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野菜の加工・業務用需要への対応に向けて




農林水産省 生産局 生産流通振興課
流通加工対策室長 菱沼 義久

〈はじめに〉
  近年の生活スタイルの変化から、食の外部化の進展等により、我が国の野菜需要は、家計消費用から加工・業務用にシフトし、加工・業務用需要が野菜の全需要の過半を占めています。つまり、今後の野菜の生産・流通施策を講じていく上で、加工・業務用需要への対応は、重要な課題と位置づけられています。

〈最近の野菜をめぐる状況〉
  最近の野菜の輸入状況をみると、平成17年は252万トン※)と過去最高を記録し、加工・業務用需要に占める輸入割合は、3割程度となっています。一方、19年には中国製食品の安全性への危惧(いわゆる段ボール肉まん事件)や、本年1月末に発生した中国製冷凍ギョーザが原因と疑われる健康被害事例等の報道により、輸入商社の買い控え、中国側からの輸出検疫検査の強化等から中国産野菜の輸入量が減少しました。これに関連して、国内の流通関係者から、この輸入量の減少分を国産野菜で対応してほしいという要請が高まっています。

〈加工・業務用需要対応プラン(仮称)の策定に向けて〉
  農林水産省としては、本年5月に今後の農政の基本的方向を示した「21世紀新農政2008」を決定しました。この中で、国内における食料供給力の強化を図るため、国産ニーズの高い野菜の供給体制の整備を促進するよう、「加工・業務用需要対応プラン(仮称)」を策定し、このプランに基づき生産に取り組む産地、農業経営等に対して重点的な支援を行うこととしています。

 このプランを策定するにあたり、加工・業務用の生産流通に取り組んでいる先進的な事例を精査するとともに、従来より十分な意向を把握していなかった食品製造企業・外食事業者等の実需者から意見を把握し、それらの中から加工・業務用野菜の安定供給に向けた課題を抽出したところです。

 主な課題の一つは、加工・業務用野菜の安定供給には、確かなサプライチェーンの構築が必要で、この「カギ」となるのは、産地からの野菜を食品製造企業等の多様なニーズにマッチさせるよう、選別・調整・保管・加工機能を有する中間事業者の育成とその強化が必要です。

 例えば、産地と食品製造企業等が1対1でつながった場合には、天候による供給変動などにより、双方に過度のリスクと負担が発生します。中間事業者が存在すれば、各産地から集めた原材料の在庫を持つことにより、食品製造企業等の原材料供給へのリスクの軽減と産地の納入義務の負担が軽減できます。

 中間事業者とは、自らの資金で国産野菜を購入し、自らがリスクを負いつつ、多様なニーズに対応するため、産地からの野菜を選別・調整・加工するなどし、食品製造企業等に契約どおり供給する方々と考えます。

 二つ目の課題は、産地・生産者側の意識を改革した上での産地体制の早急な整備が挙げられます。実需者側の定時・定量・定品質・定価格(「4定」)のほか、多様なニーズ(規格・栽培管理基準の設定、コールドチェーンの構築、産地での調整保管等)に対応するには、従来からの「加工用は、すそ物対策」という意識からの脱却、産地リレーによる均一の野菜を通年的に供給するためには、「産地間競争」から「産地間連携」へ意識を変えた上での多様なニーズに対応できる生産・流通経路を確保することが必要です。

 このようなニーズのうち、特に、安全・安心への確保の対応については、品質・安全への管理水準が高位となりつつある輸入品に対抗できるトレース可能な生産管理能力を維持・強化することが必要です。

 今後の加工・業務用需要への対応に当たっては、これらの課題を解決するため、産地はもとより中間事業者等への可能な限りの支援が必要と考えます。

 現在、野菜産地にあっては、資材費、燃油価格の高騰により再生産割れの危機に直面しています。このような生産費の高騰分を販売価格に転嫁することは、容易ではありません。

 このため、今後の野菜産地にあっては、様々な取引を活用し、産地側が出荷前に価格交渉力を得られる、加工・業務用向けの契約取引の推進が必要ではないでしょうか。今後、野菜産地では、いわゆる価格交渉権を持ち、従来の市場流通ではない流通経費の低減可能な契約取引といった流通経路を確保することで、生産者の所得向上に努める動きが現れることを期待します。

〈おわりに〉
  国産野菜へのニーズが高まっているというこの時局を最大のチャンスととらえ、このチャンスを逃せば、野菜産地の発展は困難になるといった認識の下、生産者、流通関係者が一体となり、加工・業務用野菜の安定供給の経路を構築しようではありませんか。

※) 
農林水産省による野菜輸入数量。果実的野菜であるいちご、すいか、メロン等が除外されているため、本誌の数字とは必ずしも一致しない。


プロフィール
ひしぬま よしひさ

昭和58年 農林水産省入省
昭和62年 農林水産省食品流通局野菜振興課
平成13年 農林水産省生産局野菜課
平成15年 香川県農政水産部次長
平成20年~農林水産省生産局生産流通振興課 流通加工対策室長



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