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今月の話題


低コスト耐候性ハウスを活用した
トマト生産の取組み

栃木県農務部生産振興課


はじめに

 栃木県では、「地域が輝く首都圏農業の確立」を基本目標として、首都圏という大消費地に位置するという地理的優位性を最大限に活かしながら、米麦、園芸、畜産のそれぞれの特徴を活かした生産振興を図っており、特に、国際化や産地間競争の激しさが増している中で、足腰の強い園芸産地の育成を積極的に進めています。

 県内の野菜の産出額は68,774百万円(H14)で、うち36.1%に当たる24,796百万円を日本一を誇る「いちご」が占めています。これに次ぐ品目として「トマト、にら、なす、きゅうり、ねぎ」を「野菜重点5品目」に位置づけ、これらの品目を中心に先端技術の活用や施設化を推進するとともに、周年供給、高品質、低コスト生産体制の整備を図っています。

 なかでも、産出額7,809百万円でいちごに次ぐ本県第2位の「トマト」については、冬春トマト(促成栽培)が主力作型となっており、県内の全農協(10JA)で産地改革計画を策定し産地の構造改革に取り組んでいますが、県としても関係機関・団体と連携して「新2・6運動」(10aあたり12tの生産量で200万円の所得、糖度概ね6度以上、収穫期間6ヶ月、作付面積200ha、系統販売額66億円以上)を掲げ、積極的な推進を図っているところです。

1.低コスト耐候性ハウス導入の契機

 近年の輸入増加や価格の低下により、県内のトマト生産者も販売金額や所得が減少傾向にありました。そこで、県農業試験場経営管理研究室においてトマト農家の経営実態を詳細に分析したところ、経営が成り立つためには、(1)単価を向上する(309円/kg以上)、(2)収量を増加する(単価226円(H12)の場合18.4t/10a以上)、(3)経営規模を拡大する(単価226円(H12)の場合、単収12tで90.7a以上)という戦略のいずれか、もしくはこれらを組み合わせて経営改善を図っていく必要があることが示されました。

 また、同野菜研究室でも、従来よりも軒高の高いハウスと直立にトマトを誘引する栽培法(以下、「ハイワイヤー栽培」という。)の組み合わせにより、採光性や作業性等が改善され、年内から収穫が可能な越冬作型に取り組むことで、収量、品質、労力面で大きな向上が可能であることを明らかにしました。

 一方、国は、急増する輸入野菜に対抗し得る野菜産地の育成を図るため、平成14年度に「輸入急増農産物対応特別対策事業」を創設しました。栃木県では、県農業試験場の研究成果に基づいた栃木県に適した仕様の「低コスト耐候性ハウス」を、国庫事業を活用して導入することで県内トマト産地の構造改革の推進を図ることとし、関係機関や生産者団体と連携して推進を図ったところ、過去2年間に15.5haの低コスト耐候性ハウスが導入されました。(表1)

(表1)低コスト耐候性ハウスの導入状況(平成14~15年度)

2.栃木県の低コスト耐候性ハウスの特徴

 低コスト耐候性ハウスの導入に当たっては、軒高を高くすること、ハイワイヤー栽培に対応できるハウスとすることを基本に、周年栽培を考慮したものとなっています。

 主な特徴は、(1)間口を従来の6mから9mに、奥行きスパンを2~3mから4mに広げる(低コスト化)、(2)軒高を従来の2.5mから3.8m程度に高くする(採光性の向上、周年対応)、(3)基礎のベースプレートを大きくする(耐候性)等であり、これらにより本体価格で従来の7割の価格で導入が可能となりました。(写真1)

(写真1)
 
 

 

栃木県の低コスト耐候性ハウス

従来のハウス

(写真2)

ハイワイヤー栽培(直立誘引)と高所作業台車

 ハイワイヤー栽培の開始に当たり、トマトの管理作業、収穫作業を高いところで行う必要があります。このため新たに開発した「高所作業台車」を導入すると共に、栃木県農業試験場や関係団体等が共同開発したワイヤー、支持器具など、より軽量で簡易な作業が出来る誘引器具を導入しました。(写真2)

3.ハウス栽培導入の事例

 栃木県で最も導入の多いトマトについて、いち早く導入した下野農協の事例を紹介します。

(1)作型の特徴

 栃木県のトマト栽培は、2月から収穫が始まる促成栽培の作型(図1)がほとんどであり、下野農協管内(栃木市、壬生町)の主力作型も同様でした。しかし、下野農協では、輸入の増加、単価の低下などの危機感を背景に、「低コスト化タイプ・契約取引推進タイプ」の産地改革計画を策定し、農業試験場の研究成果などを参考に、低コスト耐候性ハウスの導入による作型の前進、延長による収量増加と品質向上を目指すこととしました。

 平成14年度の輸入急増農産物対応特別対策事業を活用し、農協管内に約3haの低コスト耐候性ハウスが導入され、平成15年から本格的な越冬栽培を開始しました。

(図1)低コスト耐候性ハウス導入による作型の前進

(2)導入の成果

 高軒高の低コスト耐候性ハウスの導入とハイワイヤー栽培により、(図1)に示すように収穫始期が70日程度前進しました。また、(図2)に示すように、品質面、作業性の向上など大きな改善が図られました。本格的な栽培が開始されたのは平成16年度からとなりますので収量等の正確なデータは未集計ですが、ハウスを導入した農家からの聞き取りによると、導入前の平成15年産では収穫開始(2月初旬)から4月までの収量が10aあたり7t弱だったのに対し、導入後の平成16年産では収穫開始(11月下旬)から4月までの収量が10aあたり15t程度と大幅な収量のアップが実証されています。

(図2)従来の栽培法との比較 従来の栽培法
低コスト耐候性ハウス(高軒高、ハイワイヤー誘引)
従来型の斜め誘引

(トマトの果実位置に注目)
すでにトマトが地面についている



(収穫作業の姿勢に注目)


空洞果乱型果の発生
特に厳寒期の時に多い


ハイワイヤーの誘引
 

効果  
・スレ玉、灰色かび病等の
 発生が減少
・葉数が確保される
・光合成量が多くなる
(トマトの果実位置に注目)
地面より40cm~50cmの位置にある

 

 

効果  

収穫作業・管理作業の軽減
(収穫作業の姿勢に注目)
 

 

 
正常果、A品率が高くなる
葉数確保により高糖度

 

(3)課題

 越冬栽培は、栃木県内においては新しい作型であり、技術面でのいくつかの課題があります。まず、育苗が、8、9月の高温期にあたり、苗が徒長しやすく、育苗ポット内の根が障害を起こしやすいため、遮光などの高温対策が必要となります。

 また、本圃においては、高軒高の低コスト耐候性ハウスを活用した越冬栽培に適した温度管理、生育に応じた肥培管理・水分管理技術を確立していく必要があります。また、従来は茎を斜めに誘引していたものを、高軒高を利用し直立に誘引する方法を新たに採用することにより、採光性が向上し、空洞果の発生が減り玉伸びが良くなるというメリットがある反面、高所作業台を利用した高所でのつる下ろし作業が必要となるため、負担の少ない誘引技術、作業方法の確立が必要です。

4.今後の展開

 下野農協を始めとする低コスト耐候性ハウスを導入した成功事例を契機として、県内の他の産地においても積極的に導入し、産地の構造改革を進めようという機運が高まり、平成14、15年度の2カ年間で15.5haが導入され、さらに平成16年度においても6地区で約5haの導入が計画されています。また、なす、いちごで導入された低コスト耐候性ハウスでも、収量の増加や品質の向上などの効果が現れており、産地改革に掲げる目標を達成するモデルとしての波及効果は大きいと思われます。

 今後は、これらの事例が産地や農家経営にどのように影響を及ぼしたのかを詳細なデータとして蓄積し、県内の他地域の産地改革に活かすとともに、消費者、実需者等のニーズや地産・地消に対応した生産・流通体制の確立を図っていくことが必要です。



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