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調査・報告 野菜情報 2026年7月号

消費者の健康への意識から作る野菜購入につなげる売り場づくり    ~野菜に含まれる栄養と機能性表示のマニュアル化~

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公益財団法人 日本ヘルスケア協会 野菜で健康推進部会

【要約】

 公益財団法人 日本ヘルスケア協会 野菜で健康推進部会は、農産物の機能性表示ルールの変化に係る課題を解決するため各方面に働きかけ、「野菜・果実の栄養素の一般的な機能性・特徴表示に関するPOP表示マニュアル」を作成し、また、量販店等の売り場で利活用いただける体制を構築した。
 本稿では、実際の店舗で実施した効果検証の事例を交え、その取り組みを紹介する。

1 野菜で健康推進部会について

 公益財団法人日本ヘルスケア協会(以下「ヘルスケア協会」という)は、2015年11月に発足し、表1の役割を目的に、大きく二つの組織から構成されており、日本へルスケア学会の下部組織を「研究会」、日本へルスケア産業協議会の下部組織を「部会」と称している。

タイトル: p041a
 
 16年10月、日本の医療費が40兆円を超えようとする頃、部会の一つとして「野菜で健康推進部会」(以下「推進部会」という)を立ち上げ、毎月の定例会や、年に3~4回開催するセミナーなどの活動を継続し、早10年になる。
 推進部会の活動内容は、大きく三つあり、表2の通りである。毎月行う定例会では、農産物の生産販売における問題を取り上げ、会員の闊達(かったつ)な意見交換と実践を繰り返してきた。特に、一般社団法人全国スーパーマーケット協会の展示会には、テーマを「野菜売り場は食の薬局」として野菜を7色に並べてその一般的な機能を表示できるような提案をしてきた(写真1)。

タイトル: p041b
 
タイトル: p042

2 推進部会のこれまでの取り組み

(1)農産物の表示ルールの変化
 2015年から、農産物を含む生鮮食品も機能性表示食品としての届け出ができるようになったが、機能性表示食品の届け出には、保健機能に関わる成分の含有量を明らかにして、1日当たりの摂取目安量を設定する必要がある。
 しかし、生鮮食品は生産物によって含まれる成分量にバラつきがあるため、届け出は容易ではない。このため、量販店などの販売現場において、POP(注1)で一般的な機能性を記載することが難しいという課題があった。
 このため、推進部会では、消費者庁の機能性表示食品に関するガイドラインのQ&Aに「生鮮食品について、機能性表示食品の届け出を行わずにPOPや広告等に機能性を表示することは可能か」との質問を提起したところ、同庁から「生鮮食品の一般的な特徴(特定成分の含有の有無や当該含有成分の一般的な機能性など)についてはPOPや広告等に表示することができる。ただし、当該POPや広告等が、特定の食品を示さないこと、優良誤認、虚偽・誇大広告に関する景品表示法及び健康増進法の規定に抵触しないよう留意する必要がある。なお、生鮮食品が栄養機能食品である場合は、当該栄養成分を含むものとして、栄養機能食品として栄養成分の機能を表示することができる。」という回答を受けた。
 しかしながら、消費者庁のガイドラインにある「特定の食品を示さないこと」や、「食品表示法」、「景品表示法」、「健康増進法」など複数の法規制の対象となり、法規の解釈や判断を正しく理解し、規定に抵触しないよう留意が必要なことの難しさから、売り場では「表示をしない方が問題ない」という傾向にあった。こうした状況に、われわれ推進部会は、価格のみの判断で農産物が購入され続けることが本当によいのか疑問を感じていた。

(注1)Point of Purchaseの略。店舗や売り場で、商品の近くに設置される商品に関する情報を掲載した表示(ポスターやデジタルサイネージなど)を指す。

(2)サンドボックス制度(新技術等実証制度)への提言

 厚生労働省が定める「健康日本21」の中にも、「野菜果物の摂取量の増加が生活の質の向上、健康寿命の延伸につながる」と記載されており、野菜・果物の良さをもっと消費者に知ってもらい、購入動機につなげるべきと考え、推進部会は内閣府の規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)(注2)に申請し、実証計画の認定を受けた。実証は、以下の3段階で取り組みを進めた。
 1)関係法令に違反しないことを前提として、「直販所や量販店の野菜・果実の栄養素の一般的な機能性・特徴表示に関するPOP等表示マニュアル(自主マニュアル)」を作成し、推進部会の勉強会に参加した小売店に対してマニュアルの使用を許可する。
 2)使用を許可された小売店は、同マニュアルに基づいて作成したPOPを表示する。また、保健所や消費者などからの指摘事項があれば、推進部会が対応し、継続的に改善可能な仕組みを構築する。
 3)これらの方法により、小売店における、質疑応答集を踏まえ、野菜・果実の適切な広告活動を推進していく。
 
 この実証の中で、1)のマニュアルの作成は、次の3点を取り決めて作業を進めた。
 ア 推進部会が自主マニュアル案を作成し消費者庁、農林水産省と意見交換を行い必要に応じて修正した上でマニュアルとして策定すること。
 イ 売り場で一般的な機能性の表示を行うことは、野菜(機能性表示食品以外のもの)が持つ一般的な特徴(特定成分の含有の有無や含有成分の一般的な機能性など)を示すものであり、医薬品と見間違う恐れがなく、かつ特定の食品を示すものではなく、関係法令に違反しないことを前提とすること。
 ウ 機能性表示食品制度で届け出た機能性関与成分と誤認されない表示とするよう留意すること。

 この結果、1)直販所や量販店の野菜・果実の栄養素の一般的な機能性・特徴表示に関するPOP表示マニュアル、2)参考としてのエビデンス資料-が出来上がり、この1)、2)を併せた成果物「直販所や量販店の野菜・果実の栄養素の一般的な機能性・特徴表示に関するPOP表示マニュアル」(以下「YーPOP表示マニュアル」という)を用いて、小売店の売り場で適切なPOP表示を行うこと(以下「YーPOP表示」という)の支援を2020年から開始することができた。
 YーPOP表示マニュアルには、野菜に含まれる栄養と機能性を表示する中で、1)野菜の良さを正しく伝える、2)野菜の摂取を量の摂取から質の摂取を目指せるようにする、3)購入時に、消費者のリテラシー向上をも目指すことを目的に、成分としての機能性と美味しさも重視すること―などを反映できるよう考慮した。

(注2)サンドボックス制度(新技術等実証制度)とは、既存の規制の適用を受けることなく、新しい技術等の実証を行うことができる環境を整えることで、迅速な実証を可能にし、円滑な事業化、規制改革を推進するもの(産業競争力強化法に基づく制度)。

3 YーPOP表示マニュアルの内容

 YーPOP表示マニュアルは、大きく以下の二つのマニュアル資料で構成される。
 
(1)POP表示マニュアル(黄マニュアル)
 活動目的とその背景、根拠としている法規やルール、具体的な表示の仕方、運用方法、トラブル対応などを記載したマニュアル(全52ページのうち、一部を図1として掲載)。
 
(2)エビデンス資料(赤マニュアル)
 一般的な成分の含有やその機能性に関する根拠としているデータベースの情報と、20種(ビタミン13種類、ミネラル6種、脂肪酸1種)、フィトケミカルなど非栄養素42種類、野菜・果物31種の、具体的な表示の引用箇所を含む根拠情報をまとめた資料(全128ページのうち、一部を図2として掲載)。

タイトル: p044
 
 このYーPOPマニュアルとその運用に関する最大の特徴として、以下の5点が挙げられる。
 1)特定の商品を示さないPOPを共通POPとして、そこに記載できる一般的な成分や機能性に関する表示可能な情報を商品別に具体的に提示している。
 2)野菜や果物の抗酸化力の表示方法を定め、個別商品の抗酸化力による優位性を表示できるようにしている。
 3)表示の背景となる法規、根拠、社会状況などを学べるツールとなっている。
 4)表示関係者に対しマニュアル勉強会を実施し、十分理解した上で実施可能としている。
 5)表示による保健所などからの指摘事項は、推進部会で受け付け、対応する仕組みとしている。

 本マニュアルの作成と監修は、推進部会が行っているが、実際の店舗における表示に関する活動については一般社団法人食品機能推進協会(以下「運営協会」という)(https://ffia.or.jp/)に委託している。次章で、野菜での具体的な事例を挙げて、表示までの手順と問題発生時の対応などについて、運営協会の役割にも触れながら解説する。

4 店舗におけるYーPOP表示の流れと留意事項など(例)

(1)YーPOP表示の手順
 ア 申し込み:YーPOP表示マニュアルのご利用希望の店舗(企業)は、推進部会または運営協会に相談する。
 イ 打ち合わせ:店舗(企業)と運営協会の間で、取り組みを行う店舗数や、野菜の種類、管轄保健所などを聞き、内容を打ち合わせ。
 ウ 見積もり:運営協会は、店舗(企業)に対し、本マニュアルの概要を説明後、YーPOP表示マニュアル利用の費用に関する見積書を提示。
 エ 勉強会:正式発注の後、店舗(企業)の責任者および関係スタッフの方々向けに、YーPOP表示の勉強会を開催する。店舗(企業)の大勢の関係者に理解いただくために、事前に動画を配信し、リモートでの補足説明と質疑応答の形式で実施。
 オ 共通POP作成:表示する野菜の種類や場所などに合わせ、共通POPを作成する。推進部会の作成した共通POP、または各店舗で独自に作成したPOP(運営協会が承認したもの)を準備(図3)。




 カ 表示ポリシーの掲示:店舗に表示するに当たり、青果売り場の入り口などに、一般的な表示の根拠説明などを記載した表示ポリシーのポスター(図4)を掲示いただく。
 キ 店舗掲示:特定の商品(1生産者の1商品)を示さないような場所に、共通POPを表示し、その状況を写真で撮影し、店舗(企業)から運営協会に送信いただく。



 
(2)問題発生時の対応
 保健所や消費者からの問い合わせ、指摘などがあった場合には、問題発生時の報告シート(図5)を用いて推進部会に報告いただき、対応を相談する。内容によっては、推進部会がその解釈や対応について消費者庁と協議を行い、回答などの対応を行う。
 


 
(3)YーPOP表示活動の留意点
 YーPOP表示に当たっては、表3に示す留意点を守っていただきたい。

タイトル: p046c

5 効果検証~店舗での実施事例~

 運営協会が農林水産省から受託して実施した「令和7年度野菜・果実の消費拡大支援委託事業」において、大阪府と東京都にある量販店2店舗を対象に、青果売り場でYーPOP表示を実施し、その効果検証を行ったので紹介する。

(1)売り場での掲示事例
ア トップワールド香里園店
  大阪府のトップワールド香里園店では、にんじん、ほうれんそう、トマト、ブロッコリー、はくさい、いちご、温州みかん、りんご、かぼちゃの計9品目でYーPOP表示を展開した(写真2~4)。消費者が健康価値を直感的に理解できる内容として、「にんじんはβーカロテンが豊富な緑黄色野菜の一つです」などの一文が記載されたYーPOPをそれぞれの品目の売り場の目につくところに掲示し、どの野菜にどのような機能性成分が含有されているということが分かるよう訴求し、商品の魅力向上を図った。
 









イ スーパーアルプス西八王子駅前店
 一方、東京都のスーパーアルプス西八王子駅前店では、きのこ、キャベツ、さつまいも、じゃがいも、たまねぎ、トマト、にんじん、ねぎ、ブロッコリー、ほうれんそう、はくさい、いちご、りんご、柿、みかんの計15品目でPOP表示を実施した。青果売り場の動線上や商品周辺(プライスカードの並び)にYーPOPを掲示することで、来店客の目線が、自然と栄養情報に触れられるような売り場づくりを行った(写真5~7)。

 
                                              









  


 
(2)ベジメータ活用による消費者への効果検証
 今回の取り組みでは、単にYーPOP表示だけでなく、その効果を検証するため、来店客を対象とした「推定野菜摂取量測定会」(以下「測定会」という)も実施した。測定には、皮膚カロテノイド量から推定野菜摂取量を可視化する「ベジメータ®SE」を使用し、まず、YーPOP掲示前に第1回測定会を実施し、来店者の平均的な野菜摂取量を把握した。その後、YーPOPを掲示し、一定期間経過後に第2回測定会を実施することで、来店者の推定野菜摂取量の変化を比較・検証した。

ア トップワールド香里園店
 トップワールド香里園店では、総数429人の方のデータで効果検証を行った。初回測定時の1人当たりの平均推定野菜摂取量は、1日当たり244グラムであったのに対し、Y-POP展開後の2回目測定では、同321グラムまで増加した。平均値は77グラム増加し、ベジレベル™(注3)も110ポイント上昇する効果となった(図6)。
(注3)ベジレベル™は皮膚のカロテノイド量を表す数値。この値はベジメータの皮膚カロテノイド量と強い相関関係があり、30日以内の野菜摂取状態を反映する。

タイトル: p048b
 
イ スーパーアルプス西八王子駅前店
 また、スーパーアルプス西八王子駅前店でも、総数274人の方のデータで効果検証を行った。初回の1人1日当たり279グラムから、2回目には、同354グラムへ増加した。こちらは同75グラム増加し、「健康日本21」の野菜摂取目標値である同350グラムを上回る結果となった。ベジレベルも107ポイント上昇した(図7)。

タイトル: p049a
 
ウ YーPOP表示による消費者の野菜摂取量の増加
 YーPOP表示を見る前後のデータを比較すると、量販店2店舗ともに、野菜摂取量が1人1日当たり75グラム以上増加し、ベジレベルも107ポイント以上上昇したことから、YーPOP表示により、消費者が野菜を積極的に購買し摂取した可能性が示唆され、消費者の健康に寄与する野菜摂取量改善の食行動に良い影響を与えた可能性が示された。

(3)消費者アンケートの実施
 さらに、消費者アンケート(注4)を実施したところ、高い効果が確認された。野菜・果物の機能性成分に「関心がある」と回答した人は、全体の約8割に上り、健康価値への関心の高さがうかがえた(図8)。一方で、「機能性成分を意識して購入した経験」がある人は、それより少なく、関心はあっても実際の購買行動につながっていない実態も見えてきた(図9)。




 
 次に、Y-POP表示を見た後の購買意欲については、9割前後の回答者が「購入意欲が高まった」、「何となく高まった」と回答しており(図10)、売り場での情報発信が購買行動を後押しする有効な手法であることが確認された。
 また、測定会に継続参加した来店客のうち、9割前後が前回よりベジレベルが向上したと回答しており(図11)、YーPOP表示と測定会を組み合わせることで、消費者の健康意識や野菜摂取行動の改善につながる可能性が示唆された。
(注4)トップワールド(大阪)の回答数は43、スーパーアルプス(東京)の回答数は35。
 


6 おわりに

 4で紹介したYーPOP表示の取り組みでは、野菜売り場において、従来の「価格」や「鮮度」に加え、「栄養や機能性」が健康への付加価値として、消費者の青果物購入を促す新たな販売手法となり得るという大きな成果が見られた。今後も引き続き、こうしたYーPOP表示の取り組みをさらに広げることで、青果売り場の価値向上だけでなく、野菜・果物の消費拡大および消費者の野菜摂取量向上による健康増進につながることを期待する。
 
 
タイトル: p050a 
丹羽 真清(にわ ますみ)
野菜で健康推進部会 部会長
【略歴】
食品メーカーに8年間在籍。退社後
1986年 『食のコーディネーター』として独立。
        食品メーカーで新商品開発のコンサルティングを行う。
1999年 デザイナーフーズ株式会社を設立 代表取締役社長就任。
        野菜の機能性、活性酸素消去活性の研究を行う。
2013年 現デリカフーズホールディングス株式会社 代表取締役社長に就任。
2016年 公益財団法人日本ヘルスケア協会の中で「野菜で健康推進部会」を設立。
2020年 デザイナーフーズ株式会社 代表取締役退任。
        デリカフーズホールディングス株式会社 取締役退任。
2021年 一般社団法人食と農の生命科学研究会設立 代表理事となる。
2022年 公益財団法人日本ヘルスケア協会 理事となる。
2025年 プラネタリーヘルスイニシアティブ 理事となる。

タイトル: p050b
中田 光彦(なかだ みつひこ)
野菜で健康推進部会 副部会長
【略歴】
広告情報産業に7年、食品素材メーカーに16年、退職後
2008年 株式会社サラダコスモに入社し、もやし・スプラウトの生産、6次産業化商品開発。
2015年 大豆イソフラボン子大豆もやしで、野菜で第一号の機能性表示食品を開発。
2016年 公益財団法人日本ヘルスケア協会 野菜で健康推進部会に参画、現在副部会長。
2019年 サラダコスモを退職し、野菜で健康研究所株式会社を設立 代表取締役に就任。
        青果物の健康機能性表示、未利用資源開発などのコンサルティングを行う。
2024年 一般社団法人食品機能推進協会を立ち上げ、理事就任。

タイトル: p050c 
赤尾 勉(あかお つとむ)
野菜で健康推進部会 事務局長
【略歴】
通信販売企業にて15年間在籍。
2009年 株式会社ベルグリーンワイズ入社。
        青果物の鮮度保持包装の開発、マーケティングに従事、
        現在、同社の執行役員CSO。
2017年 公益財団法人日本ヘルスケア協会 野菜で健康推進部会に参画、事務局長就任。
2024年 一般社団法人食品機能推進協会を立ち上げ、理事就任。
 
タイトル: p050d
雷 方(らい ほう)
野菜で健康推進部会 Y-POP担当
【略歴】
2020年4月 株式会社ベルグリーンワイズ入社。
            生鮮食品の機能性表示食品コンサルタント業務および市場開発業務に従事、
           現在同社マーケティンググループ長を務める。
2020年4月 公益財団法人日本ヘルスケア協会 野菜で健康推進部会 
           Y-POP担当に就任。
2024年4月 一般社団法人食品機能推進協会 事務局担当に就任。