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低コスト野菜生産のための機械開発の現状と課題

独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構
生物系特定産業技術研究支援センター 
園芸工学研究部 主任研究員 貝 沼 秀 夫


1)はじめに

 わが国の野菜栽培面積をみると、昭和49年に60万ha程度であったものが近年では、おおよそ50万haと20%近くも減少しており、特に昭和63年頃からは急速な減少傾向にある。なかでもダイコンやキャベツなど重量野菜の栽培面積の減少は急激である。キャベツについて言えば、平成10年から14年のわずか4年間で、2,600haもの作付面積が減少している。この数値は、千葉県の全キャベツほ場面積(県別キャベツ作付け面積第3位)に匹敵するものである。

 こうした状況は、野菜産地における労働力不足や高齢化などによる栽培農家数の減少、食生活の多様化による少量多品目な野菜需要が増加したものの個人消費量が減少したことなどの影響があると考えられる。昭和60年には111kgであった年間個人消費量は、平成14年では97kgとなっている。また、国内の野菜の自給率も減少傾向にあり、昭和50年頃までは、ほぼ100%であった野菜の自給率は、平成12年においては82%まで減少している。

 このような状況に対処し、将来にわたって野菜を安定供給するためにも、早急に野菜栽培の省力化、機械化を進め、労力不足の解消や労働過重の軽減を図り、野菜栽培面積の維持、生産量の確保を推進する必要がある。

2)野菜栽培の機械化の現状と問題点

 表1は、野菜の種別、作業毎の機械化の現状を示したものである。防除作業は、ほぼ全ての野菜において機械化が行われており、各種の防除機が広く普及しているものの、機械化一貫体系が確立されている品目は少ない。

 根菜類については、直播体系で省力的な栽培が行われているものの、間引き作業はまったくの人力作業で行われており、機械化・省力化が要望されている部分である。

 いも類では、播種から収穫・調製まで一貫した機械化が行われている場合が多いが、高品質なバレイショ生産を省力的に行うソイルコンディショニング体系という新しい栽培技術体系の確立も模索されている。ソイルコンディショニング体系は、セパレータと呼ばれる機械を利用し、栽培畝部分より土塊や石の除去を行うことにより収穫時の作業能率向上につながるのみならず収穫時の打撲などの障害を軽減し、同時に根圏の拡大により規格歩留り収量の向上に寄与する栽培技術であるが、現在、国内で試験的に用いられている機械は、海外からの輸入機がほとんどである。このため、セパレータ、プランタ、ハーベスタ、粗選別機などの各種機械サイズやコスト面で国内利用に適するよう開発・改良を行う必要があるのが現状である。

 一方、タマネギは、北海道のような大規模ほ場用の機械だけでなく、比較的小規模ほ場でも利用できる小型の収穫機が開発され、淡路島などの産地を中心に普及が進んでいる。これにより移植から一貫した機械化作業が行えるようになってきた。

 キャベツ、ハクサイ、レタスなどの葉茎菜類については、各種移植機が利用されている。収穫機も開発され、作業能率の向上や出荷体系への対応など利用技術の検討が行われ、普及の推進が図られている。生物系特定産業技術研究支援センター(略称:生研センター)園芸工学研究部においても、葉菜類の収穫分野の機械化とりわけキャベツに関わる機械化を研究の柱の一つと位置づけている。

 果菜類については、接木作業を自動化する装置が開発され一部の種苗会社などで利用されているものの、広く普及している状況にはなく、依然として多くの作業が手作業で行われ、他品目に比較して多くの労働時間を要している。

 このように野菜作においても比較的機械の利用が進んでいる部分があるものの、稲作と比較すれば、まだまだ遅れている部分が多い。機械の普及と言う側面で考えると、野菜栽培面積は全体でも50万ha程度で、個々の品目ごとに考えればさらにその数値は小さくなり、稲作の170万haと比較してもいかに野菜用機械のマーケットが狭いかがわかる。こうした状況も機械開発の促進を阻害する一因と考えられる。しかし、野菜は豊かな食生活を支え、健康維持の観点からも欠くことのできない食品であるということは言うまでもない。昨今の天候の不順による野菜不足の現状を顧みるとますますその思いが強く、野菜の安定生産のため、今後の機械開発や機械利用の技術普及は緊急を要する重要事項である。

表1 野菜の種別、作業毎の機械化の現状

◎:多くの産地で一般的に機械が利用されている
○:一部の地域で機械が利用されている
△:市販機はあるものの、わずかに利用されている程度
×:機械がなく、現在は人力作業
-:該当作業なし

備考:播種は、直接ほ場に播種し、収穫まで行うものを「直播体系」、トレイなどに播種して育苗後、ほ場に移植するものを「育苗体系」とした。

調製は、茎葉・根切断、ひげ根取り、表皮向き、洗浄(清浄)、結束・包装などの作業で、選別、箱詰めなどの出荷作業は含まない。


 

3)生研センターにおける近年の取り組み

 生研センターでは、これまでにも多くの野菜用機械の開発を行ってきた。特に平成5年度から開始された農業機械等緊急開発事業においては、農機メーカと共同に開発を行い、多くの野菜用機械の実用化を達成してきた。

 移植用の機械としては、乗用型2条植の全自動移植機を開発し、これまでに150台程度の普及実績がある。この全自動移植機の開発に併せて、生研センターでは育苗セルトレイの標準化も行った。これまでに1,000万枚以上の標準トレイが全国で利用されており、省力的な移植作業の実現に貢献している。実用化した全自動移植機は、約10a/時の作業能率で、人力作業に比べて10倍以上、歩行型全自動移植機に比べても2~3倍となる。本機は、10度以下の傾斜地であれば問題なく作業が可能であるが、傾斜ほ場を多く有する岩手県の産地では、機体前方にウエイトを取り付け、登坂力を補う改造を行い15~19度という急傾斜での利用事例が見られる。大面積を適期に作業するためには全自動移植機の利用が不可欠である。

 移植後の防除や中耕・培土作業を行う機械としては、野菜栽培管理ビークルを開発し、これまでに760台程度の普及実績がある。キャベツ、ハクサイ、レタスなどを中心とした野菜産地において中耕培土、防除の作業に共同利用形態で導入されている事例が多い。特に中耕培土は、生育初期の畝間の除草管理と培土作業が同時に行えるため、薬剤の使用量低減にもつながる。野菜作以外では、大豆ほ場の管理に導入される事例が多く見られる。これまでは、歩行用管理機を用いて中耕培土作業を行ってきたが、規模拡大のために乗用管理機を導入し、十分な効果を発揮している。

 収穫用の機械としては、キャベツ、ハクサイ、ネギなどの葉茎菜用の収穫機や、ダイコン、汎用いも類などの根菜およびいも類用の収穫機を開発した。ネギ収穫機は510台程度、ダイコン収穫機は140台程度の普及実績があり、それぞれの産地で利用が進んでいる。特にネギ収穫機については、普及が顕著である。茨城県岩井市は夏ネギの産地であるが、(1)機械稼働面積の拡大、(2)機械作業にあった生産技術の確立、(3)機械に適する労働作業体系の確立の3項目を掲げ、積極的に機械化に取り組んでいる地域である。具体的な方策としては、共同利用、リース制度、JA所有機の貸し出しなどを行って、機械稼働の拡大を図っている。この地域は、収穫機だけでなく、移植作業、管理作業、調製作業にも積極的に機械導入を推進している。野菜管理ビークルも防除作業に利用されており、ネギ栽培の機械化一貫体系の確立によって、機械費・労働費の削減と収量・品質の向上を図り市場における競争力向上を成し得ている。

 調製用の機械としては、軟弱野菜調製機や長ネギ調製装置を開発し実用化してきた。軟弱野菜調製機とは、ホウレンソウの下葉と根の処理を行う機械で、これまでに330台程度の普及実績がある。

4)高能率キャベツ生産機械化システム

 ネギのように移植から調製に至るすべての工程において、機械化が進み省力的な生産が行われている事例が出てきたものの、生研センター園芸工学研究部ではさらに高能率な露地野菜生産を推進する必要があると考え、キャベツ生産を対象に新たな考え方の高能率キャベツ生産機械化システムを検討している。この高能率な機械化一貫体系を構築するためには、収穫作業がポイントとなる。収穫という作業は、(1)作物の切り取り、(2)拾い上げ、(3)ハンドリング容器への収容、(4)余分な外葉などの除去作業である調製、(5)規格ごとに選別する作業、(6)包装や段ボール箱など出荷容器への箱詰めなどに細分化することができる。また、これまでに収穫機の導入が進み一定の機械化が達成されたものを見ると、(3)~(6)の作業を別工程で行うものが多いのに気付く。その最たる例がコンバインなどで収穫し、その後、乾燥や籾摺などの調製作業を別工程で行う稲作であろう。

 このように、キャベツの収穫作業においても、収穫機が行うのは、作物の切り取り、拾い上げとハンドリング容器への収容のみで、外葉の調製や箱詰めは別作業で行うと考えれば、収穫機に求められる精度の負担が軽減され、その分作業の高速化や機械コストの低減が行える。収穫作業の高速化が実現されれば、作付け規模拡大が図られほ場の有効活用、収益性の向上に寄与できる。また、調製や箱詰めなどの作業を施設で行うといことは、天候に左右され易すく、腰曲げ姿勢の多いほ場での重労働から、安定した環境下での立ち姿勢作業へと労働の質を変化させることにもなる。さらに、個々のほ場では廃棄されることが多かった規格外のキャベツも、数量をまとめ加工用に出荷するなど販路拡大の可能性もある。

 このように高能率キャベツ生産機械化システムを確立することによって、多くの可能性が見えてくると確信している。この高能率キャベツ生産機械化システムを構成する要素は、共同育苗施設、全自動移植機、管理ビークル、高能率収穫機、共同調製施設などであるが、既に、ほとんどの構成要素の基本的研究・開発は終了している。今後は、最も核となる高能率収穫機の開発と各要素の改善を図りシステムとして構築する必要があるが、生研センター園芸工学研究部では、これらの研究を緊急的課題の一つと位置づけ精力的に取り組む考えである。

図1 高能率キャベツ生産機械化システム

 

5)おわりに

 北海道では、近年の労働力の低下から生産し易い小麦の作付けだけが増加し、連作状態が発生しており、長年維持してきた輪作体系に乱れが生じている。また、畑作4品と呼ばれる豆類、バレイショ、小麦、てん菜の価格が低迷しており、収益性の向上を図る取り組みが必要とされている。そうした現状を打開するため、野菜作を積極的に取り入れてほ場の有効利用、輪作体系の維持、収益性の向上を図る動きがある。

 生研センター園芸工学研究部では、こうした地域と連携をとりつつ高能率キャベツ生産機械化システムをひとつの具体策としてモデル化できないかと検討を進めている。また、高能率キャベツ生産機械化システムで開発された技術を、各産地の状況にあったように改良・適応させることによって、より多くの産地での展開が図れると考えている。このようなシステムの構築を行う上で、生産者、農業協同組合、行政、試験研究機関などが一体となって取り組むことが重要である。各方面のこれまで以上のご支援、ご協力をお願いする。

図2 小麦の前作の一部にキャベツを取り入れた輪作体系のイメージ



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