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今月の話題


日本農業の新たな展開に際して

社団法人日本種苗協会 会長
瀧井 傳一

はじめに

 ご承知のとおり、今、日本の農業は数多くの課題を抱えています。農業就業人口はこの10年間で約20%減少し、農業就業者に占める65歳以上の人口の割合は60%に達するなど、著しく農業就業者の減少および高齢化が進行しています。また、食糧自給率はカロリーベースで40%と長らく低迷を続けており、国内農地の2.5倍に相当する1,200万ヘクタールもの耕地面積を海外に依存している状況です。さらに、こうした厳しい国内の農業情勢の下、WTO交渉やFTA(EPA)による貿易自由化の波が押し寄せ、地球温暖化による世界的な異常気象が頻発するなど、国際的枠組みの中で日本農業は大きな転換を迫られています。

 このような情勢の中で、農業と食の原点と言える種苗に携わる業界として、以下のような取り組みを推進していきたいと考えております。

国内生産農家への応援

 第一番目として、消費者の食の安全・安心への関心が高まり、国産農産物の重要度が増していると考えられることから、地域の特徴を最大限に活かせる品種の開発と導入を促し、輸入農産物との区別化、ブランド化、棲み分けを推進する必要があります。また、食の中食・外食化が進んだことにより、野菜の家庭消費量が減少して、加工・業務用が野菜の消費量の50%以上を占めています。野菜の消費に輸入ものが占める割合は、家庭消費用ではわずかに過ぎないのに対して、加工・業務用では30%を超えています。今後は、加工・業務用に適した品種の開発に一層注力するとともに、JAグループ、市場、流通業者の皆様とも連携して加工・業務用野菜についても国内産地を育成していくべきだと思います。

 さらに、日本農業を活性化させ持続的に発展させるためには、農業を経営として実践できる担い手の育成と農業労働力の確保、農地の有効活用が不可欠です。業界としてこれまで以上に行政との連携を強化し、農業生産の現場の声をできるだけ農政へ反映させていきたいと思います。

野菜の消費拡大

 第二番目として、日本農業の持続的な発展と国民の健康増進のためにも、年々減少している野菜の消費を拡大する必要があります。その鍵を握るのは子供たちへの「食育」の推進だと考えています。かつては、家庭や地域において、農業と食がどのようにつながっているのかを祖父母から孫へ、親から子へと伝承してきました。しかし、現代は核家族化や食生活の変化に伴って、残念ながら農業と食の関わりを感じ取る機会が喪失しています。自ら野菜を育てる、育てた野菜を調理するという実体験を通じてこそ、野菜を美味しいと感じて進んで食べるようになるのだと思います。また、生産農家に対する感謝の気持ちや食品・食材に関する正しい知識も同時に育むことができます。

 社団法人日本種苗協会では、昨年7月に「食育推進プロジェクト」を立ち上げ、今春より全国の小学生を対象とする野菜の栽培体験授業を実施いたします。各地域の会員種苗会社が地元の小学校を訪問して、種まきから栽培・収穫、そして調理までを体験してもらうという内容です。また、栽培品種に地方の伝統野菜を採用することで、失われつつある伝統的食文化の継承にもお役に立てるのではないかと考えています。「食育」の本来の目的を達成するためには、食のバックグラウンドとなる農業生産そのものに焦点を当てた推進活動が不可欠であり、農業生産の原点である種苗に携わる我々の事業内容の特色を生かすことができると考えています。今後は、このような「食育推進プロジェクト」の地道な活動を通じて、将来的な野菜の消費拡大に結び付けていきたいと考えています。

 さらに、これまで種苗業界では、消費者に対して直接的に情報を提供する機会は多くありませんでした。しかし、昨今の食にまつわるさまざまなトラブルを目の当たりにしておりますと、今後は、農産物の安全などについて科学的で分かりやすい正確な情報を、種苗業界の視点からも消費者に対し積極的に発信していくことも大切ではないかと感じています。それにより、消費者の農業や食に対する理解を深め、野菜の消費拡大に貢献できるのではないかと考えています。

環境保全への貢献

 第三番目として、農業は食料などの生産・供給という機能のほか、国土や環境の保全といった多面的な機能を備えており、国内農業を振興して農地を有効に活用すること自体が環境保全へつながると思います。さらに、耐病性品種の開発や栽培技術の改良により農薬・化学肥料の使用量をできるだけ減らし、耐寒性品種の育成や環境に優しい農業資材の開発・普及による省エネ型の施設園芸の推進を通じて、環境負荷が少ない農業の実践に引き続き取り組んでいきたいと思います。

おわりに

 いずれにしても、食や農業のグローバル化をチャンスととらえ、今後は日本農業も国際的枠組みの中で展開していく必要があります。そのために、現在の日本の農産物の品質の高さを保ちながら生産性の向上を図り、自律した農業を確立しなければなりません。私ども種苗業界は、メーカー各社がオリジナル性溢れる優良品種を開発し、卸・小売と柔軟に連携しながら、各地域に最も適したかたちの品種の推進と普及に取り組んでいきたいと思います。それにより、グローバル化が進む中で日本農業の競争力強化に大きく貢献できるものと考えています。


プロフィール
たきい でんいち

昭和23年生まれ
昭和46年 タキイ種苗株式会社 入社
昭和57年 副社長 就任
平成3年 代表取締役社長 就任
平成20年5月社団法人日本種苗協会会長 就任


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