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調査・報告 野菜情報 2026年5月号

高収益ピーマン経営体の育成と産地課題解決の実践~日本一のピーマン産地が挑戦するスマート農業と技術普及の取り組み~

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茨城県鹿行(ろっこう)農林事務所 経営・普及部門 地域普及第二課
(現 茨城県農林水産部農業技術課) 安田 智昭

【要約】

 茨城県鹿嶋市・神栖市からなる鹿(ろく)(なん)地域は、日本一のピーマン産地である。高い技術を有する経営体が多く、産地を牽引(けんいん)しているが、さらなる収益向上のため、新技術導入や組織全体への技術普及を推進する必要があった。
 そこで、茨城県鹿行農林事務所経営・普及部門では、ピーマン経営体の現状と課題を分析するため、なめがたしおさい農業協同組合の青果物生産部会および波崎青販部会を対象としてアンケート調査を行った。アンケート結果から、地区ごとの課題を明確化し、それぞれの地区に対応した普及活動の内容と目標を設定し、実践することにより、一定の改善を図ることができた。

1 当地域のピーマン栽培と普及活動の変遷

 茨城県南東部に位置する鹿嶋市と神栖市から構成される鹿(ろく)(なん)地域は、太平洋に面し、最南端は千葉県銚子市に隣接している温暖な地域である。戦後まもなくピーマン栽培が始まり、なめがたしおさい農業協同組合(以下「JA」という)の部会員や任意組織などの生産者約590人が促成(越冬)、半促成、抑制の3作型による周年栽培を行っている。
 このような中、茨城県鹿行農林事務所経営・普及部門(以下「普及センター」という)では、20年以上にわたり、天敵生物を利用したIPM(総合的病害虫管理)技術の導入や、栽培技術の高度化に取り組み、ピーマン産地の発展を支援してきた。これらの活動などにより、本県は平成17年からピーマン生産量日本一となり、令和5年の産出額は、143億円に達している。特に、鹿(ろく)(なん)地域は本県ピーマン生産の8割以上を占めており、日本一の大産地となっている(図1)。
 近年、資材経費の高騰や、選果場の再整備による作業体系の変化など、農家の経営環境は大きく変化している。加えて、平成30年度に「儲かる農業を実践する強い経営体を育成する」という県の施策目標が示されたこともあり、産地育成から個々の経営体の所得向上に力点を置いた普及活動を進めることとし、所得1000万円以上の経営体数増加を目標に、高収益ピーマン経営体の育成と産地の課題解決に取り組んだ。

2 普及活動の内容

活動の経過や活動体制
(1)アンケート調査による地区別の課題整理と目標設定
 所得1000万円以上を確保できる経営体の増加に向けて、普及センターは平成31年2月、JAの青果物生産部会(以下「青果物生産部会」という)および波崎青販部会の2部会の388経営体を対象に「鹿南地域ピーマン生産者経営調査」というアンケートを実施した。主な調査項目は、作付面積や労働人数、所得、後継者の有無など、経営の詳細に踏み込んだ内容だったが、配布や回収を含め、JA職員と各部会役員の全面的な協力により、回収率は73%と極めて高かった。
 そして、アンケート結果から経営体の特徴と課題を旧町村3地区(大野地区、神栖地区、波崎地区)(図2)ごとに整理し、それぞれの地区に対応した普及活動の内容と目標を設定した。アンケートの分析により整理した3地区別の課題は、表1の通りであった。
 これら3地区のうち、本章(普及活動の内容)および次章(普及活動の成果)では、紙面の都合などにより神栖地区の実例について述べる。


 
(2)【神栖地区】環境制御技術の導入による産地をリードするトップ経営体の育成
 神栖地区は、鹿島臨海工業地帯の開発により都市化が進み、農地の多くは農業振興地域外にある。宅地と()場が隣接しているため、規模拡大が他の2地区より難しく、さらなる所得向上を図るためには、限られた農地の中で単収を増加させる必要があり、スマート農業の導入推進が効果的と考えられた。
 しかしながら、当地区ピーマン産地の環境制御技術導入は他県の主産地に比べて遅れており、炭酸ガス施用方法や導入時の肥培管理技術に関する知見がない状態であった。
 そこで普及センターでは、着実に炭酸ガス制御機器等の普及を図るために実証試験を実施し、1)生育、収穫調査による施用効果の確認と知見の集積、2)経営調査による損益分岐点解析、3)導入優良事例や導入時の課題を整理したマニュアル化―により、炭酸ガス制御機器等導入圃場の収量を、導入前より10%増加させることを目標として、普及指導活動を展開した。
 神栖地区で環境制御技術の導入を推進し始めた平成30年当時、先進産地の高知県土佐あき農業協同組合(JA土佐あき)では、炭酸ガス制御機器等の導入面積割合がすでに6割近くに達していた。一方、茨城県の神栖地区では1経営体のみであり、環境制御技術の導入は他県の主産地に比べて大きく遅れ、知見も少ない状態であった。
 そこで、まずトップクラスの技術力を持つ経営体にこの技術を導入し、技術確立を図りながら段階的に普及拡大を進める方針とした。
 令和元年に、従前から炭酸ガス制御機器等を導入していたJA青果物生産部会長と同部会青年部長の2経営体の圃場で、現地実証試験を開始した。鹿南地域に所在し、同地域の特産品目に特化した研究を行ってきた県農業総合センター鹿島地帯特産指導所(以下「鹿島特産」という)では、産地導入以前の平成28年からピーマンの炭酸ガス施用技術についてすでに研究が進められていた。しかし、現地での知見が乏しいため、その研究成果を現地で活用・共有することを目的として、普及センターは、鹿島特産、導入農家とともに毎月勉強会を開催した。これにより、鹿島特産の研究成果を生産者へいち早く情報伝達し(写真1)、さらに、現地で得られたデータを鹿島特産へフィードバックして、炭酸ガス制御機器等と環境データ活用に係る知見を深めてきた(図3)。また、神栖地区の生産者やJA職員、普及員が高知県で現地事例調査を行い、導入技術に関する情報収集と意識醸成を図った。
 
タイトル: p047
 
 令和2~3年には、国の補助事業「次世代につなぐ営農技術体系確立支援事業」を活用して「鹿島南部地域ピーマン営農体系確立検討協議会」を設立、協力体制を確立し、青果物生産部会の技術部員4経営体を加えて、実証試験の規模を拡大した。そして、導入経営体の経営調査を行い、費用対効果を算出するとともに、専門技術指導員(革新支援専門員)と連携し、導入マニュアルを作成した(図4)。
  茨城県鹿行農林事務所としても、補助事業などを担当する部署とともにスマート農業促進プロジェクトチームを結成し、補助事業などによる炭酸ガス制御機器等の導入を推進するなど、関係機関が一体となって導入を推進した。
 
タイトル: p048
 
(3)【神栖地区】次世代を担う青年部への出荷実績データの「見える化」活動支援
 神栖地区の若手生産者は個々の技術レベルに差があり、栽培や経営の課題を自分で分析できる生産者の育成が課題であった。そこで、個々の技術レベルの向上と高度な技術の普及を目的に、青果物生産部会青年部を対象として、出荷実績などのデータを「見える化」し、生産者同士の情報交換を促し、自分の経営課題を自分で分析できる生産者を育成する活動を開始した。この活動により、高い技術力を持つ経営体からの技術の伝達・普及を推進し、所得向上を図ることとした(図5)。


 
 栽培や経営の課題を自ら分析する力を備えた若手生産者を育成するため、令和元年に同部会青年部の中から有志を募り、「出荷実績データの「見える化」グループ」(以下「見える化G」という)を結成した。見える化Gの活動を開始しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、当初予定していた巡回や集合研修などの中止が相次いだ。
 そこで普及センターは、JA職員と相談し、巡回指導と同程度の効果が得られるように、令和2年から「出荷実績表」を作成し、各作型の終了後に配布することとした(図6)。
 「出荷実績表」について、JA担当者からは、1)巡回で指摘していた収穫の遅れや月別出荷量の変動を可視化する、2)農家個人が過去の出荷実績を振り返ることが容易にできるようにする、3)各作型の収量を分けて示す―などの意見が出され、それらをデータ整理に反映させた(写真2)。


 
 見える化G員の出荷データを普及センターに開示することについては、JAが生産者の合意を取った。そして、1)個人ごとの月別出荷実績をJAが定型のエクセル様式に取りまとめる、2)JAは普及センターにデータを送付する、3)普及センターは提供された個々のデータをマクロシートに落とし、データを視覚的に分析できる「出荷実績表」として出力する、4)普及センターはJAに「出荷実績表」を送付し、JAから各生産者へ配布する―という流れで活動した(図7)。
 生産者に配布する「出荷実績表」には、自身の月別の出荷実績値のほか、見える化G員の平均値、最大値を示すことにより、見える化G員の中での自身の技術レベルを視覚的に把握できるようにした。また、過去の出荷実績も記載することにより、複数年にわたって比較し振り返ることができるようにした。「出荷実績表」は、令和2~7年の間に計12回配布した。
 
タイトル: p050a

3 普及活動の成果

(1)【神栖地区】増収に向けた炭酸ガス制御機器等導入者の増加
 実証試験の結果、炭酸ガス施用によりピーマンの果実肥大が促進されることが確認された(写真3)。半促成栽培の実証試験を実施した10圃場の中には、最大で40%の増収が見られた圃場もあったが、10圃場平均では18%の増収となった(表2)。
 
タイトル: p050b
 
 また、炭酸ガス施用により、1)高単価となる早春期の出荷量の増加が確認されたこと、2)収量増加には収穫頻度の増加が必要であること、3)生育が旺盛になるため整枝などの管理作業が増加すること―が明らかとなった。これらのことから、増収のためには、労務管理とのバランスを考慮した栽培管理が重要であることが示された。
 経営調査からは、炭酸ガス制御機器等の導入により、10アール当たりの売り上げは18%増加し、利益は10アール当たり43万円向上すると試算できた(図8、9)。
  これらの活動により、炭酸ガス制御機器等の導入者は、平成30年の1経営体から令和7年には25経営体まで増加した(図10)。
 
タイトル: p051

 
(2)【神栖地区】次世代を担う青年部への出荷実績データの「見える化」活動支援
 見える化Gには、現在40人が参加し、グループ内の自分の相対的順位を把握できるほか、前年度の実績との比較ができるようになり、「自分より収量が高い参加者はどのような管理をしているのか」、「いつもこの時期に収量が下がってしまうが、何が原因なのか」といった問題意識を自らが持ち、巡回が行われない状況でも、自主的に他の農家を見学したり、情報収集を行ったりするなどの改善を図る動きが表れた。JA職員からも、「主観で捉えていた収量とデータが異なっていたことも多く、営農指導の参考になる」と評価された。
 COVID-19収息後もこの活動は継続され、青年部役員やJAから、より視覚的に分かりやすい資料作成の要望が出ており、随時「出荷実績表」の改善に努めている。
 見える化Gの平均収量は、部会平均収量よりも、令和2年は11%高い程度であったが、3年は14%となり、以降は20%程度上回る推移となった。また、近年のピーマンの単価高も相まって、試算による10アール当たりの売り上げは、部会平均より2年は95万円、3年は96万円、4年は167万円、5年は171万円上回るものとなり、6年以降は200万円程度高い水準で推移した(図11)。この「見える化」活動は、他の地区や他の普及センターでも導入され、青年部への指導方法として広がり始めている。
 上述の環境制御技術導入および「見える化」活動などにより、神栖地区における推定所得1000万円以上の経営体数は、平成30年が107経営体中25経営体(23%)であったのに対し、令和5年には97経営体中46経営体(47%)へと増加した(表3)。
 


4 今後の普及活動に向けて

(1)各地区に残された課題と対応方法
ア【神栖地区】炭酸ガス制御機器等導入後の労務管理、人材確保に関する課題対応
 神栖地区における炭酸ガス制御機器等導入の取り組みにより、所得向上につなげるためには、労務管理、人材確保などについても支援が必要であることが明らかになった。ピーマン生産者の所得をさらに向上させるため、令和7年度からは重点指導対象経営体を選定して「所得2000万円経営体育成活動」を開始し、年当たり1経営体の育成を目標に取り組んでいる。労務管理や人材確保の課題については、中小企業診断士や社会保険労務士、税理士などの専門家を派遣できる事業を活用しながら、法人化も見据えた支援をしている。
 
イ【大野地区】所得最大化に向けた作付面積最適化提案
 大野地区では、労働力に対して作付面積が大きいことが明らかになった。高収量経営体と低収量経営体の経営調査(10件)を実施して分析を行ったところ、作業従事者1人当たりピーマン栽培株数と収量に負の相関が示された。このことから、のべ作付面積を減少させながら、所有する農地の遊休化を防ぐ「休作モデル」を作成し、面積最適化シミュレーションを実施した。
 現在、シミュレーション結果の説明を開始し、鹿島特産で開発した「休作による線虫害の被害軽減技術」を活用しながら、輪作作物などを利用した「休作を取り入れた作付体系」を提案している。
 
ウ【波崎地区】病害虫防除対策の推進
 波崎地区は、他地区よりもピーマンのハウスが密集しており、唯一、促成(越冬)作型が導入されており、促成・半促成・抑制の3作型による周年栽培が行われている。そのため、病害虫の発生が多く、特に深刻な病害としてアザミウマ類が媒介するピーマン黄化えそ病が多発し、対策が喫緊の課題となっている。
 これまで抵抗性品種により壊滅的な被害は免れていたが、近年は抵抗性を打破するウイルスの発生拡大が確認され、抵抗性品種を作付けしていても罹病する圃場が多数存在している。そこで、黄化えそ病の被害状況を把握するため、部会員に病害状況調査を実施し(令和3年6月、150/212経営体、回収率71%)、抵抗性打破系統ウイルスの激発地を特定し、被害状況を取りまとめた。当地区には、JA系統外の任意組織や生産者が多数おり、ウイルス病抑制対策においては、関係機関が横断的に対策に取り組む必要があるため、JA、任意組織、行政などを参集した産地会議を開催し、初期診断体制の構築や対策技術の周知方法などについて、毎年定期的に検討している。
 また、任意組織や、近年増えている外国籍の生産者を対象とする通訳を介した講習会を実施し、ウイルス病の知識と防除対策の普及を図っている。併せて、組織に所属していない生産者にも情報が行き渡るよう、彼らと取引のある資材店や苗業者を訪問してウイルス病対策方法の説明を行い、間接的な病害虫防除対策を推進している。
 さらに、令和7年には、県が「いばらき重要病害虫総合防除対策事業」を立ち上げ、1)栽培終了後にハウス内のアザミウマ類を死滅させるための薬剤費用の補助、2)黄化えそ病まん延の原因である、黄化えそウイルス保毒アザミウマ類の伝染環を断つことを目的とした不作付け期間を設ける実証試験の開始―をした。実証試験圃場では、前作の黄化えそ病発病率と比較して劇的に改善する試験結果も得られており、引き続き黄化えそ病対策を推進していく。
 
(2)【全地区】新たな取り組みの検討
 近年、産地全体が直面している課題として、「夏季の記録的な高温」と「薬剤抵抗性害虫のまん延」がある。
 夏季のハウス内温度の上昇は、落花や日焼果の発生を引き起こしており、従来と比較して減収することが常態化している。遮光資材の活用などの対応は取られているものの、単一資材の導入のみでは不十分であり、複数の高温対策技術を組み合わせる必要に迫られている。普及センターでは、鹿島特産とも連携を図りながら、複数の高温対策技術を組み合わせた場合の温度抑制効果の検証を今後も継続し、技術確立を図っていく。
 また、害虫については、春から秋にかけてハウスの換気開度の大きい時期には、外からの害虫の飛び込みが多く、近年の薬剤抵抗性の進行と相まって、従来の防除体系では抑えきれない事例が増加している。そこで、現在、従来の天敵製剤に加えて、特定農薬資材のタバコカスミカメ(天敵昆虫)によるアザミウマ類の防除効果の検証を行っている。普及センターでは、鹿島特産やJA部会とも連携を図りながら、タバコカスミカメの定着を促す温存植物(バンカー植物)の管理や、放飼タイミングの最適化を掲載した利用マニュアルを作成し、化学農薬だけに頼らないIPM(総合的病害虫管理)への転換をさらに推進する。
 今後も新たな取り組みを模索しながら、実証試験で得られた知見や現場データを踏まえ、産地や個別経営体の状況に応じた支援を展開するとともに、病害虫や気候変動による減収対策では、JA部会と任意組織、関係機関が連携した取り組みを継続し、産地全体がさらに躍進できるよう支援を行っていく。
 
 
 
タイトル: p054
 
安田 智昭(やすだ ともあき)
茨城県鹿行農林事務所 経営・普及部門
地域普及第二課(鹿島地帯特産指導所 駐在)専門員
(現 茨城県農林水産部農業技術課)
【略歴】
平成22年入庁。つくば地域農業改良普及センター、県販売流通課、農業総合センター鹿島地帯特産指導所などを経て、令和3年より鹿行農林事務所にてピーマンの環境制御や病害虫対策等の普及業務に従事。令和8年4月より茨城県農林水産部農業技術課。