(1)野辺山地区
こうした大規模野菜作経営の確立・進展をより明確に把握するため、JA長野八ヶ岳管内の野辺山地区に着目したい。野辺山地区は、山梨県に隣接する南牧村に位置しており、近年では地区内の枠を越えた広域的な規模拡大が進んでいる。標高差による気候の違いを生かした山梨県の圃場で栽培する「出作」という形態をとることで、さらなる経営規模の拡大を図っている。
まず、野辺山地区における2024年度の野菜生産者の経営面積規模別割合を見ると(図5)、「5ヘクタール未満」の比較的小規模経営が36%と最も多いものの、「10ヘクタール以上」の大規模経営も31%を占めている。次に年齢別割合を見ると、「50~59歳」が29%で最も多く、「40~49歳」も24%を占めている。すなわち、野辺山地区における大規模野菜作経営は、主として40~50歳代の壮年層を中心に担われており、これらの層が出作を伴う経営規模拡大の担い手となっているものと考えられる。
(2)大規模経営の事例
野辺山地区における大規模野菜作経営の事例として、出作を伴う規模拡大と外国人労働力の雇用を積極的に進めている野辺山地区野菜委員長・井出澤雅敏氏(以下「井出澤氏」という)の経営を取り上げる(写真1)。井出澤氏の経営概況は、図6に示す通りである。井出澤氏は現在58歳であり、夫婦2人の家族労働力に加え、フィリピンおよびベトナム出身の特定技能実習生を含む外国人労働者6人を雇用し(写真2)、レタスやはくさいなど5品目の野菜を生産している。雇用形態は、周年雇用(特定技能実習生)が4人、季節雇用(技能実習生)が2人である。
経営面積は12ヘクタール(うち山梨県への出作2ヘクタール)であり、作付延べ面積は合計17ヘクタールに達している。地区外の出作を通じて、実質的な経営規模の拡大を段階的に図ってきた。栽培品目は、レタス、はくさい、キャベツといった主要品目に加え、ブロッコリー、白ねぎなどの新品目を導入し、いずれの品目も共選共販体制の下で出荷している。
表1は、井出澤氏の経営概況の変化、すなわち、段階的な規模拡大と労働力構成の変化を示している。井出澤氏は1992年、25歳で就農し、当初は自身と両親の家族労働力3人に季節雇用2人の体制で、経営面積5ヘクタールにおいてレタス、はくさい、キャベツを生産していた。98年に結婚し、家族労働力は4人となり、経営面積は6ヘクタールへと拡大する。この時期の雇用労働力は、夏季(7~9月)に限定した国内の季節労働力であり、いわゆる夏季の学生アルバイトなどだった。
しかし、2000年代に入ると、国内における季節労働力の確保は困難となり、地区全体で外国人労働力の導入の動きが加速した。こうした中、井出澤氏も2006年に季節雇用としてフィリピンからの技能実習生の受け入れを始めた。
季節雇用の技能実習生を基盤として農業経営を展開していたが、大きな転機となったのがCOVID―19の拡大である。井出澤氏は当時を「野菜が売れなくなり、品目を増やさざるを得なかった。そのためには規模拡大が必要であり、人手がさらに必要であった」と振り返る。この時期に、井出澤氏は経営面積を8ヘクタールに拡大するとともに、山梨県への出作をスタートさせた。
出作の開始は、単なる規模拡大にとどまらず、井出澤氏の次の諸点につなげるための経営の転換を伴うものであった。一つは、技能実習生の周年雇用化への対応である。背景には、コロナ禍において、入国制限により母国に帰れなくなった外国人技能実習生の季節雇用から周年雇用への移行が要請されていたことがあった。二つは、周年雇用に対応するための生産・出荷期間の長期化である。そして三つは、生産・出荷期間の長期化に対応するための作型の細分化
(注2)と多品目・多品種化である。作型の細分化に向けて品目・品種の拡充が進められたのである。
出作を含めた現在の井出澤氏の野菜の品目別作型は、こうした農業経営の転換を表している(図7)。作型の細分化により、早出し・遅出しと品種を組み合わせて生産・出荷期間の長期化を図るとともに、レタス、はくさい、キャベツといった主要品目中心の品目構成から、ブロッコリーや白ねぎなどの新たな品目へ多様化を進めたのである。
また、こうした経営転換は、技能実習生の受け入れを契機としており、それまでの季節雇用から周年雇用へと移行し、雇用労働力は国内から海外へと置き換わっていった。裏を返せば、井出澤氏のような大規模経営が、彼らの労働力に大きく依存していることを意味している。井出澤氏は「外国人労働力には大いに助けられている。彼らは自動車免許を取得し、さまざまな作業・業務に対応できるほか、労働意識も高い」と評価している。
この背景には、彼らが必ずしも単に収入獲得のみを目的としているのではなく、帰国後の所得向上を見据え、農業技能やビジネス感覚、専門的技能の習得を通じた自己実現を志向していることにある。実際に、彼らは高い教育を受け、母国においてキャリアアップや生活向上への意欲が高いと考えられる
(注3)。
(注2)同一作物において栽培時期や栽培方法を細分化し、品種および栽培技術を適切に組み合わせることで、収穫・出荷時期を分散または特定時期に集中させる栽培計画を指す。
(注3)専門的技能の習得を通じた自己実現を志向していることは、是川 夕『ニッポンの移民-増え続ける外国人とどう向き合うか』ちくま新書、2025年による。