荒川区立原中学校
主査栄養士 宮島 則子
(前荒川区立ひぐらし小学校栄養士)
食を通して健康づくりと心を育てるのが学校給食です。自分の健康づくりを考え、食を選択できる能力は生きる力です。
本稿では、食育活動を通じた、野菜に親しむプロジェクトの内容を荒川区立ひぐらし小学校の事例をもとにご紹介いたします。
子供の味覚が育つのは、8歳~10歳までと言われています。この時期に色々な味を体験させ、味覚を発達させることで、脳の活性化が図かれます。特に、小学校での味覚教育は重要です。豆腐づくりを例に挙げると、大豆本来の甘味や、天然にがりの苦味を体験し、今まで気付かなかった深い味わいを自分の舌で感じ取る訓練をします。また、栽培した枝豆やじゃがいもを収穫して食べます。取れたてを味わうことに加え、収穫の喜びを体験すると、野菜本来の美味しさに子供たちは驚き、感動します。このような体験を重ねることで、嫌いだった野菜が好きになります。さらに「嫌いだった物が食べられた」という自信が、子供たちの心を大きく育ててくれます。しかも、栽培活動の土はミミズコンポスト(約20万匹飼育)のミミズのたい肥。野菜クズや食べ残しをミミズが黄金の土に変えてくれます。黄金の土で育てた野菜の美味しさは格別。ミミズコンポストの近くにある桜や夏ミカンの根が、コンポストに向かって伸びています。コンポストの中にグングン侵入してくる根の力強さに、子供たちは黄金の土の価値と、小さな命の尊さ、植物の生命力を学びます。環境教育と合わせることで、さらに意義が深まります。子供たちの健康づくりに野菜は欠かせない大切な食品ですが、残念なことに、一般的に子供は野菜が苦手です。好き嫌いを容認すればわがままを助長するだけなく、がんや糖尿病などの生活習慣病も懸念されます。子供の慢性的な便秘が増加していますが、野菜不足と関係があることは明白でしょう。無理強いするのではなく、体験的な取り組みで子供の心を育てながら、野菜嫌いを無くす方策が重要だと考えます。
私の給食には、郷土食が毎月必ず登場します。実際に味わうことで、日本の食文化の素晴らしさと、気候風土に合った産物や調理法などを学び、その地域への関心や歴史に興味を持つことにつながります。全国の特産野菜も給食に取り入れます。米はつがる市の「津軽ロマン」。山芋、ねぎ、完熟トマト、タカミメロンやりんごなども季節に応じて宅急便で届きます。新潟県旧山古志村特産のかぐら南蛮、巾着なす、八尾市の若ごぼう、富士宮市から虹ますなど珍しい食材も多数届きます。生産者とコミュニケーションが生まれ、毎年、青森から「米の出前授業」が来て下さり、献立も帆立ごはん、けの汁、津軽りんごゼリー、牛乳などの津軽フェアーを開催します。さらに、給食が結んだ縁でつがる市と荒川区は友好都市に発展しました。一方、家庭への啓発活動として、野菜料理を教える「ベジフル料理教室」や「父と子の料理教室」も開催し、毎回好評を得ています。夏休みの宿題は、全員が「親子で作る愛情レシピ」です。親子で料理を考え、材料を調達し、調理器具を揃え、段取りを考え調理する。料理を盛り付け、家族揃って楽しく食べる。この一連の作業を親子で協力しながら進めます。子供は親と一緒に料理することで脳が活性化され、母親からは「長時間息子と話しました。あんなに幸せな時間が持てるのなら、もっと一緒に料理をするよう努力します」といった感想が寄せられます。今後、このような野菜に親しむプロジェクトが、各地に広がることを期待しています。
食の教育推進協議会会員、青果物健康推進委員会会員、東京食育推進ネットワーク会員、さいたま食育推進ネットワーク会員ちゃぐりん(JA こども雑誌)「のりこ先生のびっくり食べ物教室」連載
小学館 edu(エデュー)「のりこ先生の給食だより」連載
月刊食育フォーラム 食育実践レポート連載
朝日小学生新聞 「心と体と栄養と」連載
著書に「ハートをつなぐおいしい食育」(全教図)、「給食ではじめる食育」(あかね書房)
ディズニー・ジャパンHP ブログ「のりこ先生の ママが知りたい 給食の人気メニュー」連載
http://familytime.disney.co.jp/navigators/blog/24229/2976