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調査・報告 野菜情報 2026年10月号

ヨーロッパ各国の野菜をめぐる見聞録 ~栽培から加工、流通、販売までの最前線~

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国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門
露地生産研究領域 スマート生産グループ 主任研究員 高橋 徳

1 はじめに

 筆者は、普段は日本でブロッコリーを中心に、露地野菜の研究をしているが、2025年10月よりドイツに留学している。その滞在中に気が付いた野菜のあれこれについて、また、特にブロッコリーに関しては、26年2月にスペインで実施した現地調査について報告する。金額は現地感覚でお伝えするためのユーロ(€)と、日本人にとってもわかりやすい円換算金額(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月央平均為替相場」の26年8月末日TTS相場1€=187.00円および1英ポンド=220.76円)を併記する。なお、物価水準の指標の一つであるビッグマック指数(26年1月)は、日本の480円に対して、ドイツ、スペインを含むユーロ圏では1119円と、2倍以上の物価差があることも参考にしてほしい。

2 ブロッコリー

 スペインは、ブロッコリー(カリフラワーを含む)の輸出量世界一位(2024年、41万7000トン〈t〉)であり、欧州内で二番手のフランス(9万7000t)や三番手のイタリア(9万3000t)のそれを大きく上回っている。スペインの中でも南東部のMurcia(ムルシア)州は、「Orchard of Europe(欧州の果樹園)」と呼ばれ、各種野菜や柑橘(かんきつ)類の欧州有数の産地である。暖かい気候を生かして、ブロッコリーは特に11月~翌6月にかけての秋冬から春作が盛んである。ブロッコリー現地調査のため、ムルシアと、さらに南部のLorca(ロルカ)、Cartagena(カルタヘナ)にかけて、ブロッコリー振興団体の「+Brócoli(マスブロッコリー)」や、生産・協同組合の「Alimer(アリメール)」など、合計6団体を訪問した。
 太陽は2月とは思えないほど照り付け、大地は車で走ると砂ぼこりが舞うほど乾燥していた。見渡す限りに広がるブロッコリー畑に圧倒されつつ、+Brócoliの関係者から栽培概要を伺った。ブロッコリー輸出量世界一のこの国では、果たしてどんな栽培技術や品種が導入されているのだろうかと期待していたが、意外にも、栽培概要から問題点まで、日本のそれと大きな違いはなかった。栽植密度、施肥量、栽培期間などは日本の様式とほぼ同じ、定植は日本製の乗用型定植機を使い、収穫は主に手作業で、日本同様に外国人労働者(北アフリカ、南米、東欧など)に依存していた。品種については、シンジェンタ(スイス)やバイエル(旧モンサント、ドイツ)といった欧州企業のものもあったが、株式会社サカタのタネの品種が最も普及しており、品種さえも日本と近い系統が栽培されているようであった。困っている病虫害としては、べと病、黒すす病、黒腐れ病、アブラムシ、コナガを挙げていた。他に、あらゆるコスト(人件費、資材、肥料、水など)が増加している一方で、売価が上がらないこと、DANA(ダナ)(注)と呼ばれる集中豪雨とそれに伴う洪水に困っているということであった。卸売価格について、この日(26年2月27日)訪問した市場では、ブロッコリーが1キログラム(kg)当たり0.65€(122円)の価格で目の前で競り落とされた。
 日本と大きく異なる点は、年間降水量がおよそ1000~3000ミリメートル(mm)以上の日本では、定植時以外は灌水(かんすい)しない天水栽培(降雨のみを利用して作物を育てる農業方法)が一般的であるが、同200~400mm程度のムルシア州周辺では、灌水が必須で全畝に灌水チューブが入れられていたこと、石灰質の土壌のためpHが高く根こぶ病の発生がないこと、収穫後の圃場(ほじょう)にはヤギと羊の群れが放たれ、残った葉が飼料として有効利用されていたことである(写真1)。乾燥した環境条件については、灌水チューブ埋設・撤去・灌水管理の手間、資材代、水代などの点で不利であるが、天水より安定的に栽培できること、困っているといえども日本のような多湿環境下に比べて病害が圧倒的に少ないであろうことを考慮すれば、どちらかというとメリットの方が大きいと思われる。また、写真2および動画1でも分かる通り、圃場一枚にしても産地全体にしても、とにかく規模が大きく、生産効率の高さを感じた。
 Alimerの梱包・出荷施設では、ベルトコンベア上を流れるブロッコリーの横で、従業員が手際よく調製作業をしていた。箱詰めされた製品は、上からつるされたリフトで搬出され、出荷まで冷蔵庫で保管されていた。日本では花(か)蕾(らい)の直径を基準にサイズを決め(Lサイズ12~13センチメートル〈cm〉など)、1個当たりの重量に明確な基準はないが、欧州では直径は不問で、その代わり1個当たり250グラム(g)、500gなど定まった重量が求められていた。そのため、大きすぎるものは花蕾を一部切り落とし、小さすぎるものは他個体から切り落とした部位や、2本目を一緒にくるむことで重量を調整していた(写真3)。
 ムルシア州のアブラナ科野菜の輸出先の内訳は、おおよそ40%が英国、30%がドイツ、16%がオランダと、北・中欧市場向けに特化しているということであったが、本当にそうなのか、欧州各国を回った実際のところを紹介する。
 確認できた範囲で、ドイツでは11月にはイタリア産を目にしたが、2~4月はスペイン産のものが主流で、5月くらいから国産品が現れ始めると、6月以降はほぼ国産品に切り替わった。ドイツ以外の国には出張などの一時的な滞在だったが、3~6月にかけて訪問した英国、オランダ、ベルギー、オーストリア、チェコで、実際にスペイン産のブロッコリーが確認された。このうち、ドイツ、ベルギー、オーストリア、チェコでは、ムルシア州産であることも確認できた。  一方、5月に訪問したクロアチアではイタリア産であり、7月に訪問したポルトガルでは、残念ながら産地が確認できなかった。オーストリアとクロアチアの商品には珍しく品種名も記載され、それぞれ「Triton(トリトン)」と「Parthenon(パルテノン)」であった。いずれもサカタのタネの品種である。
 店頭の小売価格は、どの国も1個500gが1.5~2€(281~374円)というのが相場で、セール品で同1€(187円)前後、今のところ最安値で同0.75€(140円、ドイツ3月下旬)を目撃したことがある。有機品となると2倍くらいの価格帯となり、最も高かったのは、英国(4月初旬)で見つけた有機品同4英ポンド(約4.7€、883円)であった。スーパーなどの店頭では、日本では裸で冷蔵コーナーに置かれることが多いのに対し、欧州ではラップで個包装され、常温に置かれていることが多いという違いも注目すべきであろう。
(注)DANAはDepresión Aislada en Niveles Altos(高高度に隔離された低気圧)の略称で、正確には低気圧そのものを意味するが、現地ではそれに起因する豪雨のことも意味していた。

タイトル: p048




動画1URL   
https://yout.ube/skFDc6_HL3M



3 ばれいしょ

 「野菜をテーマに、ドイツで見聞きした見聞録のようなものを書くんだ」と、職場のドイツ人に言ったところ、彼は、「そんなものは簡単だ、『POTATO』、以上だ!」と身振りを交えて力強く言い放った。日本でもよく知られていることであるが、歴史的にドイツではばれいしょが主食であり、現在でもパンと双璧をなす存在である。
 ばれいしょは、でん粉を多く含むが、脂質はほぼゼロで、食物繊維やビタミンCも豊富に含まれているため、精白米や白パンに比べると主食としては非常にヘルシーである。ただし、それは食材としてであり、ゆでたばれいしょをそのまま食べる場合はそうかもしれないが、実際は、揚げたり、炒めたり、オリーブオイルをかけてオーブンで焼いたり、つぶしてバター、牛乳、生クリームを加えて食べたりすることが多いので、それなりに油脂を含んだ高カロリーな料理になって提供されている。
 スーパーでは、2.5kg単位で網袋に入れられたものを中心に、1~5kg単位で売られていることが多い(写真4)。ばれいしょ専門店では、品種別に量り売りで買うこともできる。標準的な価格は、1kg当たり1~2€(187~374円)であるが、地域ブランドや特別な品種、有機栽培など付加価値があるものは当然高くなり、ディスカウントストアや特売では同0.4~0.8€(75~150円)の価格帯も珍しくはない。一度だけ10kgで2€(374円、37.4円/kg)という超大特価も目にしたことがあるが、この水準の価格帯となると、傷ものや、腐りかけ、芽が出かかったものが混ざっていることもあり、見切り品の在庫処分であることは否めない。単価が安いからと飛びついて購入してみたものの、品質も悪く大容量となると、消費しきれずに無駄にしてしまうこともあり、結局は2.5kg程度のものを都度買うのがちょうどよいということを知るのであった。

タイトル: p050
 
 物価が日本よりずっと高いドイツにあっても、食料品は軽減税率が適用されており、例外的に安く、パン、パスタ、米の最安値の価格帯はいずれも1kg当たり1~2€(187~374円)程度である。米も、「令和の米騒動」で騒がれた日本なんかよりもずっと安い。ばれいしょもこの価格帯であることから、わが家では、パン、パスタ、米、ばれいしょの四つを主食としていた。「日本ではばれいしょはここまで安くないから驚きだ」と言うと、「安いけど、そもそもスーパーでは買わない」というドイツ人も少なからずいた。というのも、ドイツではばれいしょが完全に飽和していて、知り合いの生産者からタダでもらったり、定期購入している野菜の詰め合わせに常におまけで入っていたり、ということであった。また、「昨シーズンは不作で価格が高騰したため、今シーズンは作付けが増えて価格が暴落している、その反動で次のシーズンは作付けが減って価格が上がる…という隔年現象が起こりがちだ」という話も耳にした。こんなにも安くて、さらに価格も乱高下しやすいとなると、生産者の収入が心配になるが、補助金がかなり投入されているからさほど悲観することはない、という話も聞いた。
 ドイツでは、ばれいしょは「固さ」によって三つに分類されており、それぞれ緑、赤、青と色分けされたパッケージで陳列されている。緑が最も固いもの(粘質でしっとり、日本でいうメークイン系)、青が最も柔らかいもの(粉質でホクホク、日本でいう男爵(だんしゃく)薯(いも)系)、その中間が赤ということである。それぞれのパッケージには適した料理も例示してあり、緑は「ポテトサラダ」、「ジャーマンポテト」、「ゆでばれいしょ」のように滑らかな舌触りを楽しんだり原型を保つもの、赤は「ハッシュドポテト」、「フライドポテト」、「ゆでばれいしょ」、青は「ばれいしょ団子」、「マッシュポテト」、「ばれいしょスープ」のように主につぶして使用するものであった。日本人も使用目的に応じて品種を選ぶが、しっとり系かホクホク系かで大きく二分している日本人の感覚に比べ、3段階に分けられたドイツの方が解像度が高いと言えるだろう。比較のために3種類同時に購入したことがあるが、形状はいずれもメークインのように滑らかな楕円形で、洗うにしても皮をむくにしても凹凸の多い男爵薯よりずっと調理しやすかった。シンプルな塩ゆでと、マッシュポテトの状態とで食べ比べたところ、確かに緑はしっとりした食感であった。赤と青はどちらもホクホクしてつぶすのも極めて楽だったが、筆者の舌には両者に大きな違いは感じられなかった。
 近隣国の事情も面白い。ベルギーにはフライドポテト博物館(Frietmuseum)なるものもあり、アンデスでのばれいしょの起源から現在の調理方法に至るまで、フライドポテトの壮大な歴史を学ぶことができる。ベルギーでは温度の異なる2段階(150℃前後→180℃前後)で揚げることで、中はホクホク、外はサクサクの食感が強調される。油として牛脂が使われることがあり、植物油にはないコクと香ばしさが醸される。収穫されたばれいしょのうち、最も大きく高品質のものが優先的にフライドポテト用に卸されるそうで、フライドポテトに対するこだわりは周辺国を圧倒しているように感じた。
 フライドポテトのソースについては、ドイツではケチャップ、マヨネーズ、カレーソース辺りが定番であるが、オランダではガーリックソース、ピーナッツソース、ブラジルソース(パイナップルやマンゴーなどのフルーツが入って甘酸っぱい)、サムライソース(マヨネーズと唐辛子で辛い)、Oorlog(オールログ;戦争)ソース(マヨネーズ+ピーナッツ+生たまねぎ)など、名前からは味の想像がつかないものまで、20~30種類ほどもある。そうとは知らず注文に行くと、「ソースは?」と聞かれたときにフリーズしてしまうので注意が必要だ。ドイツ、ベルギー、オランダなどには、このようなフライドポテトの専門店がたくさんあり、観光客か地元民かはわからないが、フライドポテト片手に街歩きをしている人も多い。
 英国といえばFish and Chips(フィッシュ・アンド・チップス)が有名であるが、白身魚のフライに添えられた極太のフライドポテトに、タルタルソースかビネガー、レモンを絞ってかじりつく。英国ではフライドポテトのことを「チップス」と表現する。日本人は、「チップス」と聞くと薄いパリパリのものを想像しがちなので、ほとんど角切りに近い極太ばれいしょを「チップス」と呼ぶのは、頭では分かっていても、どうしても違和感がある。なお、フライドポテトのことを、ドイツでは「Pommes(ポメス)」、ベルギー(フランス語圏)では「Frites(フリット)」、オランダでは「Patat(パタット)もしくはFriet(フリート)」と呼ぶ。日本語の「フライドポテト」という表現は「揚げばれいしょ」となって、われわれが想像する細長いそれとしては通じない。日本では、英語表現として「Franch Fries(フレンチ・フライズ)」と習うが、それはアメリカ英語のようで、フランスの国名が入っているため欧州で使用すると厄介なことになる。ドイツで、「ベルギーで食べたFranch Friesは…」と言うと、意味は十分通じたが、「ベルギーなんだからFrenchじゃないだろ?」と皮肉交じりに笑われた。
 話は変わるが、サイレージ(牧草の発酵保存技術)が普及する19世紀後半まで、ドイツでは冬に干し草が不足し、牧草を主食とする家畜(牛・ヤギ・羊)は越冬できる頭数が限られていた。一方、ばれいしょは冬の間も保存が可能で、ばれいしょを食べるブタは越冬の際にも頭数が維持されたため、ドイツでは豚肉・ソーセージ文化が発展したということだ。このように、ばれいしょは家畜飼料としてもドイツの食文化の立役者となっていた。そうすると、「『POTATO』、以上だ!」の一言は、ドイツの食文化を語る上で、あながち、極端な表現ではなかったのかもしれない。

4 アスパラガス

 2025年のドイツのアスパラガス生産量は10万t(日本2万2000t)、1人当たりの生鮮アスパラガスの消費量は1.51kg(日本人は0.23kg)と、ドイツは日本を圧倒するアスパラガス大国である(参考:アスパラガスネット)。ただし、日本と異なるのは、ドイツ人が食するアスパラガスのほとんどが「白アスパラガス」であることと、その消費の大部分が3~6月のたった4カ月に集中している、ということだ。
 アスパラガスというと、緑色で、鉛筆ほどの太さのものが4~5本の束になり1年中売られている、やや高級な野菜、というのが日本人の感覚ではないだろうか。実際、小売価格は1束100g前後が200~300円ほどで、kg単価にすると約2000~3000円と、野菜としてはかなり高単価の部類になる。
 ドイツではどうか。秋冬の間はアスパラガスを見かけることがなかった(私が気付かなかっただけかもしれないが)。3月になると白アスパラガスが突如出現したが、この時はまだ輸入品(ギリシャ、フランス、イタリア産など)であった。3月下旬になると待望の国産品が登場するが、とにかくその太さに驚かされる。日本のきゅうりくらいの太さなのである。直径は3cmを超え(写真5)、重量は1本100~150gであった。そして、価格はなんと1kg当たり25€(4675円)にも達していた。さらに驚くべきは、それほど高価格であるにもかかわらず、ドイツ人はそれらをわしづかみにして袋に入れると、一度に1~2kgもの量を平然と購入していくのである。春先は温室のものなので流通量が少なく価格が高いが、露地物が出回ってくるにつれ安くなるという話を聞いたので、その経過を見守っていたところ、確かに5月ごろには1kg当たり6~12€(1122~2244円)くらいまで下がり、最も安いもので同3€(561円)くらいのものも見られた。この価格の差は主に太さに基づき、太いほど高く、細いほど安い。スーパーにはアスパラガス専用のコーナーが設けられ、街にはアスパラガスの販売カーも現れた(写真5)。郊外に行くと、農場や直売所には「Spargel(ドイツ語でアスパラガス)」ののぼりが立つ。露店マーケットにはアスパラガス皮むき機が登場し、あふれた残渣から、いかに購入されているかが推し量られる。料理雑誌の表紙には「Endlich wieder spargel!(ついにアスパラガスの季節だ!)」という文句が踊り、おしゃれなアスパラガス料理がドンと掲載されている。レストランやパブでは期間限定のアスパラガスメニューが並び、私の職場の食堂でもアスパラガスメニューのコーナーには長蛇の列ができていた。アスパラガスの生産が盛んな町では、オリジナルのアスパラガス料理が毎年考案され、その年の「アスパラガスクイーン」を選出する行事もあるそうだ。

タイトル: p054a
 
 最も一般的な食べ方は、「Spargel mit Sauce Hollandaise(アスパラガスのオランデーズソースかけ)」である(写真5)。アスパラガスの味そのものは淡白で、ほのかな甘みと香り、特有の苦みを感じる程度だが、特筆すべきは、トロっととろける茎の食感である。日本人が知るコリコリした歯ざわりとは全くの別物で、どちらかというと大トロや生チョコのように「口溶け」を楽しむ食材と言えるかもしれない。あつあつでトロトロの茎を口いっぱいに頬張った時の幸福感は筆舌しがたい。太ければ太いほどこの食感が楽しめるわけで、鉛筆のような細いものでは、「味」そのものは大差ないかもしれないが、食感も含めた「味わい」には雲泥の差があろう。そうすると、太いものほど価格が高いのも納得できるし、シーズン初期に収穫される物ほど太く、さらに甘みも強い傾向があることを考えると、初物の1kg当たり25€(4675円)は価格に見合った価値があったのかもしれない。ちなみに、付け合わせに肉料理(あくまで主役はアスパラガス!)やばれいしょが添えられることが多いが、このときのばれいしょは、「新ジャガ」であることが理想的らしい。新ジャガは水分量が多く、皮も薄く皮付きでも問題なく食べられる。そのフレッシュな食感がアスパラガスと相性がいいらしい。そのため、アスパラガス売り場には、専用の新ジャガが一緒に並んでいることが多い。しかし、よく見ると、そのばれいしょの産地は、スペイン、エジプト、イスラエルなどとなっており、国産品ではないのだ。調べてみると、冷涼なドイツでは、ばれいしょの収穫が始まるのは6月下旬からであり、アスパラガスの旬と一致しない。そのため、国産のばれいしょは飽和しているにもかかわらず、このアスパラガス料理の付け合わせのために、わざわざ新ジャガを温暖な国から輸入しているということだ。そこまでするドイツ国民のアスパラガス愛には敬服しかない。
 しかし、これほどまでに愛されるアスパラガスも、6月24日(聖ヨハネの日)を目安に全国的に収穫を終えるのが慣例らしい。実際、この盛り上がりも6月に入ると落ち着き、売り場も徐々に縮小されていった。6月23日まではまだ一部のスーパーで見かけたが、25日には一切消えていた。輸入品の緑アスパラガスさえ姿を消すのだから驚きである。
 当初、3~6月のたった4カ月間しか出回らないのに、なぜ、日本人の6~7倍に当たる年間1人当たり1.5kgをも消費するのか疑問だったが、写真のように一食で5本(推定500g)程度も消費するわけだから、シーズン中にこれを3回食べれば確かに年間消費量1人当たり1.5kgに達するのである。
 流星のごとく現れ、お祭り騒ぎになったかと思ったらひっそりと市場から消えているドイツのアスパラガス。その栄枯盛衰のさまに、「兵(つわもの)どもが夢の跡」という一句がよぎり、旬を過ぎた今では郷愁さえ覚える。日本のように、春であってもドイツほどの旬の盛り上がりはなく、秋ごろまで長く収穫が続き、輸入品も含めて通年流通するアスパラガスとは、存在の仕方そのものが異なっていた。
 
(参考)アスパラガスネット 
https://sites.google.com/site/asparagusnet/home

タイトル: p054b

5 いちご

 アスパラガスと旬を同じくして、ドイツで人気の品目がある。いちごである。日本ではクリスマス(ケーキ)特需として12月の需要が高く、ハウスでの促成栽培が主流となっている。そのため、12月~翌5月にかけていちごの流通量が多く、冬春の作物というイメージが定着している。しかし、いちごはバラ科の植物であり、本来は3~5月に開花し、4~6月ごろに結実するという、初夏の作物なのである(同じバラ科のサクラが3~4月に開花することを思い出してほしい)。ドイツのいちごは露地栽培が一般的で、植物として本来の結実期、すなわち4~6月に多く出回る。写真5のアスパラガス販売カーには、実は奥にいちごも陳列されていた。アスパラガスといちごをセットで生産、販売している生産者は非常に多いようであった。日本であれば作業の分散や周年雇用を目的として繁忙期が重ならない品目を組み合わせることが多いが、なぜドイツでは繁忙期がぴったり重なるこの2品目を同時に栽培するのであろうか?私の留学先はどちらかというと工学的な研究所で、農学の専門家が身近にいなかったので真相は不明であるが、「外国からの出稼ぎ労働者を短期雇用することで収穫している。そういう意味では、収穫時期が重なるのはむしろ好都合なのではないか」という、あるドイツ人の見解に今のところ納得している。
 日本であれば、いちご売り場のPOP広告(店頭販促広告)やケースには「とちおとめ」や「紅ほっぺ」といった品種名が記載されているのが常なので、一般の人でもいちごの品種名の一つや二つは必ず知っているであろう。しかし驚くべきことに、私が10人ほどのドイツ人にいちごの話を持ちかけた限り、誰一人として、いちごの品種名を一つも知らなかったのだ。ドイツのいちごの販売形態は、プラスチックケースに一定量載っているだけであり、日本のように丁寧に梱包されることはなく、POP上にも品種名を一度として見かけなかった(写真6)。このように、ドイツではいちごの品種に対するこだわりは日本ほどではないようである。スーパーだと1ケース当たりだいたい500gで2~4€(374~748円)くらいであるが、青果店だと写真のように2ケースで3€(561円)のような売り方もある。鮮やかな赤さときれいな円すい形、濃厚な甘みに香り、適度な酸味を備え、十分大きく食べ応えもある。表面は柔らかすぎず、輸送適性も高いと思われた。日本のいちごのレベルは世界的に高いと思っていたが、欧州の品種も相当レベルが高いと知った(しかし品種名が分からない)。

タイトル: p055
 
 6月中旬、デュッセルドルフ郊外の農場にいちご狩りに出かけた(写真7/動画2)。これほど広大にいちごが露地で栽培されている光景は、日本ではまずお目にかかれないだろう。いちごの英語名「Strawberry」の語源は、地面にわら(Straw)を敷き詰めて栽培したからという説があるが、その由来通りの、実際にわらが敷き詰められた圃場を目にした時は感動を隠せなかった。日本でいちご狩りというと、決められた範囲内で30~60分、1人1500~3000円程度で食べ放題、持ち帰りは不可(別料金)というようなシステムが多いのではないだろうか。しかし、この農場では、退出時に大人1人につき1kg以上(1kg当たり6€(1122円))の持ち帰りが必須だが、圃場にいられる時間制限はなく、圃場にいる間は好きなだけいちごを食べてよいというシステムである。移動できる範囲も広大である。わが家の場合、夫婦+子供2人で参加したので、退場時に2kg(12€(2244円))以上買い取る必要があるが、たった12€で家族4人が時間無制限食べ放題の上、2kgのお土産が付くと考えると破格の安さである。注意点として、野生動物が出入りし、排せつ物による各種寄生虫や細菌類の汚染の可能性があるので、衛生管理は自己責任、食べる前にはよく水洗するようにと助言を受けた。そう言われてしまうと怖くなって、当初は持参した水で神経質に洗ってから食べていたが、現地の人々は微塵(みじん)も気にする様子はなく、わしわしといちごを頬張っていた。そんなドイツ人の姿に勇気付けられて、私も途中から洗わずに食べていた(幸い、その後の体調不良はない)。夢中になって食べ、持ち帰り用の収穫を怠っていると、いざ帰ろうとなったとき、既定の持ち帰り量に達していなくて、圃場から出してもらえないので注意してほしい。



動画2 いちご狩りの様子 URL  
https://youtu.be/skFDc6_HL3M

おわりに

 本来、研究者としては、客観的な事実や確証に基づかない不確かな内容を記述するのは憚(はばか)られるが、今回は「見聞録」ということで、自身が見聞きした内容、感じたことをそのまま書いている。従って、正確性には欠く可能性があることをご容赦願いたい。職業柄、少しだけ野菜に詳しいかもしれないが、専門家としてではなく、一般的な日本人の視点で、共感が得られると思ったことを中心に取り上げてみた。この記事を通じて、日本の読者の方々とも、ドイツでの驚きや感動を共有できればこの上なく幸いに思う。
 
 
 
高橋 徳(たかはし めぐむ)
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜花き研究部門 露地生産研究領域 スマート生産グループ 主任研究員
 
【略歴】
2014年4月   農研機構入構、以来、ブロッコリーの研究に携わる
2020年12月   東京大学大学院農学生命科学研究科 博士(農学)
2021年10月   農林水産省 農林水産技官
2023年10月より 農研機構 主任研究員(現職)
2024年4月より 筑波大学 准教授(兼任)
2025年10月より ドイツ・ユーリッヒ研究センター 在外研究員(兼任)
 
タイトル: p056b