丸山 清明
緑提灯を見たことありますか。私は地場産・国産食材を使用した料理を提供している飲食店に赤提灯ならぬ、緑提灯を掲げていただく運動を仲間とともに行っています。この運動を始めた動機は、何とかして国産食材の利用を増やし、日本の農林水産業を維持し、自給率の向上を図りたいという思いからでした。この原稿を書いている時点(平成22年8月)で全国の約2,900もの店が緑提灯を掲げて国産食材の利用を促進する運動に参加しています。いつの間にかこの取り組みは、飲食店だけでなく、農家や漁師の直売所、市場、民宿、旅館、ホテル、国民宿舎、保育園、介護施設、中学校、お茶屋、花屋、畳屋、割箸屋など、国産の農林水産物を扱う所に広がっています。
緑提灯とは、居酒屋さんで国産食材を50パーセント以上使用している店に、緑色の提灯を飾ってもらう運動です。これは、お酒を飲んで論議をしているときに、ふと、思いつきました。居酒屋と言えば「赤提灯」が定番ですが、信号機の赤は止まれ、緑は進めですから、「お父さん達、『緑提灯』に進め」という意味です。
ついでに、店主さんに目標を持っていただくために、国産食材の使用度合いに応じて緑提灯の星に色を塗ることを思いつきました。国産食材が50パーセント以上ならば星1つ、60パーセント以上ならば星2つ、70パーセントは3つ、80パーセントは4つ、そして90パーセントを超えたら星5つとしました。
緑提灯運動は組織を持っていません。賛同する仲間がそれぞれ自律的に活動しています。連絡先は退職した仲間の自宅で、得意のネット技術、ファクシミリ、携帯電話で24時間対応しています。ホームページはシステム会社を経営する友人が無償で提供してくれています。また、緑提灯の発送と会計はNPO法人(特定非営利活動法人)が引き受けてくれています。
さて、緑提灯運動を始めるときに、星の数をどうやって認証するか考えました。でも、名案は思い浮かびませんでした。認証したら責任が生じます。そこで、星の数は店主の自己申告としました。
お店に送る緑提灯には、50パーセントを超えた星1つが塗ってあります。残りの4つの星は塗り絵になっていて、お店の食材の自給率に応じて店主さんが塗ります。
飲食店では、季節や市場の価格動向によって仕入れる食材も変わりますので、星の数は厳密には決められませんが、著しい違反をした店主さんには「反省と書いた鉢巻きを巻く」か、「丸坊主になって反省してもらう」ことにしています。このように緑提灯運動は、遊び心を持って地場産・国産食材の使用を応援しています。
緑提灯運動を進める中で、認証と自己申告について考えるようになりました。認証はお墨付きをもらうことで、自律的ではありません。認証する側も性悪説に基づいて細かな規定を並べると、かえって使いづらい制度になり、本来の目的が果たせない場合も考えられます。賞味期限は製造者側の自己申告で、時々、賞味期限の貼りかえがメディアを賑わします。しかし、全体として賞味期限は食品の安全性に貢献しているのではないでしょうか。
自己申告と認証は、道徳と法律の関係に似ています。人と人との暗黙のルールとして道徳が発生し、道徳で律しきれない部分を法律で補完してきたのが歴史です。「頑張っている人を褒めないと懲役5年に処す」なんていう法律はありません。緑提灯は、道徳に立脚しています。店主さんには「お客様が審判です」「正直を重ねて信用を得るのが一番ですね」と書いた手紙を私から送っています。
参加を申し込んだお店には仕入れる食材を記入してもらっています。多いのが野菜に関する記述です。特に地場野菜を使っていることを強調している店が多くあります。食材を直売所や農家から入手する場合や、実家で作っている野菜とか、中には自家菜園で作る旬の野菜だけを使うという居酒屋さんもあります。そのほか、有機・無農薬を強調するお店も多数あります。
店主さんからは、「緑提灯のおかげで店の食材をお客さまに語りかけるきっかけとなって嬉しい」という言葉が良く聞こえてきます。読者の皆さん、朝、出勤するときに「お父さんは今晩、日本の食料自給率を向上させるために頑張るから帰りが遅くなるよ」と言って緑提灯の’のれん’をくぐってはいかがでしょうか。
筆者と緑提灯
1947年 前橋市に生まれる
1974年 農林水産省 北陸農業試験場(以後、水稲の遺伝育種研究に従事)
1986年 農業研究センター ヘテロシス育種研究室長
2001年 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所長
2004年 同機構 北海道農業研究センター所長
2006年 同機構 理事 中央農業総合研究センター所長
2010年 3月同機構を退任