食品流通吉塾 塾長
白石 吉平
野菜など生鮮食品の市場経由率は、長期低落傾向を抜け出せず、関係業者の経営も高値時を除けば厳しくなっています。原因として、加工・業務用の野菜が市場外流通をしているとか、カット野菜や総菜等の調理済み食品が増加しているなどの諸説がありますが、個別現象だけ追うのではなく、時代背景こそ噛み締めるべきとの視点で言及させて頂きます。
(1)八百屋さんなど街中の中小店が軒並み廃業し、商店街はシャッター通り化しました。(2)廃業に追い込んだスーパー業界も8年連続で売り上げが前年割れし、勝ち組ではありません。(3)中小、大手の「実物店舗」業界の不振を尻目に、各種の「ストアレス(仮想店舗)」業界が活況を呈し、当面の勝ち組になりました。卸売市場の先細りは、こうした流通主体の栄枯盛衰の真因、「進化の流れ」に着目せねば判然としません。
結論を先に述べれば、現代の流通構造は、家業社会型、工業社会型、情報社会型の3階建てですが、卸売市場も含め負け組は、いずれも家業社会型ないし工業社会型の流通に留まり、パラダイムシフトに対応した、「流通進化」が遅れたことが不振の真因ではないでしょうか。
<家業社会型流通>
まず、市場流通ですが、制度発足時には、生産者の農漁業者も、八百屋、魚屋などの販売業者もほとんどが小規模業者(家業)で、卸売市場は小規模業者同士を結合する家業社会型の「小規模間流通」を仲介してきました。野菜など当時の生鮮食品は規格性、貯蔵性がなく、一品一品セリで評価・値付けする公正・公平・公開的な流通が最重視され、迅速性、効率性は二の次に置かれました。
<工業社会型流通>
その後、食品メーカーが技術革新で大量生産化すると、見合いの大量流通の担い手としてスーパーマーケットが出現し、工業社会型の「大規模間流通」が主流になります。小規模間流通の卸売市場に対して、公正・公平から迅速・低コストへの機能変革が求められました。農業は、農家という個別経営は残しましたが、大型機械化、栽培方式やブランド統一、共同出荷などを通じ、供給組織としては工業化し、規格性、貯蔵性は高まりました。卸売市場は、農業の変質に対応して迅速化、低コスト化のため相対取引、見本セリなど効率化手法を取り入れ、辛うじて工業社会型流通の体裁を繕い、大規模間流通への融合を図ったのではないでしょうか。
<情報社会型流通>
規格性、貯蔵性の向上によりセリが減少し、相対取引が増加すると、「カネや時間を掛け、すべてを卸売市場へ集めなくとも良いのでは」と言う疑問が出てきます。大型産地から大型小売業者へ直送すれば、流通の距離も時間も短縮され、鮮度も向上し、コストも低減するという大規模間流通のメリットを発揮すべきとの主張です。特に、1980年にアルビン・トフラーが情報革命を核心とする「第三の波」の到来を告げて以降、各界でIT流通への取り組みが活発化し、「仮想商店街」などインターネットによる商的流通と商物分離による直送(ストアレス流通)が展開されました。農産物についても「こだわり生産者」と高級飲食店や料亭など「こだわりユーザー」との個と個を迅速・効率的に結び、多様なメリットを創造する「こだわり間流通」が水面下で進みました。こだわり農産物や契約栽培モノを中心に、ビジネスサイトも多数立ち上がり、情報社会型流通は裾野を広げ卸売市場のシェアを浸食し始めました。
特に、B2C(企業対消費者)の電子商取引では、楽天、ヤフー・ショッピングに続きアマゾン・ジャパンが食品へ参入し、御三家が出揃いました。B2B(企業対企業)の電子商取引でも、群雄割拠に勝負付けがされてビッグサイトが出現することは確実です。前回の卸売市場法改正で、懸案の「電子商取引の場合の商物分離取引」が規制緩和されましたが、残念ながら卸売業者主宰のビジネスサイトが出現する確たる動きは見られません。
悠長な公的対応に業を煮やしてか、多数の生産者が自己のホームページにビジネスサイト(電子カタログ)を立ち上げ、健気にも個人としての電子商取引に挑んでいます。だが、個別の電子カタログは「大海の点」でしかなく、多くのユーザーの目に留まりにくく、取引発展は容易ではありません。そうした中で、インターネット上に掲載料無料で公開した「使いやすい検索エンジン」を搭載した「電子公開カタログ・SEICA」は、大海の点的存在であった「個別電子カタログ」を全国津々浦々に知らしめ、存在感を高める公開サイトとして注目を集めました。
物販業向きに設計された民間のビジネスサイトは、出店料などのアクセス条件、セキュリティ保持など農業者にとっての使い勝手は今一つです。卸売市場が長年培った信用や広範な取引関係、SEICAとの連携や市場制度など公的な枠組みなど恵まれた条件を生かせば、「卸売市場野菜情報処理網」のような卸売業界が情報を共有・処理出来るインフラの構築は可能です。今後の卸売市場の流通については、(1)規格・貯蔵性のない地場の葉物類などは家業社会型で、(2)規格・貯蔵性のある大型産地の大型野菜は工業社会型で、(3)こだわり野菜や契約栽培野菜は情報社会型で供給するなど、カテゴリー別にロジスティクスを使い分ける「3階建て流通」に取り組み、流通本流に相応しい「玄人好みのする流通」へ進化すべきではないでしょうか。