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今月の話題


農家経営における顧客創造

グリンリーフ株式会社
代表取締役 澤浦 彰治

1 食べる人あっての農業経営

 私達農家は、作物を生産することが仕事だということは誰でも分かる。しかし、経営となれば、生産したものを購入してくれる顧客がいなければ成り立たない。販売ができてはじめて経営として成り立つのだ。とても単純なコトだが、私達農家は意外にこのことを忘れているのではないだろうか。

 欧米の農家は、規模に関係なく自分の顧客を持っている。顧客の要望に合わせて生産し、または自社の生産物に合わせた顧客開拓をしている。

 さて、日本の農家はどうだろうか。農家に「あなたのお客様は誰ですか」と問いかけて、明確に答えられる人はいるのだろうか。農協や市場はお客様ではない。顧客は生産した農産物を食べていただく人であり、お店や加工メーカー、生協さんは、お客様に商品である農産物を良い形で届けていただける協力者と言える。そう考えたときに究極の顧客と言えるのは、最終的に食べていただける人である。

2 自分の生産物を売ってみる

 私達の農場では、有機農業をしながら農場内の工場ではこんにゃく、漬け物、冷凍野菜を生産している。つまり、有機農産物の生産から加工販売までを一貫して手がけているということである。このほかに関連会社でも野菜の販売やトマト、有機ほうれんそうなどを生産しており、農業生産、加工、販売により年間で約20億円の売上げがある。

 このような経営が形作られたきっかけは、以前、手元にあったこんにゃく芋を直接販売しようとしたときに、「板こんにゃく」や「白滝」に加工する必要があったことによる。こうして栽培だけでなく、商品にするために加工業務を行うようになって顧客開拓が始まった。

 私は、まず自分が生産している農産物を直接売ることが大切だと思う。とれたての農産物であれば、まずそれを売ってみることだ。その過程で何をしなければならないかが見えてくる。加工ありきで工場を造って始めるというのは、今ではよほどの資産や資本がない限り資金的に危険である。

3 お客様が欲しいカタチにする

 農産物を売るためには商品にしなければならない。商品とは、お客様や顧客が要求しているカタチであり、「利便性」や「安全性」「健康増進」などの機能を持ったモノで、相応の対価を払ってでも買いたいモノと言える。そのカタチや機能性が優れ、顧客からの要求が高いモノほど付加価値は高まる。

 付加価値の高め方は幾つか考えられるが、朝取り直送などの届け方の工夫、有機栽培や特別栽培などの栽培方法、安定出荷をするための栽培方法の確立、ケールのように特別な栄養素を持った農産物の栽培、高糖度トマトのように特別な美味しさがある農産物、できた農産物を加工して美味しさや利便性、独自性を出すことなどがある。加工することは、一般的には付加価値を高めると考えられるが、りんごジュースのように単純にジュースにすると、生果よりも単価は安くなり、価値が減ずることもある。

4 顧客創造は顧客不満足の解消

 自分の農産物を販売しようとしたときに一般的には「売り込む行為」が思い浮かぶが、相手が必要を感じてないモノを売り込めば価格は下がり、さらに売り込もうとすれば顧客の気持ちは完全に冷めてしまう。

 では、どうしたらよいのだろうか。それは、モノを売り込むのではなく、顧客が困っているコトを解決するのである。顧客が困っているコトや不満に感じているコトを探り、それを商品やサービスに変える事で、顧客はそのモノが欲しくなり、困ったコトを解決してくれる会社や商品に信頼感を持ち、モノは売れていくのだ。

 私達が最初に直接販売した商品はこんにゃくであったが、多くの人がこのこんにゃくに対して「味のシミ具合が悪い」「こんにゃく臭い」「固い」などの不満を感じていた。また、こんにゃく芋生産農家では、日常的に芋から手作りしたこんにゃくを食べていて、そのこんにゃくを来客に出すと、ほとんどの人が「こんにゃくってこんなに美味しかったの」といった感想を口にする。この背景があり、農家が造ったこんにゃくは、口コミで全国に広がった。JAS有機栽培の認証を取得したことも顧客からの要望がきっかけであった。こうして売り込まなくてもこんにゃくの不満を解決したコトで顧客が広がっていき、それが野菜の販売につながり、添加物を使用しない漬け物や冷凍野菜の加工、トマト農場の開設へと発展していった。

5 顧客を持つことが経営の基本

 金融工学という学問が進み、そのゆがみで今、自動車や電気産業などは大きな影響を受けて社会全体が不景気になっているが、食べ物はいつの時代も必要で、顧客の対象が減ることは無い。

 いつの時代も重要なコトは、自分の顧客を持つことであり、その顧客とモノを取り引きするのではなく、コトの取り組みをして信頼関係を築いていくことである。農業に対して不満や不安を抱えている人がこれだけ多くいるということは、そこに大きな顧客創造の機会が隠されているということである。

 どんな業種でも、顧客のいない仕事は成立しない。顧客のためにどうするのか、自分の経営資源を最大限に生かして、独自に切り開いて行くところに農業経営の在り方があると思っている


プロフィール
澤浦 彰治(さわうら しょうじ)

1964年
群馬県生まれ
1984年
群馬県畜産試験場研修過程終了
1990年
群馬県農業青年クラブ協議会会長
1992年
「野菜くらぶ」を創業
1994年
グリンリーフを設立 代表取締役
2001年
新規就農者とサニタスガーデンを設立
2006年
モスフードサービスとの共同出資によりサングレイスを設立 代表取締役会長
2008年
グリンリーフが第47回農林水産祭、蚕糸地域特産部門で天皇杯を受賞
 
 
その他
群馬中小企業家同友会副代表理事
日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会 理事
沼田FM放送 取締役

著書

「農業で利益を出し続ける7つのルール」(ダイヤモンド社)を3月4日に出版する予定



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