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いま、農産物に求められるもの
<農産物の安全・安心への取組>

イオン株式会社 農産システムP/Tリーダー 高橋 博


1 食の安全・安心の向上の課題と当社の基本的考え方

  当社では、生産段階から消費段階にいたる過程において、一貫した基準・規範の適用によって農産物に由来する食のリスクを最小化し、ITを最大限活用した正確かつ迅速な情報提供と活動記録の収集・保持を実現して、食の安全を向上させるシステムの構築を目指している。

  この場合、生活者には食の安全や表示、企業コンプライアンスなどに対する不信・不満があり、その改善が求められていることから、食品をめぐる社会的責任(CSR)の確立、リスク分析に基づく科学的対応の仕組の確立、信頼性の高いデータ・情報管理の仕組の確立、仕組の客観性、継続性、発展性の確保を図ることが重要である。

  このため、当社では、次のような事項を重点的に実施していくことが必要であると考えている。

  ・自主的管理意識の醸成

  ・社会的責任意識の醸成

  ・常時開放性、個々の生産者など誰もが参画可能なオープンシステム

  ・広範なネットワークの形成

  ・既存システムとの互換性

  ・技術のわかりやすさと費用

  ・参画事業者の事業活動に貢献する仕組み

  ・オリエンテーション・教育・研修

  ・リスクコミュニケーションの促進

  また、農場から食卓まで一貫した農産物の安全危害を最小にするための、生活者から生産者にいたる共有化可能なモノサシも必要と考えている。

2 課題解決に向けての検討項目

  以上のような課題の解決に向けて、次のような方向を検討している。

(1)食品の安全危害の予防を優先するシステムの確立

  事故、汚染などの危害が発生した後の改善措置に依存するのでなく、食品の危害の予防を優先するシステムを確立するため、農産物安全基準とその検証基準の検討を行うとともに、予防(事前)の対応を行うため、生産から消費にいたる各段階の工程管理として、適正農業規範(GAP)を導入する。

  また、発生後(事後)の対応として、ほ場毎の生産資材の使用記録、生産から販売にいたる流通記録などの追跡を行うとともに、各段階のGAPの実現度をビジュアルデータとして記録・保管し、事前の対応が確実に実践できたかの確認に重点を置くこととしている。

(2)公共性の高いITシステムの確立

  食のリスク最小化と食の安全を向上させる公共性の高いITシステムの確立を目標としている。

  特に、生鮮野菜・果物の生産管理は、数多くの個々の生産者に委ねられており、その生産者は高齢化が進み、小資本でIT管理に不慣れであることから、生産者の誰もが参画可能な容易な、手軽なITシステムで、CSR(社会的責任)、革新力、自立性を保障するオープンなITシステムであることが求められる。

  このため、次のような視点で、物流と商流に情報流を加えたデータ管理システムを構築することとしている。

 ■ データ管理システムの概要

 (1) データの収集・蓄積

  ・生産者の誰もが参加可能なオープンシステム

  ・他システムとの連携化のためのデータ標準化

  ・簡便な入力方式のためのシステム開発

  ・参画可能なコスト水準に抑制

  ・ビジュアルデータの利用と標準化

  ・データ加工管理における発展性の確保

 (2) 信頼性を担保するためのデータチェックシステムの構築

   収集したデータの信頼性を担保するため、栽培指針策定時や作業記録時、出荷検査時などの各段階で、基準となるデータ項目とデータ値を持ったデータベースを保持し、収集したデータがその基準に照らし合わせて、基準値以内かどうかをリアルタイムでチェックできるデータチェックシステムを構築する。チェックした結果は、その履歴が残り、次回栽培計画時などに活用される。具体的なデータとしては残留農薬、特別栽培・防除基準、品質検査基準、気象情報などである。

 (3) データの統合共有

   農場、集出荷、配送、小売の各段階のデータをセンターコンピュータにより管理し、相互の関連付けを確保する。

 (4) データの活用

   ビジュアルデータの監査への活用

   仕組みが正しく構築されていても、それが正しく運用されているかどうかを検査する必要があることから、多数の小規模な生産者にも対応した、低コストで頻度良く実施できる監査支援システムを開発する。あるべき姿と現状の姿を画像を使ってわかりやすくビジュアルに対比させ、監査業務を支援するとともに、ネットワークにより各地の改善の進捗状況などを確認できるようにする。

  ・生産者用データバンクとしての活用

  ・追跡、情報発信のためのデータの活用

  ・表1の多くの情報を消費者に提供する生活者段階における高度情報化プログラムへの活用。

 (5) データ管理システムの信頼確保

   第三者によるシステムのチェックを行い、信頼性を確保する。

表1 生鮮野菜・果物表示の役割と種類

(3)全国をカバーするシステムの構築

  沖縄から北海道にいたる全国の生産者、団体、流通組織などとの協力のもとに全国で実施し、実用レベルに耐えうる農産物基準、適正農業規範、データ管理システムであることを検証する。

(4)啓蒙・普及活動の展開

  農業・食品事業者に対して本システムについて積極的な啓蒙・普及活動を展開し、食について社会的信頼の確保に取り組む。

(5)システムに関する第三者監査の導入

  農産物基準、適正農業規範、データ管理システムに関する第三者監査を導入し、システムの継続性、発展性、客観性を目指す。これらによる審査結果をベースに、いわゆるPDCA(計画・実行・検査・行動)サイクルに基づいた、適正農業規範とデータ管理システムの改善を行う。

3 課題解決への具体的な取組み

  上記2の検討を踏まえ、当社では、現在、(1)農産物の安全性等基準の開発、(2)適正農業規範(GAP)導入、(3)農場から食卓までのデータ管理システムの構築、(4)情報の共有化とルールに基づいた取引の確立、(5)検証システムの構築、(6)第三者監査の導入、(7)普及、(8)オリエンテーション・教育の8項目について、次の内容により、現在、システムの構築などに取り組んでいるところである。

(1)農産物に関する基準の策定

  農産物の安全、品質、環境、栽培区分、表示および商品化の基準ならびに社会的責任(CSR)基準の策定を進める。

(2)適正農業規範(GAP)の導入

  基準に従った農産物の生産を実現するため、各工程における管理規範を実証し、生産者・団体の経験・知識・技能に配慮した普及可能な規範の策定を進める。将来GAP認証された輸入農産物が増加する場合に対応するため、国際的視点からの評価も検討する。

 (1) 文書型農業適正規範からビジュアル型農業適正規範への展開

   判りやすく、誰もが容易に理解でき、導入し易い基準を策定するとともに、規範実現レベルの標準化や第三者監査による審査の標準化を進め、推進のスピードアップを図る。

 (2) 国際的な適正農業規範との同等性の確保と相互認証

   国際的規範・基準(EUREPGAP(ユーロギャップ)、SQF2000)を参照し、継続性・発展性を高めるためのシステムを準備するとともに、国際的相互認証の可能性を検討する。

(3)ITの活用による農場から食卓までのデータ管理システム

  農薬情報や種苗情報など以下に示す農業生産活動支援データベースを構築し、携帯電話を利用して簡易に生産者がアクセス利用できるようにする。また、適正農業規範に基づいた情報収集を行い、データ管理システムに蓄積する。さらに、インターネット上のデータベースを連結統合することでトレーサビリティを実現する。

 (1) 農業生産活動支援データベースの構築

   データベースを構築する主な項目は次のとおりである。

  ・取引ルール・基準

  ・安全基準

  ・栽培基準

  ・検証基準

  ・適正農業規範のビジュアル基準

  ・登録種苗リスト

  ・失効農薬リスト

  ・残留農薬基準

  ・都道府県別特別栽培および防除基準

  ・気象情報

  ・農産物栄養成分

  ・生活者(消費者)の声

 (2) リアルタイムデータの集積

   ITを最大限活用して、作物の栽培の記帳が正確、簡便にいつでもどこでも、行える仕組みとし、作物の栽培など生産活動に関する計画と実績を、簡便かつ低廉なコストで記録できるよう携帯電話などを利用する方法で記録し、そのデータの正確性を担保するためのチェックをリアルタイムで行う。また、規範を遵守することを前提に、生産者のだれでもがオープンに活用することができるシステムとするとともに、安価でユーザーフレンドリーな携帯電話によるバーコードおよびRF・IDの読み取り、相互連携の基準設定による他システムとの連携を図る。

   また、リアルタイムで集積する必要がある主な情報は以下のとおりである。

  ・生産資材購入記録

  ・生産資材の使用などの生産履歴

  ・出荷・流通履歴

  ・農産物検査結果

  ・土壌検査結果

  ・作物栽培計画

 (3) データの信頼性の確保

   データベースを活用したチェックシステムおよびデータ改廃システムによる最新のデータによるチェックシステムの導入により、信頼性の確保を図る。

 (4) データ活用システム

   上記で集積されたデータを活用する以下のシステムを開発する。

  ・生産活動支援システム

  ・店舗をクリックするだけで、生産・流通履歴が確認可能な遡及・追跡性システム(図1)

図1 店舗でのクリックによる生産・流通履歴の確認

  ・情報公開システム

   ‐携帯電話による情報提供システム

    包装資材などに付加された生鮮JANコードなどを活用したバーコードや2次元コードを携帯電話のカメラ機能を使って撮影したり、または、携帯電話をかざすことで、作物の栽培履歴情報などの安全・安心情報を簡便に消費者が取り出すことができる。

   ‐店頭端末による情報提供システム

   ‐ホームページによる情報提供システム

   ‐紙(POPなど)による情報提供システム(図2)

   ‐包装資材による情報提供システム

  ・料理等食関連提案システム

  ・商品回収システム

  ・ロジスティクス支援システム

  ・関連システムとの連携システム

  ・食品加工等関連との連携システム

  ・適正規範監査システム

  ・参画者の声の活用システム

図2 一貫システムによるで店頭POPの自動作成事例

 (5) 識別コード体系

   生鮮EDIコードを基本にRF・ID、二次元コードなど柔軟な用途に応じた対応を行うとともに、ダンボール、コンテナなど流通単位の識別コードおよび生活者が識別する小袋、個単位の情報検索コードを作成する。

 (6) データシステムの信頼性確保

   信頼性の確保のため、セキュリティシステム、個人情報管理システム、プライバシーマークおよび第三者監査を導入する。

(4)情報の共有化とルールに基づいた取引

  課題解決に向けて各参画者の役割、機能を明確化するとともに、毎月、進捗状況を把握する。

(5)検証

  農産物基準と検証基準に基づく検査システムおよび適正規範の内部監査システムを確立し、マニュアルに基づき検査・監査を行う。

(6)システムの継続性、発展性の確保などのための第三者監査の実施

(7)普及

  全国規模での実践、ホームページによる活動報告など情報の共有化および生活者などからの情報収集などにより普及を図る。

(8)オリエンテーション、教育

  参加組織への導入プログラムの実施、参画者へのアドバイザーチームの編成、ホームページによる参画者の情報交換、進捗管理を行う。

4 期待される効果

  農産物の安全への対応について、生産から消費にいたる過程の参画者が共有化可能な安全についてのモノサシを構築し、実証することにより、各段階での農産物、食の安全への取り組みの進展および関心の高まり、意識の変化が期待できる。

(1)生産者

 ア ITシステムの活用により、農産物の生産、流通データの担保とそのデータの活用による消費者への情報提供などの訴求および消費者の声が聞けることが可能となり、消費者に対する販売活動の視点が大きく開かれる。

 イ 適正規範(GAP)の実証により、農産物の食の安全に関する有効性、その必要性、問題点など議論の場を提供し、生産者の安全への新しい視点が開かれることが期待できる。

 ウ 第三者監査の導入により、問題点、課題が明確になり、安全性確保のための対応の改善につながる。

(2)消費者(生活者)

 ア 適正規範の導入により、安全への取り組みが明確になり、農産物の信頼度が高まることが期待される。

 イ ITの活用により、商品選択に資する情報が豊かになること、消費者の意見表明の場が提供されることなどにより食の安全と表示への理解の増進につながることが期待できる。

(3)流通、小売

  本システムを導入することで、農産物の食の安全リスクを最小にする規範、基準とデータ管理システムにより安全への取り組みが明確にされ、各参画者に求められることが明確になることで、取引に信頼関係が生まれる。



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