デリカフーズ株式会社
経営企画部課長 大 崎 善 保
1.カット野菜の需要動向
現在、カット野菜は多くの食市場で活用されています。外食産業やコンビニエンスなどで用いられる業務用カット野菜からスーパーで販売されるサラダ、カット済み野菜、近年成長著しい給食・介護食用カット野菜など、様々な分野からカット野菜の需要は伸び続けています。また、このカット野菜事業に新規参入する企業も多くみられ、青果市場をはじめ、大手商社、異業種からも参入する時代になってきました。
しかしカット野菜事業は、品質や価格が日々変動する青果物を原料とするため、青果物の特性や鮮度、品質、需要動向の見極めが最も重要であり、工業や他業種の生産と比較しても、品質面、経済面から非常に難しい事業のひとつと言えます。そのため、広がりを見せるカット野菜事業の中で、多くの参入企業が品質面、経済面の問題をクリアできず、撤退を余儀なくされているのも事実です。
昨今、消費者の健康に対する関心は、以前の健康ブームとは異なり、更なる高齢化社会を背景に非常に早いスピードで高まり続けています。テレビや雑誌では連日のように、"食"に関わる情報が流れ、"食と健康"に関する消費者の知識も向上の一途をたどっています。
この消費者動向は、食に携わる我々カット野菜業界においても、非常に重要な位置付けとなってきます。また、それぞれの分野によってカット野菜の需要とニーズは変化しています。
一言でカット野菜といっても、マーケットによってニーズは様々であり、マーケット毎にニーズや動向を把握する必要があります。
1-1 外食の動向(ファーストフード、ファミリーレストラン)
これまでの日本の外食産業は、食味、品質、コストにこだわり、肉や魚をメインとしたメニュー構成で消費者の要望に応えてきました。しかし"食と健康"という消費者ニーズの変化にともない、多くの外食店が健康で安全な食事の提供に取り組み始めています。
メニューを飾る料理は、野菜中心のメニューへと様変わりし、いかにおいしく豊富に野菜をとれるかを消費者にアピールするなど、今や食の主役は野菜といっても過言ではないほどです。しかし多種多様化する外食業界のメニュー・食材はカット野菜の利便性から見ると、変化対応が非常に難しくなってきます。
今後の外食業界におけるカット野菜の需要は、業種・業態に応じて細分化されていくことが予想されます。カット野菜は単なる商品としての販売ではなく、それぞれの店舗環境(厨房施設、オペレーション、メニュー)に的確に対応していく必要があります。外食業界の変化に沿った、カット野菜の提案が非常に重要になってきます。
1-2 中食の動向(コンビニ)
中食市場においては、依然出店の続くコンビニエンスに後押しされ、コンビニベンダーを中心にカット野菜の使用率も高まっています。大量調理、大量消費に対応すべく、カット野菜の使用が進んでいますが、品質、特に安全面において、カット野菜に対する要求も日々基準値が高くなっています。
コンビニ関係のカット野菜評価は主に、「菌数の基準値」「温度管理」「生産管理」「品質管理基準」など、数値を用いた基準により評価が行われます。また、ハード面での検査、確認も行い、安全・安心面に重きが置かれているのが現状です。24時間営業、テイクアウト中心の販売形態ですので、当然の配慮とも考えられますが、次亜塩素酸ソーダの使用推進、食品添加物の使用など、食と健康と言う面から考えますと、その方向性は正しいと言い難い面もあります。
我々カット野菜業界としては、カット野菜に求められる評価基準を見定めた上で、より健康的でより安全なカット野菜の製造に努め、中食業界に対し、積極的に安全なカット野菜の製造方法を提案していく必要があると言えます。
1-3 内食の動向(スーパー)
今後業界の中で最も大きく変化するのは、スーパーだと思われます。核家族化、共働きなどにより、日本の主婦の平均調理時間は短くなる一方で、昔ながらの生鮮三品の売り場は、どんどん総菜売り場に取って代わっています。カット野菜も総菜売場や野菜売場の一画を占めるようになり、消費者にも認められつつあります。
もともとスーパーでのカット野菜は、調理時間の短縮、少量化などの利便性を重視に販売されてきました。そのため、品質・メニューに関しては置き去りにされた感があり、消費者の心を掴むことができずにいました。しかし、スーパーでのカット野菜も新たな販売スタイルに変化が現れ始めました。その切り口はメニュー提案です。
メニュー提案型でのカット野菜は、家族構成、調理時間によって様々な販売形態に変化します。サラダ用から、カレー用、鍋用、さらにはキット化商品と、単品ではなく調理対応型になってきました。スーパーでのカット野菜需要拡大には、消費者のライフスタイルに沿ったメニュー提案が必要であり、青果物売り場、精肉売り場などの枠を超えたトータルでの顧客満足を追求していく必要があります。
2.原料調達の動向
カット野菜事業における原料の調達は、品質面・経済面からみても事業の生命線であると言えます。また、顧客のニーズに応える為には使用原料の選択が重要となり、新たな流通経路の構築が必要となってきます。
ここではカット野菜事業だけでなく食品産業の動向から、国内外の青果物流通を考えていきたいと思います。
2-1.輸入野菜の動向
国内の野菜需要は、年間約1,600万トンあると言われておりますが、その内の半分強にあたります800~900万トンが外食などを含む業務用で消費され、残りの800万トン弱が量販店などで販売される一般消費者向けとなります。
中でも業務用の流通は競争が激しく、安全性や品質に加え、価格が最も重視される傾向にあります。コストの高い国内野菜から輸入野菜に切り替えられる食材も増えつつあり、平成16年1月~5月の生鮮野菜の輸入量は46万トン(対前年同期比133%)とその増加速度の速さが伺えます。
数年前まで、鮮度や輸送コスト、栽培技術の難しさなどから、日本の農作物の中でも唯一国際競争力があると言われた青果物においても、中国、韓国、ベトナム、フィリピンなどが日本をターゲットにした国策としての輸出に力を入れ始め、輸入野菜の技術水準が急速に高まったことも、急増の要因となっております。
2-2.国産野菜の動向
現在、日本の食糧自給率は、供給熱量ベースで41%と主要先進国の中では最低の水準にあります。国産青果物が評価を得る為には、生産サイドの生産性向上を追求し、消費者及び食品産業の納得が得られる合理的価格で、安全な青果物を安定的に供給することが基本となっております。
青果物の流通分野においては、農協(JA)の広域合併、食品産業による産直流通、農家のグループ化(農業生産法人化)等の新たな組織づくりが展開しており、これに応じて、青果物の流通もより多様化・広域化してきています。
一方、食品産業は、機動力、企画力、情報力等の流通分野の面で大きく成長してきており、産地育成にも貢献しています。青果物の安定供給という面において、食品産業は農業と並ぶ「車の車輪」として位置付けされるほど、今では重要な役割を担っています。
2-3.購買の動向
外食産業が青果物を利用する場合、「安心・安全面から国内産使用」あるいは「品質・味を重視して国内産使用」との考え方が根強くあります。その背景には、国産野菜の「鮮度の良さ」や輸入青果物と比較して品種や栽培方法、流通過程を確認しやすいといった「安心感」が国産青果物の優位性を形成していると考えられます。また、品種や栽培方法を、特定の産地や生産者等に指定した「契約取引」に取り組む外食企業も増えており、国産野菜への期待が高まっています。
一方スーパー、コンビニエンスでは、使用目的、調理方法から食材の選定にはいる動きが進んでいます。例えばサンドイッチに適したトマト、煮崩れし難いジャガイモなどがそれに該当し、国内外の区別は比較的少なくなっています。しかし、販売促進の面においては、北海道産使用など産地イメージを前面に押し出し、消費者のニーズに応えるメニューも展開しており、目的に応じた食材を上手に使い分ける調達方法が進んでいます。
カット野菜業界の中でも多くの企業が、お客様のニーズに応えながらも、日本農業の発展に貢献すべく、国内産青果物の使用を推進してきました。適地適作・旬などの面からみても国内産の青果物は日本人に最も適した食材であり、食と健康を考える上でも重要です。
今後の青果物流通は、我々カット野菜業界を含む食品産業が、積極的に青果物流通に参画し、産地と消費者を繋ぐパイプ役として消費者に貢献していく必要があります。また、このような川上から川下を繋ぐ取り組みは国内産地を推進する上で最も重要な課題であり、日本の農業に貢献するものだと考えております。
3.カット野菜の展望と生産地への提案
従来のカット野菜は、その利便性が高く評価され、成長を続けてきました。しかし、これからのカット野菜は消費者ニーズである、健康を柱に取り組んでいく必要があります。
昨今の健康志向において、野菜が本来持つ栄養素、効果効能が脚光を浴びるようになりました。一方、安全安心志向から有機野菜・特別栽培野菜が注目され、産地・生産者の情報公開が求められるようになりました。すなわち、高い効能と、有害物質の排除が同時に求められているということです。
しかし原料となる野菜が健康・安全を満たしていても、加工に問題があっては全く意味が無くなってしまいます。カット野菜は利便性ゆえに成長してきましたが、今後は製造工程の安全性、健康なカット野菜の提供に真剣に取り組んでいく必要があります。
3-1 疫学から学ぶカット野菜の展望
現在、日本は世界でも希に見る長寿国となりました。このことは長寿という人類の長年の願いからみれば、非常に喜ばしい事です。しかし一方では、生活習慣病をはじめとする慢性疾患、寝たきり、癌、痴呆等、多くの問題を抱えている事も事実です。
日本はこの先、かつて例を見ない高齢化社会を迎えようとしています。2000年以降、うなぎ上りに増え続ける"要介護高齢者"は2020年には500万人に達すると言われています。
アメリカでも同様の高齢化問題を抱えていますが、2000年以降、要介護高齢者が約1.5%づつ減少しています。これはアメリカの政府が官、学、民をあげて取り組んできた「ヘルシーピープル2000計画」「デザイナーフーズ計画」の成果のあらわれだと言われています。
アメリカには、約50年にわたって食生活及び検査データーを蓄積した"人間の疫学"があります。その疫学データーに基づき、約20年も前から取組んできたのが「ヘルシーピープル2000計画」「デザイナーフーズ計画」なのです。
ヘルシーピープル2000計画では、「健やかに老いるための食生活の提案」を、デザイナーフーズ計画では、「植物性食品による癌予防」を唱えたのです。言いかえればアメリカは国家をあげて"野菜を食べよう運動"に取り組んだのです。
また、医学会においても急速な変化が見られます。それは従来の病気を治す「治療医学」から病気にならないための「予防医学」の必要性が重視され始めたことによるものです。現在では病気のメカニズムも解明され、健康とは遺伝因子と環境因子とによって決定されることが明らかになっています。遺伝因子とは生まれながらにもつ遺伝子情報のことで、環境因子とは「食」と「運動」と「癒し」が大きく関与します。いずれも食による予防が重要であり、"食と健康"の図式がはっきりと現れてきます。
日本でも健康に対する関心は、非常に高まっています。スーパー、外食産業では既に"食と健康"をテーマに、売り場構成、メニュー開発に取り組んでいます。この"食と健康"に最も密接な関係にあるのは野菜であり、我々は野菜を通じて、今後国家の重要課題として取り上げられる31兆円の医療費削減に貢献していく必要があります。
3-2 産地と消費者への提案 ~野菜の評価基準を変えよう~
現状、青果物はA、B、Cまたは秀、優、良など、等級によって評価されています。同じ圃場で収穫されたにもかかわらず、その評価は"形"によってなされ、価格も等級に応じて決定されます。しかし、食(味・栄養)の面から見た野菜は、その形に意味はなく、栄養素または効果効能こそが大きな意味を持つのです。
では本当に「健康によい野菜」の評価基準を構築することは可能なのでしょうか。弊社では「野菜ルネッサンス」と称して、野菜の中身の特性および診断方法を研究し、野菜の評価基準を形から中身へ変える取り組みを進めています。ビタミン・ミネラル・酵素等の有効成分、残留農薬・硝酸塩等の有害成分を分析し、数値による中身評価が可能なシステムを構築しています。また、蓄積されたデーターを分析することで、時期・栽培方法・収穫後の保存や加工状況等によって成分に著しい変化があることがわかってきました。特に「旬」の野菜と、そうでない野菜との違いは顕著で、同じほうれん草を比較しても冬の旬の時期に収穫されたものと夏に収穫されたものでは、全ての比較数値において旬の優位性が認められました。また、慣行栽培、特別栽培の比較においても特別栽培ものの数値が高く、良い土、良い水、良い肥料で育てることが重要だという結果が数値としてはっきりと表れました。
野菜のビタミン・ミネラル等の栄養素は、サプリメントの数十倍の効果があることが疫学の研究により明らかになっています。野菜には抗酸化力、免疫力、解毒作用という優れた力が存在します。今後これらの機能を数値化し、効果の高い野菜が高く評価される時代にしたいと思います。
4.今後の見通し
ここまで述べてきたように、カット野菜事業を取り巻く環境は、非常に早いスピードで変化し、成長を遂げています。そこには、消費者を取り巻く環境、時代の変化があり、企業は常に消費者に貢献するよう成長を続けていかなくてはなりません。
近年頻発している食中毒、BSE、偽装表示などの様々な問題は、カット野菜業界を含む食品業界全体の食品に対する姿勢を問われているものであります。
現在、世界規模で問題視されている環境問題。人類が共通して求める健康。野菜はその両面に共通して非常に深い関わりをもっています。今後更にあらゆる面から野菜は注目され、間違いなく食の中心になっていきます。
我々食に携わるものは、事業を通して、日本農業の発展、国民の健康を真剣に考え、社会に貢献していく必要があります。時代背景と取り巻く環境を見定めたうえで、野菜産地から消費者の体内に野菜栄養素が吸収されるまでのトータルでのコーディネートが必要であり、川上から川下までが一体になって取り組むことで、カット野菜事業の繁栄、ひいては日本農業の発展に繋がるようにしていく必要があります。