[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

今月の話題


兵庫県内の地産地消の取組み

兵庫県農林水産部


1 はじめに

 偽装表示による不安の増大、新たな病気や大規模な食中毒の発生、「食」と「農」 の距離の拡大など、最近の食と農をめぐる状況は、様々な不安がとりまいています。
 近年、これらを背景に健康面や文化面、環境保全等をテーマとした運動が各地で広 がりを見せ、「身近な食」のあり方に関心が高まっています。「地産地消」はこうし た活動の実践手法として位置づけられています。
 様々な地形と気象条件に富んだ兵庫県内における地産地消の取り組みをご紹介します。

2 地域の取り組み

1)農産物直売活動

 農産物の直売活動は、地域住民が「地産地消」を具体的に実践・享受できる代表的な活動の一つです。
 県下には300か所を超える農産物直売所があり、都市部でも量販店等でインショップの開設が進むなど、年々、直売所の設置数や売上高も増加しており、消費者が手軽に地場野菜等を購入できる環境が整いつつあります。 
 こうした直売活動が拡大する中、神戸市の郊外に位置する西区では、地域住民やJA兵庫六甲が手掛ける地域通貨「たべもの通貨KOBE」の試験運用が行われています。

 
  
   「たべもの通貨KOBE」の表面(上)と裏面(下)

 この地域は、キャベツ、トマト、ほうれんそうの国指定産地を有し、野菜、水稲、果樹から畜産まで様々な農業生産が展開され、こまつな、ちんげんさい等の軟弱野菜を周年にわたって神戸・阪神間の消費地に供給しています。
 近年、都市部のベッドタウンとして開発が進む中、今後も安定した農業生産を継続していくためには、きれいな水、土、大気といった豊かな自然を守るとともに、地域住民に地域農業への理解を深めてもらい、地元農産物を優先的に購入する等、地産地消の定着・拡大が必要となっています。
 農産物の生産者グループが運営する4か所の農産物直売所と地域の連合婦人会、JA兵庫六甲でつくる運営委員会では、農産物の安定供給と地産地消を目指した、農産物を担保とする「農産物本位制」の地域通貨を発行し、資源節約のためバッグ持参で直売所に買い物に来たり、地域イベントで清掃に協力した人等に1~2枚の地域通貨を振り出しています。1枚の単位は50円相当で、農産物直売所で500円以上の買い物をすれば、代金の1割を上限にこの通貨が使えます。
 運営委員会では、試験運用を通じて、・地産地消の促進、・安心で安全な農産物を提供する生産者であることのPR、・直売所の販売高の向上-の3点について、地域通貨がもたらす効果を調査することにしています。

2)学校給食

 県下85市町のうち82市町で学校給食を実施していますが、山崎町や三田市等の十数市町では、生産側と定期的な協議機会を設ける等、以前から地場野菜の給食利用について積極的な取組を行ってきました。
  県南部の播磨平野に位置する稲美町の学校給食では、子どもたちがおいしく・楽しく・満足して食べられる魅力ある学校給食を目指し、食事内容の多様化や食事に対する関心を高める工夫とともに、安心して食べられるものとして、できるだけ地元産のもの、旬のもの、新鮮なものを給食食材に使用しています。
 稲美町は都市近郊ながら、キャベツ、トマトの国指定産地をはじめ、数多くの園芸作物や良質米の生産が盛んな田園地域ですが、意外と学校給食に使われている食材の名前や姿を知らない児童も少なくありません。
 このため、学校栄養士の発案で、児童が本物の素材に触れられるようにと、給食で使った旬の野菜や果物を「元気号」と名付けた木箱製のミニ台車にのせて各クラスを巡回させています。この台車には根付きの野菜等の実物とともに、生産者氏名や栄養価、名前の由来等を解説したプリントが一緒にのせられ、教室で先生や給食委員による説明が添えられます。
 稲美町を管内におくJA兵庫南では、平成4年度から地元産米を学校給食に供給しており、『地元産野菜も』との学校栄養士の要望には、規格揃いや安定供給等を確保するために、近隣卸売市場に出荷する組合員の中で品目毎に一、二を競う生産者に協力を求めるとともに、学校栄養士との連絡調整、供給価格の設定や集荷・配送方法等を取り決めて平成7年度から供給を開始しました。
 当初は、トマト、アムスメロン等数品目でしたが、現在では14品目もの地元産野菜等が学校給食に使用されています。
 また、総合学習の授業や学校給食週間では、子どもたちと生産者が生産ほ場と小学校を相互に訪問して交流を重ねる等、子どもたちにとっては、学校給食がより身近な「食」の一つになっています。



3)伝統野菜
ア 兵庫の伝統野菜
 最近、店頭で京野菜、加賀野菜、なにわの伝統野菜など、少し風変わりな野菜が販売されています。世は伝統野菜ブームです。
 もともと国内の野菜は、明治以前に中国などから伝来し各地で自家用として栽培されたものと、明治以降に西洋野菜を中心に導入され、販売目的に栽培されたものがあります。

 これらが各地の気候風土により個性ある形態となり、伝統野菜などと言われるものになったのでしょう。
 本県にもかつて個性豊かな野菜がありましたが、「量」や「時期」を求める大規模流通などの流れにより、大半が姿を消しました。

 その後、人は「種類」「美しさ」「おいしさ」なども求め、最近では、「安全」「安心」「機能性」「健康」そして「食育」へと野菜に対して新たな価値を要求しています。

 このような今、一度は姿を消した伝統野菜が新しい切り口から価値が見いだされ、単なるかつての品種ではなく、なつかしいけど個性豊かな新品種となってきています。
 そこで、兵庫県では「おいしさに安心添えたひょうごの野菜拡大作戦」の中で、15年度、新たに伝統野菜を地産地消の素材として柱立てして、野菜振興を図っています。













兵庫の伝統野菜を掲載しているHP
http://web.pref.hyogo.jp/nosan/yasai/index.htm

イ 地産地消の素材「しそう三尺」

 県の西部に宍粟郡があります。かつて宍粟の野菜といえば誰もが「しそう三尺(きゅうり)」と答える時代がありました。昭和30年代には80ヘクタール以上栽培され、国の指定産地にもなっていました。





「しそう三尺」

 しかし、長さが40センチ以上にもなり、曲がりやすく箱詰めしにくいことや、消費者の嗜好が短いものへシフトしたことなどで年々減少し、姿を消してしまいました。
 この地域は、良食味米、酒米、黒大豆といった特産物により振興を図ってきましたが、近年、地産地消により産地振興を図ろうと平成12年に直売施設「旬彩蔵」をオープンさせました。その目玉として個性豊かな地域特産野菜しそう三尺に目をつけ、復活させました。




しそうふれあい市場「旬彩蔵」
http://ikiiki.hyogo.net/cgi-bin/db2www.exe/ja_top.d2w/report?Jaid=nisi

 今では浅漬け等の加工品も店頭に並び、直売所の「生きた看板」として地域の地産地消の推進役となっています。

4)コープこうべとおおや高原の県内連携

 環境に配慮した有機軟弱野菜の生産を行うとともに、その有機農産物を安定的に県民へ供給している「おおや高原」の取り組みを紹介します。
 おおや高原は、兵庫県北部の但馬地域南西部の養父郡大屋町に位置し、標高300m~700mで、夏季の冷涼な気候を活かした野菜、花き及び畜産の経営が行われています。
 有機軟弱野菜への取り組みは、雨よけ施設の導入により、平成3年度から始まり、集出荷所やたい肥舎の整備、定量出荷体制の整備を行い、生産拡大を進めてきました。
 また、県内を活動範囲とする「コープこうべ」と提携して、県民への有機軟弱野菜の安定供給を図っています。
 特筆すべきは、おおや高原では、単なる有機軟弱野菜の産直提携だけでなく、消費者に対しての有機軟弱野菜への理解を深めるため、コープこうべの組合員を中心とした県民と産地見学や農作業体験等の交流を行っていることです。
 また、安定供給を支えるしくみとして、労力のかかる軟弱野菜の調整・包装作業を町内の高齢者が行い、また出荷ケースの組立て等の作業を町内の障害者施設から派遣された障害者が行っています。雇用促進や生き甲斐発揮の場にもなっているのです。
 このように、「おおや高原」における有機軟弱野菜の生産が、県民への安全・安心な農産物の提供に終わるのでなく、有機野菜の生産に対する消費者の理解と、地域の活性化、地域の発展にも貢献しています。

3 全県的な取り組み

1)地産地消いきいき運動

 JAグループ兵庫では、1990年代初頭から展開してきた、農産物生産・流通を中心とした「いきいき農産物づくり運動」を発展させ、地域の生産者と消費者の信頼関係の構築と共生共存意識の高揚を大きな運動の柱にして、新たに平成14年度から「地産地消いきいき運動」に取り組んでいます。

   いきいき運動の展開方向
角丸四角形: ◎農業生産力の確保と地域特産物の育成
・地域の農業生産力の確保
・多品目・周年供給に対応できる体制の整備
・地域特産物の育成
・地域特産加工への取り組み
◎地域内流通の活性化
・ファーマーズマーケットの充実
・量販店への地域農産物供給
・学校給食への地元農産物の供給
◎環境の保全と地域循環型農業の展開
◎食の安全と健康維持
◎JAとしての取り組み体制
JA兵庫中央会では「地産地消」の考え方を広く一般消費者に普及させることを目的として、啓発パンフレット等の作成・配布のほか、フォーラムの開催、農産物直売所の運営改善指導、学校給食での地域農産物利用の促進、地域段階での実践活動への支援などを行っています。

 一般消費者を対象とした啓発活動としては、2000人を集め、「JA地産地消フォーラム2003 ひょうごまるごといただきます!」を平成15年12月12日に開催しています。

JA地産地消フォーラム2003(神戸国際会館)

 今回は「家族の健康」をテーマとし、兵庫県健康財団の家森幸男会長による「元気な野菜で健康づくり」と題した基調講演では、有名な長寿地域の紹介と兵庫県の地域性を踏まえて、地場野菜等を中心とした食生活と健康の密接な関係を参加者に紹介いただきました。
 また、漫才師の宮川大助・花子さんらによる「わが家の味がやっぱり一番!」では、食の思い出やこだわりを楽しく披露していただき、県内在住の料理研究家、坂本廣子さんには「地産地消いきいきクッキング」として、県内各地域の野菜や特産物を紹介しながら、旬の地場野菜を使った料理の実演やオリジナルレシピを提供いただきました。
 このほか、サブ会場では地域JAの出店ブースを設け、参加者との楽しい会話も交わしながら、直売所から直送された地場野菜や加工品、米粉パンなどの展示販売を行いました。
 また、フォーラムの様子を収録した特集記事を神戸新聞紙上に掲載し、広く県民に地産地消運動の普及を図ることとしています。

2)ひょうご安心ブランド

 「食」への信頼が揺らぐなか、「安全で安心できる農産物を食べたい」という消費者の声に答えるとともに、「県民の皆さんに地元兵庫の安全・安心な農産物を届けたい」「安全な農産物をつくるための取り組みを正しく伝えたい」という生産者の思いから「ひょうご安心ブランド」は平成13年に誕生しました。
 「安心できる農産物とは何か」を食べる人の立場で考えると、栽培者の顔が見え、農薬などの化学物質に汚染されていない農産物が求められていると思います。特に残留農薬については一般的な減農薬栽培などの農薬の使用回数をただ単に減らしたものではなく、食べる時点で農産物に農薬が残っていない、もしくは国が安全と認める基準(※食品衛生法の残留農薬基準)を大幅に下回っていることが大切だと考えています。
 また、感受性の高い子供や抵抗力の弱いお年寄りにも安心して食べてもらえる農産物づくりには、より厳しい基準を設け、その基準をクリアしているかを産地段階で確認する仕組みづくりが必要となります。

【認定マーク】

安全安心な大地とそこから芽生えた作物、消費者・生産者の信頼を表現しています

 

テキスト ボックス: 県内生産者テキスト ボックス: 消費者(県民)















 
 そこで、「ひょうご安心ブランド」は農薬を使用した場合、農薬残留が国基準の1/10以下であることを確認し、その栽培過程を正確に記録するとともに、それらの情報を開示することを義務付けています。














学識経験者と消費者代表による現地調査

 現在、73産地40品目を認定し、今後、人と環境にやさしい栽培方法を県下全域に広げ、品目や生産量を更に増やして参ります。















「ひょうご安心ブランド」の販売

ひょうご安心ブランド農産物の特長
人と環境に安心な栽培方法で育てました
  化学肥料、化学農薬の使用を極力削減し、健康な  土づくりを行っています
  自主検査により安心を確認しています
  農薬を使用した場合、国基準の1/10以下であることを確  認しています
  安心が見えます
  栽培履歴、自主検査結果などを公開します 
















4 おわりに

 地産地消は、生産から消費に至る過程が地域で完結することから、生産者や消費者を含め地域の自主性が発揮できる仕組みであり、地産地消の取組を通じて、生産意欲の向上、安全な食生活の実現及び自給率の向上等が期待されます。
 県では、柔軟で幅広い地産地消の取組が広がり、地域住民の主体的な活動を促すよう、県下各地域の農林水産振興事務所・農業改良普及センター等による支援や各種施策の活用を図るとともに、地域間の連携や均衡を図るためのシステムづくりを進めています。
 当面の重点推進事項としては、・農産物直売所等を通じた新鮮で安心な旬の農産物の供給拡大、・学校給食への地域農産物の供給拡大、・県産農産物の県域流通や地場加工による県内消費の拡大-の3項目について取組の強化を図っています。
 今後、生産者と消費者の顔が見え、共に支え合う持続的社会の実現を目指して、地産地消を展開してまいります。



元のページへ戻る


このページのトップへ