株式会社ドール 商品事業本部
執行役員 野菜部統括部長 三輪 高裕
〈はじめに〉
21世紀になって、「生鮮野菜輸入量が百万トンを超える」という話が、農業の話題の一つとして、なにかと取り上げられるようになった。本誌の巻末にも毎回輸入動向速報値が掲載されているが、生鮮野菜は実は、横ばいむしろ下降傾向にあるということを、どれだけの方がご存知だろうか。
品目によっては、輸入なくして消費マーケットが成立しない野菜もあり、やみくもに『輸入は悪しき』という考え方は好ましくない。何故輸入野菜が批判を浴びがちであるかは、不必要時に輸入野菜が市場に安価で投入され、市場価格を破壊し、ひいては国産同商材の価格に影響を与えることにある。しかし輸入商社にとって、価格破壊が本意ではなく、不必要時に大量輸入を行うと、商社自体も大赤字をこしらえることになるのである。では、何故輸入商社は、不必要時に野菜を輸入し、市場放出するのであろうか。それは輸入商社が国内野菜生産/出荷状況を正確に把握出来ていないことに起因している。
〈輸入オーダー手順の説明〉
米国産ブロッコリー、レタス、アスパラガスは、カリフォルニア州・アリゾナ州等から、米国内トラック輸送と船舶輸送で、収穫後14~16日で日本に到着するが、これに通関までの日数を加えると、収穫から市場販売まで3週間弱を要することになる。
したがって、輸入商社は、3週間先の国産出荷状況、市況を予測しながら、米国産地側にオーダーを行っている。しかし、この3週間の間に、日本特有気候の下栽培される露地野菜の出荷状況は、めまぐるしく変化し、この国産出荷予測を見誤ると、不必要時に大量輸入を敢行することとなる。昨今は、輸入競合業者の動向よりむしろ、国産出荷動向が主たる輸入数量決定要因となっているのである。よって、輸入野菜が市場に安価で投入され、市場価格破壊を招くことを避ける為には、輸入商社が、いかに国産野菜生産及び出荷状況を正しく予測するかにかかっている。
〈ドールの国産野菜の生産及び出荷予測〉
当社では、国産野菜生産/出荷状況を正しく予測するために、昨年より以下のデータ及び情報を活用している。
(1)各産地の気象データ・予報
(2)農畜産業振興機構「ベジ探」主要19市場(日報・旬報)検索(http://vegetan.vegenet.jp)及び 農林水産省「青果物日別取扱高統計結果」(http://www.fains-hp-unet.ocn.ne.jp/seika_hibetu. html)
(3)主要出荷団体・JA・全農からの作付け計画/出荷計画/生育状況の情報交換
(4)過去の出荷数量/市況/気象データ (「ベジ探」等より)
(5)各営業担当による顧客との情報交換
(6)『農業生産法人 I Loveファーム』からの生育状況/出荷状況データ
まず、農畜産業振興機構「ベジ探」の「主要19市場(日報・旬報)検索システム」からブロッコリーの産地別出荷実績を集計し、『主要産地出荷実績:ブロッコリー』(表1)を作成する。同時に、主要出荷団体・JA・全農と情報交換を行い、今期の作付面積、出荷計画を聞き取る。
例えば、今年の3月初旬の時点で、表1のJ県産を見ると、昨年に比べて前進出荷であることが伺え、また出荷計画から残量を考えると、3月から4月は出荷数量が少ないことが予想される。
さらに「ベジ探」や気象庁データから、『ブロッコリー日別取扱高』2006年(表2)と2007年(表3)を作成し、主要市場取扱数量・市況・気温・降水量の昨年対比を行う。例えば、2006年2月上旬に比べ、本年はJ県産が前進出荷となっており、価格は低めに推移している。J県産のブロッコリー作付面積を昨年とほぼ横ばいという情報を元に、このデータを2月15日時点で見ると、降水量比較も考慮し、2月下旬のJ県産出荷数量は、昨年程まとまって出荷されることはなく、市場相場も極端に落ち込むことはないと予想できる。
そして最後に我々が最も頼りとする情報が、全国7ヶ所(北海道、福島、福井、千葉、岡山、山口、長崎)に、数年前から当社が設立組織している『農業生産法人 I Loveファーム』の日々生産状況である。年間を通して、ブロッコリーを中心とする国産野菜のリレー出荷を目的とした『I Loveファーム』では、土作り・播種・育苗から収穫・選荷・出荷に至るまで一元管理しているため、各地域での育成状況が毎日圃場単位で確認出来る。
これらの国内生産情報を元に、今輸入注文を入れるべきか、あるいは注文を控えるべきかの判断基準としている。現に昨年11月には、こういったデータ収集と分析が功を奏し、不必要時の過剰輸入を抑えることが出来た。もっとも、野菜相場は単一野菜の生産動向のみで決定されるものでもなく、あくまでも一つの大きな判断基準と申し上げておく。
〈 結 び 〉
このように輸入商社がどの程度の量の野菜を輸入するのかを判断するに当たって、情報の果たす役割は、非常に大きいものがあるが、上述したようなデータを輸入商社が共有している訳ではなく、特に、国内生産のデータに関しては、 過去の統計データはあるものの、日別のタイムリーな育成状況を検索できるものはまだ少ない。出荷団体・JA・全農等から情報吸収し、主要農産物の地域別生育/出荷情報が「ベジ探」等、有益情報コンテンツよりタイムリーに検索できるようになることを切に期待する。
原油価格高騰、円安、アジア諸国の経済発展、バイオ燃料、わが国のポジティブリスト制度等の影響で、海外青果輸出業者にとって、日本は収益性の高い「 おいしいマーケット」ではなくなりつつある。
産地の生産者の高齢化、担い手問題、不耕作遊休農地拡大、国内景気回復による農業関連への労働力減少等々、日本農業の抱える問題は山積みで、もはや輸入野菜の拡大を懸念している場合ではない。野菜の生産・流通に携わる関係者が情報を的確に発信し活用することにより、国内産地と輸入野菜の適切なバランスをとっていくことが重要であると考える。