活動の経過や活動体制
(1)アンケート調査による地区別の課題整理と目標設定
所得1000万円以上を確保できる経営体の増加に向けて、普及センターは平成31年2月、JAの青果物生産部会(以下「青果物生産部会」という)および波崎青販部会の2部会の388経営体を対象に「鹿南地域ピーマン生産者経営調査」というアンケートを実施した。主な調査項目は、作付面積や労働人数、所得、後継者の有無など、経営の詳細に踏み込んだ内容だったが、配布や回収を含め、JA職員と各部会役員の全面的な協力により、回収率は73%と極めて高かった。
そして、アンケート結果から経営体の特徴と課題を旧町村3地区(大野地区、神栖地区、波崎地区)(図2)ごとに整理し、それぞれの地区に対応した普及活動の内容と目標を設定した。アンケートの分析により整理した3地区別の課題は、表1の通りであった。
これら3地区のうち、本章(普及活動の内容)および次章(普及活動の成果)では、紙面の都合などにより神栖地区の実例について述べる。
(2)【神栖地区】環境制御技術の導入による産地をリードするトップ経営体の育成
神栖地区は、鹿島臨海工業地帯の開発により都市化が進み、農地の多くは農業振興地域外にある。宅地と
圃場が隣接しているため、規模拡大が他の2地区より難しく、さらなる所得向上を図るためには、限られた農地の中で単収を増加させる必要があり、スマート農業の導入推進が効果的と考えられた。
しかしながら、当地区ピーマン産地の環境制御技術導入は他県の主産地に比べて遅れており、炭酸ガス施用方法や導入時の肥培管理技術に関する知見がない状態であった。
そこで普及センターでは、着実に炭酸ガス制御機器等の普及を図るために実証試験を実施し、1)生育、収穫調査による施用効果の確認と知見の集積、2)経営調査による損益分岐点解析、3)導入優良事例や導入時の課題を整理したマニュアル化―により、炭酸ガス制御機器等導入圃場の収量を、導入前より10%増加させることを目標として、普及指導活動を展開した。
神栖地区で環境制御技術の導入を推進し始めた平成30年当時、先進産地の高知県土佐あき農業協同組合(JA土佐あき)では、炭酸ガス制御機器等の導入面積割合がすでに6割近くに達していた。一方、茨城県の神栖地区では1経営体のみであり、環境制御技術の導入は他県の主産地に比べて大きく遅れ、知見も少ない状態であった。
そこで、まずトップクラスの技術力を持つ経営体にこの技術を導入し、技術確立を図りながら段階的に普及拡大を進める方針とした。
令和元年に、従前から炭酸ガス制御機器等を導入していたJA青果物生産部会長と同部会青年部長の2経営体の圃場で、現地実証試験を開始した。鹿南地域に所在し、同地域の特産品目に特化した研究を行ってきた県農業総合センター鹿島地帯特産指導所(以下「鹿島特産」という)では、産地導入以前の平成28年からピーマンの炭酸ガス施用技術についてすでに研究が進められていた。しかし、現地での知見が乏しいため、その研究成果を現地で活用・共有することを目的として、普及センターは、鹿島特産、導入農家とともに毎月勉強会を開催した。これにより、鹿島特産の研究成果を生産者へいち早く情報伝達し(写真1)、さらに、現地で得られたデータを鹿島特産へフィードバックして、炭酸ガス制御機器等と環境データ活用に係る知見を深めてきた(図3)。また、神栖地区の生産者やJA職員、普及員が高知県で現地事例調査を行い、導入技術に関する情報収集と意識醸成を図った。
令和2~3年には、国の補助事業「次世代につなぐ営農技術体系確立支援事業」を活用して「鹿島南部地域ピーマン営農体系確立検討協議会」を設立、協力体制を確立し、青果物生産部会の技術部員4経営体を加えて、実証試験の規模を拡大した。そして、導入経営体の経営調査を行い、費用対効果を算出するとともに、専門技術指導員(革新支援専門員)と連携し、導入マニュアルを作成した(図4)。
茨城県鹿行農林事務所としても、補助事業などを担当する部署とともにスマート農業促進プロジェクトチームを結成し、補助事業などによる炭酸ガス制御機器等の導入を推進するなど、関係機関が一体となって導入を推進した。
(3)【神栖地区】次世代を担う青年部への出荷実績データの「見える化」活動支援
神栖地区の若手生産者は個々の技術レベルに差があり、栽培や経営の課題を自分で分析できる生産者の育成が課題であった。そこで、個々の技術レベルの向上と高度な技術の普及を目的に、青果物生産部会青年部を対象として、出荷実績などのデータを「見える化」し、生産者同士の情報交換を促し、自分の経営課題を自分で分析できる生産者を育成する活動を開始した。この活動により、高い技術力を持つ経営体からの技術の伝達・普及を推進し、所得向上を図ることとした(図5)。
栽培や経営の課題を自ら分析する力を備えた若手生産者を育成するため、令和元年に同部会青年部の中から有志を募り、「出荷実績データの「見える化」グループ」(以下「見える化G」という)を結成した。見える化Gの活動を開始しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、当初予定していた巡回や集合研修などの中止が相次いだ。
そこで普及センターは、JA職員と相談し、巡回指導と同程度の効果が得られるように、令和2年から「出荷実績表」を作成し、各作型の終了後に配布することとした(図6)。
「出荷実績表」について、JA担当者からは、1)巡回で指摘していた収穫の遅れや月別出荷量の変動を可視化する、2)農家個人が過去の出荷実績を振り返ることが容易にできるようにする、3)各作型の収量を分けて示す―などの意見が出され、それらをデータ整理に反映させた(写真2)。
見える化G員の出荷データを普及センターに開示することについては、JAが生産者の合意を取った。そして、1)個人ごとの月別出荷実績をJAが定型のエクセル様式に取りまとめる、2)JAは普及センターにデータを送付する、3)普及センターは提供された個々のデータをマクロシートに落とし、データを視覚的に分析できる「出荷実績表」として出力する、4)普及センターはJAに「出荷実績表」を送付し、JAから各生産者へ配布する―という流れで活動した(図7)。
生産者に配布する「出荷実績表」には、自身の月別の出荷実績値のほか、見える化G員の平均値、最大値を示すことにより、見える化G員の中での自身の技術レベルを視覚的に把握できるようにした。また、過去の出荷実績も記載することにより、複数年にわたって比較し振り返ることができるようにした。「出荷実績表」は、令和2~7年の間に計12回配布した。