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今月の話題


加工・業務用野菜の生産拡大へ向けて



社団法人 日本施設園芸協会
会長 木田 滋樹

 平成17年3月に国から「野菜政策に関する研究会報告」が出されて3年が過ぎました。この報告の中では、加工・業務用野菜に関する多くの指摘や提言がなされています。中でも、既に我が国の野菜消費の過半を占める加工・業務用消費に占める輸入品のシエアが年々高まっている状況に鑑み、「輸入の増加に伴なって低下しつつある国産シエアを奪還する『攻め』の政策を展開する」よう求めた提言は極めて重要です。

 また、輸入の増加は、野菜の消費形態が家庭内消費の「内食」から「外食」や「中食」などの食の外部化が大きく進化しているにも拘らず、国内の野菜産地がこれに対応しきれていないところに原因があり、国内産地が多様なニーズにきめ細かく、かつ、的確に対応していくことの重要性を指摘しています。

 さらに、国内の産地は市場流通を中心としてきたため、①実需者の求める価格水準や規格等への対応の必要性、②豊凶時の対応を含む周年安定供給体制の欠如、③品種をはじめとする実需によって異なるニーズへのきめ細かな対応の遅れ、などの問題点を具体的に挙げた上で、積極的な施策展開による加工・業務用ニーズに的確に対応した産地育成を求めています。

 研究会報告では講ずべき施策の内容にも踏み込んで、①国や地域各々の段階における産地と実需者の間での情報や意見を交換する場の設定、②産地におけるマーケッティング担当者の育成と専門部署の設置等産地の体制整備、③きめ細やかな需要に対応した栽培技術体系、用途に応じた品質、規格の重視、コスト低減に向けた技術開発の重要性を指摘しています。

 この報告を受けて農林水産省は、加工・業務用野菜の生産拡大と安定的な取引を推進するため、平成17年度から新規予算による積極的な施策を推進してきています。財団法人日本施設園芸協会は、農林水産省の指導の下、これに先立って、平成16年11月及び12月に、生産者をはじめとする関係者に対し、加工・業務用野菜の現状と問題点の正しい認識と意識改善を進めるためのセミナー、展示会を東京と大阪で開催しました。

 このセミナーに参加した生産者の現状認識は、ある方の次のような発言に現われていました。「何も無理して加工・業務用に手を出さなくても家計消費向けで十分販売できている」、つまり、全量が市場出荷であるから自分達の出荷した野菜は全量家計出荷向けである、との理解でした。市場出荷された野菜の最終的な消費の姿や評価についての認識がない、変化している野菜の消費動向についての理解がないとの、まさに研究会報告の指摘どおりでした。

 また、「加工・業務用野菜の取引をお願いに全国の産地を回ったが相手にしてくれなかったので止むを得ず海外に出た」という実需者の声もありました。

 このように、加工・業務用野菜への取り組みは、生産・流通・実需の人達の間に共通の理解がない、話し合う場もないという実態を改めてお互いに認識し合うところから始まったと言えるでしょう。

 平成17年度からは農林水産省の積極的な施策展開の下、当協会も、①中央や地域におけるセミナーや情報交換会等を通じた意識改革を進めるための普及・啓発、②実需者のニーズに応えつつ産地の利益にもつながる生産方式、取引の定着を進めるためのガイドラインや取引標準の作成、③新たな産地指導者育成のための研修会の開催、④加工・業務用野菜のための品種や栽培法に関する現地実証などを行ってきました。

 独立行政法人農畜産業振興機構においても、契約野菜安定供給事業や産地と実需者の交流会をはじめとする加工・業務用野菜に関する各種の事業を推進していますが、このような官民を挙げての積極的な取り組みが4年目を迎える中、ようやく、生産者をはじめとする関係者の間に共通認識が浸透しつつあります。

 また、地域のJA等による自主的な取り組みも始まっています。この流れを一層拡大、定着させていくためにも関係者の密接な連携の下に活動を強化していくことが重要だと考えています。これまでの取り組みの中で、加工・業務用野菜を拡大するために解決すべき課題として、①家計消費向けに比べての低単価、②豊凶変動のリスク負担等安定取引のルール作りが必要であることが共通認識となっています。

 このことに関しては、家計消費向けとの比較で、不利な点ばかりにとらわれるのではなく、単収増、省力化、長期安定取引という有利な面を活かしながら、生産と実需双方の利益の向上を実現していけば、必ずや我が国の加工・業務用野菜の拡大はできると考えています。例えば、前述の当協会で作成したガイドラインによれば、キャベツの場合、植付け株数を40%減らし大玉化することで単収が大幅に向上し、機械による一斉収穫などで大幅に省力化が可能となり、規模拡大とも併せれば、経営体当たりの収益で、家計消費向けを上回る加工・業務用キャベツ栽培が可能です。また、取引のルールづくりにしても、当協会で作成した加工・業務用野菜の標準的な取引手順や契約書様式を参考にしながら取引を積み上げる中で確立されていくものと考えています。

 いずれにしても、生産と実需の利益の両立と、その下での安定取引の確立が基本であり、また、双方の間に立って調整を行うコーディネーターの重要性も関係者の共通理解となっていますので、この三者の交流・理解を一層深めながら、儲かる加工・業務用野菜づくりの定着へ向けての努力をさらに続けていかなければならないと考えています。


プロフィール
きだ しげき

昭和39年  
北海道大学農学部農学科卒業
農林水産省入省(食糧庁買入課)
平成 3年  
農林水産省農蚕園芸局農産課長
平成 5年  
農林水産省官房審議官
平成 9年  
生物系特定産業技術研究推進機構理事
平成15年~  
社団法人 日本施設園芸協会 会長




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