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今月の話題


外食企業の加工・業務用野菜への取り組み



ロイヤルホールディングス株式会社
執行役員 梅谷 羊次


1 成長期から踊り場へ、課題は?
  外食産業は1970年代からの消費拡大と米国式の画一的チェーン運営システム導入によって成長を続けたが、1990年代のバブル崩壊以降既存店の売り上げ減に見舞われ、市場規模も1997年の29兆円をピークに昨年は24兆2千億円に減少。一方、中食市場は5兆円を超え、結果的には外食と中食を含めた食の外部化率はここ数年40%台の前半で安定している。

  1990年代のデフレ経済への突入と、顧客嗜好の多様化の中でチェーン化企業は、より付加価値の高い専門店も立ち上げたが、ほとんどが道半ばで中断し、逆に低価格によってマーケットシェアーを高めることに成功した。ファミリーレストランもファーストフードも、おおむね同歩調であった。

  低価格によるシェアー獲得は一定の成果を収めたが、現在はそのつけに苦しんでいる状態ともいえる。投資額を落として店に豊かさがなくなり、人件費と材料費を切り詰めて料理とサービスの魅力が低下した。ハレの場が、ドリンクバーで時間を過ごす場や手軽に食事を済ませる場に変わってきた。ファミリーレストランからファミリーが遠ざかっているのである。私たちは、米国でのコーヒーショップ(日本のファミレス)の衰退の歴史をきちんと検証する必要がある。

  さらに2000年代に入ってから、食の安全、健康や環境、自然回帰、オーガニック、地産地消などの高まりの中で、レストラン業は今まで以上に社会に向き合う姿勢が求められるようになった。外食産業にとってそれは素材に対する取り組みである。特にチェーン化の中で、消費者に野菜の魅力を十分に伝えなかった責任が私たちにある。

2 ロイヤルグループの取り組み
  このような環境のなかで、私はファミリー客を対象としたレストランの役割は(1)顧客視点のセカンドダイニング(家族にとってのハレの場)(2)生産者視点のファーマーズマーケット(農作物の成果発表の場)(3)従業員視点のホスピタリティー(顧客をゲストとしてもてなす場)と考えている。

  レストランとは顧客と生産者が料理を通して絆を深める場で、その演出をするのが従業員である。つまり『レストラン業は広い意味で食育業である』といえ、わが社は多面的な食育を推進している。毎日の仕事を通じて食育活動に励んでいるが、その鍵は、旬の国産野菜使用にあると、経験的に感じている。

3 原産地表示は生産者との信頼関係作り
  昨年7月に農林水産省で『外食における原産地表示に関するガイドライン』が取りまとめられたが、わが社のレストラン『シズラー』では生産者との関係作りを進めていたのでいち早く原産地表示を始め、程なく生産者名まで表示をするようになった。

  ロイヤルホストを始めロイヤルグループは、原産地表示から生産者表示へ歩を進めているが、このことは顧客に対して従業員と生産者が共同で品質に責任を負うことであり、とりわけ生産者との信頼関係作りが重要である。そして、なによりも従業員の「仕事の誇り」につながる。

  生産者との関係では(1)トレーサビリティーの確保と(2)生産者との共同のマーチャンダイジング(=契約栽培化)の2点を重視し、生産者名の表示が、安全に関心が高い消費者を取りこむことになり、国産品の需要拡大と農作物流通の改善につながると予感している。

4 チェーンで『地産地消』を実現
  わが社は全国画一のメニューから『チェーンレスランにおける地産地消』を取り入れようとしている。今日の社会環境と日本の自然環境に適したマーケティングを志向したい。そのことが日本規模の地産地消=自給率の向上にもつながるはずである。

  いくつかの事例を紹介する。近隣農家と契約して、朝取れた野菜をランチでお客様に味わっていただいている店舗。“自然に感謝”の美味しさである。JAと契約してレタスを畑からセンター経由でその日のうちに店舗に届ける地域では、ダンボールをやめて、通い箱の青かごを使う。規格化に伴う作業もいずれなくす。出荷作業と流通における『何の付加価値もないコストはすべて省く』試みである。

  米国のポテトを日本のポテトに切り替えた事業部。年間で10数品目の国産ポテトを用いて、年中、新ジャガをお客様に味わってもらっている。

  種苗メーカーや食品メーカー、農協などと日本の伝統野菜や珍しい外国原産の野菜、新種などを商品化しようと相談している。評判がよければ翌年多店舗でメニュー化する。スーパーとは異なり、レストランでは最適の料理にして顧客に提供するので、種苗メーカーや生産者と一緒にマーケティングリサーチができる。

  私たちは国産の弱い部分を外国産で補うよりも、国産の強い部分をさらに強くしたいと考えている。

5 サプライチェーンの担い手は誰か
  最後に農協の今後の飛躍についての提案。
  どのような産業においても、生産者、流通業者(卸売業者)、小売業者、消費者間で開発から消費までの情報の共有化によって無駄のないものの流れを築くサプライチェーンの構築が不可欠であるが、分断状況にある現在の農産物の流通では、多くの無駄やロス、人為的な需給のミスマッチが発生し、コストアップの要因となっている。

  私たちに必要なのはリスクをとらない調整役ではなく、リスクを負うサプライチェーンの担い手としてのサプライヤーである。その有望なビジネスに青果業者、商社、卸売り業者等が進出しているが、農協グループに大きな期待感を持っている。

  農協グループがサプライヤーになるためには、生産者団体の機能に加えて、地域を越えた調達力とユーザーの購買代理業の機能が必要となる。このビジネスに乗り出した全農JAグループもあるが、顧客視点のサプライチェーンの構築が野菜の需要拡大と日本農業の発展の突破口になると思う。




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