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卸売市場の業務用野菜への取り組みについて



横浜丸中青果株式会社 代表取締役副社長
原 田  篤


 いわゆる業務用需要とよばれる中食・外食における野菜の需要、つまりは「消費者がスーパーマーケットや小売店で料理の原料としての野菜を買って家庭で調理する」のではない需要の増大が言われて久しい。

 卸売市場との関係で言えば、業務用需要の増加、イコール市場外流通の増加ととらえる考え方もよく見られる。しかし、需要と供給のバランスで形成される相場をみながらバイヤーが日々買い付け、品揃えしていく小売・スーパーの仕入方法と「業務用需要」の仕入方法は全く異なり、過去を振り返ると卸売市場の制度、ハード面、卸売会社の役職員の意識等を含めて「業務用需要」に向けられていたとは言い難い。

 このことに卸売市場サイドが気付いた今日では、既に「業務用需要」は野菜の需要全体の50%を超えると言われており、従って、マーケットニーズへの対応の遅れが卸売市場を衰退させたという批判には反論の余地はないが、いざ遅れを取り戻すための対応を進めるにあたっては様々な面で対策をたてる必要があると思われる。

 もとより相場が日々変化する取引というものは、仲卸にとっては仕入の勘と、商品に対する目利きの力で充分に商売が成り立っていく環境であり、一方で卸は仲卸のそういった機能がないかわりに卸売市場法上、集荷活動に対して一定の手数料が約束された仕組みで動いている。それ故に顧客の要望に合わせて少ない資本力で春夏秋冬あらゆる品目を思い切って品揃えすることができた。

 この仕組みは非常に良く出来た機能であったが、あくまで相場に応じて日々多品種の仕入を行う小売・スーパーに最も適した仕組みであり、「一定のスペックの商材を一定の価格で一定の量を単品単位で必要とする」という業務需要先に対しては、市場の優れた機能である「相場形成」「豊富な品揃え」「目利きと長年の勘とネットワークによる日々の調整機能」といった機能は基本的に必要とされない。ましてや食品工場は出来る限り直送ルートでの調達を望んでいるので、卸売市場は産地から工場へ直送される流通ルートよりもコスト面、鮮度面の両面においてメリットを出さなければならないという課題もある。

 さて、こういった課題を乗り越えて、卸売市場が業務用需要ユーザーと産地との橋渡しとなるためのポイントとして、私は次の2点を挙げたい。

 1つはリスク負担である。これは中間業者である卸売市場あるいは産地サイドもしくはユーザーサイドが、一方的にリスクを負うということではなく、一つの産地の一つの商品に対して天候不順その他の原因により供給数量面で著しい問題が発生した場合は三者間でそのリスクを負担するよう、そのルールを明確に決めて、お互い納得のいくなかで日々の流通を行っていくことである。

 農業法人の中には足りない時には他産地から買ってでも集めるということをモットーとしている会社もあるようだが、その精神はともかく、産地としてはいつかはどこかで取り返さなければならなくなるわけであるから、次年度以降あるべき流通の姿がいびつな形となってしまう。

 卸売会社が委託手数料収入を中心としたリスクを負わない営業体質であることが、業務需要向け契約取引に対する中間流通の調整機能を阻害してきた過去はあるが、一つの契約に対して数量の過不足が発生した場合は相場形成を行う卸売市場の公共性を充分に活用して、不足分の補いに伴う逆ざや調達の赤字を明確化して、産地、市場、ユーザーそれぞれの負担を決められたルールどおり行うことが最も望ましいと考える。

 このときにその負担割合や赤字幅の確認、産地の生産・出荷状況のチェック、ユーザーサイドのダメージのチェックをした上で、関係者が納得できる解決策を提示することこそが、業務需要に対する卸売会社の果たすべき機能であると考える。このことは天候不順による収量減だけではなく、メニューに対する消費需要の減少等、様々なケースが考えられ、それぞれのケースに合った解決方法を生み出していくことが今後卸売市場に求められる機能であろう。

 もう一つは優れた業務用流通の構築力、企画力である。卸売市場はユーザーのニーズと産地サイドの実力を見極めた中で、ユーザーのニーズ実現のために最も適した産地と流通の仕組みを構築、企画することが求められる。

 大手業務需要先は既にこのことができる社員を育成してきており、産地とのネットワークと商品特性、栽培知識、流通知識に余程長けた人材でなければ、長年産直ルートを研究してきた業務用ユーザーの調達・仕入担当者に対抗することは難しい。逆に、卸売市場でこの能力を持つ人材を多く育成すれば、ユーザーサイドは本来の業務であるメニュー開発、店舗運営により多くの精力を注ぎ込むことができるようになる。

 今後、団塊世代の交代時期を迎えるにあたって、全国の生産地の特徴を良く知り、栽培方法や生産コストの読みまでわかる人材は年齢に関わらず重用して、ユーザーサイドでは不可能な青果専門卸売業者としての流通構築・企画の実力を持たなければならない。

 先だって横浜南部市場において弊社が関係する「横浜フレッシュセンター」の竣工披露が行われ、こうした業務用需要に対応したハード面の充実により、今後は、卸売市場のソフトが生かされるであろうという発言をしたが、本音を言えば上述のような卸売市場のソフト面の充実と、意識改革こそが業務用需要ルートを市場流通へ取り戻す大きなポイントであり、業務用需要取引に対しては、卸売市場は新たな時代に対応した流通の仕組み・ルールを自らの手で早急に築き上げなければならない。

 また、加工・業務用野菜の輸入量が増加していることに対して国内産地がどう対抗していくかについては、価格面では太刀打ちできない以上、産地と市場とユーザーが一体となったサプライチェーン構築による安定した価格の美味しい野菜の供給ルート確立が最もあるべき姿であろうと考える。




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