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「八百屋塾」の取り組みについて



東京都青果物商業協同組合 本部青年会会長
「八百屋塾」実行委員長 杉本 晃章

 「八百屋塾」とは、東京都青果物商業組合が主催し、八百屋の後継者育成の研修講座として開講している、八百屋を対象とした勉強会です。「八百屋はただの物売りに在らず」をモットーに、2000年7月から開催し、今年まで8年間研修を行って参りました。受講修了生は数百人にのぼり、財団法人食品流通機構改善促進機構の全国コンクール、農林水産大臣賞、総合食料局長賞等を受賞する受講生も出ています。

 私は開講当初より参画して、3年程前から実行委員長として八百屋塾に関わっています。講座は、月1回開講し、1年間で1シリーズの講座としています。1回の講座には、40人から50人参加し、30~40代が中心ですが、20代や70代の方もおります。

 八百屋塾の特徴は、業界から野菜の専門家を講師として招き、幅広い知識の取得と、テーマに沿った野菜・果物の異なる品種数十点を毎回食べ比べ、自分の舌を肥やして日々の仕入れに役立てることです。講師は、種苗会社に長年勤めた方や漬物の先生、地方野菜等の先駆者等それぞれ野菜に関しての第一人者で、講義のあとに懇談や野菜の食べ比べをすることで、野菜のプロとしての見識を深めています。また、その他に産地に出向いて生産者と会話するなど生産者と直接接する機会をつくっています。

 こうした取り組みを通じて、その折々、八百屋としての商売のあるべき姿を追い、「今、八百屋に求められていることは何か」、「これから八百屋はどうあるべきか」を考えることを目的にしています。

 その背景には、大手量販店、コンビニ等の台頭で、八百屋が衰退し、当組合の組合員が年毎に減少している現状があります。しかし、八百屋塾の創始者であり、顧問だった江澤正平氏から、「八百屋は効率の悪い商売で、現状の企業体質では置いて行かれがちな商売だけど、客を1人1人を良く知っているからこそ出来るきめ細やかなサービスや店頭での会話、食材の正しい知識を伝えること、心のこもった楽しい買い物は、八百屋でなければ出来ないはず。」と熱のこもった講義を受けました。八百屋でなければ出来ないことがたくさんあり、その中でも、八百屋の強みは、お客さんとの対面販売、それを活かすには、まず自分たちが商品知識を得ることだということを学びました。

 野菜や果物などの食材は生き物です。効率や数値だけでは計れません。種から食卓に並ぶまでのストーリー、我々が生きるために食べさせていただくという姿勢をもって、「楽しい食生活の提案」を八百屋は進めて、対面販売のよさを最大限に活かしたいと思います。

 残念ながら、江澤正平氏が今年9月に亡くなったことで、私たち実行委員は塾の大黒柱を失ってしまいましたが、同氏のポリシーを八百屋の後継者に伝えていかなければならないという使命感を抱いております。

 食育基本法が制定され、食のあり方、食の健康に対する価値が問われ、野菜・果物に対しフォローの風が吹き始め、マスコミ等では「野菜は健康に一番大切」と言われながら、その消費量はなかなか伸びません。

 その一因は、野菜がだんだんまずくなっているからだと私は思います。

 多くの消費者は、野菜の「見た目が良い=味が良い」と判断し、やわらかくて調理しやすい食材を買い求めます。生産者・種苗会社は消費者の求める野菜達を追いかけ、今、市場では揃いが良く、見た目が綺麗で、やわらかく、調理しやすい野菜で溢れています。

 しかし、その現状には美味しさという“味”の視点がどんどんとなくなって来ているのではないでしょうか。

 野菜の美味しさとは、その野菜が本来持っている味、香り、えぐみ、いごさ、あく、渋味といった特徴ではないでしょうか。人間はその特徴を茹でたり、焼いたり、煮たりして食べやすくして本来の味を楽しんできたと思います。

 本来、果物は種を動物に食べてもらうため、「生で食べられる味」ですが、野菜は種を残すために自己防衛として「生では食べられない味」になっています。「香りの少ないにんじん」「辛味のないだいこん」そんな野菜ばかりになってしまいました。

 画一的な野菜作り、野菜の売り方だけでは、どんどん野菜離れが進んでいってしまいます。我々は、八百屋塾の取り組みを通じて学んだことを活かして、品種や収穫時期によって味が違うことを消費者に伝えたり、地方品種や本来の味を求めて生産している生産者から直接仕入れて売ったり、品種や種類によって違う食べ方、効能などの紹介をし、野菜の楽しさを伝えることの出来る店づくりを目指しています。お陰で、今では当店を始めとして、八百屋塾を修了してこうしたやり方をしている八百屋には、遠くからでも客が訪れています。

 店頭での日々の接客を通じて、見た目の良さのみ重視する消費者だけではなく、本来の味を求める消費者や、対面販売の良さを活かした販売方法にニーズがあることを実感しています。当組合で始めた八百屋塾は、今横浜や盛岡でも開催されるようになり、細々としたうねりではありますが各地に広がりつつあります。また、当八百屋塾を受講する人も増えており、さらなる「八百屋塾」の取り組みをすすめていきたいと思います。


プロフィール
すぎもと てるあき
1947年12月 東京千住に八百屋の長男として生まれる
1966年3月 都立荒川工業高校電気科卒業、以来42年八百屋一筋
1976~1985年 旧千住支部(現北足立支所)青年会長
2000年 東京都青果物商業協同組合本部青年会常任委員
2005年4月 東京都青果物商業協同組合本部青年会長
現在 「八百屋塾」実行委員長として八百屋の二代目、三代目の方々に真の野菜の姿野菜・果物の持つ特性、その素晴らしさを伝えることに傾注



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