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富里農協における加工・業務用野菜の取り組み



富里市農業協同組合 常務理事
仲野 隆三


 農業後継者30名が、加工業務用野菜を毎日搬入し、販売窓口では翌日の数量・価格予定と調整をどうするか元気な声がとびかう。彼らは、市場流通ではなく中食や外食企業との契約による新たな農業経営を目指しているのだ。専業率は40パーセントと高く、毎年数名から20名近くの農業後継者が新たに就農している。彼らの意識は価格指標が明確でない取引、高騰や暴落で安定しない市場取引から再生産価格を交渉できる企業取引へと変化してきている。

 ここ千葉県富里市農協における私達の加工業務用野菜取引は平成7年、某外食企業がトマトの品種を視察に来たときからはじまった。当時は桃太郎が全盛時代、しかしその外食企業はスライストマト向けを求めて種苗会社から産地を聞きつけて視察に来たのだ。

 富里市は首都圏に近いということもあり、加工卸業者を仲介として実需者である外食産業との交流も増え、多様な野菜類がもち込まれ現在の取引に至っている。当時、加工卸業者は全国の農協や全農に出向いても門前払いが多かったそうだが、当農協では30年前から既に企業との契約取引に取り組んでいたことが幸いした。

 それでは、加工・業務用野菜の取引で何が鍵になるか経験から述べてみたい。最初に中・外食企業との接点をどのようにつかむか、また農協の役割りは何か、そして最後に生産者意識はどうなっているか、この三点に絞って述べる。

 最初に取引企業との接点だが、現在、加工卸業者との取引もあるが、その他に商社、仲卸、卸、中食等の幅広い企業と提携取引をしている。理由は、生産者の企業契約に対するニーズが強く、2~3社の企業取引だけでは数量的に足りないことがあげられる。このため様々な業界の幅広い取引情報を集めており、具体的には営農部長が首都圏に週2日前後出向き情報収集しながら取引の接点を探っている。私も常務理事(元営農指導員)としての知識を活用し、異業種交流会や各種研究会に参加しつつ産地での取組みなどを説明して、小さな相談でも「お手伝いさせて下さい」ともちかけ、産地としての販売機会を失わないように心がけている。

 また、中・外食産業との取引では仕入担当者との信頼関係が重要である。過去に生産者とのトラブルからある外食産業との取引が中断したものの、知り合いの仕入担当者がその外食産業に転職すると同時に、取引が復活したということがあった。一方では、企業の仕入担当者が変わった途端に事前予告もなく契約条件が変更され、大幅な価格の引下げ要求に遭うという経験もした。

 この業界では品質や数量の実績等が産地交渉に大きく影響することは周知の事実だが、現実的には、仕入担当者との人間関係で90パーセントが決まるといっても過言ではない。

 次に農協の役割だが、企業は農協の仲介の意味を生産指導業務としてとらえている。過去に毎月の取引請求で、手数料を請求したところ、手数料とは何ですかと問われ、「指導料」なら納得されたということがあった。つまり企業側からみれば、既存の市場取引のように荷口(野菜類)を捌く仕事だけで農協に手数料を支払うのなら生産者と直接取引きをした方がいい。しかし、企業は契約した野菜産地の指導は直接出来ないので、生産者に対する生育管理、履歴情報、記録、出荷調整等の現場指導を農協に任せ、それに要する経費を「指導料」とすることにしたのだ。

 このことは、既存流通や海外からの調達にはない産地契約だけの企業の「安心・安全」に結びつくことになる。指導料は3~5パーセントだが、その割合は取引企業と契約生産者にどのようなメリットをもたらすかによって決まる。

 また、契約交渉においては生産者側の意見も反映させなければならない。
 交渉項目は、(1)供給量、(2)鮮度、(3)価格、(4)農法、(5)品種特性、(6)コストなどが基本的な項目である。「供給量」は農業経営に大きく影響するものであり、安定した取引数量を確保しなければならない。「価格」は、経営試算を行って再生産できる価格を算出、規格簡素化や流通容器等のコスト低減要素も見込みつつ交渉価格とする。「品種特性」は、第一に適切な加工適性を見極めることが大事だ。第二に耐病性・耐寒性・耐暑性・収量性など栽培特性をよく配慮することも必要である。輸入野菜との競争に勝ちぬくには(1)~(6)を総合的に研究することが重要と考える。

 最後に、生産者意識について述べたい。近年、農業後継者たちは両親の高齢化に伴い雇用労力への依存を強めつつある。このことからも高騰・暴落する販売先を嫌い、価格が低くても安定的な売上げが得られる企業契約や窓口で価格決定できる農協直販に意識が向いている。これに関連して高コストで重い野菜類、規格の多い野菜等は当地では嫌われている。特に営農設計においては、換え金率・農地利用率が注目されている。重量野菜で粗収入1,500万円、経費を差引いたら500万円の所得で、農地利用率は1.3回転では、雇用費用も確保出来ない。一方、企業契約取引によりkg当たり180円となるほうれんそうやこまつな、みず菜等は、一作当りの粗収入は低いが農地利用率は年間6回に及びこの結果、所得率は70パーセントとなり雇用経費は確保できる。つまり、加工・業務用野菜取引は農業後継者にとってはいくつかある販売チャネルのうちの一つではあるが、産地で価格決定ができる安定した農業経営が出来るシステムとして、今後も大いに推進すべきであると考える。

 富里農協は農家数1,200戸の未合併農協であるが若い農業者は着実に毎年育っている。平成17年の販売金額は産直販売も含めて74億円にのぼった。当JAとしては、今後もますます加工・業務用野菜の取引拡大に取り組み、販売額の増加をめざしていきたい。


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