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卸売市場の委託手数料の自由化にむけて



千葉大学大学院 食料資源経済学コース
教授 斎藤 修

 卸売市場の委託手数料の自由化は、筆者も委員となった農林水産省での「食品流通の効率化等に関する研究会」での猶予期間を設けての決定であったが、当時、卸売手数料以外に手数料を公定している例がないことから、「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月閣議決定)で、「卸売市場について総合的な検討を行う中で、卸売手数料の問題について検討を行い、平成15年度中に結論を得る。」ことが明記されていたということもあってあまり議論されなかった。

 平成21年4月から実施されることになり、ここにきて時期が迫ってきたことにより関心を呼んでいるものの、まだオープンに議論しようとはしてないようである。

 卸売市場における流通の手数料は原則的には「流通の機能とサービス」によって配分されており、卸売市場が流通の機能とサービスを高めようとするなら、市場が実需者と産地をつなぐコーディネーターの役割を担い、無条件委託よりは買付でマージンを確保する動きが必要である。買付によるマージンは平均的には低めの市場もあるが、提案力のある卸売業者の純マージンは一般の取引よりも高位にある。コーディネーターとしての機能は学習効果をともない実需者への企画提案力に帰着する問題である。

 ところで市場流通のマージンは卸売業者と仲卸業者で合算して約22%だとされているが、市場と量販店が直接に取引を行い、量販店等の流通センターに荷物がいくことになると、少なくとも商物分離が必要になる。商物分離になると卸売業者か仲卸業者のいずれかが排除されやすくなる。一般的には、物流システムを持っている仲卸業者が有利であり、卸売業者が排除されることになる。これまで、このような取引は、仲卸業者の「直荷引」といわれてきたが、仲卸売の規模が大きく成長するにつれて、市場流通では確保できない品目から産地との直接取引になってきている。

 特に量販店のPBや契約取引となる加工業務用の品目では、これまでの市場流通からの調達では対応しにくくなってきている。というのも、産地と量販店や加工業務用の実需者との間に入るコーディネーターとしての役割を大規模な仲卸売業者が担い始めているからである。仲卸売業者は最終ユーザーに近く、加工・パッケージ、物流、小売支援などのサービスなど取引先との関係性マーケティングを展開しやすい立場にいる。今や加工・パッケージは単なる流通機能という段階から特定の取引先からの製品という付加価値(価値連鎖)を形成しやすく、さらに多くの取引先との間で需給調整が可能であり、そこからも付加価値が形成しやすい。

 一方、卸売業者が産地と実需者をつなぐコーディネーターの役割を強くすれば、リスクが大きい買付に移行しても、5%程度のマージンを確保することは可能であり、卸売業者として、安定した収益の確保になる。産地と実需者をつないで製品開発や流通コストの低下につなげられる卸売業者は、取引コストに十分みあったマージンを確保することが可能となる。一般的には、買付のマージンは3%程度が多く、取引コストが4%程度とされているのでこの場合には赤字になる。それに対してコーディネーター機能のある卸売業者では、5%程度のマージンであるから黒字になる。

 さらに量販店や加工業務用の契約取引のできない市場での小規模仲卸業者が多い場合には、卸売業者が別会社を設立して仲卸機能を統合化して対応している。卸売市場法等の規制が弱かった地方卸売市場からこの統合化が進展し、約22%の卸売と仲卸の合算マージンは、10-12%と半分程度まで圧縮して流通を合理化することができた。

 規制緩和によって手数料が自由化される場合に出荷奨励金がどうなるか、さらに、これまでの市場取引が合理化された場合に、産地は野菜8.5%、果実7.0%の委託手数料のなかからどの程度を産地はとるべきか、という質問が多くみられる。出荷奨励金については社会的役割が終了し、流通合理化のなかで廃止される可能性がある。しかし、問題はこの出荷奨励金をすでに県連組織の大きな財政源として活用している場合には、このままでは生産者からの手数料を上げない限り、県連組織の運営がこれまで以上に厳しくなるということである。つまり出荷奨励金が廃止された場合、市場流通の変化のなかで、市場手数料から産地サイドの取り分を拡大することによって、産地は手数料を維持しようとするのではないかと思われる。

 現在の産地のマーケティングという視点と、卸売市場の担う「流通機能とサービス」という視点からみると、もっと積極的に卸売・仲卸の機能とサービスを統合することが必要であると思われる。

 また、完納奨励金についても量販店や流通企業の決済機能が充実してきたのにどこまで必要か、果たして市場はその機能を担い続けられるのか。

 今後、手数料の自由化の実施にむけて、市場流通や系統共販の根幹についてのオープンな議論が、ますます重要となってくる。

 市場流通に大きな革新が期待されなくなれば、系統農協や産地に対して効果的なマーケティングができないことになる。市場流通はこれまで以上にシステム間競争を勝ち抜く力をつける必要がある。


プロフィール
さいとう おさむ

千葉大学大学院教授(園芸学研究科フードシステム専攻)
1951年埼玉県生まれ。東京大学大学院農学研究科博士課程修了
1992年広島大学教授、1997年千葉大学教授
日本フードシステム学会副会長
最近主な著書:
斎藤修「食料産業クラスターと地域ブランド」農文協、2007年
斎藤修編「青果物フードシステムの革新を考える」農林統計協会、2005年
斎藤・慶野編「青果物流通システム論のニューウェーブ」農林統計協会、2003年
斎藤修「食品産業と農業の提携条件」農林統計協会、2001年など多数。




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