(1)今後20年を見据えて予期される課題
今後20年を見据えて予期される課題として、大きく五つのポイントが挙げられます。
1点目は、平時における食料安全保障リスクです。世界的な食料需要が高まる一方で、気候変動などによる不作、他の食料輸入国が現れるなどの状況において、安定的な輸入にも懸念が生じています(図1)。さらに、国内においても、経済的な理由、または食品アクセス上の理由により、質・量的に十分な食料を確保できない国民が増えつつあります。
2点目は、国内市場の一層の縮小です。人口減少が本格化し、国内市場の縮小は避けられない状況となる中、国内市場だけでなく海外市場も視野に入れた農業・食品産業への転換が極めて重要となります(図2)。
3点目は、持続性に関する国際ルールの強化です。食品産業においても、原料調達において環境や人権への配慮、食品ロスの削減などの持続性の確保が求められるようになっています。このような取り組みは企業評価の重要な判断基準となるだけでなく、諸外国の規制・政策にも考え方が反映されていくことが見込まれます。このようなルールの下でも市場から排除されない農業・食品産業を主流化していく必要があります。
4点目は、農業従事者の急速な減少です。農業者の大幅な減少が予想され、さらには雇用労働力についても全産業間で獲得競争が発生することが予測されます(図3)。こうした中、少数の経営体が、限られた資本と労働力で国内の食料供給を担うべく、生産性の向上が求められます。
最後は、農村人口の減少による集落機能の一層の低下です。自然減による農村人口の急減が避けられない中、農業インフラはおろか、集落機能の維持さえも困難となる地域が出てくることが見込まれます(図4)。
(2)基本理念の見直しの方向
前述の課題を踏まえて、現行基本法の基本理念について、次の四つの論点から見直しを行うこととされています。
第1に、「国民一人一人の食料安全保障の確立」です。食料安全保障を、不測時に限らず「国民一人一人が活動的かつ健康的な活動を行うために十分な食料を、将来にわたり入手可能な状態」と定義し、平時から食料安全保障の達成を図ることとしています。さらにこのためには、国内農業生産の増大・輸入の安定確保・備蓄の活用による食料の安定供給、食品アクセスの改善、海外市場も視野に入れた産業への転換、適正な価格形成に向けた仕組みの構築を行うべきとされています。
第2に、「環境等に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換」です。多面的機能の適切かつ十分な発揮を図るとともに、環境負荷等に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換を目指すべきとされています。
第3に、「食料の安定供給を担う生産性の高い農業経営の育成・確保」です。少数の経営体が農地の受け皿、食料供給の大宗を担うこととなることから、これらの農業経営の経営基盤の強化、生産性の向上を図るべきとされています。
第4に、「農村への移住・関係人口の増加、地域コミュニティの維持、農業インフラの機能確保」です。他産業との連携の強化等を通じた関係人口の増加による地域のコミュニティ機能の集約的な維持、農業生産基盤の適切な維持管理を図るべきとされています。