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調査・報告 野菜情報 2026年9月号

JA長野八ヶ岳における高原野菜産地の持続可能性のあり方       ~野辺山地区を中心として~

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日本大学生物資源科学部 食品ビジネス学科 教授 宮部 和幸

【要約】

 国内有数の高原野菜産地を抱える長野八ヶ岳農業協同組合では、野菜生産者数が減少する一方で、200億円を超える販売額は堅持してきた。新しい動きが見られる同農協管内の野辺山地区に着目し、高原野菜産地の持続可能性のあり方を検討した。本産地が持続可能性を有するには、徹底した省力化・軽労化の推進に加え、多様な国内人材の活用を図るとともに、ワークライフバランスを重視した働き方への転換が重要である。

1 はじめに

 かれこれ40年ほど前のことだろうか。「あなたも、夏の冷涼な野菜産地で、『清々しい汗』を流しませんか」という雑誌のキャッチコピーに目が留まり、「太陽に一番近い高原野菜産地」、長野県川上村へ向かった。早朝、まだ夜も明けないうちから圃場(ほじょう)に向かい、レタスやはくさいなどを収穫する。午前中に収穫・出荷作業を終えると、手短に昼食をとって休憩し、午後からは段ボール作りや定植作業に取りかかる。いわゆる住み込みの夏季アルバイトである。当時(昭和)の高原野菜産地は、学生アルバイトや季節労働者によって支えられていた。それが今ではどうだろうか。圃場では学生アルバイトの姿を見かけることは少なく、代わって外国人労働者の姿が目立っている。
 こうした変貌する産地を管内とする長野八ヶ岳農業協同組合(以下「JA長野八ヶ岳」という)は、標高850~1500メートルの高地に位置し、夏季の冷涼な気候条件を生かし、指定野菜の大規模かつ集団的・継続的生産と広域出荷体制を確立し発展してきた。JA長野八ヶ岳の出荷量は年間2000万ケースに上り、中でも主力品目であるレタスは約600万ケース(6万トン)を誇る。
 日本屈指の高原野菜産地といえども、他産地との競争、市場環境、気候変動、さらには生産技術の進展など、外部環境の変化が激しさを増す中で、現状維持にとどまるだけでは相対的な後退を招きかねない。いわゆる「赤の女王仮説(注1)」が説くように、「その場にとどまり続けるためには、全力で走り続けなければならない」のである。
 本稿では、こうした状況下にあるJA長野八ヶ岳における高原野菜産地の維持・存続、すなわち、持続可能性について考察する。その際、新しい動きが見られる同JA管内の野辺山地区に着目し、大規模野菜作経営の事例を通じて、産地の持続可能性のあり方を検討する。
(注1)1973年にアメリカの生物学者リー・ヴァン・ヴェーレンによって提唱され「生き残るためには、常に進化し続けなければならない」という仮説。

2 JA長野八ヶ岳における高原野菜産地

 JA長野八ヶ岳は、長野県東部に位置する1町4村(小海町、南牧村、川上村、南相木村、北相木村)をその区域とし、八ヶ岳の裾野に位置し、千曲川の源流に育まれた4000ヘクタールを超える広大な野菜産地を擁している(図1)。  
 2024年度のJA長野八ヶ岳における販売高は263億円であり、そのうち野菜が約9割に当たる229億円を占めている。正組合員数は全体で2050戸であることから、1戸当たりの販売高は1283万円となり、その中には大規模野菜作経営が一定数存在し、彼らが当産地を支えていることがうかがえる。
 図2は、野菜部門における主要品目別の販売高(24年度)を示したものである。これを見ると、はくさいが94億円(41%)と最も大きく、レタスが73億円(32%)、キャベツが11億円(5%)となっており、はくさいやレタスなどの主要品目への依存度が高い構成となっていることが分かる。

タイトル: p044b
 
 図3は、14年度から近年までのレタス、はくさい、キャベツおよびその他野菜の販売高の推移を示したものである。品目別に見ると、はくさいは100億円前後、レタスは70億円前後を維持しており、主要品目の販売高は安定して推移している。
 

 
 産地全体の販売高は、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の拡大に見舞われた20年ごろでも、200億円台を維持しており、大きな落ち込みは見られない。外部環境が激変した期間においても、当産地は一定の出荷・販売規模を堅調に維持していたと言える。
 さらに、図4は、この10年余りにおける経営面積規模別の野菜生産者数の推移を示している。国内有数の野菜産地であるにもかかわらず、生産者数は、14年度の829人から24年度には664人へと20%減少している。
 

 
 規模別に見ると、中小規模経営の減少率が高く、24年度は「1~5ヘクタール未満」が14年度比42%減、「5~10ヘクタール未満」が同27%減と著しく減少している。一方で、大規模経営の「10ヘクタール以上」は、14年度の43人から24年度は同2.6倍の110人と大幅に増加している。
 当産地においては、生産者数全体が減少する中で、中小規模経営の撤退・縮小と、大規模経営の拡大が並進しており、こうした規模別格差と大規模野菜作経営の確立・進展を推測することができる。

3 野辺山地区と大規模野菜作経営の事例

(1)野辺山地区
 こうした大規模野菜作経営の確立・進展をより明確に把握するため、JA長野八ヶ岳管内の野辺山地区に着目したい。野辺山地区は、山梨県に隣接する南牧村に位置しており、近年では地区内の枠を越えた広域的な規模拡大が進んでいる。標高差による気候の違いを生かした山梨県の圃場で栽培する「出作」という形態をとることで、さらなる経営規模の拡大を図っている。
 まず、野辺山地区における2024年度の野菜生産者の経営面積規模別割合を見ると(図5)、「5ヘクタール未満」の比較的小規模経営が36%と最も多いものの、「10ヘクタール以上」の大規模経営も31%を占めている。次に年齢別割合を見ると、「50~59歳」が29%で最も多く、「40~49歳」も24%を占めている。すなわち、野辺山地区における大規模野菜作経営は、主として40~50歳代の壮年層を中心に担われており、これらの層が出作を伴う経営規模拡大の担い手となっているものと考えられる。

タイトル: p045b
 
(2)大規模経営の事例
 野辺山地区における大規模野菜作経営の事例として、出作を伴う規模拡大と外国人労働力の雇用を積極的に進めている野辺山地区野菜委員長・井出澤雅敏氏(以下「井出澤氏」という)の経営を取り上げる(写真1)。井出澤氏の経営概況は、図6に示す通りである。井出澤氏は現在58歳であり、夫婦2人の家族労働力に加え、フィリピンおよびベトナム出身の特定技能実習生を含む外国人労働者6人を雇用し(写真2)、レタスやはくさいなど5品目の野菜を生産している。雇用形態は、周年雇用(特定技能実習生)が4人、季節雇用(技能実習生)が2人である。
 

 
タイトル: p046b
 
タイトル: p046c
 
 経営面積は12ヘクタール(うち山梨県への出作2ヘクタール)であり、作付延べ面積は合計17ヘクタールに達している。地区外の出作を通じて、実質的な経営規模の拡大を段階的に図ってきた。栽培品目は、レタス、はくさい、キャベツといった主要品目に加え、ブロッコリー、白ねぎなどの新品目を導入し、いずれの品目も共選共販体制の下で出荷している。
 表1は、井出澤氏の経営概況の変化、すなわち、段階的な規模拡大と労働力構成の変化を示している。井出澤氏は1992年、25歳で就農し、当初は自身と両親の家族労働力3人に季節雇用2人の体制で、経営面積5ヘクタールにおいてレタス、はくさい、キャベツを生産していた。98年に結婚し、家族労働力は4人となり、経営面積は6ヘクタールへと拡大する。この時期の雇用労働力は、夏季(7~9月)に限定した国内の季節労働力であり、いわゆる夏季の学生アルバイトなどだった。

タイトル: p047
 
 しかし、2000年代に入ると、国内における季節労働力の確保は困難となり、地区全体で外国人労働力の導入の動きが加速した。こうした中、井出澤氏も2006年に季節雇用としてフィリピンからの技能実習生の受け入れを始めた。
 季節雇用の技能実習生を基盤として農業経営を展開していたが、大きな転機となったのがCOVID―19の拡大である。井出澤氏は当時を「野菜が売れなくなり、品目を増やさざるを得なかった。そのためには規模拡大が必要であり、人手がさらに必要であった」と振り返る。この時期に、井出澤氏は経営面積を8ヘクタールに拡大するとともに、山梨県への出作をスタートさせた。
 出作の開始は、単なる規模拡大にとどまらず、井出澤氏の次の諸点につなげるための経営の転換を伴うものであった。一つは、技能実習生の周年雇用化への対応である。背景には、コロナ禍において、入国制限により母国に帰れなくなった外国人技能実習生の季節雇用から周年雇用への移行が要請されていたことがあった。二つは、周年雇用に対応するための生産・出荷期間の長期化である。そして三つは、生産・出荷期間の長期化に対応するための作型の細分化(注2)と多品目・多品種化である。作型の細分化に向けて品目・品種の拡充が進められたのである。
 出作を含めた現在の井出澤氏の野菜の品目別作型は、こうした農業経営の転換を表している(図7)。作型の細分化により、早出し・遅出しと品種を組み合わせて生産・出荷期間の長期化を図るとともに、レタス、はくさい、キャベツといった主要品目中心の品目構成から、ブロッコリーや白ねぎなどの新たな品目へ多様化を進めたのである。

タイトル: p048
 
 また、こうした経営転換は、技能実習生の受け入れを契機としており、それまでの季節雇用から周年雇用へと移行し、雇用労働力は国内から海外へと置き換わっていった。裏を返せば、井出澤氏のような大規模経営が、彼らの労働力に大きく依存していることを意味している。井出澤氏は「外国人労働力には大いに助けられている。彼らは自動車免許を取得し、さまざまな作業・業務に対応できるほか、労働意識も高い」と評価している。
 この背景には、彼らが必ずしも単に収入獲得のみを目的としているのではなく、帰国後の所得向上を見据え、農業技能やビジネス感覚、専門的技能の習得を通じた自己実現を志向していることにある。実際に、彼らは高い教育を受け、母国においてキャリアアップや生活向上への意欲が高いと考えられる(注3)

(注2)同一作物において栽培時期や栽培方法を細分化し、品種および栽培技術を適切に組み合わせることで、収穫・出荷時期を分散または特定時期に集中させる栽培計画を指す。
(注3)専門的技能の習得を通じた自己実現を志向していることは、是川 夕『ニッポンの移民-増え続ける外国人とどう向き合うか』ちくま新書、2025年による。

4 夏秋集中出荷型から夏秋分散出荷型~集中から分散~

 表2は、当産地の主要品目であるレタスの出荷期間を示したものである。2016年度の出荷は5月上旬から10月下旬に集中していたが、20年度には開始が4月中旬へと早まり、24年度には4月上旬から11月中旬までとなるなど、出荷期間は5旬も伸び、出荷期間の長期化を確認することができる。

タイトル: p049
 
 JA長野八ヶ岳は、産地を挙げて出荷時期の長期化を図るとともに、レタスやはくさいといった主要品目の振興から、ブロッコリーや白ねぎなどの新品目の導入・拡大を進めてきた。すなわち、井出澤氏の経営に見られた動きが、産地全体においても展開されており、夏秋期にピークを置く夏秋集中出荷型から、出荷時期を平準化した夏秋分散出荷型へと移行してきたのである。こうした「集中から分散」への変化は、当産地において、次のような重要な意義をもたらしてきている。
 第一は、産地としての価格リスクの低減である。近年、夏場においても一時的に過剰供給傾向が見られ、集中出荷による価格暴落リスクは高まってきている。特に出荷時期の分散は、出荷抑制の回避や価格変動リスクの緩和に寄与し、通年での安定供給が求められる流通構造への適応力を高めるものと言える。
 第二は、産地としての気候変動への対応力の強化である。当産地においても、猛暑や豪雨の影響により、一斉出荷の安定性は低下してきている。作型の細分化は、こうした気候リスクへの対応であると同時に、土壌劣化の緩和にも資するものであると言える。ただし、作型の細分化は、高い技術力を必要とすることにも留意しなければならない。
 第三は、産地としての雇用労働力の確保対策である。作業の平準化(年間を通じて均一化)により、周年雇用による安定的な労働力確保の可能性を高めてきた。この動きは、従来の「夏に集中的に働き、冬に休む」といった当産地の労働形態そのものを大きく変えただけでなく、国内労働力から海外労働力への移行といった雇用構造の変化と深く結びついている。

5 おわりに~高原野菜産地における持続可能性を考える~

 農村地域に位置するJA長野八ヶ岳管内では、少子高齢化の進行に伴い、この10年余りで野菜生産者数が約2割減少したものの、野菜販売高は常に200億円以上を維持していた。生産者数の減少が産地全体の出荷規模の縮小に直結しなかった背景には、大規模野菜作経営の確立・進展があり、これらの経営が産地の出荷量を大きく支えてきたことが指摘できる。
 事例として挙げた井出澤氏の経営や産地全体に見られた動きとして、出荷期間の長期化や周年雇用による労働力確保があった。出作を伴う規模拡大や、新品目、多品種の組み合わせによる作型の細分化を進め、夏季に集中していた出荷時期の平準化を推し進めた。これによって、価格リスクや気候変動リスクの低減を進め、周年雇用に通じた安定的な雇用につながっていった。
 労働力確保の面では、「季節雇用の国内労働力」から「周年雇用の外国人労働力」という雇用構造の変化が見られ、現場ではビジネス感覚や専門的技能の習得を通じた自己実現を志向する労働意欲の高い外国人たちが従事していた。しかし、現状の外国人労働力の活用は、日本との賃金差を前提としており、その優位性が将来にわたり維持される保証はない。持続可能な産地形成の観点からは、外国人労働力のみに依存するのではなく、労働意欲のある高齢者や障がい者を含む国内の多様な人材の活用についても検討しなければならないであろう。
 こうした10ヘクタール以上の大規模経営は増加しているものの、当産地の多数を占めているのは、依然として中小規模経営である。特に5ヘクタール未満の小規模経営が多く、その労働力の中心は夫婦による家族労働である。また、5~10ヘクタール規模の経営では、家族労働に臨時雇用を組み合わせる形態が一般的となっている。こうした中小規模経営の維持・存続は、産地全体の持続可能性と密接に関わっている。
 既存の中小規模経営の存続に向けて、省力化・軽労化を徹底的に推進することが、産地にとって極めて重要な戦略的課題となる。農作業体系の見直しに加え、作業の外部化や産地ぐるみの支援体制の整備を、産地全体で取り組みを進めていく必要がある。
 そして、大規模経営、中小規模経営に共通して言えるのは、産地における「働き方」そのものの見直しである。かつてのような「働いて、働いて、汗を流す」という長時間労働を前提とした働き方は、今日ではなじまない。むしろ、適切な休息と生活リズムを確保し、ワークライフバランスを実現することが、無理のない持続的な就農を可能にする。令和の高原野菜産地には、多様な人材を活用し、こうした新しい働き方を受け入れながら発展していくことが求められており、その先にこそ、真に持続可能な産地の姿と「清々しい汗」があるのではないだろうか。
 
 
謝辞
 井出澤雅敏氏および技能実習生からは貴重なお話を伺うとともに、JA長野八ヶ岳の菊池晋一氏と大槻桃里氏からは資料・データ提供に加え、詳細な点についてご指導いただきました。さらに、JA全農長野県本部(野辺山駐在所)の太田陽介氏からは、本調査のアレンジと調整をしていただきました。お世話になった皆様に心よりお礼申し上げます。