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今月の話題


原油高騰に苦しむ生産地の現状




高知県農業振興部長 川上 泰

〈追い風を生かしたい国内産地〉
  7月までの貿易統計によると、今年の日本の生鮮野菜輸入量は、中国製冷凍ギョーザ事件などの影響を受け、輸入量が減少した昨年よりもさらに減少し、対前年比80%程度となっています。

 流通関係者の方から「今こそ、国内産地にもっとがんばって安定生産してもらいたい」との声をいただくなど、国内産地にとってはチャンスとなっており、今まさに消費者の皆さんにより一層、安全安心でおいしい農産物を適正価格でお届けできる生産流通体制づくりが急務となっているところです。

〈生産資材の高騰が、農家経営を圧迫〉
  今、実際の産地や農家の経営は、空前の危機を迎えていると言っても過言ではありません。燃料や肥料、ビニールなどあらゆる生産資材が軒並み高騰し続けており(図1、2参照)、様々な品目で農家経営を直撃してきています。中でも最も値上げ幅の大きい重油価格は、4年間で約3倍に上昇しています。1リットル当たり40円台から、急激な値上がりが続き、7月現在で同120円を超えるに至っています。本県では、ビニールハウス約1,600haで利用されている重油の総量は、年間約8万9千リットルと推計されています。単純計算で、県全体で約70億円ものコストアップとなっており、本県の農業の主軸である施設園芸農家への影響は極めて甚大です。


図1 高知県でのA重油価格の高騰(2004年1月を100とした指数)


図2 肥料成分(窒素、リン酸、カリ)のすべての原料が高騰



 図3に、県で試算した主要品目の経営費の増加をH21年度とH16年度の対比で示しました。なすで142%、きゅうりで138%、高温作物であるピーマンでは160%、シシトウでは141%に経費が増加し、販売価格と収量を現状のままとして試算すると、多くの農家が経営危機に陥り、3分の1もの農家が農業を続けられなくなってしまう可能性が出てきています。



図3 高知県の主要4品目での生産コスト増加状況(試算)



 農家は、ハウスの保温対策の徹底や施肥の適正化などの対策に懸命に取り組んできておりますが、自助努力だけでは限界もあり、まさに、園芸全体の存続にかかわる緊急事態となっています。

〈「特徴ある多品目で周年出荷できる産地」を維持するために〉
  かつて、昭和48年には第1次、さらに昭和54年には第2次オイルショックが到来し、その際にも産地には激震が走りました。当時、LPガス、コークス、褐炭等の脱石油燃料の利用試験が実施されましたが、実際には、重油価格等の暴騰は長引くことなく収束し、これらの取り組みも一過性のものとなりました。

 しかしながら、今回の状況は、そのような楽観は全く許されない、産地にとってぎりぎりいっぱいの瀬戸際に追いつめられた状況であると考えています。

 県内ではすでにそうした状況を反映して、メロン、シシトウなどの高温作物から、にら、ねぎなどの省加温あるいは無加温作物への転換が広がりつつあります。栽培面積の縮小や品目の偏りは、『特徴ある多品目で周年出荷できる産地』を長年の強みとしてきた本県の園芸戦略の根幹にもかかわるため、危機感をさらに強め、産地の再構築に取り組んでいく必要があります。

 そこで、現時点での取り組みとして、農業施策の柱として強く推進している環境保全型農業推進プロジェクトの中に省エネルギー作業部会を作って、様々な代替え技術等の情報の収集と共有に努めています。大学、民間企業と連携し、カーボンオフセットのしくみを含めて木質バイオマスボイラーを導入する先進農家グループ等もでてきています。また、7月の県議会では、保温性を高める3重カーテンや温度管理装置の整備など、省エネ対策をメニュー化した事業費1億円の『施設園芸原油高騰緊急対策事業』を創設しました。

 さらに、新知事体制のもと、農、林、水、工、商の連携を強化し、新たな産業やマーケット創出を目指して、『産業振興計画』と『地域アクションプラン』の策定を進めるなど、県政浮揚に向けた取り組みを検討しています。

 この危機的状況を乗り越え、本県農業を未来に向かって切り開き、次の世代に引き継いでいくためには、それぞれの産地の生産者と農業団体、行政が力を合わせ、互いに『学び合い・教え合い・支え合う』ことによって高い品質・収量が確保できる『産地のまとまり』を創ることが重要です。そして、より一層競争力のある、消費地から信頼、評価される産地を再構築していくことが大切であると考えています。



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