日本生活協同組合連合会
理事 阿 南 久
はじめに
全国の地域購買生協で、野菜の生産履歴を公開する取り組みが始まっている。
組合員は、店頭や自宅のパソコンで、自分の購入した野菜の生産者や、農薬の使用状況、収穫時期などの情報を簡単に知ることができるようになる。
こうした取り組みは、この間の一連の偽装・虚偽表示事件によって醸成された消費者の農業とそれにかかわる流通・販売業に対する根深い不信感を少しでも解消し、新たな信頼を回復しようとするものであると言える。
同時に、「産業」と「消費」のコミュニケーションを強め、相互理解の促進につながる積極的な意味も持っており、これからの時代の仕組みの1つとして、定着していくことを期待している。
今夏は、相次ぐ台風の到来で、農作物の被害も甚大である。各生協とも生産者と連携した取り組みをすすめているが、「あそこの取引産地ではこんな被害が…」という情報も、心配している組合員にとっては知りたい必要な情報である。
私は、生活協同組合コープとうきょうの組合員であり、長年、組合員活動にも携わってきている。コープとうきょうは1999年に「コープネット事業連合」に加入し、事業分野の統合をすすめてきているが、商品事業は、ほぼコープネットに統合を果たした。
今回のレポートでは、コープネットでの農産事業のデータをもとに、生協から見た消費動向や、消費者、組合員の意識、そして課題をまとめた。
コープネットにおける野菜供給
コープネット事業連合は、コープとうきょう、さいたまコープ、ちばコープ、いばらきコープ、コープぐんま、とちぎコープの6つの会員生協からなっており、組合員数は、6会員生協を合わせると、2003年度末で約260万人である。
コープネット2003年度の事業高は、約2,662億円である。(6つの会員の総事業高合計は約4,313億円)このうち野菜の供給高は約349億円で、13%を占めており、食料品全体に占める割合は65%である。
種類別取扱量
図は2003年度の野菜の種類別の供給数量を表している。
2002年度と比較して供給数量が伸びたのは、きのこ山菜類だけで、金額が伸びたのは、土物類、その他野菜類、根菜類であった。
品目別取扱量
品目別に取扱量を多い順に10位まで見てみた。
これらはいずれも2002年度に比較すると数量は落ちている。金額では、たまねぎ、ばれいしょ類、キャベツ類、レタス類、にんじんが上回った。
また、ここには載っていないが、2002年度に比較して数量が大きく伸びたものには、つけな類(182.3%)、エリンギだけ(136.1%)、あしたば(132.1%)、レイシ(117.5%)、レッドキャベツ(110.8%)、えだまめ(110.1%)などが挙げられる。
逆に、大きく落ちたものは、切り干しだいこん、冷凍野菜、わけぎ、め類、さんとうさい、みょうがだけ、かぼすなどであった。
産地別取扱量
次に、これらの野菜の産地について産地別取扱高を多い順に10位まで見てみた。
残りの30%には、日本全国の産地の他に、ニュージーランドやメキシコ、トンガ、韓国を始めとする海外の産地も含まれている。
産直品
野菜の中で、2003年度の産直品の供給高比率は34.8%であった。品目数は62、産地数は262である。
コープネット事業連合の「商品政策」では、生産者から消費者までのトータルシステム(品種、種子、生産方法、農薬、商品化、集荷、物流等を確保するシステムとトレーサビリティーを確保するシステム)を実現するものとして産直品を位置づけ、組合員の安全、安心と鮮度・品質・食味の要望に応えるために、拡大していくことが重要としている。
輸入野菜
輸入野菜は、かぼちゃ、根生姜、ブロッコリー、アスパラガスなど19品目に及んでいる。日本での生産が困難で、組合員の生活になじんでいるものや、端境期のものを適地適作で、農薬や添加物の管理をしながら扱っている。もちろん情報提供も十分に行ってのことであり、供給高比率は、コープとうきょうでのデータであるが、年々減少傾向にあり、2003年度は2.7%であった。
この理由について当連合会の農産部は、(1)輸入品を排除するのではなく、両方扱うことで国産品の品質の良さが理解された、(2)一流の産地の商品をリーズナブルな価格で提供した、(3)産地とともに国産品の品質を高める努力をしてきた、(4)宮古島のかぼちゃなど、国内で扱えなかったものが扱えるようになった、(5)国産品を主力として扱ってきた、と分析している。
野菜取扱に対する組合員の意識
日本生協連が昨年行った「全国生協組合員意識調査」では、「生協は低価格より安全性の強化に努力して欲しい」と考えているかどうかの設問に「そう思う」が62%(2000年・61%)、「前からそうしていると思う」が17%(2000年・17%)で、「安全性の強化」に対し期待が高いことを示している。
「安全性」に対するこれまでの事業上の努力と社会的な活動が、組合員の大きな評価となっていることの表れと言うことができる。
しかし、実際の消費行動は、期待や評価とは別に、さらなる努力や取り組みを求めるものとなっている。
次の表は、同じ意識調査から「葉物野菜」についての購入先と購入理由についての結果を示したものである。
「安全性」確保については、少しだけ評価が上がっているが、1位・2位の数字には及ばない。また新鮮さや価格などの評価は低下し、生協での購入は伸びていない。
組合員は、安全性を前提としつつ、鮮度がよく、近所で、あるいは配達で入手でき、かつ価格が安い野菜を、豊富な品揃えの中から「選択」しながら購入したいと思っており、このことは一般消費者と変わりがない。
くらしと産業のきずな
コープネット事業連合の2004年度の農産事業の課題は、「組合員の要望と生活実態を的確につかみ組合員との信用と信頼関係を確立します」である。
組合員と向き合い、声や意見をよく聴き、どのような野菜をどう扱い、どう売ろうとしているかを分かりやすく説明することが重要な課題となっている。
鮮度・品質という点で言えば、旬や適地適作を基本とし、生産者と流通や販売事業者とが提携を強めながら、安全性や品質、食味の管理・改善をすすめるとともに、収穫から食卓までの距離をできるだけ短くすることが必要である。店舗での朝取り産直野菜や地場野菜の販売は好評であるし、配達での「野菜ボックス」も拡大の可能性は高い。
鮮度とも関係するが、「バラ売り」、「無包装」への要望も高く、「1つ1つ見て、確認して買う」点からも、環境保全の点からも、早い時期の対応が望まれる。
消費者は、「選択する」楽しみとともに、責任も負うことになり、消費者教育の観点からも有効であると思う。
価格面では、特に若い世代において(子育てのために最も出費がかさむ中)収入が減少していることを考えると、安心してたっぷりと野菜を食べてもらうためには、やはりその対策は重要である。度を超えた等級付けや規格設定などによって生じるコストの価格への上乗せなども見直すべきではないか。
同時に、女性の就労率の増加や高齢者世帯、単身世帯の増加を直視し、容量の適正化や皮むき野菜、カット野菜、組み合わせ素材なども考えていく必要がある。こうした利便性の高い商品を使うことに対し、一部には批判もあるが、だれでも使うことができ、気軽に野菜を食べることができるにこしたことはないと考えた方がよい。
そして、今最大の課題となっているのは、「コミュニケーション」(情報の共有化)である。
「食品安全基本法」でも、抜本改正された「消費者基本法」でも、基本となる考え方は、消費者と関連する生産者・事業者を始めとするすべてのステークホルダーの対等な連携なくしては安全性の確保も産業の維持・発展もあり得ないということである。
とりわけ、これまでは「何もわかっていない」、「わがままな」と見られていた消費者をその輪に組み込んだことは意義が大きい。
「消費」も生産と同様の事業ということであろうか。
しかし、この転換は大変なエネルギーを要することも事実である。1つの商品の成り立ちから届くまでの過程、食べ方、保存方法、廃棄までを、それぞれに係わっている者が相互に理解し合うことを目指すことから、それぞれに大変な努力が必要である。
生産履歴の開示などもこうした努力の一つと言えるが、こうしたきずなを強めるための努力を積み重ねていく姿勢こそが信頼を生み、購買意欲につながるものと思う。
おわりに
コープとうきょうの組合員活動では、1979年以来、25年にわたって生産者と組合員の交流会を続けてきており、昨年は都内47会場で177産地・399名の生産者と2,557名の組合員、106名の職員が参加した。さらに、地域で取り組まれる産地見学会も好評で、参加者が多い。
また今年から、「パクパク食卓・フムフム食育」と称して、親も子供もみんなで「食」を学びあい、消費者として成長していこうという活動をすすめている。
全国の生協の組合員活動でも同様に、最も主要な活動テーマとして、活発な産地との交流が取り組まれている。
「食」を学ぶことは、すなわち「生産」を学ぶことでもある。こうした消費者としての活動が、日本の農業の健全な発展に少しでも貢献することができればと願っている。