社団法人 日本施設園芸協会
参事 吉岡 宏
安全・安心な国産食材を求める消費者意識の高まり、食の外部化に伴う食材の安定供給に対する実需者の強い要望、温暖化、異常気象、石油価格上昇、農家の後継者不足などによる食料安定供給への懸念などを背景に、天候に左右されずに農産物を計画的かつ安定的に生産・供給できる食料生産システムである植物工場が注目されている。このような中で、平成20年9月に閣議決定された「新経済成長戦略の改定とフォローアップ」では農商工連携の新たな切り口の一つとして植物工場が取り上げられ、平成21年度からは農林水産省、経済産業省の両省で支援事業が開始されることになり、植物工場が普及・拡大に向けて動き出した。
植物工場は、農業の一つの形態であるが、一般的な農業に比べて多くの利点がある。生産の面からは、環境制御によって生育や品質を制御できることから、計画的・安定的な生産が可能になり、また栄養成分や機能性成分を強化できるなどの利点もある。販売面では、生産が気象条件などによって影響を受けにくいことから、常に定価での安定供給が可能であり、また虫や異物の混入が少なく、洗浄や調製作業を省けるなどコスト縮減も図れる。立地面では立地場所を選ばず、非農地や耕作不適地での農業生産が可能になる。
植物工場は生産コストが高く、植物工場産農産物は一般の農産物に比べて高価格となる。そのため、上記の植物工場の利点を活かした活用を図る必要がある。一方、野菜の需要実態についてみると、食の外部化の進展により、加工・業務用需要は年々増加し、現在では全需要の過半を占めるとともに、その中で国産品の占める割合は低下している。これに対して、消費者の間では安心でおいしい国産食材に対する関心が高まっている。植物工場では定時、定量、定価、定品質での安定供給が可能であり、また廃棄される外葉などのロスが少ないなどの利点があり、加工・業務用食材の供給手段として植物工場の活用が期待できる。
また、植物工場、特に人工光利用型の植物工場では、光制御により栄養成分や機能性成分を安定的に高めることが可能であり、生産物に機能性成分などの含有量を表示することにより、より高付加価値化が期待できる。さらに、植物工場産農産物を特定保健用食品に発展させることも夢ではない。
植物工場の抱える最も大きな課題は高い生産コストにある。そのため、生産性の向上に加えて、施設の設置コストと運営コストの縮減により、総合的に生産コストの縮減を図る必要がある。生産性の向上では植物工場(養液栽培)に適した品種の育成や夏季の高温抑制など環境制御法の高度化が重要であり、設置コストの縮減では部材、資材の標準化・モジュール化の推進、運営コストの縮減では省エネルギー化に加えてロボット技術などによる自動化・省力化が重要である。
平成21年4月に公表された植物工場ワーキンググループの報告書では、3年以内に植物工場における野菜の単位重量当たりの生産コストを3割縮減することを目指すとしている。短期間に成果を上げるためには産学官連携による技術開発が不可欠であり、今年度から農林水産省が推進するモデルハウス型植物工場実証・展示・研修事業では、大学などの試験研究機関と民間がコンソーシアムを形成して技術開発を進めることとしている。
既に、社団法人日本施設園芸協会では、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構野菜茶業研究所と共同で、平成18年8月より5年計画で、異業種を含む産学官の連携による技術革新により、世界の水準を超える新しい日本の施設園芸の確立を目指した「スーパーホルトプロジェクト(SHP)」を推進している。SHPでは、当面、トマトを対象に周年・安定・多収技術の確立を目指しているが、これは言い換えると、トマトの太陽光利用型植物工場の確立を目指した取り組みと言える。SHPが目指しているように、産学官の連携により植物工場の普及・拡大に向けた技術開発が進み、わが国の施設園芸の発展に結び付くことを期待したい。