[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

今月の話題


日本の農業と農家を守るために何をなすべきか

東京青果株式会社 専務 上田 宗勝


 私は東京青果に45年勤務いたし、社内で多くの部署を経験いたしました。日本全国沖縄から北海道までの産地を訪問させていただきました。現在齢六十を過ぎて、後から来る人にバトンタッチできるタイミングになって、色々なことが見えるようになってきました。本当に不思議なものです。特に日本人として農業に対して、不安を通り越して危機感を抱くにいたっています。さらにこういった事態に至ったことに最近では怒りも覚えます。

 わが国の人口1億2千700万人の8%弱が農家人口とされます。国内総生産に占める農業の割合は2%ということで、他産業に圧倒されていることがわかります。食料自給率は40%であり先進諸国の中でも最も低い割合です。このままいくと、20年も経たないうちに30%近くまで落ち込むと予想されます。

 ここで私は日本人として問いたいのです。自給率30%で良いのでしょうか。このままの農業でいいのでしょうか。自分たちの子供や孫たちには、少なくとも50%の自給率を残しておきたいと思います。そのためには、一生懸命やっている農家中心に規模拡大させることや、本当にやる気のある人に新規に農業に参入してもらうなど、従来の農政を変える必要があります。つまり、元気のある野菜農家を助けるために国はお金を使ってくださいということです。

 さて、近頃生産者や消費地のお客様は卸売市場の機能に対して疑問を持つようになっているように思います。市場外流通や産直、さらに道の駅での直売での販売が増えて、市場流通量が減少しています。卸売市場の機能も一部低下していることも確かです。それは産地の大型合併やスーパーの寡占化、外食、中食の急速な台頭に遅れをとり、対応できませんでした。

 現在、野菜の市場経由率は平成13年の推定で78.6%、果実53.7%ですが、卸売会社は危機感をもって経由率を高めるべく努力していかなければならないでしょう。野菜の場合は考え方によってはまだ70%台ですから卸の機能を一層充実し、発揮すれば、卸売会社は今後も青果物流通の主力であり続けることができるでしょう。

 それでは卸売会社の役割と機能を再度考えてみたいと思います。基本は農家の手数料でもって収益を生み出しているということです。ここが大切だと思います。そのために、卸売会社は農家の粗収入、手取りを考えての販売を心がけなければなりません。

 まず役割ですが、営農のアドバイザーであるべきで、栽培品目や出荷時期について有利販売できるようにすることです。当然新規の品目については消費地のお客様を決めながら道筋をつけるのがベストです。そういう意味では問題解決型のソリューション企業でなければならないということです。特に従来は産地に強いベテランのせり人が産地から尊敬されましたが、これからはチームで対応できるようにしていかなければなりません。社内的にはノウハウや人的な財産を受け継ぐ仕組み作りが鍵になるでしょう。

 機能ですが、第一に価格決定機能です。そのためにはせり人は農家に対して農家大切の思想と理念がなければなりません。絶えず再生産価格を意識して、価格を決めなければなりません。また、評価機能は仲卸や買参者が受け持ちますが、最終的にはせり人が価格に誇りを持たなければなりません。

 第二に数量の調整機能です。理想は仲卸や小売商などお客様の欲する量を揃えて渡すことですが、市場の面白さは、極端に入荷が増えたとき、減ったときのさばき方です。要りませんと農家に泣きを入れないことが市場が信用される要因です。

 第三に金融機能です。一般的に市場出荷を換金するとも表現するほどですが、しっかりとした支払いのシステムがあるため、物が集まる訳です。直接納入の輸入野菜であっても、ある部分は市場に入れざるを得ない場面があります。

 第四は農家のことを一番良く知っているのが市場です。農家が豊かになると卸も豊かになります。異業種からの新規参入組はいつでも逃げられますが、我々は逃げだしたくても逃げられません。一生一緒に農家とお付き合いすることが卸の強みになります。ただ、卸売会社の職員は天狗になってはいけません。スーパーの職員も足しげく園地に通い、勉強していることを忘れてはいけません。農家が倒れれば卸も倒れるのです。

 卸売会社について縷々申し述べましたが、今こそ権利を主張するよりも、日本人の義務と卸売会社の義務を真剣に実行することがまずもって肝要であります。そのことで10~20年後に自給率の向上に役立つことが出来たならば、夢のある日本国を子孫の世代に残すことができると思います。



元のページへ戻る


このページのトップへ