農業生産法人 有限会社トップリバー
代表取締役社長 嶋崎 秀樹
1.最近の漬物の需要動向
私が農業生産法人 有限会社トップリバーを立ち上げ、生産を始めて5年になるが、この短い期間においても、時代はどんどん変化している。私が脱サラをし、この業界に入ったときに感じたことは、農業は、他の業界に比べ時代遅れの業界だということだった。自動車メーカーや電機メーカーなどの製造業に比べ、農産物は畑から人の手を使って出荷するという点でそう簡単に構造改革ができなかった業界だったのだろう。
しかし、時代の流れはシビアなもので、農業をとりまく状況は、他業界からの参入、輸入増加による競合安値、市場外流通の拡大による市場流通の変化、デフレ、購買層の二極化をはじめ、使用農薬に関するポジティブリスト制度の導入、生産履歴の公開、原産地表示等の産地に対する規制など、予想以上の速度で変化している。
今までのような「作ったものを買え」的な農業ではなく、消費者や流通が求める量、規格、価格、品質、期間などに答えられる野菜作りをしていかなければ、これからの農業は業界として継続できないのではないだろうか。行政は補助金の見直し、契約取引の推進、価値ある土地利用などの政策転換をし始めているが、農家や地域の農業関係者においては現状把握に対して甘さがあり、行政の方針に対して理解が低く、従来の既得権を維持しようとしているようにみえる。
そうした状況のなか当社は「新・平成の農業」を目指して、新戦略を考え相手が求める農業をし、農産物の生産をしていこうとしている。野菜の消費はスーパーや八百屋を中心とした個人流通の時代から、外食、中食およびコンビニ等を中心とした加工業者の流通が過半数以上を占めるような時代になっているにもかかわらず、依然として形や、中心等級を重視した生産流通体制が続いている。しかし、今後は、歩留まりを重視した野菜作りや、価格変動に影響されない数量確保の出荷をするための生産技術や流通に対する体制作りが必要だと考えている。生産したものを等級によって選別出荷するのではなく、実需者の使用目的にあった農産物を作るという栽培計画を作らなければならない。それができると、供給計画に基づく計画出荷が可能になり、価格の安定・数量の安定につながるわけである。このようなことができるようになれば、一昨年の秋の野菜の高騰、今春の野菜不足そして、昨夏の超安値など天候により受ける影響を最小限にすることが出来る。
当社では契約販売をする上で上記の点をいち早く取り入れていたため、一昨年の価格高騰時においては欠品量を極力抑えることに成功し、昨年の価格低迷の影響もあまり受けずに経営は安定している。
今まで露地ものの野菜生産においては、天候を言い訳にして農家の出荷数量は農家任せといった体質があり、「出来た分だけ出荷する」というようなやり方を続けてきたが、それでは、いつまでたっても農家の経営は安定しない。また、産地の作りやすさを優先し、科学的根拠のない感覚の農業技術が固定化して、例年と変わらない作付計画だったり、農薬に関する新しい規制であるポジティブリスト制度についても、農家の対応は遅い感じがする。原因は農家が別々の考え方で昔からのやり方を続けているからではないか。後継者のいない高齢者の農家や兼業農家が、新しいことに挑戦するだろうか。
これからは、農業をやりたいと思う若者が農業に就けるように、新規就農者を育成することこそが、農業の活性化のために必要である。当社は既存農家だけの集団ではなく新規就農者の育成を目標に掲げており、日本全国から非農家の若者が集まってきている。そして、既存の考え方ではなく大規模農業・マネジメントを行い、若者が「自分達で考え」「自分達で計画を立て」「実践しながら研修」というやり方で進めている。本年度は2名の独立者といくつかの班で作業し、失敗を恐れず果敢に挑戦している。彼らのような者が全国に広がり新しい農業の先駆者、地域のリーダーになるためにも、現在、技術の習得を第一に研修をしている。
私が彼らにいつも言うことは、「消費者が必要としている時に、必要なものを必要な量だけ供給する、売れるものを作る」ということである。この考え方を実践する上で一番大事なことは、生産と販売がいつもバランスをとること、そしてお互いの信頼関係が重要な要素であることである。こんなことは生産者の誰でもが理解しわかっているはずである。こうした流れを促進するのが契約販売であると思う。
しかしながら、せっかくできた契約販売に対する価格保証の制度がありながらも、地方自治体の予算削減のあおりを受け、十分に浸透していないのも現実である。当社は農畜産業振興機構の野菜価格安定事業に加入する中、とくに契約指定野菜安定供給事業の必要性を感じこの制度に加入し4年目になるが、この間少しでもこの契約野菜の事業の制度を理解してもらえるように努力はしているが、残念ながら十分な実績を上げるところにまでいっていない。
当社では今後も契約販売を進めていくつもりである。市場連動型の価格補てん制度が主流であるが、頑張っているJAや、法人等に手厚い制度が必要であり、使いやすい簡略な制度があればいいのではないかと思う。
最後に、当社は微力ではあるが、新規就農者育成法人として、「新・平成の農業」を目指し時代の先端を行く業界の一社になれるよう、常に新しいことにチャレンジしていこうと思っているので、皆様のご協力をお願いしたい。