独立行政法人 農畜産業振興機構
理事 成田 喜一
<はじめに>
原油価格の高騰やバイオエタノール需要を一因とした穀物価格の高騰等の影響を受け、我が国の消費者物価も徐々に上昇しつつあります。こうした中、野菜について言えば、むしろ年明け以降のだいこん、はくさい等の卸売価格の低落が問題となりましたが、値上がりが困る商品の最上位に野菜がランクされているというアンケート結果を先日拝見し、毎日の食生活に欠かせない野菜の価格安定の重要性を改めて感じた次第です。
<この1年間の野菜業務をめぐる動き>
さて、この1年間の野菜業務をめぐる動きを振り返ると、第一に、19年度は野菜対策が見直され、新たな対策が実行に移された年でした。この見直しの趣旨は、消費者等のニーズに的確に対応した生産を行う担い手の育成・確保と、担い手を中心とした安定的な野菜の生産・出荷体制の確立を図るというものであり、具体的には、①契約取引の推進、②需給調整の的確な実施、③担い手を中心とした産地への重点支援を行うというものです。この見直しを受けて、当機構が実施している野菜関係業務においても、指定野菜価格安定対策事業における産地区分の導入や契約野菜安定供給事業の拡充等が行われ、19年10月から実施に移されました。
第二に、19年度は当機構にとって5年ごとの中期計画の見直しの時期でありましたが、これと相まって、独立行政法人改革の議論が国の有識者会議を中心に年末まで続きました。その中で、野菜業務については、上述の新たな対策において重要野菜等緊急需給調整事業及び指定野菜価格安定事業の連携策が講じられたこと等を踏まえ、事業の一層の効率的・効果的な実施の観点から、両事業について、当機構への機能・実施体制の集約を行うことが決定され、これまで国や公益法人で実施していた両事業に関連する業務について当機構が担当する方向が示されました。
第三に、野菜の生産拡大が国の食料自給率向上の重点事項の一つとされ、加工・業務用モデル産地の形成や食品産業と産地の連携強化を一層促進することとされました。このような中で、当機構としても、契約野菜安定供給事業の一層の普及推進を図るとともに、19年度には産地と実需者の交流会を東京での2回に加えて、初めて大阪でも1回開催し、多くの関係の方々にご参加いただきました。さらに、加工・業務用などへの国産野菜の生産・利用の拡大を図るための優良な取組事例を表彰する事業を、農林水産省と共催で初めて実施しました。
<20年度の野菜業務の展開>
昨年末に決定された独立行政法人の業務見直しの方向を受け、当機構において野菜の需給に関わる業務を新たに実施することとなります。まず、20年度においては、これまで国が実施していた「野菜需給協議会」の開催や供給計画数量と出荷実績数量の乖離度合いを認定する業務などが加わります。また、新規事業として、都道府県段階における出荷調整に係る協議会や産地情報調査員の設置、供給過剰時の消費拡大、新規用途開発に対する補助事業も実施することとなります。さらに、野菜の生産・出荷の安定に資するよう、需給・価格に関する情報の提供に一層努力していくこととしています。
また、重要野菜等緊急需給調整事業関係については、(社)全国野菜需給調整機構において実施している資金造成や交付金の交付に関する業務を、できるだけ早期に当機構に集約することとされており、今後、国や関係団体の方々とご相談しながら、円滑な業務の移行を進めていきたいと考えています。
以上のような業務を円滑に実施していくため、当機構では新たに野菜需給部を設けるなど組織体制を見直しました。新体制のもと、新たな業務を実施していくに当たっては、農林水産省の方々はもちろん、生産・流通関係の方々と、これまで以上に密接な情報交換を行い、連携をとらせていただきながら、的確な情報発信や価格安定事業の交付金の一層速やかな交付など、業務集約のメリットが出るよう努めていきたいと考えております。
次に、加工・業務用等への国産野菜の利用拡大に関しては、18年度、19年度に産地と実需者の交流会を東京、大阪で実施しましたが、アンケート調査等においても、商談成立をはじめ役に立ったとの評価を多くの方々からいただき、継続開催の希望も多いことから、20年度においても東京、大阪で計4回開催し、そのうち1回は昨年に引き続き日本フードサービス協会との共催で実施する予定にしています。また、国産野菜の利用拡大優良事例表彰についても、19年度に引き続き実施することとしています。このような活動を通じて、契約野菜安定供給事業についても、今回の見直しにおいて卸売業者等の中間業者も契約対象者に加えることや簡易な加工をした野菜も対象とすることが可能となったこと等、事業内容の拡充について一層PRしつつ、その活用促進を図っていきたいと考えております。
<おわりに>
野菜をめぐる状況は大きく変化してきています。これまで増加傾向をたどってきた野菜の輸入量は、17年の291万トンをピークに減少してきており、19年では251万トンとなっています。この背景には、輸入野菜、特に中国野菜に対する安全・安心面での消費者の不信感があると思われます。このような状況は、国産野菜にとっては、近年輸入に押されていた加工・業務用のシェアを取り戻す大きなチャンスとも言えます。
機構としても、消費者の方々に安心していただける国産野菜の安定供給の推進にお役に立てるよう、関係の皆様方のご指導をいただきながら、適切な業務の実施に努めてまいりたいと考えています。特に今年は、当機構にとって新たな分野の業務を実施に移す年でもありますので、これまで以上に皆様方のご理解、ご協力をいただきますよう、よろしくお願いいたします。