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外食・中食・内食の構造変化

信州大学大学院 イノベーション・マネジメント専攻
教授 茂木 信太郎


1.「外食」、「中食」、「内食」の成立

 わが国の食生活の形態は、1960年代までは「家庭内食」が主流の時代であった。ところが、1970年代頃から消費者の「外食」生活が、大きな広がりを見せていくところとなった。
 そして、1980年代の末頃から消費者の「中食」行為が、大幅に増え始めた。これ以降今日に至るまで、「中食」領域は、ますます拡大を続けている。
 食生活の変化を見立てていくときの大きなフレームを概括すれば、以下のようになる。


 ~1960年代
   食生活=「家庭内食」
 1970年代~
   食生活=「内食」+「外食」
 1980年代末~
   食生活=「内食」+「外食」+「中食」


 1960年代までは、人々の食生活を論ずるときには、それは「家庭内食生活」のことに他ならなかった。というよりも、そもそも「食生活」=「家庭内食生活」であるので、わざわざ「家庭内食生活」という言い方をする必要などなかった。
 しかし、1970年代になって「外食」生活の普及が加速することにより、「外食」生活とを比較して、「家庭内食生活」という言葉が造語され追加された。これを縮めて「家庭内食」ないしは「内食」と呼んでいる。ゆえに、「内食」という言葉は、国語に本来あった言葉ではなく、また国語辞典にも収録されていない表現である。

 ところで、「内食」といえば一家だんらんの食卓風景を、「外食」といえばレストランでの食事をすぐに思い浮かべるであろう。これに対して、「中食」は、コンビニエンスストアや弁当製造販売店やスーパーマーケットの惣菜売り場などから弁当などを買い、食事を済ましてしまうことをいう。外食産業のファストフード店から料理をテイクアウトしたり、宅配ピザを注文して食事を済ませる行為も「中食」である。

 「中食」と「内食」の違いは、調理労働の担い手の有無である。「内食」は、基本的に食事を摂る家族の誰かが、その食事のための調理労働を担っている。「中食」ではこれがない。例えば、家で炊いたご飯をおにぎりにして出先でこれを食べれば、この行為は「内食」の延長線上にあるものとみなされ、コンビニエンスストアで購入した弁当などを家庭に持ち帰って食べれば、この行為は「中食」である。
 若干の例外やグレーゾーンは除いて簡単に整理すれば、概ね次のようになる。(注1)



喫食者による
調理労働

第三者による
サービスの提供

食事の場所
(基本型)

内食



家庭

外食



レストランなど

中食



特に問わない


 さて、本稿は、こうした「外食」と「中食」と「内食」とからなる現代の食生活のなかで、さらに21世紀に入って起こっている、あるいは顕著になっている構造変化について説明していく。


2.「中食」分野の構造変化

  「中食」分野は、「外食」、「内食」分野と比較すると、もっとも最近に市場を拡大した分野である。契機は、わが国のバブル経済とコンビニエンスストアの技術革新である。
 バブル経済による地価の高騰は、都心・繁華街から一般住宅や客単価の低いレストランなどを追い出し、中高層の建築物に置き換えオフィス街を形成した。結果、この地に集う膨大な人たちの食事ニーズを賄うことが困難となり、移動販売を含めて地価負担の少ない弁当店などを呼び込んだが、そのなかではコンビニエンスストアの営業モデルが勝ち残っていった。

 同じごろ、コンビニエンスストアでは、POS(販売時点情報管理)システムの活用、弁当製造工場の衛生水準の格段のアップなどを実現し、弁当・サンドイッチ・おにぎりといった「中食」商品の充実を図った。(注2)
 1990年代は、これらの「中食」商品を戦略商品として、コンビニエンスストアが、全国で急増し、「中食」市場は急成長した。結果、弁当は「作るもの」から「買うもの」へ、お茶なども「入れるもの」から「買うもの」へとなった。
 また、急成長する市場に常に起こる現象として、さまざまな新技術やアイデアがこの業界に流れ込み、食品メーカーや飲料メーカーなどのコンビニエンスストアへの対応が優先的に進んだ。かくして、コンビニエンスストア業界は、食市場全体を牽引するイノベーターの役割を担うところとなり、食市場全体の中で、「中食」市場は拡大を続け、これに奪われて「外食」市場と「内食」市場は、今に至るも食市場全体の中でのシェアを落とし続けている。

 さて、このようにコンビニエンスストアの増店によってリードされてきた「中食」市場であるが、2000年以降になって新しい動きが活発となってきた。
 まず、「外食」産業分野からは、直接に競合するファストフード業界から本格的なデフレ競争が仕掛けられた。
 2000年2月から開始されたM社の半額バーガーキャンペーン(130円→65円)が、皮切りであった。翌々年には、Y社の牛丼(並盛)が大幅値下げした(400円→280円)。一食の値段としては、明らかにコンビニエンスストアの「中食」利用より歩が良い。これらのテイクアウト分も大幅に増加した。

 コンビニエンスストアは、かなりの影響を被るところとなり、それまでしたことのなかった値引きキャンペーンなどを多用するようになった。(注3)この価格競争問題は、国内外の連続したBSE騒動の発展により、一時沙汰止みとなっている。
 次に、「内食」産業であるスーパーマーケットでもデフレ競争が深化しており、また同業界の「中食」対応も本格化してきた。

 もともと日常的な食料品や日用品を扱うスーパーマーケット業界は、消費者の価格選好に訴えることを戦略の基本としているが、業界内の過当競争や上述の外食産業のデフレ政策にも反応して、いっそうの価格訴求を強めている。
 あわせて、スーパーマーケットの惣菜部門はこれまで、青果・鮮魚・食肉に次ぐ「第4の生鮮食品」とされており、「内食」対応の品揃えを旨としてきたが、1990年代の後半になるとミール・ソルーション(消費者の食事問題解決)を合言葉に「中食」商品の拡充が本格化した。(注4)つまり、スーパーマーケットの惣菜は、従来は「内食」の補完品という位置づけであったが、一食完結型の品揃えを充実させて「中食」商品の売場としての性格を強めたのである。さらに、店舗の営業時間の長時間化といった戦略も効いて、「中食」需要対応業態としての機能アップが顕著である。

 最後に、「中食」産業同士の競争も新時代に入っている。
 第一に、総菜専門店チェーンの台頭が著しい。一部は、百貨店の食品売り場、いわゆる「デパ地下」の看板店舗としてブランド力を発揮している。これは、価格的には高めであるが、品質的にはコンビニエンスストアと一線を画する動きである。
 第二に、弁当製造販売店が、立地の拡大による大型店の増店や商品力の向上を目指していて、堅調である。
 第三に、ピザや寿司などの宅配ビジネスも、プロモーション技術の向上などにより市場を安定的に拡大させている。
 第四に、専門料理店の「中食」市場開発が活発である。お洒落で小振りの弁当などの料理を打ち出し、駅中や空中(空港売店)などの立地開発が奏功している。
 第五に、ベーカリー(パンの製造小売店)などの、第六に、カフェなどの「中食」市場対応の商品開発(サンドイッチ類、菓子パン類)と店舗開発が活発である。

 以上、要するに「中食」市場は、それまで主にコンビニエンスストアによる市場開拓の貢献が絶大であった。しかし、コンビニエンスストア店舗そのものが飽和状態に近づきつつあるとともに、コンビニエンスストアでの「中食」商品を基準として、ここから差別化される多様な商品開発とチャネル開発が進行しており、「中食」市場の牽引役がコンビニエンスストアの独壇場ではなくなってきたということである。

3.「内食」分野の構造変化

  次に、「内食」分野の動向について見てみよう。
 「家庭内食」に向けて食材料(食料品)を供給する最大チャネルは、スーパーマーケットである。
 大規模な店舗を構え、豊富な品揃えで、消費者の「内食」需要にもっとも効果的に対応する業態は、スーパーマーケットだけであると思われてきた。しかし、この構造が変わり始めた。
 スーパーマーケットは、1960年代の創業期、1970年代の成長期、1980年代の発展期を経て、1990年代には成熟期を迎えた。

 この成熟期への移行と時期を同じくして、第一にドラッグストアやホームセンターという大規模郊外店がチェーンとして勢力を急拡大するようになった。
 これらは、業界では、「ノンフードビジネス」と括られることが一般的であるが、そのような呼び方とは裏腹に、実は「フード」の売上構成比が大きい。飲料、サプリメント、いわゆる健康食品というジャンルでは、スーパーマーケットの品揃えを上回るものが多く、調味料や菓子類でも店頭在庫のボリュームは大きい。また、ペットフードや台所周りの道具類では、スーパーマーケットをはるかに凌ぐものが多い。(注5)

 これらの新興勢力では、特定の分野については魅力的な品揃えを実現しているので、「内食」の多様化に対応する業態として、スーパーマーケットよりも歩があるという状態となっている。
 第二に、通信販売や生協の宅配(個配)などの、無店舗販売が拡大している。インターネットによる取引も、無店舗販売のジャンルで、通信販売の一種とみなすことができる。
 これには、宅配便などの消費者物流のネットワークの利用が簡便になったことと、住宅が広くなって食料品の保管スペースが確保できるようになったという事情が寄与している。(注6)
 第三に、生鮮コンビニといわれる業態が急拡大している。いわゆる100円均一ショップ(ないし99円)の食料品店版と思えばよい。

 例えば、単身世帯と2人世帯とで、全世帯の過半を超すが、これらの世帯ではそもそも家族だんらんの食卓風景は想像できない。これらの世帯では、出来合いの食事である「中食」は望まないが、調理労働は最小限に止めたいという要望が大きい。急増している高齢者だけの世帯もそうである。
 生鮮コンビニでは、これらの増大する世帯の「内食」需要に対応して、炒めるだけの簡単な調理用の野菜であるとか、湯煎だけのレトルトパックなどを独自開発したりして、品揃えている。一品100円(99円、税込み104円)に揃えた小型パックも、小規模世帯の使いきりにはちょうど良いのである。(注7)

4.「外食」分野の構造変化

  「外食」分野では、どのような動きがあるのであろうか。(注8)
 第一には、1970年代、1980年代と外食産業の時代を築いたのは、チェーンレストランであるが、これら叢生期のブランドは、全国市場でほとんどが飽和状態を呈するに至っていることである。そのために、中堅チェーンブランドを巻き込んで、M&A(企業の合併・吸収)などによる企業の再編成が一部で活発化しており、また、ブランド同士の連携も試みられている。

 第二には、かつてのファミリーレストランに代表されるような多様なメニューを品揃えして、消費者の多様な外食需要に幅広く対応しようという業態の業績が伸び悩んでおり、代わって特定の顧客層、特徴あるメニューに比較的特化した業態のチェーンが台頭している。例えば、個室対応の居酒屋であるとか、定食的なメニューを揃えた店などがそれである。

 第三には、1990年代以降、外食産業への新世代の参入があり、事業規模の拡大を求めないで、事業者の理思を実現しようとするこだわりのある店作りが、全国に広がりつつある。
 第四には、チェーンレストランも地方の個店も、食材産地の開発を手掛けたり、地域の限定的な食材を求めたりする動きが積極化しており、食農連携を標榜するところもある。
 第五には、この間、地方発の中規模外食事業者の健闘が目立つことである。その地方での立地特性を押さえつつ、都市部とは異なる消費者のライフスタイルへの対応が奏功したと言えよう。


5.食市場の流動化
 以上のように、「外食」、「中食」、「内食」のいずれの領域においても、食市場は、21世紀に入って相当に変化しているということができる。

 それは、20世紀までに「外食」領域でのチェーンレストランによる、「中食」領域でのコンビニエンスストアによる、そして「内食」領域でのスーパーマーケットによる、それぞれの市場創造と市場拡大が、ほぼ一巡してしまったことにより、「外食」、「中食」、「内食」の各領域において、消費者の食市場の成熟段階に対応した新しい試行が猛烈に活発化しているということである。そうしたさまざまな試行の相互作用として、「外食」、「中食」、「内食」の各領域間の垣根が融合していくような新しい構造変化が始まっているのである。



注記
(注1)「内食」「外食」「中食」のそれぞれの成立事情については、茂木信太郎・飯野久栄編『食品の消費と流通』(第二版)(2003年、建帛社)に詳しい。
(注2)コンビニエンスストアの技術開発と商品開発の特徴は、茂木信太郎「「中食」市場の急拡大を支えた技術と経営手法」、荒井・川端・茂木・山野井編『フードデザイン21』(2002年、サイエンスフォーラム)を参照されたい。
(注3)茂木信太郎「デフレ・マーケティング」、『食品工業』2001年10月15号(光琳)参照。
(注4)ミール・ソルーションの展開については、茂木信太郎「ミール・ソルーションとホームミール・リプレイスメントの日本への移入を巡って」、『食品工業』1998年4月15日号(光琳)を参照されたい。
(注5)「ノンフードビジネス」の食品小売業としての側面は、茂木信太郎『外食産業の時代』(2005年、農林統計協会)第三部を参照されたい。
(注6)無店舗販売の代表格である生協の宅配システムについては、前掲『食品の消費と流通』の第6章「生協の共同購入」を参照されたい。
(注7)専門誌『月刊コンビニ』梅澤聡編集長の言によれば、チェーン店として「コンビニのはじめての競合らしい競合の出現」ということになる。
(注8)外食産業の最近の変化については、茂木信太郎「市場爛熟期に入って、外食産業はどう変わるのか」、『スクエア』第133号(2004年春季、レジャー・サービス産業労働情報開発センター)を参照されたい。


もぎ しんたろう プロフィール
 1948年(昭和)23年12月30日静岡県浜松市生まれ。法政大学大学院経済学専攻修士課程修了(経済学修士)。(社)食品需給研究センター研究員、(財)外食産業総合調査研究センター主任研究員、フードシステム総合研究所調査部長を経て、1996年信州大学経済学部助教授、97年10月同教授、03年4月より現職。主な著作に、「外食産業の時代」(農林統計協会)2005年6月刊、「食品の消費と流通―フードマーケティングの視点から―」(編著・日本フードスペシャリスト協会編)第2版2003年(初版2000年)、などがある。




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