2で紹介した支援策を、実際に産地支援者として取り組んでいるいくつかの事例を紹介する。
(1)山形農業協同組合~新規就農者への支援~
2026年8月号でも紹介した通り、新規就農者の営農開始に当たっての課題は山積みであるが、山形農業協同組合(以下「JAやまがた」という)では、新たな担い手を増やすことを目的に、JAやまがたが農地とハウス設備一式を整備して、新規就農者に貸し出すというきゅうりの団地構想が始まり「JAリース農場方式」と名付けられた(写真1、表3)。
本事例では、最初に取り組みを始めたきゅうりを中心に紹介する。山形市は、きゅうりの産地であるが、きゅうりは労力のかかる品目であり、全国的に、高齢化による生産者減少が他の品目以上に問題となっている。JAやまがたは、以下の2種類の補助金を活用し、「水田畑地化基盤強化対策事業」により、
暗渠排水や井戸などの基盤整備を、「産地パワーアップ事業」により、パイプハウス86棟、暖房機、トラクター2台、畝立機2台を整備した。総事業費は3億4000万円という規模からも、当時のJAやまがたの本気度がうかがえる。
非農家からの新規就農者18人、親元就農から新規品目へ進出する農家など3人の計21人(以下「トレーニー」という)が、このJAリース農場方式を活用した。
1人当たりが担当する平均面積は10アールほどで、ここでトレーニングをして地域に縁を作り、規模拡大をしてステップアップすることを目的としている。山形県の普及員と連携し、県が環境モニタリング装置を設置して、勘や経験がなくても新規就農者が技術を高められるように指導を行っている。
筆者がこの取り組みに感心したポイントは、二つある。1点目は、管内のベテラン農家にも環境モニタリング装置を設置し、ベテラン農家とトレーニーのデータ比較をしながら技術指導をしている点である。2点目は、団地での勉強会は、トレーニー全員の
圃場を順に回り、お互いの圃場の状況を常に比較しながら指導している点である(写真2)。
農家は、自らの勘と経験による技術に頼り、意外と同じ地域でも他の生産者の栽培技術を知らないのが一般的である。このような状況が、栽培技術を若手に継承できない原因の一つでもあるが、このように県が間に入ることで、データ比較やお互いの圃場を比較しながら、農家が一人で悩まずに、技術習得と仲間づくりができる環境が形成されている。
現在では、JA農場リース方式の導入から8年が経過しているが、ここで順調に技術を習得して経営を軌道に乗せて無事に卒業し、新しい農地で規模拡大をしている農家がいる一方で、残念ながら途中で営農を断念して辞めた農家が数戸ある。
新規就農したものの、実際にやってみて自分には向いていないと分かり、営農を辞めるという選択をすると、農業は始める段階の初期投資が大きいため、金融機関からの大きな負債を抱えることになる。再スタートも自己破産してからという状況に陥るため、農業ははじめの一歩が踏み出しにくいのが一般的である。
このJAリース農場方式により、まず新規就農にチャレンジしてみるという環境を、県と産地がつくっていることは、産地を維持していく上で大事な取り組みである。また、山形県が、国の「産地パワーアップ事業」を活用してこのような生産者支援を先進的に行ったことで、県内外にも同様の取り組みが波及した。
このような取り組みは、全国のJA組織でも同様の事例があるかと思うが、農家戸数が減少局面にある今だからこそ、改めて新規就農者を、そして産地を育成する取り組みとして注目される。
(2)株式会社須崎青果~地方卸売市場で集出荷に取り組む事例~
高知県は冬場も温暖な環境から施設園芸が盛んで、JA系のシェアが高いものの、かつては120億円の規模を誇った赤岡市場をはじめとする産地市場も活発で、お互いに生産者の出荷物を獲得するために切磋琢磨している地域である。
株式会社須崎青果(以下「須崎青果」という)では、役員3人の明確な役割分担をし、それぞれリーダーシップを発揮してきた。社長は、鮮度保持機能のあるにらの包装機を導入し、設備投資をしてパッケージセンターを建築し(写真3)、コールドチェーン化と品質保持に取り組み、さらに「元気な畑のごちそう」という自社のブランドをつくってきた。専務は、グループ会社の株式会社カネエイの営業トップとして、卸売市場の先の量販店に向けた相対取引を強化し、消費者ニーズに合わせた独自商品企画(なすの大袋販売など)による有利販売に努めてきた。常務は、エリアごとに生産者訪問を行い、戦略的に生産者との信頼関係を築きながら入荷元を増やしてきた。このような取り組みにより、売上高はわずか13年間で3倍以上となった(表4)。
近年では、エリアごとに生産者の出荷金額を上位から並べ、前年と比較し経営を分析するABC分析
(注)を行い、生産者ごとに書面を作成して訪問し、前シーズンの振り返りや、生産者が困っていることは何かなどを、社内でデータとして集めて営業に生かそうとしている。
(注)ここでのABC分析は、生産者を販売金額により層別に三つに分類する。それぞれに合ったマーケティング施策を立案することで、効率的なアプローチを行う。
また、日本事務器株式会社が開発した「fudoloop」というアプリを出荷する生産者にも登録してもらい、アプリを通して日々の売り立て情報を当日の午後には届けている。例えば、売れ行きから、なす1パックを5本入りにすべきか、または3本入りにすべきかを検討するなど、少しでも販売単価アップにつながるよう活用されている。そのほか、週間の相場予測など生産者が役立つ情報を提供している(写真4)。
須崎青果に出荷する生産者において、販売規模1000万円未満の生産者が8割以上を占める一方で、同社の売り上げの50%は、1000万円以上の農家からの出荷によるものである。そこで、このような1000万円以上規模の農家に対する支援の一環として、筆者が講師を務める農業経営セミナーを令和6年から実施している(写真5)。セミナーの前後の時間やWEBミーティングで個別に面談を行い、決算書を見ながら、財務状況の点検、今後の資金繰り、雇用や事業承継など、普段はできない話ができるとの感想を得ている。今後は、複式簿記の講習会を中心とした経営セミナーなどを企画している。また、須崎青果のホームページ上で、経営に役立つコラムも発信している。筆者が知る限り、青果市場がこのようなコラムの発信や、大規模農家向けに経営セミナーを企画している事例はまだほとんどないと思われ、経営トップが先頭に立って変化に対応していこうと常に前向きに挑戦している。
(3)丸果会津青果株式会社~アイディアで農家の所得向上~
丸果会津青果株式会社(以下「丸果会津」という)のある福島県は、平成23年の東日本大震災時の原子力発電所事故に伴う放射性物質放出の風評被害を受けた地域である。それにもかかわらず、令和7年度の売上高は48億円(平成15年度比17.1%増)と、平成15年度の41億円から7億円伸びた(表5)。同社がある会津地方の人口は22万人という規模のため、売上高がこれほど向上したのは、さまざまな取り組みが功を奏し、健闘している市場だからだと言える。理由として、会津地方が南郷トマトなどの園芸が盛んな地域であること、買参人約50人、仲卸業者が4社おり、現在でもせりを中心に行うなど市場に活気があることが挙げられるが、このほか、以下の農家支援を行っていることも特筆すべき一因だろう。
ア 規格簡素化した袋詰め品を首都圏の産直コーナーへ配送
丸果会津から車で40分離れた南会津地域では、農家の高齢化が進んでおり、農協へ小ロット、かつ規格を満たす品を出荷できないという問題があった。そこで、会津よつば農業協同組合と相談し、小ロットでなおかつ規格を簡素化した上で、下郷地区にあるJA集荷場にて荷分け作業などを行い、産直用の袋に詰めて出荷してもらい、それらを丸果会津が首都圏の量販店の店舗向けごとに仕分けし、翌日には店頭に並べる取り組みを行っている(写真6、7)。
例えば、赤くなったトマトは通常の規格品としては出荷できないが、産直品として販売すればお金に変えることができる。このような規格外品を「さすけねえ」野菜として、量目を増やしお得感を出す工夫をして、消費地の量販店向けに販売している。「さすけねえ」とは、会津の方言で「差し支えありません」という意味で、むしろこうした地場を意識した商品の方が売れるという(写真8)。丸果会津は、現在、首都圏の量販店1社と契約し、その約100店舗に納品し、この契約で2億円の販売を維持している。
また、この取り組みにより、高齢化した小規模農家だけではなく、大規模農家の規格外品も産直品として出荷することにより、農家の所得の確保につなげている。
イ 有機野菜を大手量販店の有機コーナーへ配送
一般的な観点から言うと、有機野菜生産者と市場は、本来相性が良くない。有機野菜は、規格や見栄えよりも、化学肥料を用いないなどのコンセプトを重視し、その分収量にも限界があるため、小ロットの出荷となりがちである。一方、市場流通は、消費地になるべく安く安定して供給するために大量輸送を行う効率性が重視されるため、真逆を追い求めているとも言える。
会津地方にも有機野菜に取り組む生産者団体があったが、そこに丸果会津の先代の社長が出向き、「一人でも多くの消費者に自分たちの野菜を届けるべきではないか」と直談判し、同社の物流システムにより、大手量販店の有機野菜コーナーへ配送することを始めた。販売価格は、生産者団体が希望する手取り単価に諸経費を乗せたものとしている。ほぼシーズンを通して、同じ価格で契約するため、野菜が高騰したときは、有機野菜の方が安くなることもあるという。 最盛期には生産者33人で4000万円の売上高があったが、近年は生産者が30人を下回り、それに伴い売上高も3000万円ほどに減少した。有機野菜の販売先は、現在、東北地方に10店舗、南関東地方に10店舗ほどあり、需要に供給が追い付いていないという(写真9)。部会の生産者数は減少しているが、部会に所属していない新規の有機生産者が増え始めているそうだ。
このような丸果会津の取り組みの背景には、経営層が首都圏の量販店バイヤーとの商談を通して、産直コーナーのニーズについて把握していたこと、一方で農家側の課題にも目を向け、市場に出荷できない農家にどのような支援ができるかを考え、自社の中でその二つをマッチングさせるための仕組みづくりを行った。そして、何よりも実行力があったことが大きい。
農家の課題に目を向け寄り添うことが、このようにゼロから数億円の売上高を生み出すことができる。せりを主体としているため、時間によって量販店の店舗ごとに商品を仕分ける業務を加えても、午後には帰宅でき、働きやすい労務環境が維持されている。冬は、毎日農家の巡回を行い、日々信頼関係を強めている。