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今月の話題


国産加工・業務用野菜の生産・流通拡大に向けて


 理事  野川 保晶


〈はじめに〉

本誌の昨年4月号に、「国産加工・業務用野菜の生産・流通拡大をめざして」と題する拙稿を掲載し、この問題の重要性や困難さ、当機構の取り組み等につき述べさせていただいた。それから早や一年が経過したが、この機会に、改めて過去一年間の動向や当機構の取り組みを振り返るとともに、これからの取り組み、今感じていること等を取りまとめてみた。

 野菜の家庭消費の減少、加工・業務用需要の増加は、たびたび指摘されてきた。本号にもご寄稿いただいている農林水産政策研究所の小林茂典室長の最近の推計によれば、主要野菜の需要量のうち加工・業務用の占める割合は2005年度で全体の55%に達した。また加工・業務用需要に占める輸入割合は32%で、2000年度に比し6%増、1990年度に比し20%増となっている。  

 このような状況を背景として、早急に何らかの対応を行うことが必要であるという意識は、国内の多くの野菜産地で共有されているものと考えられるが、それがなかなか実際の行動に結びつかず、いまだ、基本的には、小売業者を通じて家庭で消費されることを前提とした生産・出荷体制が続いている、あるいはそのような体制を続けざるを得ないという産地が少なくないのではないだろうか。


〈この一年間の当機構の取り組み〉

 平成17年度においては、当機構としては、生産者や生産者団体等関係者の方々の国産加工・業務用野菜の生産・流通拡大問題への理解と関心を高めるためのセミナー、シンポジウムを開催あるいは共催してきた。
 
  平成18年度においては、それを一歩進めて、実際に生産者と実需者を結びつけるという点で何かできないかと考え、農林水産省と連携しつつ、加工・業務用需要に取り組み始めた産地と実需者の交流会の開催に主眼をおいて事業を実施してきた。さらに、産地における加工・業務用野菜の実際の生産・流通に資するため契約取引等を積極的に推進している産地の実例、国内産地と実需者との取引の連携事例、日本向けの加工・業務用野菜を生産する海外の産地等の事例を調査し、これらの調査結果等を本誌に掲載してきた。
 
  この一年間の交流会の事業を簡単にご紹介すれば次のとおりである。まず全国規模の催しとして、昨年7月に農林水産省との共催により、同省の講堂にて、「加工・業務用需要対応野菜産地と食品産業等の交流会」を開催した。この催しには、全国から農業生産法人、生産者団体、卸売会社等の出展者と外食・中食関係者、流通業者、加工会社、種苗会社等の実需者400名以上が参加した。更に11月には、規模を拡大し、主に秋冬野菜を対象とした第二回目の交流会を、浜松町の東京都立産業貿易センターにおいて開催し、前回を上回る700人以上の出展、来場者が集い商談や情報交換が行われた。
 
  また、地方における取り組みとしては、各ブロックごとに、地方農政局と連携して、野菜の生産現場を実需者が見て理解して実際の契約に結び付けようとするものと、逆に野菜の加工施設等を生産者が見るという2通りの研修・交流会を開催した。各地方の事情の相違を反映して、会の規模、成果の度合い等は様々であったが、開催場所は日本全国にわたり、開催回数も延べ20回を超えることとなった。
 
  全国規模の催しの会場で実施したアンケートによれば、参考となる情報が得られた、有益な情報交換ができた、実際に新たな取引ができたなどの回答をいただいた。また、生産、加工の現場で実施した地方レベルの交流会でも、実際に野菜の実物を見たり、あるいは工場での加工工程を見ながらの交流・研修会なので、会場での新たな商談につながりやすいとの声がきかれ、開催者の一員として安堵した次第である。
  当機構としては、このような交流会や情報提供を続けることにより、より多くの生産者の方々が、加工・業務用需要に向けてどのような野菜を生産すればよいかという認識を新たにされ、またやむを得ず輸入に依存している実需者の方々が、国内産地からの供給先を探す手立てとなればと考えている。
 

〈19年度の当機構の取り組み〉

  平成19年度は、18年度の成果も踏まえ、農林水産省との連携の下、次のような取り組みを行っていきたいと考えている。
  まず、18年度においては、全国規模の交流会の開催地が東京のみであったので、19年度は全国規模での生産者と実需者との交流を一層促進すべく、大阪でも開催することとしたい。従って今年度においては、出展者に対するアンケート結果も勘案し、全国規模の交流会を、東京で2回(7月と11月)、大阪で1回(11月)開催することとする。当機構としては、「実際の契約につながる交流会」を常に念頭において、運営、展示方法等も更に工夫して、より効果的な交流の場にしていきたいと考えている。
  地方レベルの交流会については、18年度の催しを通じ、各産地の実情を踏まえて対応を考える必要性を痛感した。加工・業務用需要への現時点での対応振りを基準として日本の野菜産地を分類すれば、(イ)すでに加工・業務用需要に対応するための体制やノウハウを有している、あるいはそれらを取得する方向に動き出している産地、(ロ)加工・業務用需要に対応する必要性を認識し、そのための意欲もあるが、どこから何を始めてよいのかとまどっている産地、(ハ)加工・業務用需要への対応の必要性をさほど意識していない産地、の三つのグループになるであろう。当機構が交流を進めるにあたり、まず念頭に置くべきは第二のグループの産地であり、平成19年度における地方レベルの交流会実施にあたっては、産地と実需双方の希望を十分勘案して、開催場所、会の運営方法等を決め、更に効果的な交流会にしたいと考えている。
  また、本誌においても、加工・業務用野菜の需給事情や各県の取り組み、産地と実需者の取引の事例を今後も調査しその結果等を、掲載していきたいと考えている。
  このように当機構としては、これからも、生産者と実需者、産地と実需者を結びつける努力を続けていきたいと考えているが、その関連で関係者間のネットワークとコーディネーターの重要性に言及しておきたい。多くの産地と実需者を結びつけるためには、産地、種苗会社、流通、実需者などの間の幅広いネットワークやそのネットワークを基盤としたコーディネーターの存在がきわめて重要になってくると考えている。現在、卸売会社がこの役割を果たしている場合も多いようであるが、当機構がこれまで培った人脈を活用して、このようなコーディネーターを含むネットワーク作りの面で何ができるかを今後の課題として常に念頭においておきたい。

〈19年度価格安定制度見直しと契約取引の推進〉

  農林水産省は従来の野菜の価格安定制度を見直し、平成19年度から新たな制度に移行する。今回の見直しの主要目的は、消費者等のニーズに的確に対応した生産を行う担い手の育成・確保と担い手を中心とした安定的な野菜の生産・出荷体制の確立を図るため、(イ)野菜の契約取引の推進、(ロ)野菜の需給調整の的確な実施、(ハ)担い手を中心とした産地への重点支援、を推進することとされている。そして契約取引推進の手段として契約野菜安定供給制度の強化が図られることとなった。契約野菜安定供給制度とは、加工・業務用野菜の需要拡大を反映して平成14年度に創設された契約取引のための価格補てん制度で、当機構が事業の運用にあたってきたことは多くの読者がご存知のことと思う。

  今回改善される点を簡単に列記すれば次の通りである。

(1) 契約対象者の拡大(外食、小売店等と直接契約しなくても量販店等に野菜を納入している業者を相手方とした契約取引も制度の対象とする)

(2) 簡易処理をした野菜も対象(使用しない部分を除いたり、店頭にそのまま並べるための処理をあらかじめ産地側で行った野菜も制度の対象とする)

(3) 市場価格に連動して取引価格を設定する契約に関し価格設定期間の長期化

(4) 定量定価契約に関し、不作時に契約数量を確保する場合の補てん条件の改善

(5) 道府県債務負担行為の導入(新規・増量申し込みのために道府県費を有効活用するとの観点から、1/4までの債務負担行為の導入を可能とする。)

  当機構としては、加工・業務用需要拡大を背景とした関係者の新しいニーズに対応しうるものとして、創設以来、この契約野菜安定供給制度の普及に努めてきたが、いまだ当初想定した事業規模には達していない。これまでの経験を踏まえた今回の制度改善により、この制度がより多くの方に活用され、契約取引の拡大に大きく貢献することを期待しつつ、事業運用に取り組んでいきたい。

〈野菜の消費拡大への取り組み〉

  最後に野菜の消費拡大の問題に触れておきたい。野菜の国民一人当たりの年間消費量が年々低下していることは、既に種々の場で指摘されていることであるが、国産の加工・業務用野菜の生産流通拡大という切り口から見ても、需要構造の変化への対応以前の問題として、野菜の消費拡大は基本的な課題であろう。かかる課題に対処するため、「食育推進基本計画」を中心に、官民による様々な事業、運動が行われている。
 
 それらを詳述することが本稿の目的ではないが、その関連で、本誌2月号に掲載された、我が国における食育事業にも少なからぬ影響を与えたとされる米国のファイブアデイ事業についての中川圭子氏の論文を興味深く拝読した。同論文の中で中川氏は、「ファイブアデイ事業が米国で成功した最大の要因は、官民連携というユニークな事業推進体制により、住民へのメッセージがシンプルに一元化されているという点にある。」とされ、また学ぶべき事例のひとつとして、「輸入品、他社の競合品をも含めた青果物全体の消費底上げによる社会貢献という前代未聞の共通目標のもとに一致団結した青果業界リーダー達の先進的精神と勇気」をあげている。
 
  もとよりわが国と米国では諸事情が異なり、ファイブアデイ事業の全ての点を参考にはできないが、「メッセージをシンプルに一元化する」という点は、今後の活動を行っていく上で重要なのではないかと思える。例えば、出席したシンポジウム、セミナー等で、「食事バランスガイドはよくできているが、一般家庭が理解し毎日の食事に実際に応用するには、難しすぎる」という参加者の声も時々きかれる。
 
 今後も官民諸団体による様々な食育推進活動が展開されることとなろうが、当機構としても、その一翼を担い、国産加工・業務用野菜の拡大のみならず、より根本的な、食育の推進、野菜の消費拡大といった分野でも、可能な範囲、方法で貢献していきたいと考えている。

〈結 び〉
 
  これまで、国産加工・業務用野菜の生産・流通拡大をめざした機構の取り組みを中心に述べてきたが、当機構としては、拡大への最初のステップとして、生産者と実需者の交流会等がきっかけとなって実際の契約実現に結びつく成功例が積み重なっていくことを強く期待する次第である。また他の生産者、実需者の方々の参考となるような成功例があれば、今後の業務に役立てたいので、差し支えない範囲で、契約にいたるまでの問題点、留意すべき点、当機構の関連事業に対するご意見等、随時お知らせいただければ幸いである。平成19年度においても、皆様のご意見を踏まえて、国産加工・業務用野菜対策に鋭意取り組んでいきたい。




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