外食産業は、飲食チェーンや個人の飲食店、さらには学校給食なども含まれる市場である。一般社団法人日本フードサービス協会が発表した「令和7年(2025年)外食産業市場動向調査」によれば、近年の外食業界は新たな局面に突入している。円安を背景とした物価高や原材料高が続き、断続的にメニューの価格改定が行われた結果、客単価が上昇(前年比4%高)し、全体の売り上げは前年を上回る結果(同7%高)となった。
しかし、その裏で消費者の「節約志向」は一層強まっている。日常的な食事では割引きキャンペーンや価格据え置きの店舗、相対的に安価なファストフード業態が好調を維持する一方、お盆や夏休み、年末年始などの「ハレの日」にはしっかりとお金を使うといった、消費の選別(メリハリ消費)が進んでいるのだ。客単価上昇の影響で客数には頭打ち感も出始めており、コロナ禍からの回復が早かった持ち帰り米飯・回転寿司や焼き肉業態などでは、客数が前年割れを起こす企業も出てきている。
一方で明るい話題もある。2025年4~10月にかけて開催された大阪・関西万博が関西圏の需要を押し上げたほか、過去最高を記録した訪日外国人(インバウンド)需要がディナーレストランなどの売り上げを牽引した。都心の店舗や「○○横丁」と呼ばれるような複数店舗が集まる業態では、このインバウンド需要の恩恵を大きく受けている。また、四半期の動向を見ても、すべての業態で売り上げが前年を上回り、コロナ禍で激減したパブレストランや居酒屋などの店舗数も、ようやく下げ止まりの傾向を見せている。
こうした市場環境の目まぐるしい変化の中で、飲食店は、仕入れ単価や人件費の高騰に直面しており、いかにコストを抑えつつ利益を確保するか頭を悩ませている。値上げのタイミングをうかがいつつも、日本人の客離れを恐れて値上げを躊躇している店舗も多い。農業界から見ると、青果物は値上げを後回しにされる傾向があり、生産者側からの値上げ要請がなかなか受け入れてもらえない厳しい現実もある。
(1)求められる品目
取扱数量が多いのは、トマト、キャベツ、レタス、たまねぎ、長ねぎといった定番野菜である。むきたまねぎや長ねぎに関しては、円安の現在であっても中国産などの輸入品の方が国産品の3分の2ほどの価格であるため、コストを抑えるために輸入品が多用されているのが実情だ。
一方、数量は多くないものの、約20種類のハーブや西洋野菜のトレビスといった変わり種も、高価格帯の飲食店からの確実な需要がある。例えば、私が過去に取材した北海道の三野農園では、リーキや根セロリといった西洋野菜を飲食店などに卸しており、一般的な市場では評価されにくいニッチな野菜でも、独自の販路を持つことで高単価販売を実現している(写真3)。
(2)「届いてすぐ使える熟度」
外食産業が青果物に求める最大の特徴は、「届いてすぐ調理できる食べ頃の状態(熟度)」であることだ。スーパーマーケットなどの小売り向けでは、店頭での棚持ちを考慮して若干青い状態で出荷することが求められるケースもあるが、飲食店では事情が異なる。店舗には在庫を置く広いスペースがなく、一回のロットが少量であるため、届いたトマトや果物は、その日のうちに提供できる完璧な熟度が求められるのである。
また、飲食店では、「いつお店に来ても同じ味の料理が提供されること」が重要であり、安定した品質の青果物が不可欠である。さらに、価格面においても、スーパーのように日々の相場で売価(メニュー価格)を頻繁に変えることはできない。このため、外食産業では月ごとにメニュー単価を固定し(例えば5月のメニューの単価は4月上旬に決定される)、一定期間、固定価格で納品できることが求められている。
一方で、店舗の業態や客層に合わせて提供する価格帯(低価格帯、中価格帯、高価格帯)によってもニーズは細分化される。低価格帯チェーンでは価格重視、中価格帯では品質重視、高価格帯では変わり野菜や味の良さが求められるのだ。
(3)需要があるのに不足している野菜と求められる生産者からのアプローチ
直近で不足しがちな野菜として、外食関係で取り扱い上位の「トマト」が挙げられる。特に8月から10月にかけては、産地の端境期に当たる上、収量が安定しないため産地からも契約栽培を敬遠されがちであり、出回る数量が極端に少なくなる。
気候変動の影響もあり、飲食業界に限らず夏場に安定して青果物を集めることは、年々難しくなっている(写真4)。卸売業者や飲食店側も、日々の業務に追われて自ら産地を巡り新規開拓をする余裕がないのが実情である。だからこそ、生産者側から「うちにはこういう特徴の野菜があります」、「この時期に出荷できます」といった逆営業やアプローチを行うことは、決して迷惑なことではなく、新たな販路獲得につながる大きなチャンスであるという。
(4)取引を継続するための「正直なコミュニケーション」
外食関係へ出荷する場合の最低出荷量については、ハーブ類であれば週に200パック程度など、大きな数量でなくとも取引は可能である。多品種少量で幅広く扱えるのがこの業界の強みであり、「これぐらいの量しかありません」と正直に提示してもらえれば、店舗ごとに振り分けるといった提案も可能となる。
その中で、取引が続かなくなる生産者の典型的な原因は、「情報の共有不足」である。飲食店は、一度メニューが決まると「今日は野菜がないので出せません」とは簡単に言えない。しかし、昨今の天候不順などでどうしても出荷できない事態は起こり得る。そうした際、畑の事情や原因を一切説明せず、直前になって「ただただ無いんです」とだけ連絡してくる生産者は、すぐに取引を打ち切られてしまう。
バイヤーが求めているのは、正直に畑の写真を添えるなどして、根拠を持って状況を素早く教えてくれることである。状況が分かれば、バイヤーからも販売先の飲食店に事情を説明し、代替策を納得してもらうことができる。その上で、「来季に向けてどう対策するか」を一緒に考えることができる生産者を、長期的なパートナーとして選びたいという。