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農林水産分野における温室効果ガスの見える化に関する動向

農林水産省 総合食料局 食品産業企画課
食品環境対策室長 谷村 栄二

■背景

 ここでいう「見える化」とは、商品・サービスに伴う温室効果ガス排出量を定量的に可視化することであり、これにより、消費者による商品選択の際の一つの判断基準となり、より省COの商品・サービス選択といった消費者の行動が促されるとともに、事業者による商品の製造・運搬時などの省CO化の推進が期待されます。

 このような観点から、平成20年3月に改訂された「京都議定書目標達成計画」においては、我が国の温室効果ガスの6%削減の約束達成に資するため、省エネ製品の選択といった消費者の行動を促すため、さまざまな製品やサービスの製造・使用段階などにおける二酸化炭素排出量の「見える化」を推進することとされました。

 さらに、我が国が低炭素社会へ移行していくための具体的な道筋を示すものとして同年7月に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」において、「見える化」について平成20年度中に排出量の算定やその信頼性の確保、表示の方法などに関するガイドラインを取りまとめ、平成21年度から試行的な導入実験を行うよう目指すとされました。

■農林水産省の「省CO効果」表示指針

 農林水産省では、農林水産分野における「見える化」の展開方向、具体化に向けた課題などの検討を進めるため、昨年7月以降、食料・農業・農村政策審議会地球環境小委員会などにおいて議論を行い、平成21年4月1日に「農林水産分野における省CO効果の表示の指針」(以下、「指針」という。)を公表しました。

 指針内容の詳細な紹介は省略いたしますが、この指針に基づき「見える化」を進める上で基本的な考え方として重要なことは、農林水産分野における温室効果ガスの「省CO表示」が、あくまで農林水産業関係者の自発的な取り組みであるということです。そして、指針では、この基本的な考え方を前提として、「見える化」が多くの関係者の参加による、農林水産業・食品産業全体の持続的な取り組みとなるよう、それぞれの品目ごとの特性、業態や経営規模、消費者や農林水産業関係者の認識・習熟度、要求などに応じ、多様な「省CO表示」手法を提示しています。どの手法を選択するかも、農林水産業関係者がどの手法が排出削減のための課題を把握するために効果的か、また、消費者への訴求力が最も高いかを踏まえた上で、選択することが必要です。

■今後の取り組みの方向など

 省CO効果の表示はあくまで手段であり、大切なのはこの取り組みを通じて農林水産業・食品産業由来の温室効果ガスの削減を効果的に進めることです。その意味でLCA手法注)を用いてフードチェーン全体で温室効果ガスの発生状況を分析し、原料生産者、食品製造業者、流通業者、さらには消費者といった関係者が認識を共有することは、今後、食品の生産から流通、消費に至るどの段階で温室効果ガス削減に重点的に取り組むべきかを明らかにできるという観点から意義があることと考えます。しかしながら、カーボンフットプリント制度などLCA手法に基づく温室効果ガス排出量を表示することは、算定される数値が流通経路や原料調達などに関して一定の仮定を置いたものとならざるを得ない一方で、食品に係る表示内容に対する消費者の要求も極めて厳格であるといった特徴があることを踏まえると、取り組みを進めるためには、①表示の意味や算定方法などについての消費者への普及啓発、②信頼性、汎用性、網羅性が高いデータベースの整備、③表示内容に対する信頼性を確保するための適切な検証システムの構築などクリアしなければならない多くの課題も存在しています。




 上述した課題は短期間で一挙に対応できるものではありませんし、国(行政)だけで解決できるものでもありません。また、省CO効果の見える化自体が新しい試みであり、この取り組みが所期の目的を十全に果たし、我が国の温室効果ガス削減を進めるためには、フードチェーンに関わる関係者が、共通認識を持って、それぞれの役割、責任を積極的に果たしていくことが必要です。

 農林水産省といたしましては、今後とも、温室効果ガス削減に取り組むパートナーとして、関係する事業者の方々や消費者の方々と十分な意見交換を行い、協働していきたいと考えております。皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

注)LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)とは、商品およびサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るライフサイクル全体を通しての環境負荷を評価する考え方です。


プロフィール
たにむら えいじ

平成 3年 農林水産省入省
平成10年 経済局国際部国際経済課
平成13年 総合食料局食料政策課
平成18年 大臣官房企画評価課
平成20年~総合食料局食品産業企画課 食品環境対策室長


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