[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

今月の話題


野菜のおいしさとその評価

社団法人 おいしさの科学研究所 理事長
(香川大学名誉教授) 
山野 善正

◆日本の食材の歴史

 わが国では、縄文期までは主に山菜、木の実、キノコと魚介や海藻類の水産物を採取して生活していたと考えられています。

 弥生時代から、日本古来のものと誤解しがちな食材や加工技術が中東をはじめアジアを中心とした地域から移入されました。わが先祖は、土地は狭いが恵まれた気候、風土を大いに活用して持ち前の技術により、まるで元から存在した食材のようにわがものにしてしまったのです。近・現代になってからも、例えば、チコリ、ズッキーニ、チンゲンサイなど日本古来のものとは言えない食材の利用がまだまだ増加しています。今や、おそらく世界一食材の種類が豊富な国と思われます。

 このように日本人は食に対しては本当に貪欲な民族と言えます。

◆野菜類のおいしさの要素

 一般に、食品のおいしさは、味、匂い、テクスチャー(物理的感覚、触感)などの要素を持っていますが、野菜の場合広義のテクスチャーに含める色、外観、噛むときの音なども重要です。野菜の種類によりこれらの要素の重要性は異なることはいうまでもありません。例えばニンジンなどの根菜は、噛み応えや色合いなどのテクスチャーがかなり重要な要素になりますし、ホウレンソウなどは色合いのほかに匂いも大切です。

 最近、果物も含め何もかも甘くて柔らかいものが好まれる傾向にあり、生産者もこれに同調しているのは本当にどうかと思います。例えばトマトも甘いトマトのみが注目され、元来持っていたトマト独特の青臭い味や匂いはどうなったのでしょうか。証明されていないことも多いのですが、これらの癖のある風味はきっと生理的に意味があったと思われ、また、甘さや柔らかさだけを重要視した食べ物ばかり食べていると、人の食に対する感性の多様性が失われ、味気ない人間生活の到来を予測させます。また、柔らかい食は歯の数や大きさ、そしてあごの発達を弱め、顔の形まで変えてしまいました。ここからは推測ですが、あごの小さくなった若者の声が悪くなっているように思います。このことは、プロのアナウンサーにもよく見られます。

 そこで、本来の癖のある食材の復活を是非実現したいと考えており、良識ある読者諸氏のご賛同、協力を是非お願いしたものです。

◆評価の実例

 味覚センサーを用いて、四種類の葉もの野菜の味を測定し、そのうちの四つの要素について示しました(図1)。

図1 葉もの野菜の味の比較

 ホウレンソウはうま味に特長があり、意外と苦味があり、香川県特産の高菜の一種であるマンバは、うま味は低いが苦味も弱いことがわかります。

 また、バレイショのテクスチャーを機械的測定により測ってみると、男爵、メークイン、インカのめざめ、キタムラサキなどで歯応えやもろさなどが簡単に比較できます(図2)。

図2 バレイショのテクスチャー

 さらに、ニンジンについては、色の薄い西洋ニンジンが短くて扱いやすいこともあり一般的になっていますが、京野菜である金時ニンジンについて産地別に味を比べてみたところ、同じ金時ニンジンでも売れ筋の産地のものが、うま味と甘さのバランスがよく、これが人気の要因になっていると思われたことなど、紙面の関係でこれ以上は紹介はできませんが、このように野菜類についても、おいしさが客観的に評価、比較できるようになったことを紹介して本話題の結びといたします。


プロフィール
やまの よしまさ

京都大学農学部農芸化学科 卒業
東洋製罐・東洋鋼鈑綜合研究所研究員を経て香川大学農学部教授、農学部長を歴任した後、現在香川大学名誉教授、社団法人おいしさの科学研究所理事長、食農連携対策検討委員などを務める。著編書に「おいしさの科学」「おいしさの科学事典」「おいしさの科学がよ~くわかる本」など。


元のページへ戻る


このページのトップへ