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野菜フードシステムにおける
 システム間競争―新たな競争と協調

千葉大学 園芸学部  教授 斎藤 修


1.はじめに

 野菜の流通システムは、量販店の価格競争が深化することによって大きく変容し、市場流通の革新が進展しなければ、多くの仲卸売業者と卸売業者の経営破綻が想定される。これまで市場外流通で成長してきた産地の農業生産法人とそのネットワーク組織も取引先への企画提案力やチャネル管理ができなければ、経営の成長が限界になってきたのである。

 わが国では、小売主導型流通システムが欧米と比較して遅れていたが、大型チェーンの競争力が、業態転換、プライベートブランド(PB)の拡大や情報化が進展することによって浸透してきている。

 市場流通への依存度の高い青果物では、加工食品の流通システムと比較して異質だとする認識がこれまで強かったが、量販店の青果物PB商品の拡大、量販店情報システムOES(受注処理システム)による発注システムに組み込まれることにより、流通システムとしての基本原則は、他の農産物とかわらなくなったと認識することが必要になっているのである。

 このような大きな変化は、これまでのように川下から川中、さらに川上の農業へと、以前よりも急速に展開するようになっている。このシステム間競争では、効率的でパートナーシップのあるサプライチェーンの構築が、川下~川上の農業まで経済主体間の提携関係を入れてできるかどうかが大きな課題となる。

 このシステム間競争に最も乗り遅れているのは、市場流通への依存度が極めて高い系統農協である。リスクのない卸売会社への委託販売に全面的に依存してきたこと、市場から先の実需者との商談(情報の共有化)ができていないことなどから、市場価格の下落が生産者の収益性を低下させている。

 また、単協と県連組織の関係についても、これまでのような分担関係ではなく、県連として独自の事業展開が必要になり、パッケージや集出荷での競合も発生することとなる。

 本稿では、システム間競争の様相を素描し、市場流通システムの変容と経済主体間の新たな関係性を検討する。


2.システム間競争の様相

 今後の野菜流通システムは、川下にある量販店の主導性が強まり、卸売市場の規制緩和によって、市場流通と市場外流通間における競争の激化が予想される。すでに量販店との商談に入っている産地では、商物分離が進展してくると、量販店との産直をとるか、仲卸売業者と卸売業者のどちらを選択するか、という大きな問題が発生している。

(1) 卸売市場をめぐるシステム間競争
 卸売市場でも大規模な仲卸売業者は、早くから場外展開に入り、産地での農業生産法人の育成、産地におけるパッケージ・配送センターの設立を図ってきた。また、首都圏の量販店では、郊外に配送センターを増加させ、産直の拡大やセンター間取引の拡大に取り組んでいる。
 従って、関東の近郊産地からみると、店舗は大型化して郊外に移っていることから、市場を経由しない産直を導入しやすくなり、外食・中食企業も、市場からの調達よりも産地からの直接集荷が安定供給につながることから、ロットによってはコーディネーターを介在させながらも「顔の見える関係」が形成されるようになった。

(2) 小売業をめぐるシステム間競争
 一方、小売段階での店舗間競争は、価格競争を誘発しやすく、卸売―産地からの供給システムの全体的な再編成をもたらしている。
 野菜は、市場流通が中心であり、食品企業と産地の間に契約関係が形成されても、市場の価格変動によって廃棄される場合も多い。従って、信頼関係が形成されにくく、インテグレーションの進展した中小家畜と比較すれば、サプライチェーンを形成しにくかった。
 このため、進展した産地では、有力な農業生産法人やそのネットワーク組織によって、市場流通でいえば、卸売機能の統合化、さらに仲卸売機能の統合化が見られるようになり、物流・パッケージ・取引先への企画提案力をセットして価格・マージンを交渉・設定しており、さらには、食品企業との廃棄物をめぐる資源循環システムの確立、圃場段階でのトレーサビリティ確立、カット工場や冷凍食品工場の設立など、産地の経営体が産地段階におけるアグリビジネス経営体としてのシステムをほぼ完成させている。

(3) 外食・加工企業をめぐるシステム間競争
 これとは逆に、外食企業では、産地との間に介在する流通業者を排除して産直に移行し、農業生産法人を育成・大規模生産によって生産から加工というサプライチェーンを消費者に提供することで、新しい価値を創造する戦略も取られている。
 また、川中の加工メーカーでも、契約方式を数量契約から面積契約に移行させ、生産者サイドのリスクを食品企業が吸収し、生産者には効率性を向上させるためのインセンティブ方式を導入する企業も見られるようになった。
 一方、食品企業と農業の連携では、食品企業が農業サイドのリスク、特に需給調整機能を担うことによって、コーディネーターとして他の食品企業や量販店との連携を拡大してきた。

(4) 深化したシステム間競争(緩やかな「系列化」の進展)
 さらに、川下の量販店ではオーバーストアーという状況下での価格競争の激化により、調達価格の低下、自らのマージンも販売方式によっては低下させる戦略が取られるようになっている。
 大手量販店ではミカンのPB割合を70%にまで増大させ、リンゴでも同じ戦略を取ろうとしている。また、インショップなど産地の直売システムの活用は、量販店だけでなく生協の店舗でもみられるようになっている。大型量販店にとって配送センターを統合化し、PB商品を拡大することが、流通を効率化させ、また品質管理のレベルアップによって価格競争にならない価格帯をつくることが最大の戦略となってきた。
 このPB戦略に産地が乗ることは、価格の有利性や安定性からもメリットが大きいが、量販店による産地の「囲い込み」につながっている。大型量販店が、業態を転換しショッピングセンターの設置に参入する場合、低価格販売をするのか、高級品の品揃えを強化するのか、あるいは惣菜部門を統合化するかといった戦略が取られることになる。
 このように、農業と食品企業の連携は強まりつつあるが、野菜のフードシステムでも川下からの緩やかな「系列化」ともいうべき新たなインテグレーションが進展することによって、生産者の「囲い込み」が発生する可能性が生じてきたといえよう。

(5) 卸売市場における卸売機能と仲卸機能の統合化
 しかし、市場流通では、卸売市場の規制緩和と市場外流通との競争・内部革新の進展により、予約相対取引や短期の契約取引が拡大しコーディネーション機能が強まると、「流通機能とサービス」によってマージン配分がなされるようになる。
 卸売会社として委託から買取に移行しても、5%の手数料が確保できれば、競争力を維持することが可能となる。大規模な仲卸売業者は、産直で卸売機能を統合化し、産地へ配送センターを設立することで、量販店・生協・外食企業などの効率的な連携を強めている。
 これまでのように集荷力のある市場では、卸売会社と仲卸売業者の連携が存続するが、市場によっては、卸売会社が仲卸売業者を統合化するであろう。また、それとは反対に、大規模な仲卸売業者は、卸売機能の統合化、さらにパッケージやカット事業の拡大、物流システムの構築、輸入事業の拡大、産地への配送センター、小売支援機能の充実という戦略を取るであろう。

(6) システム間競争の常態化と販売チャネル管理
 以上のようなフードシステムの変化の中で、経済主体の統合化が川下・川中・川上の各段階で発生し、競争と連携が同時に進展するシステム間競争が常態化すると予想される。
 全体としては、川下の大型量販店の主導性が強まり、市場流通での川中における卸売段階の効率化に向けた再編がなされ、産地の農協の再編成となった場合、各経済主体における新たな展開の時間的余裕は少ないものの、産地における農業生産法人やそのネットワーク組織、産地の流通業者などのアグリビジネス経営体としての再編成が進展し、川下・川中の食品企業との連携が強くなることが想定される。しかし、この連携は、パートナーシップの関係が存続できるかどうかが問題となり、産地の経済主体は、生食用と加工・業務用の取引先の販売チャネルを、管理することが重要になるであろう。
 このチャネル管理は、システム間競争の下にある多くの経済主体が取る戦略である。量販店でも産直品は、差別化製品として安売りしにくいが、市場からの調達であると安売りの対象としやすいのがその理由である。仲卸売業者が取引先とのチャネル管理を強めるには、量販店との取引だけでなく、取引先への企画提案のしやすい加工業務用を一定程度持つことが必要になる。産地では、さらに市場出荷、食品企業との契約取引、直売所などの販売チャネルを管理することが課題となる。


3.卸売市場の流通システム革新と産地

 量販店では、価格帯を拡大することによって多様な消費者のニーズに対応しようとする戦略が取られ、粗マージンも平均的には25%から30%だとしても、アイテムによって10%台から40%台に調整される。

(1) 量販店の価格戦略と仲卸
 大型量販店では、2~3つのPB商品をもつ場合が多く、PB商品では販売価格はやや高位で安定的であり、やや高めの粗マージンが設定されやすい。大型量販店は、大消費地圏では配送センターを増加させて経由率を拡大し、PBを中心とする商品政策に転換することにより価格競争を抑止する戦略を取っており、むしろ、価格競争にさらされる品目は、市場から調達されることが多いことから、仲卸売業者の価格交渉力は小さくなる傾向があり、市場価格を低位に導くことになる。
 また、産地からのインショップも、低価格販売の対象となりやすい。さらに、量販店においては、週末の購入量の増大が火・水曜日における購入量の減退を引き起こし、この間に低価格での販売によって集客力を上げることが必要となっている。
 一方、中堅の量販店では、最近では粗マージンを20%程度まで低下させて合理化したチェーンもみられるようになっている。
 こうした状況では、量販店は、仲卸売業者に対して小売支援や企画提案という役割への期待と評価が高くなり、仲卸売業者が産地との連携ができることも取引の継続条件となる。このような仲卸売業者であれば、産地は商物分離によって卸売を排除し、仲卸売業者が物流、決済機能を担い、コーディネーターとして量販店と直結することになるであろう。
 大規模な仲卸売業者ほど卸売会社を経由しない産地の直荷引が増大し、産地に入って配送センターや加工処理場の設置を図り、郊外の量販店や外食企業などのセンターへの効率的な輸送ができるようになる。

(2) 地方卸売市場における卸売業者と量販店
 地方卸売市場の卸売会社には、量販店と本格的な取引ができる仲卸売業者が存在しない場合には、卸売会社が仲卸売機能を統合して別会社を設立するなどの戦略が取られる。地方卸売会社は中央卸売市場と比較すると、市場法などの制約が緩く、卸売と仲卸機能の統合は、集荷・物流・パッケージの機能を担って量販店に企画提案することができることから、セットの粗マージンは10~12%で対応することができる。
 中央卸売市場でも、卸売会社が別会社として仲卸売会社を設立し統合化している場合には、量販店や生協との連携がしやすくなり、流通の効率が進展するであろう。

(3) 農協共販・県連組織と量販店
 農協共販では、これまで市場を指定して卸売会社に委託販売をし、荷主交付金の上限に近い額をもらい、その一部は県連などにとって財政的基盤となってきたことから、リスクを負った買付販売がしにくかった。
 さらに、市場から先の実需者の「顔」さえ分からずに分荷調整をしてきた経緯があり、効果的なマーケティングはほとんど展開できない状態にあった。食品企業との連携ができる農協は極めて限られ、直売所を含めた市場外流通の割合は、最大限で30%程度である。
 これに対し、茨城県連では、県連組織として独自にパッケージや集出荷事業を行なうVFステーションを導入し、現在では取扱量(市場外流通)が10%を超えている。また、関東の各県連組織でもVFステーションに類似した組織再編を遂げてきている。
 これまでのような分荷調整は、川下との垂直的な取引関係が強まるにつれて経済的な効果がなくなり、出荷する卸売市場を特定したとしても、卸売市場から先の仲卸売-量販店までの情報管理が重要となる。
 どの量販店に小売店が何店舗入っているか、どのような販売方法か、どのような販売チャネルができたのか、などについての量販店サイドとの情報の共有化が必要になる。
 また、最近、量販店サイドでも、店舗までの販売チャネルや流通段階ごとのコストや粗マージンを産地サイドに見せて、相互に流通を合理化するための方法を検討する場合も見られるようになっている。

(4) 情報共有化の進展
 量販店と産地の商談による情報の共有化はさらに進展し、どの仲卸業者を利用するか、いかなる機能を担うか、さらにどの市場の卸売会社を利用するか、ということで相互に流通チャネルを管理しようとすれば、供給者と需要者を結びつけるコーディネーターが必要となり、担い手の流通機能とサービスによってマージン配分や価格形成が進展することになる。
 取引先となる経済主体間で、どのような機能とサービスを担うかについては、連携の仕方や交渉力によって異なるであろう。産地の農協も、卸売会社から先の仲卸売業者を指定する行動が見られるようになり、産地や量販店にとっても、企画提案力や支援のできる担い手だけがコーディネーターとしての評価を高めるであろう。

4.結び

 このように、川下の食品企業と産地の行動に挟まれて卸売流通システムは大きく変容する。今後は、卸売市場や大形量販店に対する規制緩和がさらに進展し、卸売会社による需給調整が拡大するとともに、他方で、緩やかな契約販売が拡大することになろう。

 わが国での川下主導の流通システムが形成される条件は出てきたが、それには、川中と農業サイドの経済主体の組み直しがパートナーシップと効率性によって進展する必要があろう。

参考文献
 斎藤修「食品産業と農業の提携条件」農林統計協会、2001年
 斎藤修・慶野征編「青果物流通システム論のニューウェーブ」農林統計協会、2003年




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