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調査・報告 野菜情報 2026年11月号

2025年版 農業法人白書から読み解く野菜生産法人の経営課題

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公益社団法人日本農業法人協会 政策調査部長 森 誠悟

1 はじめに

 公益社団法人日本農業法人協会(以下「法人協会」という)は、1999年に全国の農業法人が加盟する団体として設立された公益法人である。会員は、北海道から沖縄まで2080法人が加盟しており(2026年7月現在)、国内の農業法人数の増加に伴い増加傾向にある。日本で唯一の全国的な農業法人のネットワーク組織として、農業法人の経営確立・発展のため、調査研究・政策提言活動などを行っている。
 このような活動の一環として、法人協会は、2008年より年1回、全会員を対象とした「全国農業法人実態調査」を実施し、収集したデータに基づき、「農業法人白書」を作成している。この白書で用いる数値などは、全国各地で活躍する会員から集めた統計データにより作成されており、大規模経営体を中心とした農業のトレンドが把握できる資料として、農業を研究対象とする研究機関、農業関連企業のビジネスの参考データとして幅広く活用されている。
 本稿では、この白書より、野菜の生産を行う野菜生産法人の情報をピックアップすることで、野菜生産法人の経営課題や課題解決に向けた取り組みなどを紹介したい。

2 野菜生産法人会員の現状について

(1)野菜生産法人の割合と営農地域について
 2025年の調査(対象会員(調査票配布数2060法人)において、野菜を主として生産している法人(以下「野菜生産法人」という)は、会員全体の27.3%を占めている(図1)。
 野菜生産法人の営農地域は、52.3%が平地農業地域だが、41.7%が中山間地域、5.9%は都市的地域を中心に営農している。
タイトル: p051
 
(2)耕地面積について
 露地野菜と施設園芸(調査の都合上、施設花きを含む)を区分した上で、耕種別会員の平均耕地面積を集計した結果、露地野菜経営では、40.5ヘクタール、施設園芸では約1.8ヘクタール(1万8384平方メートル)となった(図2)。この数値を2020年の農林業センサスにおける全国の経営体当たりの平均面積と比較すると、露地野菜経営では40.5倍、施設園芸経営では6.3倍であり、当協会会員の経営規模が大きいことが分かる。
 経営規模の平均値の推移は、露地野菜、施設園芸ともに過去5年間ではほぼ横ばいとなっており、耕地面積が拡大傾向にある稲作とはトレンドが異なる。
 「作付面積を拡大したい」と回答した野菜の経営体は45.2%であり、この回答率は、対象会員全体の42.4%をわずかに上回るが、稲作経営体の51.7%を下回る結果となった。



 










 
(3)売上高について
 2025年調査では、野菜生産法人の平均売上高は2億8528万円で、売上高1億円以上の経営体が60.4%を占めており、売上高10億円以上の経営体が6.6%となった(図3)。10年前の同調査においては、平均売上高は2億4051万円、売上高1億円以上の経営体は55.6%であったことから、売上規模は拡大傾向にあることが分かる。
 なお、同じ土地利用型農業である水稲生産法人の平均売上高は1億7698万円であるが、10年前の同調査では8886万円であり、売上規模の拡大傾向は稲作経営の方が大きいことが分かった。

タイトル: p052b
 
(4)労働力と代表者年齢について
 労働力に関して、野菜生産法人の従事者数の平均は21.8人であり、稲作経営(平均従事者数11.1人)の約2倍の水準である。前述した平均売上高を用いた野菜生産法人の従事者1人当たりの平均売上高は1308万円となっており、これは稲作経営の平均売上高(同1594万円)と比べると若干低い水準にある。
 多くの企業が外国人材を活用しているが、野菜生産法人では、外国人材の活用意向について34.0%が「人数を増やしたい」と回答しており、会員全体での平均値19.8%を大きく上回っている。
 野菜生産法人の平均設立年数は20.2年であり、代表者の平均年齢は55.5歳で、44.3%の経営体が創業者から代替わりをしている。会員全体での平均設立年数は25.0年、代表者の平均年齢は58.4歳であり、野菜生産法人は業種別では設立年数、代表者年齢ともに最も若い業種となっている。

3 野菜生産法人の経営課題など

 経営課題について、会員全体の1位は「資材コスト(肥料、飼料、農機等)」(回答率54.3%)、2位は「労働力(雇用者、外国人材等)」(同52.8%)、3位は「人材の育成」(同51.9%)であった。この三つの課題については、過去5年間の調査においても例年上位を占める項目であり、中でも「資材コスト」については5年連続1位となっている。
 これに対し、野菜生産法人の1位は「人材の育成」(回答率55.2%)と「資材コスト」(同55.2%)が同率、3位は「労働力」(同54.9%)であった(図4)。この要因として、2の(4)で記載したように野菜生産法人は従業員数が多く、また、外国人材も広く活用していることから他業種に比べて従業員の育成について課題を強く感じていることがあると推測される。
 また、4位には「価格転嫁」(同44.5%)が経営課題として上がっている。この課題は、会員全体では29.8%であったことから、野菜生産法人の顕著な傾向であった。

タイトル: p053

4 経営リスクと対策

(1)リスク認識について
 経営リスクについて、会員全体の1位は「生産コストの上昇」(回答率68.0%)、2位は「天候不順等による収量の減少」(同45.7%)、3位は「生産物価格の下落」(同43.0%)であった。特に1位の生産コストの上昇は、7割近い経営体が経営リスクとして回答しており、物価高騰が継続することへの懸念を捉えた調査結果となった。
 これに対し、野菜生産法人の1位は「生産コストの上昇」(回答率73.2%)、2位は「天候不順等による収量の減少」(同52.6%)、3位は「生産物価格下落」(同35.6%)となった。リスクと考える項目と順位は全体平均と一致したが、「生産コストの向上」と「天候不順等による収量の減少」については、より高い割合でリスクと捉えていることが分かった。
 この結果に関連して、同調査における業種別で、直近決算における売上高経常利益率を分析したところ、「赤字」と回答したのは会員全体では18.9%であったのに対し、野菜生産法人に限ると27.5%だった。これは、物価高騰や天候不順など、外部環境の変化が野菜生産法人の収益に与える影響がより大きいものと思われる。
 
(2)リスク対策について
 リスク対策について、会員全体の1位は「複数販路の確保」(回答率54.0%)、2位は「スマート農業の導入(機械化)」(同27.3%)、3位は「従業員の給与水準や福利厚生の改善」(同25.8%)であった。
 これに対し、野菜生産法人の1位は「複数販路の確保」(回答率59.6%)、2位は「多品目生産」(同32.8%)、3位は「外国人材の確保」(同23.4%)となった。1位、2位については、生産・販売リスクを分散させる対策であるが、3位の「外国人材の確保」については、野菜生産法人の特徴が表れた項目である。また、3においても「人材の育成」が野菜生産法人の経営課題の特徴として見られたことから、「人」に対する対策の必要性が求められていることが分かる。
 
(3)複数販路の確保について
 リスク対策のうち、複数販路の確保に関して、野菜生産法人の主な販売先を調査したところ、1位は「小売業者」(回答率23.1%)、2位は「農協系統」(同18.8%)、3位は「農協以外の集出荷団体」(同17.2%)、4位は「卸売市場」(同14.3%)と続いており(図5)、他の耕種と比べると主要な販売先が分散していることが分かる。一方、経営課題の調査結果にもある通り、価格交渉の難しさや、費用を考慮した価格の実現には課題が残る。

タイトル: p054
 
(4)賃上げ対応について
 人材確保に関するリスク対策として、賃上げの状況を調査したところ、会員全体で82.2%が「実施した」と回答したのに対し、野菜生産法人は、85.3%が賃上げを「実施した」と回答した。これは、業種別では最も高いが、実施内容は「最低賃金の引き上げに伴う昇給」との回答が最も多く、他の業種と比べて定期昇給やベースアップなどの取り組みについて積極的な回答はなかった。
 
(5)物価高騰による設備投資への影響について
 前述の通り、2025年調査は、物価高騰に係る影響がさまざまな回答に反映されたように見られたため、最後に物価高騰による設備投資への影響について記載する。
 物価高騰による設備投資などの影響を調査したところ、「影響あり(中止、延期、縮小)」との回答は、会員全体では56.5%であったが、野菜生産法人については、64.4%となった。
 このような影響があることから、野菜生産法人の今後1年間の設備投資の目的は、1位が「更新・維持・補修」(回答率66.8%)、2位が「合理化・省略化」(同49.0%)、3位が「増産・規模拡大」(同37.4%)であった(表)。

タイトル: p055a

5 おわりに(法人協会の対応について)

 前述の通り、野菜生産法人は、物価高騰に伴う収益の悪化や、人材確保について課題やリスクを抱えており、これらを解決する方法の一つとして、高騰したコストを反映する適正価格の実現が求められていることが分かった。
 法人協会はこのような課題の解決に向け、2026年4月に施行された食料システム法を踏まえ、適正価格について、再生産価格での取引・販売の実現を強く要望してきた経緯がある。今後も、コスト指標の作成などに広く関わっていく所存である。
 また、野菜生産法人に限らず、農業界全体の問題意識として、生産性向上に必要な農地の集約化や、物価高騰に対応した収益構造の実現を目指し、農畜産物の取引において再生産を可能とする合理的な価格形成がなされるよう、加工・流通構造の改革を目指して活動を行っていく。そのためには、農業法人の経営実態や経営課題などを広く世の中に周知し、また各種研究の一助となれるよう調査活動を継続していく。このように、法人協会は全国の農業法人の実態を調査することで、その内容を分析・公表するとともに、課題解決のための政策提言活動などに取り組んでいる。このレポートなどを通じて農業法人の実態について興味を持っていただければ幸いである。
 
(参考)2025年版 農業法人白書 URL
https://hojin.or.jp/agri/white_paper-html/

タイトル: p055b
 
 
タイトル: p055c

森 誠悟(もり せいご)
公益財団法人 日本農業法人協会 政策調査部長
【略歴】
2005年 農林漁業金融公庫入庫(現:日本政策金融公庫)
       全国各地で一次産業向けの融資業務に従事
2025年 日本農業法人協会(出向)、米のコスト指標作成等委員