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今月の話題


~最近の海外の野菜産地の動向から~
今、国内産地の強みを生かすために求められるもの



東京海洋大学講師 櫻井 研

 海外の野菜産地の動向は国内産地の脅威となっており、その影響は広く、深く、生産・流通・消費の全般に及んでいる。その脅威に立ち向かうには、海外産地の何が脅威なのか、国内産地の弱点がどこにあるのかを明らかにして競争の戦略を考えなくてはならないが、まずは国内産地の経営環境に影響を及ぼす海外産地の動向について最新の情報を収集し、脅威と機会(好機)の現状を分析することが第一歩である。

 輸入野菜が増加する背景には、生鮮野菜や加工・業務用野菜などを海外産地から調達するための多様なサプライチェーンが存在する。サプライチェーンというのは海外産地の生産者にタネを供給し、農薬の使用方法や栽培の仕方を指導したりするところから集荷、加工、輸出、輸入、国内流通まで一連の様々な工程で円滑な供給に関わるすべての企業、生産者や組織などの連鎖をいう。グローバル化の流れは輸送技術や情報技術の発達を伴って海外諸国との間の「空間と時間の隔たり」を限りなく縮減させ、多様なビジネスモデルを実現させた。 

 優れたサプライチェーンとは何か。このテーマについて大学の講義で取り上げたときに、中国からの留学生は次のように述べた。「優れたサプライチェーンというのは、一番効率的な供給経路だと思います。人、物、金という資源を一番少なく使って成立させる経路だと思います」。いみじくもコストの安さで世界の市場を席捲する中国の競争優位性を言い当てているのでないか。

 国内産地に直接的に影響するのは安く大量に調達される輸入野菜そのものであるとしても、それを供給する海外産地との間のサプライチェーンの存在も国内産地にとって大きな脅威である。輸入野菜そのものを脅威とみるならば、国内産地のとるべき対抗手段は高品質さや安全安心、取りたて、新鮮など国内産のブランド価値を高めて差別化を図ることが重要である。しかし、輸入野菜に関わるサプライチェーンを脅威とみるならば、国内産地は卸・小売業者、加工・業務用実需者、外食チェーンらのニーズに即した連携を重視し、信頼される長期的な安定供給の仕組みを約束でき方策を強力に推し進めることを考えなくてはならない。一方は差別化でブランド価値を高める戦略、もう一方はターゲットとする顧客に経営資源を集中させる戦略である。

 海外産地との間の低コスト志向や効率化を目的とするサプライチェーンには弱点もある。安全性が軽視されるという危険な罠が潜んでいることが次々に明らかになってきたことである。07年は中国産の製品について野菜のみならずあらゆる分野において安全性の危惧や不信、不安が世界中で問題になった。その影響もあって、わが国への中国産野菜の輸入が減少した。

 こうした足元で吹いている風は国内産地にとって優位性を発揮できる機会(好機)であるから、この機会を逃さず俊敏に対応することが望ましい。しかし機会や脅威といった外部環境は絶えず変化しているので、最新の情報を収集する心構えが必要だ。本誌(野菜情報)の海外調査報告は近い将来の予測に欠かせない貴重な情報を提供している。

 たとえば07年11月号によれば、中国では国を挙げて「農産物安全対策」に取り組んでいるという。別の情報によれば、11月に中国衛生当局と世界保健機関(WHO)主催で「食の安全」確保に向けた対応策などを話し合う国際フォーラムが北京で開催されている。中国が今後食の安全確保の問題に本腰を入れれば、中国産野菜に対する大方の不信が払拭されることも考えられる。そうなれば安全性の面での圧倒的に優位なポジショニングで国内産地が安住できる環境が変化するであろう。

 そうした海外産地の動向を注視して、経営環境への風向きを予測し、国内産地の競争戦略を考えなくてはならない。

 農業者大学校での講義のなかで、NHKで数年前に報道された番組「日本の野菜市場をめざせ――アジアの国々の動き」のビデオを見せたところ、次のような感想文を書いた学生がいた。

 「日本向けのミニトマトやパプリカを生産している韓国。生産側は常に消費者側である日本のニーズに合った生産方法をとっていた。また、その生産物を選択する際にも、まずは売り先である日本では、どのようなものが売れそうかということを調べてから生産していた。ターゲットを決めて、そこに売るためにどうやって生産していくかという考えが、まだ日本農業に足りないと思った」。

 この学生は率直に国内産地の弱点を認め、確かな目で韓国側のマーケティング志向を競争力の強さとして感じ取っているように思う。たとえば06年のパプリカの輸入量は22,800トン。その64%が韓国産であり、スーパーマーケットの売り場をカラフルに占有している。今後、国内産地には、消費者のニーズをうまくつかんで韓国産が需要を伸ばした売り場を奪取する取り組みを期待したい。

 国内産地の強みを生かして、消費者のニーズをうまくつかんでブランド価値をさらに高めることができるのか。どうしたら海外産地との間に築かれたサプライチェーンに勝るとも劣らないような卸・小売業者、加工・業務用実需者、外食チェーンに信頼される産地になれるか。国内産地に求められる課題は山積しているが、たまねぎ一つをとっても、「日本産は安全安心、おいしい」と世界中で評価されていることに自信と誇りをもって、さらなる競争力を高めてほしいものである。


プロフィール
さくらい けん

社団法人食品需給研究センター、社団法人農協流通研究所を経て1998年東京水産大学(現東京海洋大学)客員教授に就任。現在、同大学非常勤講師(流通・マーケティング論)、日本大学生物資源科学部非常勤講師(国際貿易論)。
農林水産省「政策評価会総合食料局専門部会」委員、日本貿易振興機構(ジェトロ)「日本食品等海外展開委員会」委員等。農産物の輸出に関連した海外調査など多数。




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