(1)連携協定を締結した3者の概要
ア ウィルテック
ウィルテックは、大阪市に本社を置く人材面を中心に企業向けサービスを行う会社である。業務の一環として外国人材の雇用サポートサービスを行っており、入国前の日本語などの教育から入国時の手続き、就労期間のサポートなど、外国人雇用に関する全般的なサービスを提供している。「特定技能」に関しては、登録支援機関となっている。嬬恋キャベツ組合との取引から農業分野とも関わるようになり、その後、本連携協定以外にも農業産地との取引が増えている。
ウィルテックの大きな特徴は、海外に日本語学校を設け、自社で外国人労働者の教育を行っていることである。現在、ベトナム、ミャンマー、ネパール、インドネシアで学校を運営している。本連携協定に基づいて就労している者も、この学校で学び、「特定技能」の試験に合格して来日している。学校では、来日後の就労先を念頭に置いたカリキュラムを設けており、例えば宮崎県で就労する予定の者を対象として、宮崎県や宮崎市の職員が、気候や生活上のルールなど宮崎県で働く上で知っておくべき情報を講義している。また、登録支援機関として、外国人労働者が就労している地域には、社員が常駐して現場でのサポート役などに当たっており、嬬恋村、宮崎県でも、就労期間には社員が常駐している。
イ 嬬恋キャベツ組合
群馬県嬬恋村は、周知のように全国一の夏秋キャベツの産地である。2023年の夏秋キャベツの作付面積は3280ヘクタールで、村の耕地面積のほぼ8割がキャベツ畑となっている(写真1)。全国の夏秋キャベツに占める割合は作付面積で32.2%、収穫量で48.7%に達している。
2020年農業センサスによる同村のキャベツ作付け経営体は、403経営体(村内の全農業経営体の79.6%)であるため、1経営体当たりキャベツ作付面積は8ヘクタール程度に達している。図1に嬬恋村の経営耕地規模別農業経営体数を示した。経営耕地面積5ヘクタール以上の経営体が全体の67.4%を占めており、嬬恋村のキャベツ生産は、5ヘクタールを超える大規模経営によって担われていると言える。しかも、嬬恋村でも経営体数は減少しており、近年はさらに規模拡大が進んでいると言える。
嬬恋村のキャベツ生産の最大の労働ピークは収穫期であり、この時期に多くの臨時労働力を必要としている。かつては学生やフリーターなど日本人を臨時で雇用していたが、雇用期間が限られる上に、早朝からの長時間労働であるため、労働力確保が難しくなってきた。そのため、労働力のほとんどは外国人労働者に置き換わっていった。
嬬恋村農業協同組合(以下「JA嬬恋村」という)は、技能実習生の特定監理団体となっており、技能実習生受け入れの主な窓口となってきた。しかし、農協系統外出荷を行っている農家では、JAを通じた技能実習生を受け入れにくかった。そこで、系統外出荷の農家によって設立されたのが嬬恋キャベツ組合である。同組合は、08年に事業協同組合として設立され、技能実習生の特定監理団体の認可を受け、組合員農家に向けた技能実習生の受け入れ事業を始めた。現在の組合員数は33人である。その後、後述するように特定技能外国人労働者のあっせん・調整業務も行うようになった。
JA嬬恋村では、技能実習生しか受け入れていないため、農協系統出荷している農家の中で特定技能外国人労働者を雇用したい者に対しては、嬬恋キャベツ組合の准組合員という資格を与えて、あっせん・調整を行っている。
ウ 宮崎県法人協会
宮崎県は、全国有数の大規模経営が展開している地域である。2020年農業センサスでは、農産物販売金額1億円以上の経営体の割合は、北海道に次いで高く、1.9%に達している。農業部門別で農産物販売金額の多い経営体を見ると、畜産が過半を占めているが、次いで多いのは露地野菜、施設野菜である。
宮崎県法人協会は、宮崎県内の農業法人で組織する団体であり、2007年に設立した。一般社団法人として独立した法人格を持っているが、全国組織の公益社団法人日本農業法人協会の宮崎県支部としての機能も持っており、宮崎県農業会議所内に事務所を置いている。正会員は87社であり、さまざまな農業部門の農業法人が加入しているが、野菜と畜産の農業法人が多い。
宮崎県法人協会は、農業法人の経営を支援するための生産、販売両面に関わるさまざまな事業を行っている。その中の重要な事業に、人材確保・育成があり、外国人労働者の雇用に関わる支援もその一環となっているが、特定監理団体などの認定は受けていないため、雇用に直接関わることはなく、あっせん・調整などを行っている。また、嬬恋キャベツ組合との大きな違いは、同組合はキャベツ農家のみを対象としており、対象とする農作業内容も雇用期間もほぼ決まっているが、宮崎県法人協会は、さまざまな農業部門の農業法人に対応しているため、外国人の雇用も、畜産と野菜の両方の作業に従事させるなど、多様な形態に対応している。また、本稿で取り上げる産地間リレーでの季節雇用のみでなく、通年雇用にも対応している。
(2)連携協定締結の経緯
連携協定締結の発端は、コロナ禍での嬬恋キャベツ組合の外国人労働者確保の模索である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、外国人の入国が制限されたため、1年ごとに入れ替えて受け入れてきた技能実習生1号が入国できなくなり、キャベツ収穫の労働力確保が危機的な状況となった。その対応策として、コロナ禍で母国に帰れなくなった特定技能外国人を雇用したところ、彼らは日本語でのコミュニケーションができ、理解力が高く、農家の評価が高かった。そこで、嬬恋キャベツ組合では特定技能外国人の雇用に本格的に取り組むこととなった。
農作業が春から秋までに限られ、通年雇用が困難な嬬恋村のキャベツ農家にとって、就労目的で日本に数年間継続して滞在する特定技能外国人を雇用するには、冬場の就労の場を確保することが必須の課題であった。そこで、嬬恋キャベツ組合では、夏場に雇用する彼らの冬場の就労先を探した。最初に富山県の柿農家との間で人材の産地間リレーを始めた。その後、和歌山県のミカン農家や群馬県の施設野菜農家に産地間リレーのパートナーを広げていった。特定技能外国人の雇用を進める中で、登録支援機関であるウィルテックの存在を知り、その後、産地間リレーのパートナーとして宮崎県法人協会を紹介された。
宮崎県法人協会の会員農業法人には、外国人労働者を雇用している者は少なくないが、さまざまな農業部門があるため、その雇用形態もさまざまで、通年雇用している者も多い。西南暖地の野菜産地のため、野菜経営体の中には冬場の労働ピークに対応する労働力が必要であり、嬬恋キャベツ組合とマッチングし、人材の産地間リレーを始めた。この取り組みを進める中で、両者にウィルテックを加え、就業環境構築のノウハウを3者間で共有することを目的とした、特定技能外国人雇用の産地間リレーの取り組みの基本事項をまとめたものが先の連携協定である。
これ以前にも、人材の産地間リレーの事例はあったが、それらは文書による取り決めはなかったため、嬬恋キャベツ組合と宮崎県法人協会との産地間リレーは、文書に明文化された連携協定が交わされた初めての事例となった。
(3)3者の役割と本連携協定の内容
3者による産地間リレーの概要を図2、3に示した。ウィルテックは海外で特定技能外国人の候補者を募集し、現地で運営している学校で教育を行い、特定技能の資格試験に合格後の入国手続きを支援する。入国後は登録支援機関として産地にも担当者を常駐させ、特定技能外国人のサポートを行う。本連携協定の対象産地に限らず、雇用期間をつなぐため他の産地のあっせん・マッチングでも中心的な役割を担っている。
嬬恋キャベツ組合と宮崎県法人協会は、産地間リレー方式で円滑に特定技能外国人を雇用できるよう、ウィルテックや雇用される特定技能外国人と、雇用する農業者間での雇用人数や期間など受け入れ体制の整備と調整を担っている。また、住居の確保などの生活環境の整備や、雇用主によって就労条件や生活環境に極端な違いが生じないよう、両産地で統一したルールの設定なども行っている。さらに本連携協定に限らず、人材確保の選択肢を広げるため、産地間リレーのパートナーとなる新たな産地の開拓も担っている。
本連携協定の内容は表2に示した通りである。本表を見ると、両産地での産地間リレーの具体的な内容が記載されているのではなく、異文化共生や就労・生活環境の整備など、産地間リレーに取り組む上での指針や基本的な姿勢が述べられている。本連携協定を締結した3者ともに、他の産地とも産地間リレーを行っているが、本連携協定の内容は他の産地とも同様に遵守されるべき基本的なものである。
外国人労働者にとって、季節ごとに居住地を移動し、従事する作業内容も変わる産地間リレー方式は、決して負担が小さいものではない。産地間リレー方式で彼らを安定的に確保するためには、彼らが満足できる就労条件・生活環境を提供することが必要であり、しかも、連携する産地すべてで統一的にそれらが提供される必要がある。