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調査・報告 野菜情報 2026年6月号

バイヤーが欲しがる青果物の特徴ってどういうもの?                ~マーケットインの視点から各業界別ニーズをひもとく~

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農業ジャーナリスト 鈴木 雄人

1 はじめに

 私は、現在「車中泊」で日本全国の農業現場を巡りながら、農業分野専門のジャーナリスト/ライターとして取材・執筆活動を続けている。その中で、生産者から最も多く寄せられる悩みが、「自分たちが丹精込めて作った青果物を、一体どこに、どうやって売ればいいのか」という販路開拓に関する声である。かつては、「農家は良いものを作れば、農協や市場が売ってくれる」という時代があった。しかし、「作れば売れる」はもはや昔話となりつつあり、現代の農業経営においては、「どこで、誰に、いくらで売るか」というマーケットインの視点と出口戦略が、栽培技術と同等に経営の命運を左右するようになってきている。
 農産物の販路には、農協(JA)出荷、卸売市場、量販店関係、ホテルやレストランなどの外食産業、工場向けの加工・業務用関係、そしてEC(電子商取引)や直売所を通じた直接販売など、実に多様な選択肢が存在する。生産者が自ら販路を開拓し、稼げる農業を実現する上で最も重要なのは、「自分たちの青果物が、どの市場のニーズと最も相性が良いのか」を客観的に見極めることである。青果物の流通市場は、業界ごとに全く異なる顔を持ち、必要とされる品目が違えば、求められる作物の特徴、出荷ロット、物流の組み方まで変わってくる。
 本稿では、かつて私が勤務していた「横浜市場センター株式会社」の各業界担当バイヤーに対し、それぞれの業界が求める青果物についてインタビューを行い、「ベンダー業界(加工野菜)」、「外食業界」、「スーパーマーケット業界」、「コンビニ業界」という四つの主要業界のリアルなニーズをひもといていく(図1)。

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2 ベンダー業界(加工野菜)

 ベンダー業界は、首都圏を中心とした全国の量販店、コンビニエンスストア(以下「コンビニ」という)、外食産業、加工工場などに青果物を広く卸しており、主にコンビニやスーパーの店頭に並ぶ袋入りのサラダ、惣菜、お弁当などを製造するデイリーメーカー(工場)に向けて、原料となる青果物を供給している業界である。コンビニ各社が自ら工場を運営しているわけではなく、各チェーンと連携するデイリーメーカーが存在し、そこに青果物を納品するのが基本構造となる。
 近年の中食・加工需要の推移を見ると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大時には、在宅ワークの普及でオフィス街の店舗需要が減少し、売り上げが落ち込む時期もあった。現在は、コロナ禍の直後に比べれば回復傾向にあるものの、全国的には横ばいで推移している。ただし、インバウンド需要が旺盛な京都府などの観光地では、海外からの旅行客の増加によって、消費量が大幅な伸びを見せているという局地的な特需も発生している。
 
(1)求められる品目
 この業界で圧倒的に取扱数量が多いのは、サラダや惣菜のベースとなるキャベツである。一つの部署だけでも、キャベツは日量約10トンもの納品があるという(写真1)。次いで、レタス類、にんじん、だいこん、長ねぎといった定番品目が続く。また、コンビニの新商品発売に伴って細かい品目の入れ替わりが頻繁に起こるため、ルッコラやバジルといったハーブ類が求められることも少なくない。
 そのような中、近年の特筆すべき変化として、青ねぎの需要増が挙げられる。従来は西日本での消費が中心だったが、うどんなどの薬味として東日本でも食べる文化が定着したことで、関東や東北、北海道にも新たな産地が形成されつつあるという。

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(2)「歩留まり」の重要性とGAPの取得
 ベンダー業界に向けて青果物を販売する際、生産者が意識すべき特徴は大きく二つあり、一つ目は、「歩留まりの良さ」である。例えばキャベツ一つをとっても、外葉が多くて中がスカスカなものと、外葉が少なくて中までぎっしり詰まっているものとでは、加工工場にとっての価値が全く異なるという。1玉から三つ分のサラダができるのか、四つ分できるのかによって、工場側の作業効率と利益率が大きく左右されるためだ。生産者は、その土地に合った品種を選ぶだけでなく、加工工場が最終的な顧客になることを念頭に置き、「加工に適した歩留まりの良い品種選定」を行うことが取引獲得への絶対条件となる。
 二つ目の大きな特徴は、「GAP(農業生産工程管理)認証の取得」である。近年、このGAP認証を求める取引先(工場)が増えつつある。例えば、加工向けの場合、商品に何か問題が起きた際、生産から物流までのどの段階で問題が発生したのかをさかのぼって特定できるトレーサビリティが必須となる。これに伴い、近年では、GAP認証を既に取得している、あるいは取得に前向きな産地とが、自然と優先され取引されている。生産者には、日々の生産管理のデータをしっかりと記録し、取引先から求められた際にいつでも提出できる状態を整えておく徹底した管理スキルが求められるのだ。
 
(3)輸入品の動向とバイヤーに求められる国産野菜
 加工向けでは、コスト削減のため、むきたまねぎやにんじん、パプリカなどの品目は、輸入品も多く使用されている。これらの輸入品は、最初から輸出が前提とされた大規模生産により価格が低く抑えられており、輸出に向けたグローバルGAPを取得しているため、バイヤーから見て扱いやすいという強みがある。しかし、昨今は為替相場の影響や物流費の高騰などにより、輸入品と国産品の価格差が縮まりつつあるため、今後は国産需要の伸びが期待されているという。
 バイヤーが現在、需要があるにもかかわらず調達先が足りていないと感じているのは、「GAP認証のある長ねぎや青ねぎ、にんじん」であるという。特に長ねぎや青ねぎは、8~10月にかけての高温期に主要産地(九州や四国、関東)での成長が止まり、毎年のように欠品リスクに直面している。北海道や東北などでの夏場の栽培が期待されているが、まだまだ供給が追いついていないのが現状だ。もちろん、足りない時期だけスポットで欲しいわけではなく、その困難な時期に出荷できる産地とは、年間を通じた長期的な取引を行いたいというのがバイヤーの本音である。
 
(4)大規模ロットへの対応と物流
 ベンダーに出荷する場合、キャベツなどの大型野菜はキロ単価が低いため、トラックへの積載効率を最大化して運送単価を抑えなければ、商売が成り立たない。従って、ある程度の生産規模があり、量を動かせる生産者でなければ参入は難しい(写真2)。
 私が過去に取材した北海道のダイヤモンド十勝株式会社の事例では、約500ヘクタールの大規模経営で地域の農家と連携し、大手メーカーが必要とする巨大なロットを確保することで、安定した直接取引を実現している。工場では、1日に数トン、数十トン単位で野菜を消費するため、こうした「規模の確保」が不可欠となる。一方で、ルッコラなどの単価の高いハーブ類であれば、宅配便を使った納品も可能である。

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3 外食業界

 外食産業は、飲食チェーンや個人の飲食店、さらには学校給食なども含まれる市場である。一般社団法人日本フードサービス協会が発表した「令和7年(2025年)外食産業市場動向調査」によれば、近年の外食業界は新たな局面に突入している。円安を背景とした物価高や原材料高が続き、断続的にメニューの価格改定が行われた結果、客単価が上昇(前年比4%高)し、全体の売り上げは前年を上回る結果(同7%高)となった。
 しかし、その裏で消費者の「節約志向」は一層強まっている。日常的な食事では割引きキャンペーンや価格据え置きの店舗、相対的に安価なファストフード業態が好調を維持する一方、お盆や夏休み、年末年始などの「ハレの日」にはしっかりとお金を使うといった、消費の選別(メリハリ消費)が進んでいるのだ。客単価上昇の影響で客数には頭打ち感も出始めており、コロナ禍からの回復が早かった持ち帰り米飯・回転寿司や焼き肉業態などでは、客数が前年割れを起こす企業も出てきている。
 一方で明るい話題もある。2025年4~10月にかけて開催された大阪・関西万博が関西圏の需要を押し上げたほか、過去最高を記録した訪日外国人(インバウンド)需要がディナーレストランなどの売り上げを牽引した。都心の店舗や「○○横丁」と呼ばれるような複数店舗が集まる業態では、このインバウンド需要の恩恵を大きく受けている。また、四半期の動向を見ても、すべての業態で売り上げが前年を上回り、コロナ禍で激減したパブレストランや居酒屋などの店舗数も、ようやく下げ止まりの傾向を見せている。
 こうした市場環境の目まぐるしい変化の中で、飲食店は、仕入れ単価や人件費の高騰に直面しており、いかにコストを抑えつつ利益を確保するか頭を悩ませている。値上げのタイミングをうかがいつつも、日本人の客離れを恐れて値上げを躊躇している店舗も多い。農業界から見ると、青果物は値上げを後回しにされる傾向があり、生産者側からの値上げ要請がなかなか受け入れてもらえない厳しい現実もある。
 
(1)求められる品目
 取扱数量が多いのは、トマト、キャベツ、レタス、たまねぎ、長ねぎといった定番野菜である。むきたまねぎや長ねぎに関しては、円安の現在であっても中国産などの輸入品の方が国産品の3分の2ほどの価格であるため、コストを抑えるために輸入品が多用されているのが実情だ。
 一方、数量は多くないものの、約20種類のハーブや西洋野菜のトレビスといった変わり種も、高価格帯の飲食店からの確実な需要がある。例えば、私が過去に取材した北海道の三野農園では、リーキや根セロリといった西洋野菜を飲食店などに卸しており、一般的な市場では評価されにくいニッチな野菜でも、独自の販路を持つことで高単価販売を実現している(写真3)。
 
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(2)「届いてすぐ使える熟度」
 外食産業が青果物に求める最大の特徴は、「届いてすぐ調理できる食べ頃の状態(熟度)」であることだ。スーパーマーケットなどの小売り向けでは、店頭での棚持ちを考慮して若干青い状態で出荷することが求められるケースもあるが、飲食店では事情が異なる。店舗には在庫を置く広いスペースがなく、一回のロットが少量であるため、届いたトマトや果物は、その日のうちに提供できる完璧な熟度が求められるのである。
 また、飲食店では、「いつお店に来ても同じ味の料理が提供されること」が重要であり、安定した品質の青果物が不可欠である。さらに、価格面においても、スーパーのように日々の相場で売価(メニュー価格)を頻繁に変えることはできない。このため、外食産業では月ごとにメニュー単価を固定し(例えば5月のメニューの単価は4月上旬に決定される)、一定期間、固定価格で納品できることが求められている。
 一方で、店舗の業態や客層に合わせて提供する価格帯(低価格帯、中価格帯、高価格帯)によってもニーズは細分化される。低価格帯チェーンでは価格重視、中価格帯では品質重視、高価格帯では変わり野菜や味の良さが求められるのだ。
 
(3)需要があるのに不足している野菜と求められる生産者からのアプロー
 直近で不足しがちな野菜として、外食関係で取り扱い上位の「トマト」が挙げられる。特に8月から10月にかけては、産地の端境期に当たる上、収量が安定しないため産地からも契約栽培を敬遠されがちであり、出回る数量が極端に少なくなる。
 気候変動の影響もあり、飲食業界に限らず夏場に安定して青果物を集めることは、年々難しくなっている(写真4)。卸売業者や飲食店側も、日々の業務に追われて自ら産地を巡り新規開拓をする余裕がないのが実情である。だからこそ、生産者側から「うちにはこういう特徴の野菜があります」、「この時期に出荷できます」といった逆営業やアプローチを行うことは、決して迷惑なことではなく、新たな販路獲得につながる大きなチャンスであるという。

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(4)取引を継続するための「正直なコミュニケーション」
 外食関係へ出荷する場合の最低出荷量については、ハーブ類であれば週に200パック程度など、大きな数量でなくとも取引は可能である。多品種少量で幅広く扱えるのがこの業界の強みであり、「これぐらいの量しかありません」と正直に提示してもらえれば、店舗ごとに振り分けるといった提案も可能となる。
 その中で、取引が続かなくなる生産者の典型的な原因は、「情報の共有不足」である。飲食店は、一度メニューが決まると「今日は野菜がないので出せません」とは簡単に言えない。しかし、昨今の天候不順などでどうしても出荷できない事態は起こり得る。そうした際、畑の事情や原因を一切説明せず、直前になって「ただただ無いんです」とだけ連絡してくる生産者は、すぐに取引を打ち切られてしまう。
 バイヤーが求めているのは、正直に畑の写真を添えるなどして、根拠を持って状況を素早く教えてくれることである。状況が分かれば、バイヤーからも販売先の飲食店に事情を説明し、代替策を納得してもらうことができる。その上で、「来季に向けてどう対策するか」を一緒に考えることができる生産者を、長期的なパートナーとして選びたいという。

4 スーパーマーケット業界

 一般の消費者が家庭での調理のために青果物を購入するスーパーマーケット業界は、日本全国の食卓を支える巨大な市場である。一般社団法人全国スーパーマーケット協会の「スーパーマーケット白書」によれば、2025年の全国店舗数は前年より232店増加して2万3264店に達し、総販売額は26兆6000万円を記録するなど、堅調に市場の拡大を続けている。店舗の規模別では、大型店が1804店、中型店が1万6138店、小型店が5322店となっており、中型店が市場の主力となっていることがうかがえる。
 外食産業とは対照的に、コロナ禍による「巣ごもり需要(内食需要)」の恩恵を大きく受けた過去がある。緊急事態宣言下では売り上げがコロナ禍前の1.5~1.7倍に跳ね上がり、外食に客足が戻った現在でも売上げは伸び続けている。特に好調なのが、小売店や卸売業者が独自に企画するプライベートブランド(PB)商品であり、コロナ禍前に比べて売り上げが2倍に伸びているケースもある。
 買い物の回数を減らすという感染防止対策の名残から、「オーラパック」や「P-プラス」といった鮮度保持袋を導入し冷蔵庫で鮮度が長続きする工夫を取り入れるスーパーも増えてきた。
 
(1)求められる野菜
 取扱品目の上位は、きゅうり、なす、トマトといった果菜類が圧倒的であり(写真5)、次いでキャベツなどの葉物野菜が多い。家庭での日常的な使用が前提となるため、奇抜な変わり種の需要はそこまで多くない。しかし、品質を求める業態では「○○農協のなす」のような産地指定や、ばれいしょにおける「メークイン」、「今金男爵」といった品種指定での販売が求められつつある。

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(2)二極化する業界と「差別化」のキーワード
 現在のスーパーマーケット業界では、各社が生き残りを賭けて他社との差別化を図る戦略をとっており、大きく「安価な価格帯の業態」と「高品質・高価格帯の業態」の二極化が進んでいるという。
 PB商品に関しても、かつては「お値頃価格」のイメージが強かったが、現在では他社と差別化を図る看板商品として、あえて高品質・高価格帯のPB商品を充実させるスーパーが見受けられる。また、普通の長ねぎだけでなく「深谷ねぎ」といったブランド産地の品目を置くなど、ワンランク上の青果物が、都心部を中心に売り上げを伸ばしている。また、スーパー側が青果物を仕入れる際、以前は卸売市場からの調達が一般的であったが、現在は「他社との差別化」ができる提案が求められるため、つながりのある産地や生産者から直接買い付ける割合が増えている。
 生産者がスーパー向けに青果物を売り込む際に最も重要なのは、この「差別化ができる商品」であるという点だ。味の良さ、高い糖度、機能性表示、あるいは圧倒的な物量による単価の安さ、他の産地が出荷できない時期に作れる高度な栽培技術など、市場からの一般的な仕入れでは代替できない強みを持っていることが、選ばれる最大の理由となる。私が取材した長野県の株式会社アグレスでは、ブロッコリーを3拠点でリレー栽培し、「365日通年出荷体制」を構築することで、「いつ注文してもある」という圧倒的な強みを武器に、スーパーの定番棚を年間契約で確保することに成功しているという。
 
(3)「少量化」のトレンド
 今後のスーパー業界の動きとして見逃せないのが、青果物の「少量化」の傾向である(写真6)。これまでの売り場では、野菜は1玉や大袋で販売されるのが基本だったが、約8割もの品目で、2分の1サイズなどにカットされたものが販売されているのだ。さらに、重量野菜だけでなく、みょうがが1袋3本入りから2本入りへ、小ねぎが100グラム束から50グラム束へと小分け化が進んでいるという。
 この背景には、コロナ禍が収息して消費者が自由に買い物に行けるようになったため、一度に大量のまとめ買いをする人が減ったことや、単身や高齢世帯の増加がある。生産者が想定している以上に「少量パック」での需要が高まっており、このニーズに応じたパッケージングができれば新たな商機となる可能性がある。

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(4)物流の確保と「レスポンスの速さ」
 スーパー業界との直接取引を成功させるための大きなハードルが「物流」である。いくら差別化された高品質な青果物であっても、産地から宅配便を使って送ってしまえば、その高額な運賃が商品原価に乗ってしまい、スーパーの店頭で売れる価格設定(売価)に収まらなくなってしまう。
 そのため、最低出荷量は「物による」としか言えないのが実情だが、宅配便の運賃を払ってでもスーパー側が扱いたいと思えるほどの「圧倒的なこだわり品(過去にはわずか24パックから取引が始まったいちごの例もあるという)」でない限り、基本的には一般の運送便や市場便を活用して運賃コストを吸収できるだけの「まとまった物量」が前提となる。生産者側で、あらかじめ市場やセンターまでの運送便を手配できる体制を整えておくことが強く求められる。
 また、生産者に求められる資質としてバイヤーが強調するのが「レスポンスの速さ」と「誠実な契約」である。連絡への返信が遅い生産者は、その時点で「この人に頼って大丈夫か」と不安視されるという。もし、連絡が取れずに出荷が滞れば、バイヤーは他から代替品を調達せねばならず、結果として「来年からは代替対応してくれた別の生産者から買おう」ということになる。
 その他には、「100ケースでも200ケースでも出せる」と風呂敷を広げて契約したにもかかわらず、実際には50ケースしか納品できないという生産者も少なくないという。バイヤーとしては、最初から見栄を張らずに「今年は50ケースです」と約束を守り、3年、5年という中長期的な計画で着実に出荷量を増やしていける生産者の方が、はるかに取引がしやすく信頼できるという。

5 コンビニ業界

 コンビニにおける青果物の取り扱いというと、前述のベンダー(加工・惣菜向け)を思い浮かべがちだが、ここで解説するのは「コンビニの店頭にそのまま置かれる青果物」の市場である。
 一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の「コンビニエンスストア統計調査年間集計(2025年1月~12月)」統計(正会員7社対象)によると、店舗数は5万6054店舗(12月末時点)に上る。同年の年間売上高は全店ベースで12兆583億円となり、5年連続で前年を上回る結果となった。一方で、年間来店客数は全店ベースで163億4142万人(前年比0.2%減)と4年ぶりのマイナスとなったが、年間平均客単価は737.9円(同2.5%高)と2年ぶりのプラスを記録している。
 この全店・既存店ともに売上高が前年を上回った背景には、高付加価値商品の展開やクーポン配布をはじめとする販促施策が奏功し、平均客単価が伸びたことに加え、過去最多を記録した訪日外国人(インバウンド)や大阪・関西万博の開催が大きく寄与したと考えられる。商品別では、おにぎりやおでん、から揚げなどレジ横に陳列されるカウンター商材、ソフトドリンクなどが並んで好調に推移している。
 このように堅調な売り上げを維持するコンビニ業界だが、その店頭にそのまま置かれる青果物の市場も侮れない。一般的にコンビニは、スーパーのように料理の材料をワンストップでまとめ買いする場所としては認識されていない。しかし、実際には、全国に数万店舗を展開する巨大チェーンにおいて、1店舗当たりわずか2~3個の納品であったとしても、集約すればとてつもないボリュームの青果物が動く巨大市場である。
 
(1)求められる品目と「すぐ食べられる」工夫
 コンビニの店頭で扱われる青果物は60種類ほどあるが、その中で最も売り上げが多く全体の約30%を占めるのが「ミニトマト」である。それに次いで、きゅうり、ばれいしょ、たまねぎ、にんじんといった定番品が続く。また、ここ最近では、そのまま食べられるいちごやシャインマスカット、カット済みのメロン、すいか、柿、梨といった果物の取扱量が急増しているという。
 コンビニで売れる青果物の最大の特徴は、「買ってすぐ、手軽に食べられること」である(写真7)。きゅうりやばれいしょなどは、スーパーで売られているものと大差ないが、売り上げトップのミニトマトには明確な違いがある。スーパーでは鮮度感の演出のために「ヘタ付き」が好まれるが、コンビニではその場ですぐに食べる需要が強いため、食べる際にゴミが出ない「ヘタ無し」のミニトマトが好まれるという(写真8)。

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(2)インバウンド需要と高齢者の生活インフラ
 コンビニで青果物を購入する消費者層には、明確な特徴がある。一つは、都内のホテル併設店舗や観光地の店舗における「インバウンド」の需要である。彼らは、ホテルに持ち帰ってそのまま食べられるカットフルーツや果物、野菜を好んで購入する。例えばいちごの場合、6粒で1600円というスーパーに比べてかなりの高単価設定であっても、コンビニで買える手軽さから飛ぶように売れているという。これを受けて、パッケージの表記を英語に変更するといった対応も進んでいる。
 もう一つの重要な需要が、「高齢者」である。少子高齢化が進む日本において、遠くのスーパーまで重い荷物を持って買い物に行くことが困難な高齢者にとって、24時間営業で徒歩圏内にあるコンビニは、もはやガス、電気、水道に並ぶ「生活インフラ」として不可欠な存在になりつつある。長期的には、コンビニで日々の野菜や果物が買える環境への需要はさらに高まっていくと予想されている。
 
(3)最低出荷量と物流への理解
 全国チェーンのコンビニであっても、最初から全店舗に向けた膨大な量を出荷する必要はない。品質が良く、味がおいしい魅力的な商品であれば、特定の地域や店舗に絞った「限定販売」という形で、少量のロットから話をスタートさせることが可能であるという。ただし、スーパーと比べると商品の回転スピードは遅いため、納品周期などについての事前の綿密な打ち合わせは必須となる。
 他業界とも同様だが、コンビニとの取引においても、最大の壁は「物流」である。バイヤーが生産者に最も求める知識は「自らの農作物を、卸売業者のセンターまで、いかに鮮度を保って運べるか」という物流への理解だ。商談がまとまってから運送会社を探し始めるのでは遅すぎる。地方から都市部へ荷物を運ぶ際、生産者が普段から地元の運送会社と関係を築いていたり、農協の市場便を活用できるルートを持っていたりして、「すでに運べる体制がある」状態で商談に臨めば、取引成立の確率は格段に跳ね上がる。運送会社も少量よりはまとめて運びたがるため、一定の生産規模や地域の生産者同士で物量をまとめられる環境があるとさらに有利になる。

6 おわりに

 ここまで、ベンダー(加工野菜)、外食関係、スーパーマーケット、コンビニという四つの業界ごとに、バイヤーが青果物に求めるニーズの違いを見てきた。簡単に振り返ると、
・「ベンダー業界」は、歩留まりやGAP認証のデータ
・「外食業界」は、食べ頃の熟度と一定の価格・品質
・「スーパーマーケット業界」は、他社との差別化(ブランドや品種)および少量化パック
・「コンビニ業界」は、すぐ食べられる手軽さ(ヘタ無しなど)
ーを求めている。
 それぞれに全く異なる顔を持っていることがお分かりいただけたかと思う。産地や生産者の皆さまからのご相談に対して、筆者がまずお伝えしたいのは、「自分たちの青果物の特徴と生産体制を客観的に見つめ直し、どの業界のニーズと最も合致するのか、的確なターゲット(販路)を絞り込むこと」の重要性である。
 過去に私が取材した愛知県の武ちゃん農場は、スイートコーン(とうもろこし)については直販で高収益を上げる一方、にんじんやたまねぎといった差別化しにくい野菜は「市場出荷」を選択し、委託販売で大量にさばく時間対効果の高い戦略をとっていた。このように、どれか一つの販路に依存するのではなく、経営体にあった販路を組み合わせる「使い分け」戦略こそが、天候に左右される農業において経営を安定させる最大の鍵となる。
 そして、どの業界のバイヤーにも共通して求められているスキルは、「欠品や品質不良の際に、理由(データや写真)を添えて素早く正直に連絡する誠実さ」、「風呂敷を広げすぎず、約束した数量を確実に守る姿勢」、「自社から市場までの物流手配を主体的に構築する能力」である。これら「正直なコミュニケーションと信頼関係の構築」こそが、取引を長続きさせる秘訣と言える。
 また、バイヤーが口をそろえて言うのが、生産者からの営業がほとんど無いことだ。自分たちだけでは情報を取り切れないので、むしろ生産者に来て欲しいというのだ。待っているだけの受け身の姿勢ではなく、最適な販路を選び、自ら飛び込んでいく営業が改めて必要と言えるだろう。
 現在、農業界は資材費や物流費の高騰、異常気象などにより、非常に厳しい経営環境に置かれている。今のままの販売単価では、再生産が成り立たないという生産者の悲鳴は各所で聞かれる。一方で、販売先である外食産業や小売業界においても、すべてにおいてコストが上がる中で、業界全体として適正な値上げや、需要と供給に応じた価格変動制(ダイナミックプライシング)の導入に向けた検討が少しずつ始まっている。
 適正価格での取引が成立しなければ生産者がつぶれてしまい、結果的にバイヤー側も青果物を仕入れられなくなるという危機感は、業界全体で共有されつつある。こうした過渡期において、生産者がただ「買ってほしい」と頼むのではなく、各業界のバイヤーが抱える課題やニーズを深く理解し、それに合致する青果物を「解決策」として提案することができれば、双方が持続可能な適正価格(再生産可能な価格)での長期的な契約を結ぶ未来を切り開くことができるはずだ。
 本稿が、全国の産地や生産者の皆さまにとって新たな販路を見い出し、バイヤーとの強固なパートナーシップを築き上げるための力強いヒントとなれば幸いである。
 

鈴木 雄人(すずき ゆうと)
農業ジャーナリスト

【略歴】
1997年:茨城県石岡市生まれ
2020年:日本大学生物資源科学部 食品ビジネス学科 卒業
2020年:横浜丸中青果株式会社 入社(青果卸売・流通業務に従事)
2022年:独立
全国の農家とつながり、「現地で得た情報を発信することで、農業界を盛り上げていきたい。」という気持ちが強まり、農業分野専門のフリーランスジャーナリスト/ライターとして独立し、活動を開始した。現在は、車中泊で全国の農家を周りながら現地で得た情報をメディアやSNS、ブログ「はれのちアグリ~農業情報~」で発信する。

【主な執筆実績・活動】
専門誌・業界紙:「全国農業新聞」、「農業協同組合 経営実務」、「食品商業」
WEBメディア:「PRESIDENT Online」、「マイナビ農業」、「タキイ最前線」 など
 
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