(1)宮城県農業に関する情勢
宮城県(以下「本県」という)の農業は、東日本大震災からの創造的な復興により、大区画農地の整備が進むとともに、100ヘクタールを超える大規模な土地利用型農業法人や、高度な環境制御技術を導入した先進的施設園芸法人が誕生してきました。一方で、農家数の減少と高齢化は進行しており、新型コロナウイルス感染症拡大による需要の低迷に加え、国際情勢などを背景とした資源高や円安などによる資材価格の高騰により、農業を取り巻く情勢は厳しさを増しています。
本県の農業産出額は、東日本大震災が発生した平成23年までは減少傾向にありましたが、現在では震災前を上回る水準まで回復しています。産出額の構成比では、「ひとめぼれ」「ササニシキ」「だて正夢」「金のいぶき」などのみやぎ米と、全国で唯一肉質等級が最高ランクの5等級のみという厳しい基準を持つブランド牛である「仙台牛」に代表されるように、米と畜産の割合が多く、この2分野で農業産出額の8割を占めています(図1)。
(2)宮城の農業の将来像
本県の農業・農村の振興に関する基本的な計画である「みやぎ食と農の県民条例基本計画(第3期:令和3~12年度)」においては、全国トップクラスの大区画水田整備率や、春先の日射量が豊富で気温が低く、夏場も涼しい気候・立地条件を生かし、アグリテック
(注)による労働生産性の高い水田農業や畜産経営を展開するとともに、食品産業と連携しながら園芸の生産を拡大することとしています。
注:農業に導入されるスマート農業技術を含むICT(情報通信技術)などの先進技術。農作業の省力化、軽労化を図る。
水稲については、今後も主食用米の需要の減少が見込まれることから、その栽培面積を縮小する一方で、主食用米以外の加工用米、備蓄米、新規需要米(飼料用米や米粉用米、輸出向けなどの新市場開拓米)の栽培面積を拡大し、実需者のニーズに対応した米づくりを推進しています。
また、水田のフル活用を図るため、
暗渠排水を整備した汎用化水田において、麦類や大豆のほか、加工・業務用ばれいしょやたまねぎ、キャベツなどの園芸作物への作付け転換を図るとともに、いちごやトマト、きゅうりなどの施設園芸において、高度な環境制御技術の取り組み拡大による単収の増加を推進し、園芸産出額の倍増を目指しています。
(3)農業分野における技術革新
農家数の減少など生産現場での人手不足が深刻となる中で、本県においても、農業にAI、IoTといったテクノロジーを導入して課題を解決するアグリテックの取り組みが進んでいます。例えば水田作では、営農データを管理・分析することにより、栽培管理を高度化・最適化できる「経営・ほ場管理システム」や、水田の水管理を遠隔または自動制御できる「水管理システム」などの技術が、大規模な土地利用型農業法人を中心に導入されています。
また、傾斜地でも利用可能な草刈機や、ドローンによる防除などの技術は、平坦地域だけでなく、中山間地域における農作業の負担軽減や作業時間の削減などの効果が期待されています。
さらに、夏季は比較的冷涼ですが冬季は温暖で降雪が少ない宮城県の気象条件が施設園芸に適していることから、本県は、養液栽培面積、環境制御装置設置面積とも全国トップレベルです(写真1)。東日本大震災からの復興を成し遂げたいちごや、全国1位の生産量を誇るパプリカ(写真2)などで実証されている通り、高度な環境制御技術の普及・拡大と定着により、先進技術を駆使した施設園芸を推進しています。
(4)「宮城県RTKシステム」の整備
農業者の減少や高齢化が進む中で、労働生産性の向上や後継者などへの円滑な技術継承を進めるため、さらなるアグリテックの推進に当たり、本県は令和4年度にデジタル田園都市国家構想推進交付金を活用して、ほぼ県全域を受信範囲とするRTK基地局を7カ所に整備し、令和5年4月1日から運用を開始しました(図2、写真3)。RTKシステムは、GPSなどの人工衛星から得られる位置情報を、より精度の高い情報に補正し、数センチ単位で機械作業ができるシステムです。農業分野では、トラクターや田植機などの自動操舵や、ドローンの自動飛行などで利用されています。RTKシステムでは、これまでよりも高精度な作業ができるため(写真4)、作業の省力化や負担軽減、生産性の向上につながります。RTKを利用したスマート農業に取り組むに当たっては、情報通信のインフラ整備が不可欠で、自費で基地局を設置するか、民間通信サービスを利用する必要がありましたが、農家の費用負担軽減や事務手続きなどを減らしてスマート農業の普及を加速化させるため、本県が基地局を設置することとしました。本県全域をカバーするRTK基地局の整備は全国的にも珍しい取り組みで、現在の利用者は農業法人を中心に130者を超え、トラクターや田植機、ドローンなどの自動運転に利用されています。自動操蛇システム導入により耕起作業時間が2割削減され、また、直線的な
畝立てによる中耕などの管理作業のしやすさや、肥料や農薬の重複散布回避によるコスト削減が実現したことで、利用者からは「省力化や効率化が図られ、心身ともに楽になった」「農業法人の若手社員のやりがいにつながっている」との声もいただいています。なお、年間の利用料金は1件当たり税込2万円(2件目以降は税込1万円)です。
(5)スマート農機の導入支援
アグリテックの普及・拡大に当たっては、スマート農機の導入コストが課題となっており、これまで国庫補助事業などを活用しながら導入を支援してきました。令和4年度にはこのRTK基地局の整備と併せて、約80経営体に対し、自動操縦システムやドローン(写真5)などの導入補助も行い、県内におけるスマート農機導入件数の増加につなげました。補助に当たっては、RTKシステムの利用を事業要件にするとともに、導入後3年間の取組状況報告を求め、作業時間の短縮や作業負担の軽減度合いなどを確認することとしています。