菜を栽培しており、それなりの栽培技術を持っている。家庭で消費する量より少し多めに栽培してもらい、それを管内にある4つの農産物直売所に出荷して頂く「地産地消」の取り組みも進めている。それぞれは小さな直売所ではあるが、全体で年間10億円の販売額があり、会員数も1,500名と増加傾向にある。また、次世代を担う子供達のために、学校給食用に減農薬・減化学肥料の米をはじめ、野菜の供給にも取り組んでいる。

結び

 作った物を売るからには売れるものを作る。多様な販売チャネルを構築し、産地を維持していきたい。農家は農産物を作ってこそ農家であり、これまで培ってきた栽培技術を埋もれさせたくはない。農産物を作る喜び、自分で作った物を消費者に食べてもらう喜びなど、農家の気持ちを引き出しながら、これからも野菜栽培・販売の取り組みを進めていく。


プロフィール
堀川 千秋(ほりかわ ちあき)

昭和25年8月8日生まれ
昭和48年3月 東京農業大学 農学部畜産学科卒
昭和48年4月 山梨県経済農業協同組合連合会 入会
平成6年4月 梨北農業協同組合 出向
平成14年4月     〃    参事
平成15年4月     〃    常務理事
平成18年3月 全農山梨県本部  退職
平成18年4月 梨北農業協同組合 代表理事組合長
       現在に至る




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