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国産原料を使った冷凍野菜を支えるもの

北海道冷凍食品協会
専務理事 前木 茂


輸入冷凍野菜と国内生産
 平成7年から16年までの10年間の輸入冷凍野菜規模は年平均69万トン、金額にして1000億円である。交易条件の変動や農薬汚染による輸入制限での若干の増減を除けば、おおむね70万トンの水準で推移している(表1)。

表1 輸入冷凍野菜の数量及び金額

平成16年表頭に表示されていない品目と数量(t)
 えんどう15,969、いんげん30,835、その他の豆17,859、ブロッコリー21,481、混合野菜32,654。
 その他の内訳:ごぼう7,252、かんしょ1,537、アスパラガス50、たけのこ460、その他の野菜127,482、調整加糖野菜2,236、
その他の調整野菜50,138、 他39,339


表2 国産冷凍野菜の数量及び金額

その他に含まれる野菜類の種類は、調査表が一括「その他」となっているため不明。
枝豆は「その他」に含まれている


表3 北海道産冷凍野菜の数量及び金額
平成16年その他の内訳(t)
 大根おろし2,246、とろろ芋1,138、金時豆604、裏ごし野菜15、ブロッコリー79、カリフラワー5、ミックスベジタブル
170、グリーンアスパラ60、メロン116、その他の野菜1,196 計2,245
 ◎単価は社団法人日本冷凍食品協会調査の単価を使用した



 輸出国別の特徴は、中国と米国が総輸入量の76%(約60万トン)を占めていることである。中国は「さといも・ほうれんそう・えだまめ・いんげん」で30万トン(総輸入量の43%)、米国は「ポテト・コーン」の25万トン(同33%)である。輸入冷凍野菜の品目で中米両国間に競合するものはない。

 一方、我が国の冷凍野菜の生産状況は、この期間、年平均9万3千トンとなっている(表2)。このうち北海道産は7万9千トン(表3)で国内産の85%を占めることから、冷凍野菜における輸入の問題は、すなわち北海道産冷凍野菜の問題であると言える。北海道産冷凍野菜は、輸入量に対し、生産数量で11.5%、金額にして21%にあたる。また、1キログラム当たり国内産価格(工場渡し価格)は平均259円、輸入価格(CIF価格)は140円である。このようなことから国産と輸入品とでは数量や価格で見る限りにおいては、まともに競合できる関係にあるとは言えない状況にある。

 北海道冷凍野菜の生産を品目別にみると、「かぼちゃ・にんじん・たまねぎ」は輸入青果との間で競合関係にあるものの、「ほうれんそう・えだまめ・いんげん」は500~800トン程度、「ポテト」は3万2千トン(輸入量の13%)「コーン」は1万3千トン(輸入量の27%)と生産量が少なく輸入冷凍野菜との競合は小さい。
 また、これらの道産品目のいずれを見ても、ここ10年の間に著しい生産量の増減はなく、作柄ないし交易条件の影響を除いて、ほぼ一定量が安定的に生産されている。その理由は、国産(北海道産)を冠した商品として、受託生産が維持されていることによる。最近では地域名を冠した製品、例えば、とかち・オホーツク・びえい・ふらの・ニセコなどの商品が散見されるようになってきている。さらに、これまでに無かった製品、例えば、冷凍「大根おろし・とろろ芋」が、平成7年頃から製造されるようになり、毎年1000トン程度が出荷されている。

 このように北海道における冷凍野菜の生産は、輸入圧にもめげず、この10年間平均8万トンの生産を維持してきた。北海道冷凍野菜は、春一番のほうれんそうに始まり、アスパラガス・長ねぎ・いんげん・えだまめ・ブロッコリー・カリフラワー・スイートコーン・大根おろし・かぼちゃ・たまねぎ・にんじん・ばれいしょ・長芋とろろ等がカット、ペースト、おろし加工した冷凍製品として、工場の操業規模に応じてほぼ年間を通して生産されている。この中で歴史が古く主要な冷凍野菜として定着し、国産不動の位置を占めている「冷軸スイートコーン」について詳述したい。


冷軸スイートコーンの契約栽培
 北海道における加工用スイートコーンの栽培は、昭和25年缶詰用として十勝地方でスタートした。その品種は、アメリカから輸入した「ゴールデンクロスバンタム」であった。昭和30年代に入って、缶詰用として栽培されていたスイートコーンが、その食味と品質が評価され、冷凍・生食用にも使用されるようになり、冷凍ものが昭和32年頃に札幌に出回るようになって、にわかに需要が高まった。この時期には缶詰工場、水産加工場、冷菓工場の多くが競って製造に参入した。しかしながら、急増する需要に適品種の栽培が間に合わず、在来種が混在し製造管理もまた不十分であったことから、一時のブームは急速に減退した。

 昭和50年になると、道内の「冷軸スイートコーン」製造会社の52社が参加して「冷凍食品協会」が設立され、全道統一の「冷軸スイートコーン製造要綱」が策定された。この要綱によって原料受入規格・製品規格・製造工程基準が示されたことにより、会員の製品は品質・食味ともに著しく改善されることとなり、「札幌大通り公園のワゴンセール」で全国に札幌名産として知られることになる「冷軸スイートコーン」の製造がスタートした。

 当時の栽培契約書によれば、

(1) 栽培面積
(2) 収穫時期
(3) 出荷方法及び出荷場所
(4) 検品方法
(5) 価格
(6) 支払方法

の6項目があり、外に「スイートコーン作付要領」がある。今日の細目にわたる契約内容の先駆をなすものであった。この方式は、前述した多くの冷凍野菜製造の基準となり、製造管理と品質の安定に一定の役割を果たした。その後、アメリカからの優れた甘味種の導入、国内における品種改良を経て「北海道産スイートコーン」の銘柄は、全国区に定着するところとなった。

 北海道における缶詰・冷凍野菜の加工工場は、そのいずれかを単独で、またはその双方をともに製造しているケースがあるが、原料農産物の一部は共通している。そして、これら加工工場は原料農産物の栽培適地に立地し、地域特産としての原料を生産者との契約栽培によって調達している。
 契約栽培には数量契約と面積契約がある。数量契約は生産者・耕作組合・農協・集荷業者と、面積契約は生産者・耕作組合との間で締結される。面積契約は必要数量を平均反収で除して面積換算し算出したものである。また、同一原料であっても会社によって数量契約を採用している場合と、面積契約を採用している場合とがある。契約栽培には原則的に変更しない「基本契約」と、年によって変更することがある「付帯契約(価格、栽培方式など)」とがあって、必ず「栽培契約と栽培マニュアル」がセットで運用されている。

 契約取引の内容は、

(1) 相互信頼の下での共存共栄関係の尊重
(2) 会社が指定した品種と作付面積の順守
(3) 栽培マニュアルによる肥培管理の徹底
(4) 原則ハーベスターによる収穫
(5) 原料は圃場でのトラック渡し
(6) 受入れ工場でのサンプリングによる規格検査
(7) 穂長・穂重・熟度・品質等の細部規格
(8) 歩引後の工場受入れ数量に基づく原料価格の決定
(9) 会社が供給した種子などの生産資材および請負った収穫作業の料金とその徴収方法
(10) 不可抗力により契約の履行が不可能な場合の解決方法
(11) 代金決済の方法・期日の取り決め
(12) 契約に違反したときの損害補償の取り決め
(13) 契約に定めのない問題が発生したときの解決方法
などである。

 スイートコーン以外の原料野菜についても、ほぼ同様の契約内容で運用している場合が多い。
 加工用原料農産物の契約取引は、加工原料の必要量を一定の品質で確保することにより、操業度の維持と製品の品質安定を図るため、加工側には必要不可欠のものである。一方、生産農家は特定の農産物の一定量について、決まった価格での販売が約束されることから、販売収入に一定の目安をもつことが出来るメリットがある。さらに、畑作3品(小麦・ばれいしょ・てん菜)の連作ないし交互作にスイートコーンが組込まれることによって、小面積ではあっても輪作体系の一部を担い、茎葉鋤込みによる地力維持に役立っている。


よい製品はよい原料から
 加工原料の生産を担う農業者、その原料を加工する工場側共に基本的には消費者への食料供給の一分野をいかに適切に担い得るかが重要である。国産野菜が本来持っているそれぞれの野菜固有の食味や風味、国民の健康を維持するための必須栄養素、国民性に適合した品質と安全性などは、もともと外国産の輸入品には求めにくいものであり、我が国固有の土壌・風土に根差したものである。従って、種子や栽培方式を外国へ持ち込んで耕作しようとも、そこで作出されたものは、国産のそれとは所詮似て非なるものとなる。戦後の60年、無機質の肥料や化学合成農薬の増投は、単位面積当たりの収穫量向上の側面から見れば、長期にわたり我が国の農業生産を支え食糧増産に寄与した。しかしながら、植物たる農産物がその生育の基盤たる土壌に求めている土壌微生物の分解生成物は枯渇し、土壌微生物の活動を促す有機質肥料の補給もまた十分ではなかったのではないかと考えている。

 缶詰・冷凍野菜の製造は、収穫時の野菜の新鮮さをそのままに、栄養や風味をできるだけ損なうことなしに保存・凍結することを至上命題としてきた。従って、製品の品質を規定するものは、その原料野菜のもつ特性そのものである。「よい製品はよい原料から」という至極あたりまえの原則をひたすら忠実に守り続けてきた加工側としては、当然ながら原料供給側へ期待するところが極めて大きい。この意味で今後は加工向け原料農産物の契約栽培に「農薬抑制的・有機質肥料多投型栽培方式」を採り入れることも必要である。

 もともと加工原料用作物の栽培は、適地適作・輪作導入・安定収入確保という農業側の実践と、企業の存続・利益追求という企業側の論理との結節点の上に立って、さまざまな要素・条件について双方の合意の結果として成り立つものであって、「契約書」はその双方が納得した内容を成文化して、誠実に履行することを取り決めたものである。北海道では相当長期にわたる契約取引の経験がある。この経験を踏まえ、相互依存関係を一層深め、より発展することを期待したい。




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