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地場産野菜の学校給食への活用と食育への取組み

    群馬県富岡市学校給食センター 
       学校栄養職員  原 友 子  
(前 群馬県新町 学校給食センター 学校栄養職員)


1 はじめに

 新町は、群馬県南西部に位置し、東西2.8キロメートル、面積3.74平方キロメートル、と県下一小さな町です。JR高崎線や国道17号線が町の中心を東西に走り、関越自動車道のインターも近いため、内外中核都市への交通の便が良くベッドタウン的色彩が強くなっています。
 そして、人口12,467人と県内最高の人口密度を有しています。
 経営耕地面積は、36ヘクタールで、町の約10パーセントしかありません。農家数は78軒ほどですが、小規模農家が多く、専業農家は4軒となっています。
 このような小さな町で、地物野菜を学校給食にとりいれることは無理ではないかと思いましたが、逆に狭いということを利用し、地物の野菜を導入することにより、地域との連携を深めることができるのではないかと考え、昭和61年から学校給食に地場産野菜を取り入れました。
 17年も経過した現在も、地場産野菜は健在で、食育の重要性が叫ばれている現在、地場産野菜の食育に対する影響力の大きさを実感しています。

2 新町学校給食センターの概要

1)開設    昭和59年4月
2)給食人員  小学校 2校 765人
          中学校 1校 389人
3)職員構成  所長1名、学校栄養職員1名、調理員(パート8名)、嘱託1名
4)給食費   小学校 月額4,000円
        
中学校 月額4,700円

3 給食センターの取組み

 耕地面積0.3ヘクタール未満の農家が多く、しかも従事者は当時で60歳代と、不安な点もありましたが、少量でも使用することは意義があると考え、導入当初は2~3品を月に数回使用する程度でした。その後徐々に品数は増えて、現在は年間野菜使用量の約40%までに増え、納入品目も季節の野菜の他に柿やキウイフルーツなどの果物も入り30種類以上となっています。
1)購入方法
 ①購入先  新町第7区農事支部青果部
   部員23名(部長1名・役員6名)  平均年齢74歳(平成15年現在)
 ②発注の流れ
  使用月の前月初めに購入予定数量を部長に連絡→役員に連絡部員の家を回り出荷できる日を聞く部長責任で出荷配分をし、納入可能な野菜をセンターに連絡→部長に発注書を渡す→納品伝票を作成し役員に渡す納入者の一覧表をセンターに届ける。
  アンダーラインが農家の担当です。

4 学校での取組み
1) 学級活動(学級生活の充実と向上を目指す活動) 
 この時間のねらいの一つの、「食事と健康との関係の理解と、興味関心の高揚」と いうことに沿って、学級担任と年間計画を立て、1年生から6年生まで年間1~2回担任 と組んで指導をしていますが、どの学年も地場産の野菜を入れています。

 小学校4年生の学級活動学習指導案です。(このような指導案を自分が作成します。)

○平成15年12月5日 午前11時40分~12時25分

指導過程

4校時に指導をし、そのまま教室で一緒に給食を食べながらの指導へとつなげています。

2)生活科
 小学1年生では、生活科で「給食を作る仕事」についての学習があります。
 毎年1年生が給食に慣れてきた5月に、給食センターの見学をします。
 この時に畑の見学もしますが、農家の方に先生になっていただき、農家の方が「葉っぱを食べる野菜は何がありますか?根っこを食べる野菜は何がありますか?」と質問をして畑で育っている野菜を観察させます。このとき子供たちは、目をキラキラ輝かせながら「玉葱は根っこだぞ、でも白いのはおかしいな」などと言いながら観察したり、また農家の方が大切に野菜を育てていることを知ります。
  午前中の90分間を指導の時間とし、学校に帰って学習したばかりの給食を食べます。

小学1年生の生活科の時間
(畑の前で農家の人の話しを聞いています。)


3)社会科
 新町独自の社会科の副読本の「私たちの暮らしと農家の仕事」という中に、給食で食べている野菜はどこで作られているか調べたり、農家の人はどのように仕事を進めているのか、農家の人に聞きながら,野菜作りのこよみを作り、野菜を栽培することはたいへんなことだと気付いたり、新町で採れる野菜の地図を見ながら話し合い、自分たちの町の土地のようすを学びます。
4)バイキング給食
 小学6年生は6年間の指導のまとめとして、卒業バイキングを実施していますが、どの児童もそれぞれの食品の働きを理解し、野菜もたっぷりと取っています。

 小学6年生のバイキング給食
(食品の働きを考えながら給食を選んでいます。)

5 地域との連携

1)小学1年生の親子給食
 児童が家族と一緒に給食を食べます。毎年6月に実施していますが、入学して間もないためか、家族の誰かが参加し、児童1人だけということはありません。
 私の指導の時間も計画に入っているのですが、畑の見学をしてから親子給食をするので児童が逆に親を注意する場面を見ます。ある時、母親がニラを残しました。私が注意する前に、児童が「このニラはおばあさんが一生懸命育てたのだから、残してはかわいそう」と言いました。母親はきまり悪そうにチラッと私を見てから口に入れました。
2)学校給食群馬の日
 群馬県では、平成13年から給食を通して、地域への関心を深めるということをねらいとして、10月24日を「学校給食群馬の日」と定め、学校給食に県内産農産物を使い、これを媒体として学校や地域に働きかけていますが、新町ではこの日に試食会を開き、農家の方に話をしていただいたり、親子料理教室でこの日のメニューを作り、野菜は採りたてのものを納めてもらい、新鮮な野菜を切るときの手応えから親子に体験してもらうなど、地域にもたくさん働きかけています。
3)保護者の給食センター1日体験
 小学校は10月、中学校は5月に保護者数人ですが、朝農家の方が野菜を納めるところから始まり、調理作業、午後の洗浄作業まで1日体験していただきます。


     学校通信から抜粋(保護者の感想)

4)農家の婦人の給食作り体験
 野菜を納めてくださっている、農家のおばあさんやお嫁さんに給食作りを体験してもらい、自分たちが育てた野菜が宝物のように扱われているのを見たり、子供たちが喜んでいるのを見てもらいます。ほとんどの農家の方に体験していただき、「はりあいがある」「給食センタ-に迷惑がかからないいい物を納めたい」などの感想をいただきました。
 学校へは「今日の柿の皮は、農家の方が給食センターでむいてくれました。感謝して食べてください」などと農家の方をより身近に感じられるように知らせています。

5)町の健康祭りへの参加
 町の健康祭りに学校給食コーナーを設け、地場産野菜を使った給食のレシピの紹介と試食を行っています。

6 地場さん野菜を使用しての成果

1)作った人が身近なため感謝の気持ちが育ち、給食の残量が減りました。
2)地域との交流が深まり多くの人と関わりが持てるようになりました。
3)学校、地域で学校給食に対する理解が深まりました。
4)老人の生きがいや栽培方法、品種等に改良がみられ、農業技術の向上や充実が図られました。
 農家の方の孫にあたる子供たちは、自分のおじいさんやおばあさんが作った野菜を誇りに思っていて、給食の時間には「今日のキャベツは俺のじいちゃんが作ったのだから、残さず食べてくれ」と言っているのを聞いたり、おばあさんが野菜の納品に来て、「おばあちゃんの作った野菜が給食に出ると、みんながおいしいと言って食べてくれるので、自分も残さず食べている」と孫が言ってくれると、嬉しそうに話すのを聞いていると、今私たちが忘れかけている大切なものがここにあるように思えます。

7 課題

 17年も経つと、当然後継者の心配が出てきます。現在ほどの規模では出来なくなると思いますが、息子さんが退職され後を継いでくれた農家やお嫁さんが子供に手がかからなくなったので、野菜作りを始めた農家も出てきました。今後もあまりよくばらずに続けていきたいと思っています。

8 おわりに

 地域で育った野菜は人の心を動かし、人の心を結びつけるという、導入当初は思ってもいなかった力に驚いています。
 学校での食育にも、すんなりと入り込めたのも、地場産の野菜の力を借りてのことでした。
 給食センターから野菜たちがスクスクと育っているのが見えます。どの野菜もキラキラと輝いています。この野菜たちを愛しいと思う心が学校給食を通して育っていくことを願っています。


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