独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業総合研究センター
マーケティング研究チーム長 佐藤 和憲
資材価格の上昇にもかかわらず、野菜の卸売市場価格が低迷する中で、生産者や出荷団体の中には、外食・中食企業や中間事業者との業務用野菜の直接取引により、生産の省力化、低コスト化を図りながら、安定した価格と収益を実現しようとする動きが出てきている。しかし、その一方で、大半の生産者や出荷団体は、こうした直接取引の経験がほとんどないため、どのように参入したらよいか分からない場合が多いようである。そこで、業務用野菜の直接取引をめぐる主な課題について、産地サイドに重点を置いて指摘したい。
業務用野菜は、飲食店の料理やスーパーなどで販売される総菜や弁当の原料として使用されるため、家計消費用と比較すると取引価格は相対的に安定しているが、平均的には低いことが多い。それも、調理・加工された後の料理や総菜としての原料コストが問題となるため、原料重量当たりの歩留まりや内容・品質が重視される。このため、産地には大玉化や大株化による増収技術や機械化などを通じた省力化技術の確立と、これに基づいた生産性の高い経営体を確立することが求められる。また、画一的な出荷規格に基づいて卸売市場で取引される家計消費用とは異なり、業務用では個々の外食・中食企業の調達仕様に応じた品種、資材、栽培方法および調製・選別方法からなる技術体系を組み立てる必要がある。さらに、業務用の単品当たりの調達ロットは比較的小さいことから、従来の不特定の顧客を対象とした品目別の生産者部会ではなく、個々の外食・中食企業に対応した生産者の小グループを育成し、これを単位として生産・出荷体制を形成するのが効果的である。
業務用野菜の主要品目であるレタス、キャベツ、トマトなどは、年間を通じて使用されるため、周年安定した供給が不可欠である。しかし、露地野菜は、1産地の収穫期間はせいぜい数カ月程度であり、また、特定の季節でも1産地では、天候などの影響により供給が不安定になる危険性がある。このため、季節ごとに複数の産地を配置し、これらをつないで年間を通じて切れ目のない産地間連携を組み立てる必要がある。これには、全国に散在する産地を結びつける必要があるため、中間事業者の主導とならざるを得ない側面が強いが、産地サイドとしても、積極的に対応していくことが求められる。すなわち、調達仕様へのよりよい適合のための出荷規格の確認や、端境期における産地間のスムーズなリレーのための情報交換と先を読んだ対応が求められる。
以上のように業務用野菜では、個々の外食・中食企業の調達仕様に応じた野菜を一定期間、安定的に供給する必要がある。このため生産者や出荷団体および中間流通業者が、外食・中食企業と直接に取引する場合、取引を確実に履行するために、契約を結んで取引する必要性が高い。こうした契約取引は、産地サイドにとっては、販売価格の安定、ひいては収益の安定化に、外食・中食企業サイドにとっては、品質・規格、数量および調達価格の安定化に効果的である。しかし、契約内容によっては、産地サイドでは、不作時の納品履行に伴う多大な市場調達コストの発生、外食・中食企業サイドでは、豊作時における市場価格との差損などのデメリットがある。こうした生産変動やそれに伴う価格変動によるデメリットは、取引を長期間継続すれば相殺されるものであるが、短期的には、双方の経営に悪影響を与える。このため、生産者や出荷団体が、外食・中食企業と直接に契約取引をする場合には、産地サイドでは、卸売市場への委託出荷との組み合わせ、外食・中食企業サイドでは、調達先の多元化によりリスクを抑制、分散するとともに、双方とも需給の大幅な変動時には、弾力的な取引の運用を認める契約内容とすることが必要である。また、生産者は、契約内容に応じた「契約野菜安定供給制度」に加入すれば、リスク軽減が図れるのでこれも活用したい。
以上のほかにも、①出荷団体などによる外食・中食企業に向けた営業活動やそのための人材育成、②店舗や物流センターへの配送や品質管理などの物流整備、③信用調査や債権管理の体制整備などが重要な課題としてあげられるが、いずれの課題とも生産者から出荷団体や中間事業者を経て外食・中食企業に至る垂直的な取引関係を構築する中で取り組むことが肝要であろう。
『青果物流通チャネルの変化と産地のマーケティング』養賢堂、1998
『地域食品とフードシステム』農林統計協会、1997
「フードシステムの変化に対応した野菜産地の再編課題」土井・斉藤編著
『フードシステムの構造変化と農漁業』農林統計協会、2001、所収
納口るり子・佐藤和憲『農業経営の新展開とネットワーク』農林統計協会、2005